こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2024.12.23 本の帯
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
皆さまは読む本を選ぶとき、何をポイントにされますでしょうか。
好きな作家さんの本、好きなジャンル、あるいはデザインで選ぶ方もおられるかもしれませんね。他にも、お仕事関係や学びたい内容から選ぶなど人によっていろいろだと思いますが、本に付けられた「帯」で選ぶという方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
記念館のショップでは伊丹さんの著書や伊丹さんに関する本を取り扱っており、日々お客様にご購入いただいているのですが、先日3冊の本をまとめて買われたお客様の、選んだ決め手が「本の帯」でした。
お客様曰く「(展示を見て)伊丹さんに興味を持ったら、帯のキャッチコピーが目に止まって読みたくなりました」とのことで、購入されたのがこの3冊です。
書かれたキャッチコピーをちょっとご紹介しますね。
左から『伊丹十三の本』(新潮社)/『伊丹十三の映画』(新潮社)
/『伊丹十三の台所』(つるとはな)
それぞれの帯と書かれたキャッチコピーはこちらです。
"「ぼくの叔父さん(mon oncle)」は、こんな人だった――。"(『伊丹十三の本』)
"そろそろ映画についてもお話ししましょうか――。"(『伊丹十三の映画』)
"食いしんぼうですね、伊丹さん!"(『伊丹十三の台所』)
いかがでしょうか。帯やキャッチコピーで興味を持たれた方は、本の詳細をご紹介している記念館便りをぜひご覧ください。
店頭で内容を全て把握して本を買うのはなかなか難しいですが、目を引くキャッチコピーが書かれた帯が付いていると、「読んでみようかな」と思えて、後押ししてくれている感じがします。帯は、本の魅力を伝えて読者(になる人)と本を結びつけてくれるんですね。
記念館のショップの本で、現在帯がついているものを並べてみると、上述の3冊以外にこのとおり、たくさんありました。中にはデザインの一部になっているものもあります。
記念館にお越しの際はぜひご覧いただき、気になる本はご遠慮なく手に取ってみてください。
上段:左から『女たちよ!』(新潮社)/『主夫と生活』(アノニマスタジオ)/
『中村好文 集いの建築、円いの空間』(TOTO出版)
下段:左から『MUJIBOOKS人と物8 「伊丹十三」』(無印良品)/
『ぼくの伯父さん』(つるとはな)/『テレビマン伊丹十三の冒険』(東京大学出版会)
さて、早いもので2024年も残すところ1週間余りとなりました。記念館は12月27日を年内
の最終開館日とし、来年は1月2日の朝10時より開館いたします。
本年も弊館をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
来る2025年も、伊丹十三記念館をどうぞよろしくお願いいたします。
<年末年始 休館・開館日のお知らせ>
2024年12月28日(土)~2024年1月1日(水)は休館いたします。
1月2日(木)3日(金)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とし、
1月4日(土)より通常開館いたします。
スタッフ:山岡
2024.12.16 煮付大根の天ぷら
2024年も残りあと半月となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。冬らしく冷え込む毎日、皆さま年の瀬でお忙しいことと存じますが、体調を崩されませんよう何卒ご自愛ください。
最近は日の入りが早いので、日没後はライトアップされた記念館をご覧いただけます。夕方ごろにお越しくださる方はぜひ、記念館の幻想的な雰囲気をお楽しみください。
12月頭ごろ、ぐっと冷え込む日が多くなっておりましたので、何か温かいものを食べたいと思い、松山市駅の近くの某天ぷら屋さんに行きました。
そのお店は目の前で店員さんが天ぷらを順番に揚げて提供してくださるところで、あつあつのうちに天ぷらを食べることが出来ます。単品での注文も可能ですが、定食にするとお代わり自由のご飯、お味噌汁、食べ放題のご飯のお供(明太子、高菜など)が食べられます。
その天ぷら屋さんは、旬の食材を使った、季節ごとに変わる味覚定食を提供しておりまして、今回のラインナップがとても魅力的でしたので迷わずそちらを頼みました。
提供される7品は、ズワイガニ、ふぐ、メバル、海老と蓮根、ブロッコリー、煮付大根、ごぼうと人参と塩昆布のかき揚げ。なんとも食欲をそそられるラインナップ!
寒い中待った甲斐があるとほくほくした気持ちで食べ進めておりましたところ、煮付大根の天ぷらが出てきました。
左から煮付大根、ブロッコリー、
追加で頼んだモッツァレラチーズの天ぷらです。
もちろん揚げたてですので「熱いだろうなぁ」と思って少しのあいだ時間をおき、湯気も出なくなったころに口へ運んでみました。
一口かじって、思わず叫びそうになりました。じゅわっと煮汁があふれる煮付大根をそのまま揚げられているため、熱が圧縮されているかのような熱さだったのです。なんとか一口嚙み切ったのですが、歯はじんじんと熱く、大根からは大量の湯気が立ちのぼっています。その時、反射的に伊丹さんのエッセイに出てきた、犬の歯を抜く話を思い出しました。それがこちらです。
私が子供の頃から大好きな「大嘘」が二つある。一つは、土龍を退治する法であって、これは安岡章太郎さんが「良友・悪友」という著書の中にも書いていらっしゃる。
(中略)
その二は、犬の歯を抜き取る方法である。これはごく簡単なものだ。すなわち、大根を厚切りにして、だし汁の中でぐらぐらと煮る。芯まで熱くなったらこの大根を犬に食わせればよい。
犬がぱくりと大根を銜える――と、熱のために歯がすっかり抜けて大根の中に残る、というのだ。
土龍の話にしても、犬の歯を取る話にしても、嘘とわかっていながら、話に妙な実感があるところがいい。土龍が剃刀の刃で真二つになった姿が、あるいは、大根の中に、馬蹄形に埋めこまれた犬の歯が、まざまざと目に浮かぶところが実に卓抜だと思う。そして、また、なんのために、いったい犬の歯など抜く必要が生じるのか、そのへんが一向に説明されていないところも、まことに人を食っている。
(中略)
妙な話になったが、実は先日風呂吹大根を食べながらふと犬の歯を取る話を思い出したのがきっかけであった。
ネ? どう考えたってあの話は、だれかが熱すぎる風呂吹大根に嚙みついてしまった時に発明したんだとしか考えられないじゃないの。
(『女たちよ!』より「犬の歯を抜く話」)
「シロや ホラ オイシイ ダイコン」の文字が添えられたイラストが印象的なこのエッセイ。大嘘ですので、もちろん本当に犬の歯が大根で抜けるはずがなく、ましてや人間の歯も抜けるはずなどないのですが、芯まで熱くなった大根のとんでもない熱さを経験してみると妙に納得させられそうになります。
犬の歯を抜く話を思い出した時、伊丹さんもこれくらい熱い風呂吹大根を食べたのかしら、と煮付大根の天ぷらを涙目になって咀嚼し、その日は定食を平らげました。
毎日寒く、温かい料理が恋しい季節。皆さま、熱い料理を食べる際にはくれぐれもご注意ください。
挿絵のイラストは常設展示室の手まわし式閲覧台でもご覧いただけます。
『女たちよ!』は記念館のオンラインショップでも発売中です。ぜひ、年末年始のお休みの際に読んでみるのはいかがでしょうか。
〈年末年始 休館・開館日のお知らせ〉
2024年12月28日(土)~2024年1月1日(水)は休館いたします。
2025年1月2日(木)、1月3日(金)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とさせていただきまして、1月4日(土)より通常開館いたします。
学芸員:橘
2024.12.09 山口祐加さん、企画展に登場!
館庭の落葉が進んで、木々の枝ぶりが随分とはっきり見えるようになってきました。
皆様おなじみ、中庭の桂です
木がこの状態ということは――
ハイ、地面はこの有様です。
この日は45リットルのゴミ袋3つ分、かき集めました
いずれ終わりがくることだと分かっていても、落ち葉との闘いの日々につきまとう果てしない感じ、独特のものがありますねぇ。
黙々と作業をしていると、何となく視界に入った桂の落ち葉の中に、思っていたより大きなものがあってビックリ、なんてことも。
見上げると、日当たりの加減なのか、高い枝では葉の成長が進んでいたようです。葉が茂っている季節には上のほうの葉はあまり見えず気に留めていなかったのですが、落ちてきてくれたから気付くことができた、と言っておきましょう。
右が"スタンダートサイズ" だと思っていた大きさで
葉の直径約4cm、左は約8cm
そんな発見をして時の流れに感じ入ったり、まあまあ楽しみながらやってます。
雨上がりの朝は、靴の裏で"のし落ち葉"ができあがります
(靴から剥がれたと気付かず回廊に落ちているのを初めて見た時は
「新種の生物か!?」とこれまたビックリしたものです)
さて、12月1日(日)、企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』のスペシャル映像コーナー「伊丹レシピ、私流。」に新作が登場しました。
自炊料理家の山口祐加さんが「映画『タンポポ』の朝食」作りをご披露くださるスライドショーです。
『タンポポ』の朝食、印象深くご記憶なさっている方が多いのではないでしょうか。
「カーチャンもすごいよ。カーチャンの作った料理はうまいからねえ」
「うん、うまい。こんなうまい漬物食ったのは、
十何年ぶりだ。この漬物なんか日本一だ」
家庭的かつ庶民的な手作りの朝ごはんをみんなでパクパク――豪華な料理や珍しい食べ物がたくさん登場する『タンポポ』ですが、実は、私が最も「たまらーーん!」となるのはこの場面なんですよね......ああ、おひつのごはん、お味噌汁、アジの干物、海苔......お漬物に納豆そして大根おろし......!!
山口さんはこの場面を「日本食卓遺産」と呼んで、今回のスライドショーのメニューに選んでくださいました。
自炊料理家ならではの手際と即興にはもちろんのこと、美しく使いこまれた道具にも惚れ惚れするスライドショーです。お料理を楽しくする裏技、便利グッズ、材料の驚きの再利用法まで伝授してくださっていますので、必見ですよ。
稲田俊輔さんの「サラド・ニソワーズ」(3/31まで)との二本立てでご鑑賞いただけます。どうぞお見逃しなく!
学芸員:中野
2024.12.02 稲田俊輔さんのレシピ
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。ここのところ朝晩随分寒くなってまいりましたがいかがお過ごしでしょうか。
さて、先日、ネットニュースを見ておりましたらチーズトーストにドライのオレガノをかけて焼くという料理が反響を呼んでいるという記事を発見しました。
その投稿者の方のお母さまが発明された料理だということで、「簡単なのに美味しそう!」と称賛の声が殺到しているということです。
「X」やネットニュース等でご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
という訳で、早速「オレガノチーズトースト」を作ってみました。オレガノ独特の香りが効いて美味しい。そして何より簡単。
作ってみたオレガノチーズトースト
さて、この投稿をされた方は、南インド料理専門店「エリックサウス」の総料理長をされている稲田俊輔さんです。
稲田俊輔さんは今年の8月より、伊丹十三記念館の企画展示室のスペシャル映像コーナーの「伊丹レシピ、私流。」にて、「サラド・ニソワーズ」(ニース風サラダ)のレシピをご紹介くださっています。詳しくは8月5日の橘学芸員の記念館便り 「企画展示室のスペシャル映像コーナーに新たなスライドショーが追加されました」 をご覧ください。
稲田さんのお作りになるサラダは見た目にも大変美しく、是非実際にご覧いただきたい映像となっておりますので、ご来館の折にはお見逃しなくご覧ください。
スタッフ:川又
2024.11.25 口コミと思い出
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
一気に寒くなってまいりました。特に朝晩はかなり冷え込むようになりましたので、お体にはくれぐれもお気をつけください。
現在の中庭。桂の木もかなり落葉しました。
さてご存知の方も多いと思いますが、記念館のサイトに「みなさまの声」というコーナーがあります。
ご来館のお客様に記念館の感想をうかがって掲載し、当サイトをご覧いただく方に、記念館の雰囲気の一端を感じていただこうというコーナーです。
TOPページ右上をクリック
「みなさまの声」コーナー
ご来館いただくお客様の中には、実際に「みなさまの声」をご覧になり、「雰囲気が伝わってきて、訪れてみたくなりました」という方もいらっしゃいます。カフェのメニューやグッズについて書かれた「声」を読んで、来館時にそのメニューを注文してくださったり、グッズを手に取ってくださったりすることもあります。
これから記念館を訪れる予定がある方、もしくは記念館に行ってみたいと思っている方には、ぜひぜひ見ていただきたい " 口コミ " なんですよ。
一方で、感想をお寄せくださったお客様にとっては、ご来館の"思い出"をご覧いただけるスペースでもあります。
10月の終り頃、「『みなさまの声』を書いたことがあります!」という再来館のご夫婦がいらっしゃいました。5年程前に奥様と当時大学生の息子さんと来館され、「みなさまの声」に写真(撮影・掲載許可をいただいた方のみ)と感想をお寄せくださったそうです。今回はご夫婦おふたりでのご来館でしたが、社会人となった息子さんとたまに見返しては、当時の思い出話などをして、「また三人で行こうね」と話しているそうです。
「みなさまの声」は毎週金曜日に更新(追加)をしており、公開したものは長期間さかのぼってご覧いただけます。紹介されたご自身の「声」をご覧になって、「記念館へ行ってきました」とお知り合いに紹介したり、折にふれて思い出話をしたりするのはいかがでしょうか。
これから来館される方には"口コミ"、来館された方には"思い出"としてご覧いただける「みなさまの声」は、お客様の声を直に聴くことができるとして、宮本信子館長も毎週楽しみにしているコーナーです。
ご来館の際はぜひお声をお聞かせくださいね。
「みなさまの声」シート。こちらにご記入いただいています
スタッフ:山岡
2024.11.18 寝室
11月も後半に差し掛かってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今年は10月を過ぎても暑かったので、秋が大変短く感じました。2024年も残り1か月半、やり残したことを片付けたいなと思う今日この頃です。
最近の記念館の様子。桂など木々の葉がだいぶ落ちてきました。
わたくしごとではございますが、実は近々引っ越しを控えておりまして、新居の掃除をして一部荷物を運んだり、現在の家の片付けをしたりなど少し忙しい日々を過ごしております。現在住んでいる部屋がワンルームで収納も少ないため、あまり物を溜め込んでいるという自覚がなかったのですが、荷物をまとめ始めてみると単身パックの引っ越しでは出来ない荷物の量と発覚いたしました。生活を営むのは意外と物入りなのですね。
伊丹さんは物を捨てない人だったそうですので、長い時間をかけて集まったものであるとは言え、収蔵されている愛用品の数を考えると、引っ越しはとても大変だったのだろうと予想されます。現在の企画展で展示されている調理器具や器だけでもかなりの量がありますので、これをひとつひとつ割れないように包んで箱詰めして...となるとかなりの重労働だったんだろうな、と最近は展示品を見るたびに考えてしまいます。
それぞれ形の違う盃は特に梱包が大変そうです。
部屋の片付けをする中で、自宅は趣味や好みが顕著に出るものだとしみじみ感じ、ベッド周りが特にその傾向が強いように感じました。さて、ベッドに持ち込む物について、伊丹さんが詳しく紹介しているエッセイがございます。それが『ぼくの伯父さん』に収録されている「寝室」です。
コシノ・ジュンコさんがベッドに持ち込む品品は次の通りであるという。(こういう癖がついたのは離婚してからだそうです)
電話・紅茶(ティー=ポットとカップ)・時計・煙草(ハイライト)・灰皿・ライター・鉛筆・消しゴム・水差し・目玉焼き・砂糖・塩・胡椒・ケーキ・テレビ・ノート・原稿用紙・レコード=ジャケット・爪切り・ポートレート・(アンティク=マーケットで売ってたやつ)・人形・マンガ・(たとえば『はじめ人間ゴン』)・本(たとえば『あの日暑くなければ』)・スケジュール表
これだけの物を持ち込んでしまうと、何か忘れ物があってももうベッドを出る気はなく、この上はただただ小間使いが欲しいとか......
私がベッドへ持ち込む品品
(例、昨夜)
原稿用紙・4B鉛筆・ペリカン消しゴム・明解国語辞典・新潮国語辞典・用字便覧・電気鉛筆削り・サントリー=オールド・氷・ミネラル=ウォーター(フジ)・タンブラー・オールド=ファッションド=グラス・おつまみ(竹輪、茹で玉子、里芋の煮ころがしの残り物)・書物(『古墳の話』『まぼろしの邪馬台国』『倩笑至味』)
大体以上のようなものだが、以前には煙草を吸っていたから、この上にロスマンズ二た箱・時計印マッチ・錫の灰皿(落しても割れない)が加わっていた。これだけの物を持ち込むと、私は安心のあまり、あっという間に寝てしまうことが珍しくないのである。
私の場合こういう癖は結婚してからついた。
(『ぼくの伯父さん』より「寝室」)
いかがでしょうか。原稿用紙や辞典は腹ばいで原稿を書く点からしても伊丹さんらしい物に思います。また、ウイスキーやグラスと書くのではなく、「サントリー=オールド」、「オールド=ファッションド=グラス」と書くのにこだわりが見られます。個人的には、竹輪と茹で玉子はともかく、里芋の煮ころがしの残り物まで持ち込んでいるのが、しっかり晩酌をしようという意気込みが感じられてとても好きなポイントです。(エッセイ内に箸が書かれていなかったのですが、伊丹さんもしかして素手で食べていた可能性もあるのかしら?)
皆さまもこのエッセイを読まれた後にベッド周りを見ていただきながら、伊丹さんに思いをはせていただけますと幸いです。
『ぼくの伯父さん』
オンラインショップでも販売中です。
さて、蛇足ではございますが、ベッドサイドテーブルに雑然と置かれておりました私が日ごろベッドに持ち込む物たちをご紹介したいと思います。たった数行でも、人となりがなんとなく分かるので面白いものですね。
読書灯・読みかけの本(『うたかたの日々』『きまぐれ博物館』『地下室の手記』『小さな名画の本』『哀れなるものたち』)・スケジュール帳兼日記帳・カラフルなボールペン数本・シールやコラージュ素材の入ったクッキー缶・常用薬やサプリ・蒸気で温めるタイプの使い捨てアイマスク・Switch・iPad・iPhone・各種充電器
学芸員:橘
2024.11.11 『お葬式』誕生40周年! その2
6月24日の投稿で「2024年は伊丹十三の監督デビュー作『お葬式』の制作・公開から40年のアニバーサリー・イヤー」とご紹介しました。
そしていよいよ、今週末の11月17日(日)は『お葬式』封切りから丸40年、「ハッピー・バースデー、『お葬式』!!」なのであります。("お葬式"の"バースデー"とは何とも妙な取り合わせですねぇ。)
ここでチョイと豆知識。
1984年10月、映画『お葬式』は、まだ一般公開されていなかったにもかかわらず、第8回山路ふみ子賞を獲得するという快挙を成し遂げています。
伊丹監督本人も「8月13日に完成してから、この一カ月くらい、ずっと試写をしていたので、公開されてるっていうことになったのかなぁ」(※)と若干戸惑った様子のコメントを発しましたが、前評判・期待値の高まる中、封切り日を迎えたのでした。
※1984年10月27日付毎日新聞より
さて、1億円強の制作費で完成した『お葬式』が"元"を取るには、上映用フィルムのプリント費用や宣伝費、映画館の取り分なども勘定に入れると、3億円分のお客さんを集めてやっとトントン。
このトントンのラインまでたどりつくためには、500人以上の客入りの映画館が10軒ある状況を6週間持続しなければならない、との試算(※)をしていたそうです。
そもそも上映予定館が10~14館と限られていた『お葬式』には、相当のハードルだったと言えるでしょう。
※『「お葬式」日記』p.319-320より。上映館と動員数の一覧表もp.321 に掲載されています
『「お葬式」日記』(文藝春秋、1985年)
6月のクランクインから8月の湯布院映画祭までの詳細な記録と
構想から公開までを微に入り細に入り解説した監督インタビュー、
『お葬式』のシナリオで構成されています。古書でお求めください。
が、11月17日の土曜日に封切られるや、上映館には老若男女が詰めかけ連日長蛇の列。立ち見客があふれて扉が閉まらない映画館もあったとか。そして客足は衰えることなく"3億円のハードル"は年末までにクリア、年明けからは全国展開――最終的に12億円もの配給収入(※)を上げ、大ヒット作となりました。
※配給収入:各映画館は興行で得た収入(=観客の鑑賞料金、興行収入)から配給会社に上映料金を支払います。この配給会社の収入を配給収入と言い、かつては映画の興行成績の指標として用いられていました。(2000年以降、興行成績の指標には「興行収入」が用いられています)
この大入り・大ヒットには"口コミ"が大きく影響したそうですが、SNSに感想を投稿したり評価サイトに☆をつけたりといった方法がなかった1984年、人々は「これは面白い!」「ぜひ見て!」という思いをどうやってやり取りしていたのでしょうか......
1980年代の口コミ事情をあれこれと想像すると、誰でもウェブサイトに書き込めるのが当たり前になった現代よりも、情熱的なものを感じずにはいられません。
映画の出来の良し悪しに売れたコケたはあまり関係ないと考えていますが、『お葬式』のヒットに関しては、公開当時の観客の面白い映画を渇望する思い、熱気が伝わってくるので「ああ、その熱狂の場を経験したお客さんたちが羨ましいなぁ」とため息をつくばかりです。
『お葬式』Blu-ray 税込5,170円
記念館グッズショップで販売しております!
そういうわけで、今年の11月17日、帰宅したら「40年前の映画館にいるつもり」に浸りながら『お葬式』をBlu-rayで鑑賞してみようと思います。
みなさまもぜひ。
学芸員:中野
2024.11.04 メンバーズ会員制度と収蔵庫ツアー
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。ここのところ随分涼しくなってきましたがいかがお過ごしでしょうか。
さて、今月はメンバーズ会員様限定の収蔵庫ツアーが開催される予定です。
まず、メンバーズ会員制度とは、1年間入館料無料で何度でも伊丹十三記念館にご来館いただける制度です。さまざまな特典をご用意しています。
メンバーズ会員制度について詳しくは こちら から
そして、収蔵庫ツアーとは、普段はご覧いただけない収蔵庫を学芸員がご案内する催しです。もともと収蔵庫ツアーはメンバーズ制度関係なく、開館記念の4月か5月に開催されるイベントでもありますが、大変人気のあるイベントでご応募が多く毎度抽選となってしまいます。
収蔵庫全体
しかし、メンバーズ会員様にはこれとは別に「メンバーズ限定収蔵庫ツアー」を設けており、収蔵庫ツアーにご参加いただけるようになっているのです。
収蔵庫には、数多くの伊丹さんのコレクション、原稿などがあり、どれも見応えがありますが、さりげないところにも伊丹さんのセンスの良さが垣間見えるモノが置いてあったりして、我々も入る度に発見があります。
記録撮影のために同行した収蔵庫ツアーにおいて、思わず撮影してしまったゴミ箱
是非みなさまにも伊丹さんの世界に触れていただき、伊丹さんらしさを発見していただきたいと思います。
今月行われる秋の「定期開催ツアー」は締め切りが終了しておりますが、4月、9月21日~翌年3月の期間中のお好きな日をご自由に選んでお申し込みいただける「自由申込ツアー」もございますので、気になる方は是非メンバーズ会員へのご入会をご検討ください。
スタッフ:川又
2024.10.28 グッズのリピート
記念館便りをご覧のみなさま、こんにちは。
日中、もうすぐ11月とは思えないくらい気温の高い日がありますが、朝晩はそれなりに冷え込んでまいりました。気温差が大きく体調を崩される方が多いと聞きます。皆さま、どうぞ日々お気をつけてお過ごしください。
さて、9月の中旬に来館されたあるお客様は、3年程前にも一度お越しくださったという再来館の方でした。
前回の来館時に、記念館のショップでクリアファイル、マグネット、ゴム印などのオリジナルグッズを多数購入され、ずっと使ってくださっていたそうです。
「気に入ってよく使っていたら、特にクリアファイルはぼろぼろになってしまった」ということで、再来館を機にもう一度お買い求めくださいました。
記念館のグッズを長く、しかもリピートして使い続けてくださるのは本当に嬉しいです!
今回リピート購入してくださったのはA5サイズのクリアファイルとマグネットでした。お土産やご自分用に人気のある商品ですので、ちょっとご紹介しますね。
<A5クリアファイル>
デザインは2種類あって、一つは1971年4月に雑誌「ミセス」に掲載された伊丹さんのエッセイとその挿絵をプリントしたもの(下の写真左)。もう一つは、『伊丹十三選集』(全三巻、岩波書店)の刊行記念で作ったもので(下の写真右)、本のケースにプリントされたイラストが並んでいます。
A5クリアファイル(各税込220円)
裏側には「伊丹十三記念館」のロゴがプリントされています。
A5サイズの書類が入り、レシートやチケット、小さなメモ書き等々、ちょっとしたものを入れて持ち運ぶのに重宝するということで、大変ご好評いただいている商品です。A4サイズのクリアファイル(こちらもデザイン2種類、各税込220円です)もありますよ。
記念館のロゴ
A4とA5のクリアファイル
<マグネット>
直径5.5センチのマグネットには、伊丹さんが描いたエッセイの挿絵がプリントされています。全部で5種類の絵柄がありますが、マグネットを冷蔵庫に貼るというイメージから、料理や調理道具にちなんだイラストが使われています。もちろん冷蔵庫に限らず、家中いろんなところに使っていただけます。
マグネット(各税込330円)
今回ご紹介したのはA5クリアファイルとマグネットですが、他にも、Tシャツやゴム印、マグネットなどなど、日常で使っていただけるオリジナルグッズをご用意しています。オンラインショップでも取り扱っていますので、ご興味のある方はもちろん、リピートされたい方はぜひご利用ください。
お客様のいつもの日常で、グッズを使っているときにふと記念館を思い出していただけたら、スタッフ一同大変嬉しく思います。
ご来館の際は、ぜひショップをご覧になってくださいね。
スタッフ:山岡
2024.10.21 『フランス料理を私と』
2024年も残すところあと2か月と2週間となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
10月も中頃になっているのに最高気温が30度に近く、いまだに夏の終わりのような感覚で、本当に冬になるのかしら...と心配になってしまう今日この頃ですが、記念館では中庭の桂がだいぶ色付いてまいりました。中庭にほんのりキャラメルのような甘い香りが漂っていて、気温は高いですが秋を感じられる毎日です。
皆さまは秋といえば何を思い浮かべられるでしょうか。芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋、実りの秋、食欲の秋――。
色々な"○○の秋"がございますが、本日は、食欲の秋にぴったりな『フランス料理を私と』をご紹介させていただきます。
『フランス料理を私と』は文藝春秋社から1987年に刊行された書籍で、雑誌「文藝春秋」での連載「伊丹十三のフランス料理+α」がまとめられています。
全12編で構成されておりまして、文化人類学、精神分析、言語学などの様々なジャンルの研究者・専門家たちのお宅を訪問し、台所を借りて本格的なフランス料理の指導を受けながら調理をし、出来立ての料理を食べながら対談をするという内容です。
本格的なフランス料理を作り、対談を行い、自ら書き起こして原稿執筆をするという、伊丹さんだからこそ出来た挑戦的な内容となっております。
なお、この本をクックブックとして使用するというような、一部の無謀な読者のために、御覧のように料理の写真を多用することになってしまった。それも、文章は文章、カラー写真はカラー写真などといういい加減なことはいやなので、料理の解説とその説明のための写真をできるだけ一致させることを原則にして本を作ったため、全ページカラーというこの種の書物としては馬鹿馬鹿しい構えにならざるをえず、従って、活字と写真分離方式より若干値段が高くなっているが、これはやむをえないことである、御賢察いただかねばならぬ。
(『フランス料理を私と』より「フランス料理 玉村豊男」編から一部抜粋)
書籍の最初で上のように伊丹さんが宣言しているとおり、調理についての詳細な手順がカラー写真を多用して紹介されております。こちらのページでは、エクルヴィスという養殖のアメリカ・ザリガニの背ワタの取り方、殻の取り方の手順を詳しく紹介しております。全編にわたって、料理パートではこのように詳しくカラー写真で説明がなされており、大変見ごたえのある内容となっております。
カラー写真を多用した調理パートも面白いのですが、対談の内容も大変面白いのです。(対談パートに載っている写真は、完成した料理のカラー写真と、対談の様子のモノクロ写真です。)
精神分析理論家の岸田秀さんとは育児論について、心理学専攻の佐々木孝次さんとは日本人論について、動物学専攻の日高敏隆さんとは進化論についてなど、食と人類をテーマに対談しています。生活をする中で当たり前の営みである食を発端に専門的な分野から人類について考察していくので、難しそうな内容でもすんなりと読むことが出来ます。
さて、本日ご紹介させていただきました『フランス料理を私と』ですが、こちらは現在記念館で開催しております企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』にて、書籍の見開きページと直筆原稿をご覧いただけます。
展示しておりますのは、エッセイスト・画家として知られる玉村豊男さんとの対談部分です。直筆原稿は、書籍に掲載されております対談の後半部分、全10枚がご覧いただけます。伊丹さん流のダイエットの「型」について話を進めますが、そのダイエットの取り組み方から母親・父親との関係や他者との関わり方について考察が深まっていく様子を直筆原稿にてご確認いただけますので、ご来館の際にはぜひご一読ください。
また、企画展示室にて、『フランス料理を私と』に載っている伊丹さんの写真をスライドショーでご覧いただけるコーナーもございますので、お見逃しなく!
企画展示室にてご覧いただけますスライドショー「フランス料理に挑戦!」
調理している様子や、使用する食材と一緒に映る伊丹さんがご覧いただけます。
食欲の秋にふさわしい『フランス料理を私と』、いかがでしたでしょうか。残念ながら現在は絶版となっておりますので新品を購入いただくことは出来ないのですが、企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』にて十分に魅力を感じていただけることと思いますので、ぜひご来館いただきましてお楽しみいただけますと幸いです。
学芸員:橘
2024.10.14 「アート」の秋
涼しくなって、夕暮れどきに記念館の周辺をランニングする方々をお見かけするようになりました。「スポーツの秋」到来ですね。
「芸術の秋」も到来、ということで、展覧会や音楽会へのお出かけを計画している方も多くいらっしゃることでしょう。
「最近の美術は難しくて見方が分からない」「見てもどう言っていいか分からない」と敬遠している方も少なくないことと思いますが、そんな方にこそ知っていただきたい言葉があるので、本日は伊丹十三の訳書『パパ・ユーア クレイジー』から一節をご紹介いたします。
5冊ある伊丹十三の訳書のひとつ『パパ・ユーア クレイジー』は10歳のピート君とお父さんとの日々を描いたお話で、作者はアメリカの小説家・劇作家のウイリアム・サローヤン。1957年の作品です。(伊丹十三の著書・訳書についてはこちらの年譜でどうぞ)
物語の冒頭、作家であるお父さんはいわゆる"ダメ親父"の部類に入る人物であるらしく、主人公のピート君、ピート君の妹はお母さんのもとで暮らしています。食べ盛りの息子のために食費がかかってしょうがないとお母さんが愚痴りまくったことから、ピート君はお父さんの家で過ごすことになり......
1979年発行のワーク・ショップガルダ版。
このほかブロンズ新社版、新潮文庫版が発行されました。
(いずれも絶版です。ご了承ください。)
甲斐性はないけど機知と示唆に富んだお父さんの言葉と生活、それに反応するピート君の瑞々しい思索がこの作品の核なのですが、中でもお父さんによる「アート」の定義がすばらしいのです。
ある日、二人はカリフォルニアのマリブ海岸のそばにあるお父さんの家からサンフランシスコ近郊のハーフ・ムーン・ベイまで片道400マイルのドライブ旅行を決行。
教会を訪れ、海辺でアザラシを眺め、なけなしのお金でホット・ドッグを食べ、遊園地で少し遊んで、レジオン・ドヌール館(=カリフォルニア・リージョン・オブ・オナー美術館)へ。
ヨーロッパの美術や工芸品、生活用品まで眺め尽くしたあと、ピート君とお父さんは「アート」についてこんなふうに語り合います。
僕らは外へ出て芝生の上に立ち、太陽が沈んでゆくのを眺めた。僕の父が言った。「もしアートがなかったとしたら、われわれはとっくの昔に地球の表面から消滅していたろうね」
アートって、本当は何なんだろう。そして、人間って本当は何なんだろう、そして、世界って本当は何なんだろう。僕には全然判らない。
海の中へ太陽が沈んでゆくのを、眺めながら、僕の父がいった。
「どの家庭にもアート用のテーブルがあって、その上にはいろんな物が一つ一つ置かれていて、その家の人たちは、その物を非常に注意深く観察したり、その物に出会ったりすることができる――そんなふうにあるべきだと思うね」
「あなたならそういうテーブルにどんな物を置くの?」
「一枚の葉、一つの貨幣、一箇のボタン、一箇の石、引き裂かれた新聞紙の小さな断片、一箇の林檎、一箇の卵、一つのすべすべした丸い小石、一輪の花、一匹の死んだ昆虫、靴の片一方」
「誰だってそういう物は見たことがあるよ」
「それは見たことはあるだろう。しかし誰も見つめた人はいない。アートとはそれなのさ。ありふれた物を、それらが今まで一度も見られたことがなかったかのごとく見つめるということなのさ(後略)」
『パパ・ユーア クレイジー』W.サローヤン著、伊丹十三訳(1979)
――いかがでしょう。
「目の前のものを見つめつくそうとする行為自体がアート」と言われると、「なるほど」とも思いますし、なんだかちょっと勇気が出るような気もします。
せっかくよい季節になりましたので、お出かけする日もしない日も、こんなふうに「アート」を取り入れて、心ハツラツとお過ごしくださいね。
もちろん、伊丹十三記念館へのご来館も、スタッフ一同お待ちしております。
学芸員:中野
2024.10.07 食器の買い方
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。松山はこの1週間ほどで随分涼しくなって参りました。
さて、引き続き大好評の企画展 "伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」展"では、伊丹さんが実際に愛用していた台所道具や食器等の数々を展示しています。伊丹さんが選んだものですから、ひとつひとつがどれもこれも大変魅力的なので、展示室を通るたびに新しい台所道具や食器が欲しくなってしまっております。
しかしながら食器も台所道具もこの「欲しい!」という気持ちのまま増やしていくと、のちに大変なことになってしまいます。
先日、SNSでモノを増やしすぎないために「食器は旅先で買う」というルールを設けているという方がいらっしゃいました。買うタイミングを限定すれば増えすぎることもない上に、使うたびに旅の思い出に浸ることもでき、大変良いアイデアだなと感じました。
当館の中野学芸員が8月19日の記念館便りにおいて、旅先でお皿を「衝動買い」したエピソードを書いておりました。まさしくこんな感じが理想です。
8月19日記念館だよリ「皿熱は突然に......」
伊丹十三記念館にも伊丹家と家族ぐるみでつきあいのあった陶芸家岡本ゆうさんの素敵な食器の数々を販売しております。よろしければ松山への旅行の記念に売り場を是非チェックしてみてください。岡本さんは伊丹さんのことを「おじちゃん」と呼ぶ親しい間柄だったということで、伊丹十三記念館のお土産としてもぴったりかと思います。陶器については前回9月30日の山岡スタッフの記念館便りもあわせてご覧ください。
9月30日記念館便り「ショップの陶器売り場」
スタッフ:川又
2024.09.30 ショップの陶器売り場
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
厳しい残暑が続いていますが、やっと朝晩涼しくなってまいりました。
とはいえ日中はまだまだ気温が高いので、気温差で体調を崩されないようご注意くださいね。
さて記念館のグッズショップでは箸置きや小皿などの陶器を販売していますが、この夏に種類が増えましたので、少しご紹介させていただきます。
ショップの陶器売り場
取り扱っている陶器は、岡本ゆうさんが製作したものです。
岡本さんについておさらいしますと――岡本さんは島根県布志名焼舩木窯・舩木研兒氏に薫陶を受けられ、現在は神奈川県真鶴町で作陶されている陶芸家でいらっしゃいます。
子育てのために湯河原に引っ越した伊丹さん一家が、そこで染色家の岡本隆志さん・紘子さんご夫妻(岡本ゆうさんのご両親)と知り合い、以来ずっと家族ぐるみのお付き合いを続けているそうです。岡本さんが作る陶器を宮本館長も日々愛用していて、そのご縁から、「宮本館長のお気に入り」商品として記念館のショップに置かせていただいているんですよ。
そんな岡本さんの作る陶器は、淡い色のものはもちろん、濃い色のものも、どことなくやわらかくて温かみの感じられる作品ばかり。
ご自宅用だけでなく、贈り物としてお買い上げくださる方もいらっしゃいます。
8月に「そば猪口」「湯呑み」、そして「手付き小鉢」の色違いが新しく増えて、元からあった「小皿」「箸置き」「カップ」「杯」と合わせると、売り場は一層にぎやかになりました。
そば猪口(税込2,640円)
湯呑み(税込2,860円)
手付き小鉢(税込2,420円)
左が新しく増えた色です
ひとつひとつ手作りですから、同じ種類でもどことなく違っています。
販売は店頭でのみ行っていますので、ご来館の際はぜひご覧になってみてください。
スタッフ:山岡
2024.09.23 第16回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました [2]
先週に引き続きまして、贈呈式の模様をお伝えいたします。
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いよいよ、受賞者・のんさんのスピーチです!
受賞者・のんさんのスピーチ
こんにちは、のんです。
この度は、本当に素晴らしい賞をいただき、心から、嬉しい気持ちでいっぱいです。
私は、本当に無我夢中で「自分の想いを貫き通すぞ」という気持ちで活動してきました。
私は自信があるほうだと自負しているし、怖いもの知らずでもあると思うんですけど、どれだけ自信があっても、どれだけ褒めてもらえても、ずっと自分がやった表現を疑い続けていました。
そういう気持ちって皆さんあると思うんですけど、私にも、ふと「どうだったんだ」って地の底まで落ちちゃうことが、悩んじゃうことがあります。
そうやって立ち止まってしまった時に、これでいいんだ、自分のやりたいことを貫き通すんだって、背中を押してもらえる、支えになる、特別な賞をいただいたなというふうに感じてます。
そして、伊丹十三さんと重なるところがあるんだって言っていただけたのが、本当に、もう、嬉しすぎていま大興奮で――。
伊丹十三さんという方は様々な顔を持っていて、どの面でも唯一無二の表現を突き詰めた方だと思うんですが、私もそんなふうに自分の表現を突き詰めていけるようになれたらなと思います。
もし、いま願い事が叶うなら、リアルタイムで伊丹十三体験をしたかったな、というふうに、切に思っています。
この度は、ほんとにこのような素敵な賞をいただき、ありがとうございます。
これからも、この賞に恥じぬよう、精進、挑戦をしていきたいと思います。
ありがとうございました。
宮本信子館長からのビデオメッセージ
(☆)
のんさん。
のんちゃん、伊丹十三賞、受賞おめでとうございます。
選ばれたって、聞きましてね。
なんか、すごく私、しみじみとしてしまいました。
でも贈呈式に出席できなくて、
本当にもう、残念で仕方がありません。
のんちゃんとは、NHK『あまちゃん』の制作発表の時にはじめて会いましたね。
無口で、シャイで、本当にこの子、大丈夫かしらって私思ったんです。
それで、「この子をなんとしてでも守らなくては」「支えなくては」ってそう思いました。
そう決めました。
それから、長い、長い、苦しい時間、道があって
よく耐えて、頑張ったなあって思うんです。
でもそれを、そのことをバネにして
強く大きく成長しましたね。
私は本当に、こんな素敵なことはないと思っています。
これからも体大切にしてね?
それから、もっともっと活躍して羽ばたいていってください。
私はずっと見守っています。
のんちゃん、あらためましておめでとうございました。
※宮本信子館長は、残念ながら贈呈式当日の出席が叶いませんでしたので、贈呈式ではのんさんへのビデオメッセージを上映いたしました。
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以上、贈呈式の様子をご紹介させていただきました。
のんさんは受賞者スピーチや、贈呈式後に行われた取材の際に、この度の受賞について「すごく嬉しいです」と何度もおっしゃっていて、祝辞や館長のビデオメッセージを噛み締めるように聞いておられたのがとても印象的でした。常に柔らかな笑顔でお話しをされており、のんさんが大変喜んでくださっているのが伝わって胸が温かくなるような時間となりました。
取材の質疑応答の中では、
「"のん"になるときに大事にしていたのは、自分の持っているものが死なないようにしたいという気持ちがすごく強くて――妥協できなくて、今に至ります。
色んな事があるけど、それでも面白がってくださる方がいたり、応援してくれる方がいたりして、迷ったり悩んだりすることもあるけど、自分だからこれがやれた、こういうことがやりたかったんだという風に思える表現を作れたことがたくさんあるので、その積み重ねを信じてやってきました」
「私はまだまだ頑張っていかなければいけないと思っているんですけれども、唯一無二の表現を作っていきたい、突き進んでいきたいと思いました」
と、これまでの経験を経ての思いや、これからの活動に対する意欲を熱く語ってくださいました。ご来場の皆さまも、しみじみとのんさんの言葉に聞き入っておられました。
式典後には、お飲み物と軽食をご提供させていただきまして、ご歓談の時間を設けさせていただきました。のんさんはご来場の方々とにこやかにお話しされており、記念撮影などもされておりました。
お庭で撮影した集合写真
お祝いのお花を前に素敵な笑顔を見せてくださったのんさん
(☆)
のんさん、選考委員の皆さま、ご来場くださった皆さま、関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
のんさんは今後も映画やドラマ、イベントの登壇など様々なお仕事を予定されております。ぜひ、のんさんのオフィシャルサイトにて、のんさんのご活躍にご注目ください。
そして、今後とも、伊丹十三賞をよろしくお願いいたします。
写真撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさん
(☆印の写真のみ主催者撮影)
学芸員:橘さくら
2024.09.16 第16回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました [1]
9月6日(金)、第16回伊丹十三賞をのんさんにお贈りする贈呈式を国際文化会館で開催いたしました。
左から、選考委員・周防正行さん、平松洋子さん、
受賞者・のんさん、選考委員・中村好文さん、南伸坊さん。
俳優・アーティストとしてご活躍中ののんさんへの授賞理由は
俳優、ミュージシャン、映画監督、アーティスト......困難を乗りこえ自由な表現に挑み続ける創作活動にたいして。
受賞者プロフィールや賞の概要はこちらをご覧ください。
残暑厳しい東京で、すがすがしい風に心を清められたかのような贈呈式でした。
今週来週と2回に分けてレポートいたします!
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祝辞 選考委員・平松洋子さん
のんさん――能年玲奈さん、このたびは賞を受けてくださってありがとうございます。
宮本信子さんはじめ、選考委員、そして、この賞に関わったすべての方たちが、本当に、大喜びして、のんさん、こちらも嬉しかったです。
私がのんさんに初めて"出会った"のは、日本中の多くの方たちとまったく同じで、やはり、『あまちゃん』でした。
それで、リアルタイムで一度も見逃したことがないというのが私の自慢で――
(会場に)すごいでしょう?(笑)
それをずっと更新してきたのを、私は周りに自慢してきたんですね。
ところが、仕事で五島列島に行かなくちゃいけないことになって、移動などの事情から「ああ、私の記録が破られるぅーー」とガックリして、昼の放送の時間だと思いながら長崎と五島を結ぶ船に乗り込んだんです。そうしたら......
船の先頭の部分に小さい座敷があったんですね。その畳敷きの座敷で、なんと!『あまちゃん』がついてたんですよ!!(笑)
長崎に買い出しに行く人たちとか、島の方たちと一緒に船の座敷で『あまちゃん』を観ました。
ちょうどその頃、読売新聞の書評委員を小泉今日子さんと一緒にやっていて、しょっちゅう会う機会があったんです。(ドラマの中では)小泉さんと能年さんお二人がメインのときだったということもあって、船を降りてすぐ、小泉さんに連絡しました。「今日も見た」とショートメールで。
――それが、10年前ですよね。
10年経った今も、私たちが受けた輝きの印象、能年さんがまったく変わらずに輝きを失ってらっしゃらないっていうことは、これまでの10年間のいろいろなことを考えるに、なにか奇跡のようなことだなと思っています。
ただ、と言いますか――私は、今回の伊丹十三賞の選考にあたるまで、能年玲奈さんという存在と伊丹十三という存在を、重ね合わせて考えたことはありませんでした。
(☆)
今回いろいろなものを拝見したり、あらためて能年玲奈さんと"出会い直し"て、「伊丹十三という存在と能年さんはこんなに重なり合ってるんだ」ということにすごく驚いて――ご存知のように、伊丹十三さんは幼少の頃から、絵もそうですし多才にいろんなものを作ってらして、能年さんも中学生のときからバンド活動をやってらして。
そんなふうに、伊丹さんが持っている様々な顔は、能年さんが持ってらっしゃるものとこんなに重なるんだ、と、それはすごくびっくりしました。
それと、やっぱりひとつ。
恐れない――これまでの、あらかじめあった常識とか、目の前の困難とか、そういうものを恐れないという意味でお二人は同じなんだな、と思ったんです。
司会の玉置さん(伊丹十三記念館館長代行・伊丹プロダクション会長)は『お葬式』以来、すべての伊丹映画の製作をやってらしたので、今回、祝辞でお話しするにあたって、「ずっと側で見てらした玉置さんにとって、伊丹さんが乗り越えた困難の中で印象的だったのは何でしょうか」とお聞きしてみたんですね。
(☆)
玉置さんはいくつか挙げてくださったんですけれども、たとえば「モニター」。
それまでの映画では、カメラマンがひとつのカメラで(ファインダーを覗いて)撮っていたので、他のスタッフの方たちはカメラマンがどういう映像を撮っているのか見ることができなかったんです。
ところが伊丹さんはその映像をスタッフの方たちと共有するために、モニターを設置してスタッフの方たちが見ることができるようにした。
これはカメラマンの前田米造さんの多大なご理解があったから実現したと思います。
あるいは、グラフィックデザイナーや、スタイリストといった異業種の方々の起用。
自分がやりたいことを実現するために、それまでの映画界で常識とされてきたことを、恐れずにどんどん壊していかれたと思います。
『お葬式』が作られた1980年代にはそんな状況だったことでも、今では当たり前になっていることがたくさんあると思うんです。
そんなふうにして、自分がやりたいこと、自分はこれを形にしたいんだ、表現するんだ、っていうことを、まったく恐れることなしに進んでいらした。51歳になって初めて見つけた映画という表現で邁進していかれた。
そういうことを考えると、のんさんのこの10年間の中での歩み、お姿にすごく通じるものがあるなぁ、と思いました。
以前は考えていなかったことですが、「賞の対象としてではなく、ひとりの表現者として、伊丹十三さんと能年玲奈さんという存在はこんなにも重なるんだ」ということは、私自身にとってもすごく大きな発見でした。
この賞に関わらせていただいて、もう16年なんですけれども、伊丹十三というひとりの表現者、人間について、私、未だに分かってないような気がするんです。
でも、人間ってすごく複雑だと思うし、いろんな、こう、まとまりきらないものだと思うんですね。
だから、そこで、ひとつの像にまとめこんで、「こういう人なんだ」と考えて理解したつもりになるのではなくて、やっぱりそのときそのときの作品――のんさんは歌も声優も脚本もやってらっしゃって――その中で力を注いでいらっしゃる姿を「何をやりたいんだろう!?」と見させていただくことの喜びがあるし、「能年玲奈さんってこういう人」とひとつにつづめてしまわなくていいな、って、そんなふうにも思っています。
ですから、伊丹さんはいろんなことをなさって映画監督は51歳からでしたけど、のんさんは30代。もう本当に、この先キラキラと可能性だけがあるような、そう思っています。
それから、のんさんは、やはり「作りたいものが外側にあるのではなくって、いつも、自分の中にある」――伊丹さんもいつもそれに忠実にものを作ってらっしゃったんだと思います。
なので、今後も、期待とか、希望とか、そういういろんなキラキラしたものを感じさせていただきながら、活動を見させていただきたいなと思っています。
正賞(盾)贈呈 選考委員・周防正行さん
副賞(賞金)贈呈 選考委員・中村好文さん
―― 来週に続きます ――
写真撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさん
(☆印の写真のみ主催者撮影)
学芸員:中野
2024.09.09 9月の伊丹十三記念館
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。
9月に入り、松山は暑さがやわらいできたように感じます。夏の間は雨の日以外、毎日おこなっている庭木への水遣りも、やっと終わりが見えてきたようです。
さて、ニュース新聞等各社メディアでご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、9月6日(金)、東京都港区の国際文化会館において第16回の伊丹十三賞の贈呈式が開催されました。
第16回の伊丹十三賞の受賞者は、俳優・アーティストとしてご活躍の、のんさんです。
式の詳細は、来週9月16日と再来週9月23日の記念館便りにてレポートさせていただきますので、今しばらくお待ちくださいませ。
それまでは是非ネットニュースなどもご覧ください。動画のニュースでは、のんさんのスピーチの一部を見ることもできました。伊丹さんに対する思いを一生懸命語っていらっしゃる姿に心を打たれました。
というわけで、来週と再来週の記念館便りをお楽しみに!
また、今月の「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」今月は9月13日(金)の13時より、大人気『マルサの女2』の上映をおこないます。
是非お気軽にご来館ください。
スタッフ:川又
2024.09.02 打ち水
あっという間に9月に入りましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
8月の後半は台風の接近もありまして雨がたくさん降りましたが、前半はほとんど降らなかったように感じます。夕方、もうだいぶ陽が落ちているのに、全身汗みずくになりながら買い物に行く日も少なくありませんでした。今年もかなり厳しい夏だったように思います。
そんな暑い夕暮れ時に出かけたある日、ふと近所のあるお宅の方が庭の植木や花にシャワーホースで水をやっているのを見かけました。記念館でも夏の間は玄関前や中庭の植木に水をやっておりますので、水やりの大変さを思い出しながらその様子を遠くから眺めていました。
植物に水をやり終えた様子でしたが、その方は家の周りの道路にも水をまきはじめました。どうやら打ち水をしているようです。
実家がマンションであるせいか、打ち水を見ることはほとんどなかったため、「あぁ、久しぶりに打ち水なんて見たな」と少し驚きました。松山のご近所でもあまりやっているお宅を見かけない気がします。
買い物の帰り、先ほど打ち水をしていたお宅の前を通ると、濡れたアスファルトの匂いで打ち水の景色が思い出され、心なしか涼しくなったような気持ちになった夜でした。
さて、伊丹さんのエッセイの中にも打ち水の話が出てまいります。それが、『ぼくの伯父さん』に収録されております、「打ち水」です。
矢口純さんの話。
「まち」というのは、昔は、字でいえば「町」という字であったわけです。おでん屋もあれば、牛乳屋もあるし、また下駄屋もあるというふうで、つまり人の住むところであったト。で、祭りになれば、お御輿をかついで、隣の町内の若い衆にまけるなッてんで、親父でも、お花坊でも、みんな町内の若い衆に声援したりしてね、まとまってたわけですよ、町内がね。「駅の向うの北町内に負けるなッ」なんてナ、「南分会頑張れッ」とか、そういうものがあって、初めて町は愉しかったし、その町の風土みたいなものもあった。
それが、近頃の町っていうのは、これは貸しビルなんだよナ、店屋ったって、主人も店員もどこからか通って来て、で、ビルのシャッターなんか開けたりなんかして、そして、サァ、イラッシャイなんて待ってやがる。
つまりね、「町」という字の「まち」がね、今や「街」という、つまりストリートにね、なっているんじゃないかト。昔はね、たとえば夕方、娘のハナチャンやヒデコチャンが帰って来てね、で、お婆ちゃんにおやつを貰って、そして、店の前で縄跳びしたりカクレンボしたりして遊んでいて、で、御飯だよッていう頃には、お母さんだか主人だか、あるいは板サンだかが、打ち水をしてね、三つ、盛り塩をして、サァ今日はお客が何人来るだろうと待っているト。家族ぐるみでね、お客を待っているト。いうのが昔の町であり、店屋さんの感覚だったわけなんですよ。
つまり打ち水なんてものはね、これは居ついた人が、心から、自分のスペースを、町を、大切にしてるからやるわけじゃないですか。ねェ。それが今や日本中全部ストリートになっちゃったト。町中が貸しビルになっちゃったト。人の住むところじゃなくなっちゃったト。だから従って打ち水しようなんて気持ちもなくなってしまったト。いやな世の中じゃございませんかト。いうのが私の考え方なんだよナ。
(『ぼくの伯父さん』より「打ち水」)
いかがでしたでしょうか。矢口純さんのお話しのようですので、全てが伊丹さん自身の考えではないかと思いますが、伊丹さんは子育ての為に自然豊かな湯河原に移り住んだ人であるため、「街」よりも「町」の方が好ましかったのだと考えられます。
あの夕方の打ち水は、庭の植木の水やりの延長だったのでしょう。しかし、そのお宅の前を通りすぎるたび、暑さのやわらいだ日をこのエッセイとともに思い出し、どこか優しい気持ちになれるのです。
学芸員:橘
2024.08.26 『伊丹十三の本』販売再開!
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
8月も終わりが近づいてきましたが、暑さはまだ続きそうですね。天気も不安定ですから、皆さまくれぐれも日々お気をつけてお過ごしください。
さて、伊丹さんの素敵な笑顔の写真がトレードマークの書籍『伊丹十三の本』(新潮社)。
在庫がなくなりしばらく販売をお休みしていましたが、このたび増刷され、記念館ショップでも販売を再開いたしました!!
『伊丹十三の本』
※内容に変更はありませんが、価格は今回の増刷分より変更され
税込2,860円となりましたのでご注意ください。
改めて内容をご紹介しますと――2005年に販売開始されたこの『伊丹十三の本』は、" 様々な方面で活躍し、興味を抱いた伊丹十三の全貌がこの一冊にまとまっている "、そんな本です。
幼年時代、少年時代、青年時代の写真にはじまり、映画「お葬式」の舞台になった湯河原の家の写真、伊丹さんの愛用品が数多く掲載されていて、ページをめくるごとにまるで伊丹さんの家のアルバムを見せてもらっているような気になります。
また、書いたエッセイや手がけたCM・TV番組、ポスター・装幀・レタリング、描いたイラストレーションも紹介。その多才ぶりを改めて感じるとともに、伊丹さんにゆかりのある方々のインタビュー、伊丹さんが家族に宛てた手紙からはその人柄が浮かび上がってきます。
伊丹さんがぎゅぎゅっと凝縮された『伊丹十三の本』、この機会にぜひ読んでみてください!
在庫切れになってから増刷されるまで、たくさんのお客様に「買いたいのですが今は販売していないんですか?」とお尋ねをいただき、そのたびに「残念ですが...」とご案内してきました。
また皆さまにお届けできるようになって、本当にうれしいです。
ショップ売り場
オンラインショップでも取り扱っていますので、ご興味を持たれた方はぜひどうぞ!
スタッフ:山岡
2024.08.19 皿熱は突然に......
頼んだ覚えもないのに毎朝毎朝スマホに届く「今日の天気」情報。
「最高気温35℃(前日比-2℃)」の翌日が「最高気温35℃(前日比-2℃)」その翌日もまた同じ......
「予報、35℃!」「実際は37℃!」「今日こそ35℃予報!」「やっぱり37℃!」を繰り返しているっていうことじゃないですか!!
今日も結局37℃になるんでしょうねぇ、と諦めて家を出ると、あら、空は早くも秋の色。
伊丹さんの愛用した器や調理器具など200点以上を展示している『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』が昨年7月に始まって以来、お客様方からは、買い集めた物たちへの伊丹さんの愛の深さ、「これでなくっちゃ」という気迫のこもり具合に感嘆のお声をいただいております。
「もうこいつなしにはわたくしの日々の食生活は成り立ちようがない、とさえ思う」
――という一文は伊丹エッセイにありそうでないのですが(私の創作です)、きっとそう思っていたにちがいない物ばかりが並んでいるので、物を通して伊丹さんの台所や食卓での姿がありありと見えてくる、そんな展覧会になっています。
伊丹家のお蕎麦セット。
季節柄、ツルっといきたくなりますねぇ。
この企画展示室に私のような者が身を置きますと、「ああ、自分はつくづくと、器にせよ調理道具にせよ、物を手に入れるということに関する情熱が薄~い人間なんだなぁ」と反省の念が浮かんでくるのであります。(すでに持っている物への愛着はありますけどね。)
ええっと、最後にお皿を買ったのはいつだったかしら。
そんな私が旅先の高知でお皿を衝動買いしたのですから、これはアナタ、ちょっとした事件というべきではありませんか。
近年全国に知れ渡りつつある「絵金祭り」を目的にした旅行だったので、まさかお皿を買うことになるとは思わなかったのです。
友人たちと高知県香南市は赤岡の地を訪ね、祭りの宵の賑わいを楽しんでおりますと、何とはなしに気になるお店が。
店構えは「和洋マゼコゼよろず古物屋さん」という雰囲気で、諸外国の古着、ヴィンテージもののインテリアや電化製品が並んだ店先から中を窺うと、いちばん奥のほうに骨董らしき食器類のコーナーが見えました。
ほう、高知の旧家の蔵出し品......
揃いのお皿もバラのお皿もステキなのがいっぱいありますね......
見るのは好きなんです......見るだけ......見てるだけ......
左は直径11cm、左は直径18cm。
......オヤッ!? 気付けば2枚のお皿が手の中に!!
お店の方に「ええの選ぶやん」やら「実は私が欲しかったやつ~」やらと言われてポ~ッとなったせいか産地も値段も忘れてしまいましたが、"目が合った"から連れて帰ってきましたってことで、まぁいいか、と思っています。
というわけで、みなさん、"皿熱"は突然にやってくるもののようです。旅行カバンには若干の隙間を作ってお出かけになることをお勧めいたします。
学芸員:中野
2024.08.12 夏ニナルトドウシテ暑イノ?
記念館便りをご覧の皆様こんにちは。とにかく暑い日が続く松山です。
先日テレビで言っていたのですが、統計上、1年間で一番暑い日は8月7日なのだそうです。本日は8月12日ですから、暑さのピークは過ぎつつあるということでしょうか。それにしても毎日暑い日が続きます。夏はどうしてこんなに暑いのでしょう。
伊丹さんの著書「問いつめられたパパとママの本」の中に『夏ニナルトドウシテ暑イノ?』というお話があります。ここで夏が暑い理由を伊丹さんが説明してくださっていますので一部をご紹介します。
『夏が暑いのは、ひとつは日が長いせいであり、いまひとつは、太陽が真上から照りつけるせいであります。
じゃあ、日が長いと、どうして暑いのよ、なんていわないでおくれよ。同じ条件でものを熱するとするなら、十分間熱するより、十五分間熱するほうがよけい熱くなるだろうじゃないの。夏が暑い理由の第一は、だから、日が長いということであった。
では、次に真上から照らすと、なぜ暑いのか、というなら、たとえば懐中電燈を想像していただきたい。
懐中電燈の光を床に当てるとき、まっすぐ床に当てれば、小さいけれども強く明るい光の円ができるだろう。しかるに、それを斜めに当ててみようか。さっきより、ずっと床の近くから照らしても、照らす場所は広くなるかもしれぬが、明るさはずっと希薄になってしまうのが観察されるに違いないのであります。
つまりこの、垂直に照らすということなのだ、太陽がカンカン照るということは。
夏になると、太陽が真上から照らすから(その証拠に、夏の真昼の影は、小さく足元にまつわりついている)、したがって光や熱が強く当たり、冬になると、太陽が斜めに当たるから(その証拠に、冬の日は、真昼でも長く伸びている)、したがって地面を熱する力は弱くなる。』
「問いつめられたパパとママの本」より
・・・という訳だそうです。しかし、さすがの伊丹さんでもやはり夏の暑さには参っていたようで、最後はこのように締めくくられています。
『と、いうことが理屈ではわかっていても、まあ今日の暑さはどうだ。真夏の太陽が頭のてっぺんから、気の遠くなるほどガンガン照りつけて、ヘッ、あれが収入が次第に減りつつある姿かよ。われながら信じがたく思われる次第であった。』
ちなみにこの『夏ニナルトドウシテ暑イノ?』の挿絵も素敵なのでご紹介します。もちろん伊丹さんが描いたものです。
補足の説明もあるのですが、大変わかりやすいので、機会がありましたら是非全文を読んでみてください。暑さの理屈がわかると「それじゃあ仕方ないか、もう少しの我慢だ」と少し気が楽になることと思いますので、是非。
スタッフ:川又
2024.08.05 企画展示室のスペシャル映像コーナーに新たなスライドショーが追加されました
8月に入り、連日暑い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館には、夏休みに入ったのだろう小学生や中学生の学生さんがご家族と一緒にご来館くださることが増えてまいりました。私も学生の頃は家族で美術館や博物館に行ったものだなぁ、と懐かしく思い出されます。
さて、記念館では、8月1日(木)より企画展示室のスペシャル映像コーナーの「伊丹レシピ、私流。」の内容が変更となりました。
7月31日(水)までは、マンガ家・エッセイストの瀧波ユカリさんの最期のチャーハン、映画評論家の三浦哲哉さんの満足飯の2本立てでお送りしてまいりました。瀧波ユカリさんの最期のチャーハンに代わり、新たに加わりましたのが料理人の稲田俊輔さんのサラド・ニソワーズです。
サラド・ニソワーズは伊丹さんの著書『女たちよ!』の「サラダにおける本格」に出てくるサラダの一種です。こちらでご紹介をさせていただきます。
もっと賑やかなサラダを好む人にはサラド・ニソワーズがよろしかろう。つまりニース風のサラダである。これは実に満艦飾という言葉がぴたりとくるサラダでありまして、まずサラダ菜、胡瓜、トマト、セロリ、玉葱、赤蕪なんぞの野菜に、罐詰の鮪、アンチョビィ少少、それから茹玉子を輪切りにしたものをどっさり入れて、最後に黒いオリーブの実をあしらうのである。
これはごく鄙びた味わいの、いわば田舎の大御馳走でありますからして、決して茹玉子の輪切りを綺麗に飾りつけたりなどしてはならない。いわんやレタスの葉を下敷きにしてお上品に盛るなんぞは烏滸の沙汰といわねばならぬ。大きな木の鉢の中でドレッシングを作り、そこへ右の材料全部を入れてかきまわす。(ドレッシングというのは野菜の上からかけるものではない。必ず先にサラダ・ボウルの中で作るものと知るべし)これをそのままどんと食卓の中央に据える。こういう精神のものでなければならなりません。
(『女たちよ!』より「サラダにおける本格」)
サラド・ニソワーズ、つまりニース風サラダとは、フランスのニース地方(コートダジュール)の伝統的なサラダなんだそう。地元の新鮮な食材をふんだんに使用しており、田舎らしい素朴な味わいでありながら、華やかなサラダです。
サラド・ニソワーズをご紹介くださる稲田俊輔さんは、南インド料理専門店「エリックサウス」の総料理長をされている方です。そんな稲田さん流の細かなアレンジが加えられたサラド・ニソワーズのスライドショーは、暑くて食欲の無くなる夏でも見ているだけでお腹が空いてくるような素敵な映像となっております。
ご来館の際にはぜひ、新しく追加となった稲田さんのスライドショーにご注目ください。
【8月1日(木)からの「伊丹レシピ、私流。」スライドショー】(二本立て)
・映画評論家 三浦哲哉さんによる満足飯
・料理人 稲田俊輔さんによるサラド・ニソワーズ
また、ご紹介させていただきました『女たちよ!』の中のエッセイ、「サラダにおける本格」では、夏にぴったりの胡瓜のサラダ、トマトのサラダについてもご紹介がございます。こちらもぜひご覧ください。
記念館のオンラインショップでもお買い求めいただけます。
学芸員:橘さくら
2024.07.29 第16回伊丹十三賞の受賞者が決定いたしました!
メディアで報じられていますので既にご存じの方もおられると思いますが――
第16回伊丹十三賞の受賞者は、俳優・アーティストとしてご活躍中の、のんさんに決定いたしました!
撮影:中村和孝
【プロフィール】
1993年7月13日生まれ。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。
2016年、劇場アニメ『この世界の片隅に』主人公すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭審査員特別賞を受賞。2022年2月に自身が脚本、監督、主演の映画作品『Ribbon』公開(第24回上海国際映画祭GALA部門特別招待作品)。
2022年9月、主演映画『さかなのこ』で、第46回日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」受賞。2024年12月、主演映画『私にふさわしいホテル』公開予定。DMMTVでの実写ドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』今冬公開予定。音楽活動では、2023年6月に2ndフルアルバム『PURSUE』をリリース。
「伊丹十三賞」は、伊丹さんが才能を発揮した分野(エッセイ、ノンフィクション、翻訳、編集、料理、映画、テレビ番組、CM、俳優、イラストレーション、デザインなど)で活躍する方に贈られます。
"あらゆる文化活動に興味を持ちつづけ、新しい才能にも敏感であった伊丹十三が、「これはネ、たいしたもんだと唸りましたね」と呟きながら膝を叩いたであろう人と作品"に出会いたいと願い、2008年の伊丹十三賞の創設以来、15名の皆さまにお贈りしてまいりました。
※伊丹十三賞概要ページ。
https://itami-kinenkan.jp/award/index.html
これまでの受賞者の方々もご覧いただけます。
そして2024年、第16回を数える伊丹十三賞は「俳優、ミュージシャン、映画監督、アーティスト......困難を乗りこえ自由な表現に挑み続ける創作活動にたいして」を授賞理由に、のんさんにお贈りさせていただくこととなりました。
のんさんは俳優、音楽、映画製作、アートなど多方面で活躍されていて、上記のプロフィールで紹介されているだけでも活動の幅広さがうかがえます。
そしていろいろなことに " 挑み続ける " のんさんから、今回の受賞を受けて、お気持ちのこもったコメントもいただきました!
「すごい賞をいただいて衝撃を受けています。嬉しくて興奮冷めやらぬ状態です。」
「今まで自分のやりたいことを曲げずに無我夢中でやってきました。改めて、貫いていくべきなんだ。ということが胸にすとんと落ちてきて、凄まじい勇気をもらえました。」
※全文はこちら。ぜひお読みください!
受賞のご連絡を差し上げた時、のんさんが大変喜んでくださったと聞いて関係者・スタッフ一同本当に嬉しく思ったのですが、このコメントを読んでさらに「今回もまた素晴らしい方に受賞していただけた」と、大変感激しました。
贈呈式の模様は記念館便りで改めてご報告いたします。どうぞ楽しみにお待ちくださいね。
スタッフ:山岡
2024.07.22 夏といえば水泳、の話
初蝉から1週間あまり。
セミの合唱が日に日にボリュームを増す今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
正午頃からクマゼミたちは数時間のシエスタ・タイム。
朝と夕方の歌合戦はすごいですよ~
いよいよ四国も梅雨が明けたそうで、本格的な夏が到来しました。
夏になりますと、独特の苦い思い出が胸の奥で疼くような気がします。
個人的な事情なのですが、たぶん、原因は「水泳」の授業。
水の中で目を開けることができなかったのと、鼻や耳に水が入る不快感に我慢ならなかったことに加えて、浮く気がまったくしなかったんですよねぇ......
海の近くの小学校で、達者に泳げる同級生たちに囲まれて、4年生の秋口まで泳げませんでした。
(昭和の義務教育ですからしょうがありませんけれど、ゴーグルの使用が認められていたなら、もうちょっと早く泳げるようになっていたんじゃないかなぁ、と思います。)
私の父は運動神経抜群、しかも、子供に教えるのが大好きだったのですが、そんな父にさえ匙を投げられたカナヅチの私が、なぜ小4にして突如泳げるようになったのか、と申しますと、「なんか泳げる気がした」というだけで、指南書を読んだとか特訓を積んだとかといったタネや仕掛けはないのです。
ゆえに、カナヅチを克服できた具体的な理由もよく分からないし、泳ぎのコツを説明することもできません。それで何とはなしにカナヅチ・コンプレックスが心に居座り続けていて、夏の苦みにつながっているのかもしれません。
水泳といえば、伊丹エッセイを読んでいて「おお、ナルホド!」となったエピソードがあります。
うちの斜向いはプラザ・ホテルで、二十四階建てである。その屋上プールで、あるイギリス人俳優に水泳を教え始めた。
今日は浮き身を練習しよう。
いいかね、まず水の中で仰向きになる。
体の力を抜いて楽な気持ちよ。ただ背中だけはうんとそらす。それから顎もうんと持ち上げる。足はバタ足と同じ、しかし沈まない程度にゆっくりでいいよ。
それから腕はね、自然に下におろして、ゆっくり左右に開いたり閉じたりする。そのとき大事なことはね。腕を外へ開いてゆく時は手のひらをちょっと外へ向けるようにする。閉じてくる時はちょっと内側へ向けるようにする。手のひらが真横に水を切ったんじゃ浮力が生じないよ。
伊丹十三「和文英訳」『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫より)
そっか! 水泳の授業のごくごく最初のほうで教わる「蹴伸び」、うつ伏せの姿勢でやらされたから顔を水につけるのが怖い子は脱落しちゃってたけど、必ずしも「伏し浮き」じゃなくっていいんだ。恐怖心やパニックから水泳が嫌いになるよりも、仰向けで浮くほうが楽しそう、これはいいですよね。
「今年はプールへ足を運んで、ただひたすらに浮き身を満喫してみようかな」「大人になったのだから"楽しみ直す"のもよき嗜みとなるのではないか」と考え始めています。
(松山のみなさん、この夏、水に漂うカッパのような四十路女を市内のプールで目撃したら、あたたかく見守ってくださいね。)
ところで。先に引いたエッセイには続きがあります。
「イギリス人俳優に水泳を教え始めた」とありますよね。つまり、英語で教えることになるわけでして――
という工合にやろう、と思ったんだけど、これがむつかしい。なんだこんな簡単なことと思う人は、これを読むと同じくらいのスピードで訳してみい。しかもイギリス人やアメリカ人がごろごろしている前で大声でこれをやるんだからねえ。第一仰向きになるというのは英語で何というか、バタ足はどういうことになるか、手のひらをちょっと外側にむける、というのはどうか、水の上で掻いたんじゃ何にもならん、というのもむつかしいではないか。(中略)
英語に対する自信が一遍に凋んでしまうのはこういう時なのです。
これまた確かに......
イギリス人俳優氏、伊丹さんとともに言葉の壁を乗り越えて、無事に泳げるようになったのでしょうか。
そんな疑問もわいた2024年の夏の始まり、8月を前にバテバテの方が多いことと存じます。皆様どうかお健やかにお過ごしくださいますように。
しずかさや 岩にしみ入る 蝉の声
なんとも愛嬌のあるセミですよね。アブラゼミかな?
―併設小企画『伊丹万作の人と仕事』「手作り芭蕉かるた」展示中です―
学芸員:中野
2024.07.15 アーティチョーク植え付けのその後
記念館便りをご覧の皆様こんにちは。
ここのところ雨が続く松山です。
営業には支障なく、伊丹十三記念館は通常通り開館しております。
さて、今から約3年前、2021年10月18日の記念館便り において、わたくしは『アーティチョーク』の苗をプランターに植えつけたことをご報告させていただきました。
画像:3年前植え付けたアーティチョークの苗
https://itami-kinenkan.jp/tayori/2021/10/005007.html
2021年10月18日 記念館便り『アーティチョーク』
アーティチョークとは、伊丹さんが著書『ヨーロッパ退屈日記』の中で、茹でて食べると美味しい野菜(ハーブ)として紹介しているものです。
画像:伊丹さんの描いたアーティチョークの蕾の絵
(ヨーロッパ退屈日記の挿絵)
わたくしはこの日の記念館便りの最後に『収穫できましたら、記念館便りにてご報告させていただきますので、期待してお待ちください!』と大きなことを言っておりましたが、この後このアーティチョークについて一度も触れずに今日までやってきました。
お察しの通り、このあと、わたくしはこの苗を枯らします。
それからしばらく経ち、長年の伊丹十三記念館メンバーズ会員様であるO様から、新たにアーティチョークの苗をいただきました。
紆余曲折ありまして、こちらが成長した2代目アーティチョークです。5月下旬撮影。
画像:5月下旬のアーティチョーク。蕾はソフトボール大の大きさです。
(O様その節は誠にありがとうございました、
あの日O様からいただいた苗はこんなに大きくなりました)
今にして思えばこれくらいで収穫するのがよろしかったのだと思いますが、うっかり収穫時期を逃してしまい、、、約1ヶ月後、6月下旬のお姿がこちら。
画像:6月下旬の開花したアーティチョーク。
花を咲かせてしまいました。アザミの仲間、と以前の記念館便りにも書いておりますが、その通り、アザミの花を大きくしたような花が咲きました。(正直ちょっと怖い)
ということで、本日はずっと気がかりだったアーティチョーク植え付け後の顛末をご報告させていただきました。
アーティチョークの蕾はお店で売っていることもありますので、見つけたら皆さんも買って、茹でたあと伊丹さん流に「小皿にオリーブ油を入れて、これにレモンを少々絞り、ブラック・ペパーをたっぷり、塩を少量振りかけてドレッシングを作る。食べ方、などといっても格別のことはない。アーティショーの葉っぱを、外側から順に一枚ずつむしってはドレッシングにつけて食べ」てみてください。
スタッフ:川又
2024.07.08 小銭貯金
早くも7月の2週目に入ってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。気温が高く、湿気の多いむしむしとした日が続いております。連日、熱中症警戒アラートが発表される地域も多いので、体調を崩さないようにお気をつけてお過ごしください。
記念館の回廊でも暑いと感じるようになってきました。
それでも、風が吹くと少し暑さが和らぎます。
つい先日、新紙幣の発行がされ始めたというニュースがございました。
20年慣れ親しんだお札とは徐々にお別れになるかと思うとなんだか寂しいような、不思議な感覚です。
お金といえば、印象的なエッセイで伊丹さんが100円玉を貯めていたというお話がございます。『再び女たちよ!』に収録されている、「百円玉」です。
私は、実は百円玉をためているのです。
ある日、酔っぱらって家へ帰ってきたら、上着のポケットが百円玉で一杯だったんです。
お釣りにもらった百円玉を使わないで、買物をしたり勘定を払ったりするたびに、次次に新しく千円札を出したんでしょう。気がついてみたら、上着のポケットの中が、ザクザクと百円玉だったんです。
私は台所へいって水を飲み、水を飲んだあとのコップの中へ、百円玉をあけてみました。
ポケットの中で重かった百円玉も、こういうきっちりした円筒形に纏めてみると、案外嵩の小いもので、やっとコップの半ばを満たすだけでしたが、それでも、コップ半分の百円玉というのは、なにがなし宝物めいて見えるものなんですね。私はなんだか金持ちになったような気分で、そのコップを枕元に置いてみました。
ネ? なんとなくいいじゃありませんか。
(『再び女たちよ!』より、「百円玉」)
この後、エッセイでは、何かの折にこの100円玉貯金を使おうとするけれど、不思議に惜しくなって使えない。そして100円玉を貯めているコップが一杯になったので灰皿に変え、今度は灰皿が一杯になったので大きな皿に変え、またもや大きな皿が一杯になったので巨大なガラスの壺に、と100円玉を貯める容器が段々と大きくなるのですが、最終的に使用が出来ないままというエッセイでございます。
やり始めたらとことんやるという伊丹さんの性格が良く表れているエッセイで、惜しくなって使用できないところなどに親近感が湧いてきます。
そんな伊丹さんの100円玉貯金、かなり貯めていたものと読み取れますが、それを使用していると思しき映像が、現在の企画展示でご覧いただけます。それがスペシャル映像コーナーで上映しております、『遠くへ行きたい』第39回「伊丹十三・宮本信子の京都㊙買物情報」ダイジェスト版です。この回では、伊丹さんが支払いの時に100円玉で支払う映像が何度か出てまいります。ダイジェスト版となっておりますので、ご覧いただけるのは上映している映像の中で一か所だけとなっておりますが、ご来館の際にはぜひ、映像をご覧になって探してみてください。
「これだけ持ち歩くとかなり重いのでは......」と思う量の100円玉がさらりと登場しております。
余談ではございますが、私もつい昨年まで500円玉貯金をしておりました。セレクトショップで赤い手のひらサイズの象の貯金箱に一目ぼれしてから、4万円ほどになるまで貯めていたのですが、友人へのプレゼントや家電の購入など、比較的大きな支払いが続いて中身を使いきり、その時から500円玉貯金を辞めてしまいました。
新紙幣が発行されたニュースを見たタイミングで1000円札貯金を始めるか、はたまた500円玉貯金を再開するか、少々迷っております今日この頃です。
この貯金箱はフィンランドで作られています。
北欧で象は「幸福の象徴」なのだそうです。
学芸員:橘
2024.07.01 宮本館長が出勤いたしました!
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
今日から7月ですね。これからどんどん気温も高くなってきますので、くれぐれも体調には気をつけて日々をお過ごしください。
さて、以前の記念館便りでもお知らせしておりましたとおり、6月26日(水)に宮本館長が出勤いたしました!
当日、朝は小雨が降るなどぐずついた天気の日でしたが、それでも出勤時刻には雨が止み、宮本館長の出勤に合わせてご来館くださった方や記念館のメンバーズ会員の方、また、出勤のことをご存じなく来館されて「いらっしゃいませ!」と受付で宮本館長に迎えられびっくりされる方――などなど、たくさんのお客様にお越しいただきました。
お客様と宮本館長はお話をして一緒に写真を撮ったり、お買い上げくださったグッズにサインをしたりと楽しそうに過ごされていました。少しですが写真でその様子をお知らせいたしますね。
お客様との時間の他にも、記念館の建物やグッズ売り場のチェックなど、常に大忙し!の宮本館長ですが、合間には、中庭のベンチで一息をつくこんなひとときも。
午後には、記念館の元スタッフの先輩方も駆けつけてくれて、より一層にぎやかな時間となりました。改めまして、当日記念館にお越しくださった皆さま、本当にありがとうございました。
次回の出勤予定は、決まり次第ホームページなどでお知らせいたします。お楽しみに!
----<カフェ・タンポポよりお知らせ>----
本日7月1日より、期間限定メニュー「豆乳ブルーベリー」(税込700円)を始めます!
冷凍したブルーベリーと豆乳をミックスし、さわやかな酸味をお楽しみいただけるドリンクです。カフェ・タンポポにお立ち寄りの際はぜひご賞味ください。
スタッフ:山岡
2024.06.24 『お葬式』誕生40周年!
学生時代のバイト仲間で同い年の友人から手紙をもらいました。嬉しく読んでいると「私たちも、あっちゅう間にアラフィフ」との文字......「ハッッ!!」ではなく、「エッッ!?」となった中野です。
「アラフィフなんて、そんなはずないっ」とまでは申しませんが、忘れちゃうんですよね、自分の年齢。光陰矢の如し、とは言うものの、ちょっと速すぎやしないでしょうか――
さて、今年2024年は、伊丹十三の監督デビュー作『お葬式』の制作・公開から40年のアニバーサリー・イヤーです!
『お葬式』は、1983年秋に伊丹十三が義父(宮本館長のお父さん)の葬儀を経験したことから発想された作品で、服喪中の年末年始でシナリオが書きあげられました。
年明けには準備稿台本が印刷されて、スタッフ編成、キャスティング、予算組み、と瞬く間に準備が進められ――
1984年6月2日(土)、いよいよクランク・イン。7月18日(水)にほぼクランク・アップ。
編集ダビング作業を経て、8月26日(日)の夜、湯布院映画祭で初めて一般の観客向けに上映され、11月17日(土)封切り。映画館に大勢の観客が詰めかけ全国で拡大上映されるにいたった大ヒットぶりは、一種の社会現象に。
"異業種"監督として注目を集めた伊丹十三でしたが、その後も続々と映画作品を発表し、誰もが認める映画監督となったのでした。
という怒涛の一年だったわけですが、調べてみました。40年前の今日、1984年6月24日(月)、新人監督・伊丹十三は何をしていたのでしょうか?
撮影から湯布院映画祭にいたるまでの日々を記録した『「お葬式」日記』(文藝春秋、1985年)には、このように記されています。
6月24日
曇り。湯河原ロケ。ラストの仏壇。続いて遊動円木の千鶴子。編集材料にこと欠かぬよう、十種類ほどのアングルで撮りまくる。昨日のラッシュの影響もあり、現場での材料収集にはかなり用心深くなっている。
遊動円木の撮影では揺れる被写体をカメラが追うわけだが、被写体の揺れとカメラの振りをあわせると、揺れの両端で静止状態ができてしまう。
それを避けるためには、カメラの折り返しを、被写体の折り返しから一瞬遅らせねばならぬのだが、これを米造氏*1に説明するのが難しく、大いに手古摺る。「勉強になりました」と米造氏。
夕景狙いで、シーン4の、きく江、たおれた真吉*2を介抱し、布団を敷く段。最初にこのシーンをトライしたのはクランク・インの日だった。あれから二十日余り、二人とも随分役になったものだ。自分のほうも二人につける動きが自由に湧いてくる。
きんさん、ラストの挨拶、もう一度やりたいよし。こちらも昨日のラッシュを見て、背景を変えてもう一度やりたいと思っていたところだ。(芝居はOKなのだが、きんさんの背景が曇り空で、白バックになってしまったのである。今度はもう少しカメラの位置を高くして、緑バックでいければと思う)
*1:前田米造さん(伊丹映画全10本のうち8本に撮影監督として参加したキャメラマン)
*2:配役はきく江=菅井きんさん、真吉=奥村公延さん。宮本館長演じる千鶴子の両親
「二人とも随分役になったものだ」と伊丹さんは書いていますが、「ベテラン俳優につける動きを自由に発想したり、キャメラマンに意見したり、二十日余りで伊丹さんも随分カントクになったように思いますよ~」とわたくしは考えるのであります。
1日分の日記で上に引用したほどのボリュームなのですから
1冊全体ではとんでもない情報量です!
それにしても、40年、ですか。
嬉々として映画館に通っていた大学生の頃、私が好んで見ていた「昔の映画」の中には、当時から約40年前(1960年前後)に作られたものがたくさんありました。
年齢を重ねるうちに今昔の感覚が広がったことが少し影響しているのかもしれませんが、今から40年前に作られた『お葬式』から「昔の映画」という感じを受けたことはありません。また、伊丹映画全般について「古さを感じさせない」「何度見ても発見がある」とは、多くの方がおっしゃっていることです。
作品そのものにみずみずしい生命が宿っている、作品そのものがひとつの生命体のように出来あがっている、そういう映画だけが時代を超えていけるのだろうと思います。
そんな映画を作り続けた伊丹十三の創造力の源に触れていただける記念館、ワクワクと楽しんでいただける記念館であり続けられるよう、なおいっそう努めてまいります。
暑い日も雨の日も(火曜日以外は)開館して、お客様をお待ちしております!
記念館限定販売のDVD『13の顔を持つ男』には
遊動円木のシーンの撮影を振り返っての
前田米造さんのインタビューが収録されています。必見!
学芸員 : 中野
<雑誌掲載情報>
【発売中】ヘリテージ刊「昭和40年男」vol.85
5 月11 日発売(奇数月11 日発売の隔月刊) 本体定価900 円+税
特集連載「タイム・トラベル」で1984 年の出来事・カルチャーを紹介。映画監督・伊丹十三の誕生のいきさつと、デビュー作にして大ヒットとなった『お葬式』が取り上げられています。
全体特集は「俺たちが愛した昭和洋画」。誌名にあてはまらない世代の方も女性も、映画好きならどなたでも楽しめるコンテンツ満載の一冊です。
【近日発売】キネマ旬報ムック「キネマ旬報の100年」
7月27 日発売 本体予価3,000 円+税
監督第10 作『マルタイの女』完成直後、映画作りについて伊丹十三が大いに語った1997 年の対談記事が再掲されます。お相手は野上照代さん。数々の黒澤明作品でスクリプター、プロデューサーを務め、伊丹万作亡き後には岳彦少年の"保護者" 役でもあった野上さんとのプロフェッショナルにしてざっくばらんな映画談義をご堪能いただけます。
そして、父・伊丹万作の随筆「僕の一番苦しむもの」も、1935 年新春特別号の<映画作家一言集>の中の一篇として再掲。
厳選された過去の名記事多数、映画の黎明期から続く『キネマ旬報』の歴史が約400ページに凝縮された豪華ムックです。日本映画史における伊丹父子の存在感にも触れられることでしょう。
2024.06.17 宮本信子館長の出勤
いよいよ来週となりました。
当館の館長、宮本信子が伊丹十三記念館に出勤いたします。
出勤日: 2024年6月26日( 水 )
時間:10時30分ごろ ~ 15時30分ごろ
昨年の10月の出勤以降、およそ8か月ぶりとなります。
当日は、是非みなさまお誘いあわせのうえ、宮本館長に会いに伊丹十三記念館にご来館ください。スタッフ一同ご来館をお待ちしています。
(状況により急遽予定を変更する可能性がございます。ご了承ください。)
なお、5月15日、開館17周年記念日には当館の宮本信子館長の記念館便りはみなさまご覧いただけましたでしょうか。
まだの方は是非ご覧ください。
宮本信子館長からのメッセージ
「5月15日・伊丹十三記念館は17周年を迎えました!」
スタッフ:川又
2024.06.10 6月の映画の日は『タンポポ』を上映いたします
6月に入り、梅雨の時期が近付いてまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今週の木曜日は13日ですので、おなじみ「毎月十三日は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」を13時より開催させていただきます。
2024年度、2本目は『タンポポ』上映いたします。13日にご来館予定の方はぜひこの機会にご覧ください。
さて、今回上映いたします『タンポポ』ですが、映画をご覧くださった際にご注目いただきたい展示がいくつかございますので、本日はそちらをご紹介させていただきます。
1つ目は、常設展示室「七 料理通」で展示をしているラーメン丼。こちらは、映画のラストで新装開店した主人公・タンポポの店で使用されているラーメン丼です。料理スタイリストの石森いづみさんが選んだのだそうです。
映画だと見えづらい丼の模様までしっかりご覧いただけますので、ぜひご注目ください。
2つ目は、同じく「七 料理通」のコーナーの引き出し内部にございます『タンポポ』の直筆台本と絵コンテです。どちらも渡辺謙さん演じるガンが、大友柳太朗さんの演じる老人にラーメンの正しい食べ方を教えられる場面です。
絵コンテはかなり簡素に描かれているように見えますが、1コマ1コマに描かれた人物の表情は生き生きとしております。
直筆台本は、内容はもちろんのこと、伊丹さんが1984年ごろから伊丹さんが愛用していたオリジナルの原稿用紙にもご注目ください。
3つ目は、企画展示『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』のスペシャル映像コーナーにございます、「伊丹レシピ、私流。」です。2本立てでお送りしておりますスライドショーの1本で、マンガ家・エッセイストの瀧波ユカリさんが『タンポポ』に登場する"最期のチャーハン"をご紹介くださっております。
病に侵された瀕死の母親が家族のために作ったチャーハンを瀧波さんがアレンジしてご紹介。映画の映像も一部ございますので、こちらもご一緒にお楽しみください。
4つ目は、カフェ・タンポポに展示されております、『タンポポ』のポスターに使用されたイラスト原画です。『タンポポ』に出演するキャストの似顔絵となっておりまして、ご覧くださったお客さまが「上手」「すごく似てる」「伊丹さんご自身で描かれたんですね!」と皆さま大変驚かれるイラストたちです。シャープペンシルだけで描かれており、服のシワやラーメンの湯気まで見事に表現されているので、ぜひじっくりとご覧ください。
さて、ここまで映画『タンポポ』に関する展示品をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。ぜひ、上映されます映画と合わせてお楽しみください。
先週の記念館便りでもご紹介をさせていただきましたが、再来週は宮本信子館長がご出勤されます!
皆さまのご来館を心よりお待ちしております。
日時:6月26日(水)10時30分頃~15時30分頃
※状況により、急きょ予定を変更する可能性がございます。
何卒ご了承ください。
学芸員:橘
2024.06.03 宮本館長の出勤情報
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
気温が高くなる日が多くなってきました。これからどんどん暑くなっていくと思いますので、皆さま、熱中症など体調にはくれぐれもお気をつけくださいね。
さて本日は、嬉しいニュースをお届けいたします。
宮本信子館長の、記念館への 出勤が決定いたしました!!
記念館への出勤日程:6月26日(水)10:30頃~15:30頃
※状況により、急きょ予定を変更する可能性がございます。
何卒ご了承ください。
普段、本当にたくさんのお客様から「宮本館長はいつ出勤されるのですか?」とご質問をいただきます。決まる前には「宮本館長の出勤情報は決まり次第ホームページのニュース欄でご案内します。ぜひ時折チェックしてみてください!」とお伝えしていることもあり、当日は、事前に情報をキャッチされて出勤時間に合わせてご来館くださる方がたくさんいらっしゃるんですよ。
ニュース欄は、宮本館長の出勤情報をはじめ、伊丹さんや記念館に関する様々な情報をいちはやく皆さまにお届けするコーナーです。ぜひ折にふれてチェックしてみてください!
記念館ホームページのニュース欄。
もちろん現在のTOPニュースは館長出勤情報です!
出勤当日は、宮本館長は私たちスタッフと一緒にお客様をお迎えします。「いらっしゃいませ!」と元気に声をかける宮本館長に、ぜひ会いにいらしてくださいね。
宮本館長・スタッフ一同、皆さまのお越しをお待ちしております。
スタッフ:山岡
2024.05.27 『開館17周年記念収蔵庫ツアー』開催いたしました
17周年ネタが続いてまことに恐縮――
2024年5月15日は、伊丹十三記念館の17回目の開館記念日でした。
記念館が地球上に誕生してから太陽の周りを17周!
なかなかに感慨深いものがありますが、私たちがこうして一日一日活動を重ねていけるのは、何を措いてもお客様方のおかげであります。心よりお礼申しあげます。
というわけで、開館記念日に先立ち、4月19日(金)・20(土)・21日(日)の3日間、各日2回の計6回、定員各回4名様、ささやかながら感謝の「収蔵庫ツアー」を開催いたしました。
記念館の収蔵庫の2階には"展示風収蔵"になっているコーナーがございまして、直筆の原稿・原画、衣類、食器などの愛用品や書籍が収められています。
それらの収蔵品に関する伊丹十三ならではのエピソードを交えながら、1時間ご見学いただく催しが「収蔵庫ツアー」です。
こんな感じでご案内しています。こちらの写真は、
「伊丹十三とインターネット」について説明中の図。
ツアー3日目、4月21日(日)午前の回にご参加の皆様です。
開館1周年から周年記念イベントとして開催し続け、すっかり定番化していた収蔵庫ツアーが途切れたのは、13周年だった2020年。例の、新型コロナウィルスの大流行のときでした。
「コロナめ~、よりにもよって"十三"周年を妨害するとは!!」と恨めしいやら悲しいやらの思いをしたものですが、14周年も15周年も16周年も開催できず......今年、やっと復活できました。なんと5年ぶりの開催!
久しぶりの収蔵庫ツアーだと意識し過ぎたせいか、いつもとは違う緊張に見舞われましたが、終始、参加者の皆様のあたたかい眼差しに背中を押していただき、全日程を完走することができました。
お客様方から頂戴したご感想と、ご紹介した収蔵品の写真ででレポートさせていただきます。
**********
個性的なイメージが強かったのですが、今回、とても家庭的な面も感じられて身近に感じました。地元に住んで前々から気になっていたのですが、やっと来られて幸せな時間でした。ありがとうございました。
原画や自筆の原稿に感動しました。勝手に神経質そうな字を書かれるのかと思っておりましたが、意外とチャーミングな字で驚きました。また、伊丹さんの審美眼にかなったものをとことん使いこまれるところが印象に残りました。
エッセイ「ブーツ」テキスト部分の原稿
(『ぼくの伯父さん』所収)
とても楽しいツアーでした。この記念館を訪れたのは16年ぶりくらいですが、あらためて、伊丹さんの才能とセンスの良さを感じました。詳しく説明してくださって、ありがとうございました。宮本館長さんにも、ぜひお会いしたいです。
あまり見ることのない収蔵品を見ることができ、楽しく過ごせました。伊丹十三さんの在りし日のことがしのばれます。昔のこと、自分の若い頃をなつかしく思い出しました。
収蔵庫ツアーの事、初めて知って参加しました。当時の事をなつかしく思い出すとともに、もっと作品を残してほしかったなあと思いました。そして今の時代に生きていらっしゃったらどんな作品を作ってくれたろうと思いました。
伊丹さんの映画作品をもっと鑑賞したかったです。ありがとうございます。
愛用した甲州印伝グッズのひとつ
青海波文様の信玄袋
1つ1つのものに、伊丹さんのこだわりが感じられて面白かったです。細かい質問にも笑顔で答えていただきありがとうございました! ガイドさんの伊丹十三愛も伝わりました。
自分が職としているデザインに通ずること、参考になることがたくさんあって楽しかったです。
映画人としての伊丹さんしか存じあげてなかったので、もう少し予備知識を携えて参加すべきでした。次回までに色んな事を勉強して参りたいです。詳細で熱いご説明をありがとうございました。
伊丹十三が手掛けた映画の資料や物がたくさん見られたので、とても貴重な経験をする事ができました。映画もまだ観られていないので、観てみたいです。
Macintosh PowerBook 5300ce
シナリオ執筆やレイアウト作業に大活躍
詳しく説明していただき有難うございました。伊丹さんはいろんな事に深く興味を持たれる方だとつくづく思いました。荘村清志さんと従兄弟だと知り良かったです。
衣食住すべてに伊丹さんの個性がつらぬかれています。改めて映画を見直し新たな発見をしたいと思います。ありがとうございました。
今回は珍しいものを紹介いただきありがとうございました。湯河原の部屋はリアルに再現されていて、見ごたえありました。ファッションのところもとてもよかったです。組み合わせしたものも見てみたいと思います。
中国服がよかった。ありがとうございました。
映画監督・伊丹十三の"トレードマーク"だった
オーダーメイドの中国服。刺子の半纏との重ね着
丁寧に解説していただいてとても楽しいツアーでした。衣類や原稿などから、伊丹さんの人となりがわかって良かったです。
とても素晴らしい内容で感動いたしました。また来たいです。
この度は、これほどまでに大変貴重な夢のようなひとときを過ごすことができ、一生の忘れられない経験となりました。伊丹さんが生きておられた時代を共に生きてきたひとつひとつのものが呼吸をしているように伊丹さんの人生と芸術を力強く支えていたこと、1つ1つを愛して大切に愛でておられた伊丹さんの生き様、周りの方々を愛しておられる姿と重なり、より深く、伊丹さんの映画、エッセイや作品、著書、俳優業、イラストetc...全ての芸術への尊敬と愛が強まりました。伊丹さんがご家族のみなさま、ご関係者のみなさまと共に大切に過ごしてきた日々の中で、収蔵されている品々を長く大切になさっておられたことをおもうと、目頭が熱くなるおもいがいたしました。拙い文章で大変恐縮ではございますが、いただいたこの想いと熱をまた自分の中で昇華していけるように、精進をすすめてまいりたいとおもいます。本当にありがとうございました。皆様日々健やかにお過ごしできますように。
湯河原の伊丹邸の一室を再現したコーナー
丸いテーブルは家族の食卓、本棚には本がビッシリ!
貴重な収蔵展示を見せていただき、感動しすぎて言葉にできないほどでした。伊丹十三さんの普段知る事ができない日常生活を感じられ、より深く魅力を知り、学芸員の中野さんの素敵な解説で本当にありがたく素敵な時間を過ごさせていただきました。
伊丹十三さんの人間性の豊かさ、スケールの大きさを痛感致しました。初の記念館見学、まことに有意義でした。又、説明の方がわかり易く話して下さって、時々の質問にも気軽に答えて下さって、道中、心豊かに見学できました。ありがとうございました。身内の者や友人にもPRし、同行させていただきます。
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名物イベントでも5年もお休みしてしまったから忘れられているんじゃ......との不安をよそに、多くの方がご応募くださって感激いたしました。
そして、募集してみると、「収蔵庫ツアーというイベントがあるのを始めて知りました」という方が案外多いことが分かり、そういう点でも「やっぱり開催することにしてよかったな」と思いました。
今回の収蔵庫ツアーは、ほぼ全ての回が抽選となりましたため、落選となった方、申し訳ございませんでした。
また来年4月に開催したいと思っておりますので、募集情報を公開する3月上旬頃、ホームページを覗いてみてくださいましたら幸甚です。
伊丹十三記念館のメンバーズカード会員制度では
ご優待特典として年2回収蔵庫をご見学いただける
会員様限定ツアーをご用意しております。
「開館して17年」とお伝えすると「え~、そんな風に見えない!」とビックリなさるお客様がたくさんいらっしゃいます。(自分が実年齢より若く見られる以上に嬉しいんですよねぇ(笑))
修繕にかかる費用は決してお安くありませんが、いつまでも若々しい記念館でいられるよう、また、スタッフも若々しさを維持しながら成長していけるよう、一同努めてまいります。
18年目もどうぞよろしくお願い申しあげます!
改正博物館法における「登録博物館」の認定証とプレートをいただきました!
5月18日(土)「国際博物館の日」より、プレートをロビーに掲出しています。
学芸員:中野
2024.05.20 開館17周年
5月15日、伊丹十三記念館は開館17周年を迎えました。
17周年記念日には当館の宮本信子館長の記念館便りが更新されました。
ご覧いただけましたでしょうか。
宮本信子館長からのメッセージ
メッセージ内の
「ついこの間のような~~、もうずっと昔のような~~(笑)」
この一文の通り、2007年5月のことをついこの間のようにも、もうずっと昔のことのようにも感じます。
最近では生前の伊丹さんをご存知ない世代の方のご来館も目立ち、月日の流れを感じるところです。
開館当初の中庭
開館から17年が経過した現在の中庭
開館当初の中庭の桂
開館から17年が経過した現在の中庭の桂
開館当初の伊丹十三記念館の外観
開館から17年が経過した現在の伊丹十三記念館の外観
写真を見比べてみると時は確実に経過しているようです。
今後とも伊丹十三記念館をよろしくお願いいたします。
スタッフ:川又
2024.05.15 5月15日・伊丹十三記念館は17周年を迎えました!
5月15日・伊丹十三記念館は
17周年を迎えました!
5月の風が吹き抜ける中庭。
大きく育った桂の木が気持ちよさそう~~。
葉っぱと葉っぱが歌っているようです。
17年前、開館日の当日を思い出していました。
大勢のマスコミ関係の皆さんや、
列を作って待っていらっしゃるお客様のお顔や笑い声など・・・。
そして、受付のロビーでスタッフと円陣を組みました!
ついこの間のような~~、もうずっと昔のような~~(笑)
記念館を御覧になったお客様の声。
「また来ます!楽しかった」「時間が足りない!」
「よかった!友達にすすめます、絶対!」とか
「こんなにいい記念館!続けるのは大変でしょうが、
無くならないで下さい。応援しています!」
嬉しいお言葉を頂いて本当に嬉しく思いました!
お客様から励ましのお言葉をいただき最高です。
ありがとうございました!
スタッフ一同、お待ち申しております!
又、お逢いできますように~~。
どうかお身体御自愛下さいませ。
感謝
宮本信子
2024.05.13 記念館便りは5月15日に更新させていただきます
5月13日の記念館便りはお休みさせていただきます。
次回、5月15日更新の記念館便りを是非ご覧ください。
伊丹十三記念館
2024.05.06 「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」
あっという間にゴールデンウィークも最終日となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
少しずつ気温も高くなり、ご来館くださるお客さまで半袖の服をお召しの方が増えてきたなと感じます。今年もかなり暑くなるとのこと、季節の変わり目に差し掛かってまいりましたので、皆さま何卒お身体を大事にお過ごしください。
回廊のベンチにいると風がとても気持ちのいい季節になりました
わたくし事なのですが、先月、年の離れた妹がついに大学生になりました。高校生の間は出来なかったバイトもはじめ、自由度が上がった生活を満喫しているようです。
そんな妹がまだまだ小さかった頃、「これは何?あれは?」と様々なものを聞かれることがありました。花や動物の名前を聞いてくるまでは良かったのですが、「お昼にお星さまが見えないの、なんで?」など問題自体が複雑化してくると、すぐに答えることが出来なくてとても困った記憶があります。
10年以上経って、妹からの質問攻めが多々あったことすら忘れた頃、『問いつめられたパパとママの本』を読みました。身の周りの疑問がわかりやすく説明されていて、妹がもっと小さい頃に出会いたかったな、としみじみ思ったことがございました。
そして最近『問いつめられたパパとママの本』を見返している際に「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」を読んで、はるか昔に妹と同じようなやり取りをしたことを思い出しました。
まだ妹は幼稚園に通っていた頃でした。動物の生態を紹介する番組で、動物の目が暗闇の中でも光っているのを見た妹が「目が光ってる!なんで?」と無邪気に聞いてきました。当時中学生だった私がどう答えたのかは覚えていないのですが、詳しい説明は出来ずに終わったのだけは覚えています。瞳に光が反射するからじゃないかなぁ、などと曖昧なことしか答えられませんでした。
伊丹さんはその答えを書いていてくださったので、本日は皆さまに「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」をご紹介させていただきたいと思います。
眼の光る動物は、なにも犬と猫だけではないのであります。たとえば他の猫科の動物、すなわち、ヒョウ、トラ、ライオンなんかの眼もよく光るし、その他、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、タヌキ、キツネ、シカなんかも、みんな光るらしい。
水棲動物では、ワニもすごく光るというし、魚では、サメの類も綺麗に光るという。
では、なぜ光るかというに、それは、眼底の網膜の裏側に「光輝膜」(タペーツム・ルチドム)という、凹面の反射鏡の形をした膜があるためであるといわれる。
では、タペーツム・ルチドムは、なぜ光るのでありましょうか。
どうやら、タペーツム・ルチドムには蛍光性物質が含まれているらしい。ドイツのワイツェルという学者は、銀ギツネの眼を何百個も集めて、その眼からタペーツム・ルチドムを取り出して分析したのでありますが、その研究によると、タペーツム・ルチドムは亜鉛を多く含んでおったという。
つまり、これは、現在流行の蛍光塗料において亜鉛が大きな役割を演じていることとよく合致するのであります。
(中略)
つまり、夜光時計が光るのと原理は同じようなものです。
つまり、タペーツム・ルチドムが蛍光性があるといっても、絶対の暗闇の中では光らない。あくまでも、あれは反射しているのでありますから、わずかでもよい、反射させるための光が必要であります。
すなわち、微弱な光線が、外から猫の眼にはいると、それが網膜をとおって、タペーツム・ルチドムの蛍光性物質にあたってはねかえる。
ところが、蛍光性物質の特徴はなにかというなら、波長の短い光を、波長の長い光に変える、つまり、もっとわかりやすくいうなら、見えにくい光線を、見えやすい光線に変えるのが蛍光性物質なのであります(これをストークスの法則という)。
つまり、夜の暗がりの、微弱な光線が、猫の眼にはいりますと、タペーツム・ルチドムによって、見えやすい光線に変えられて反射してくる、ということになりましょう。
しかもこれに加えて、われわれ人間の眼には、暗いところでは「暗順応」といって、極端な場合には一〇〇〇倍くらいも感度を増す、という性質があるのですね。つまり、タペーツム・ルチドムからの反射をますます強く感じる、ということになるわけだ。
(『問いつめられたパパとママの本』より「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」)
いかがでしたでしょうか。『問いつめられたパパとママの本』は『婦人公論』にて連載されていた「パパとママのなぜなぜ百科」をまとめた書籍です。残念ながら現在では新品を手に入れることは難しいのですが、専門家の話をわかりやすくユーモアを交えて書いてある大変面白い本ですのでぜひお読みいただきたい1冊です。
ちなみに、同じような問いかけをした妹本人に覚えているかと連絡を取りましたところ、質問すら綺麗さっぱり忘れられておりました。なんだか少し切ない気持ちになりました。
常設展示室、手まわし式イラスト閲覧台には
「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」の挿絵イラストがございます
さて、最近気温が高くなってまいりましたので、記念館ではTシャツをご購入くださるお客さまが増えてまいりました。
絵柄は三種類ありまして、一つは『女たちよ!』より「二日酔いの虫」、『ヨーロッパ退屈日記』より「スパゲッティの正しい食べ方」そして、今回ご紹介させていただきました『問いつめられたパパとママの本』より「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」の挿絵が使用されています。
ネイビーの生地に濃い緑の線でイラストがプリントされた可愛らしいデザインとなっておりますので、今年の夏のお気に入りTシャツの1枚に仲間入りさせてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、「ネコノ眼ハナゼ光ルノ?」の挿絵はTシャツの他にゴム印やシールにも使用されております。オンラインショップでお取り扱いのグッズもございますので、ぜひお買い求めください。
Tシャツの販売ページはこちら
ゴム印の販売ページはこちら
学芸員:橘
2024.04.29 爽快感のあるドリンク
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
木々や草花の緑が綺麗な季節になってきました。
中庭の桂の葉っぱもみずみずしく、ベンチに座って緑を眺めながらひと休みすると、大変気持ちがいいですよ。
先日、記念館便りでカフェ・タンポポの期間限定メニュー「豆乳イチゴ」の提供開始をお知らせしましたが、おかげさまで今年もご好評をいただいており、この4月はアイスドリンクのメニューの中で一番人気になりました。
期間限定ですので、気になる方はぜひご賞味くださいね。
さて、この豆乳イチゴに次いで、ここ最近じわじわとオーダー数を伸ばしてきているアイスドリンクがあります。ペリエ(天然炭酸水)を使ったメニューです。
<ペリエを使ったメニュー>
「ゆずペリエ」(税込600円)
「ジンジャーペリエ」(税込600円)
「ゆずジンジャーペリエ」(税込700円)
「ゆずペリエ」はゆずジャムを、「ジンジャーペリエ」は手作り生姜シロップを、「ゆずジンジャーペリエ」はゆずジャムと生姜シロップをペリエで割ったドリンクです。
程よい強さの炭酸水・ペリエと、ゆずジャムや生姜シロップがうまくマッチして、すっきりとした飲み口になっています。ペリエの気泡や、上に添えたミントの緑で、見た目にも涼し気ですよ。
ゆずペリエ
これらは1年を通してご注文いただけますが、炭酸水の爽快感が暑い時期にぴったりということで、気温の高い、汗ばむ季節に特にご好評いただいていています!
ご来館の際はぜひお試しください。
スタッフ:山岡
2024.04.22 伊丹十三とVFX
気がつけば4月も下旬、1年の3分の1が過ぎ去ろうとしています。
「停車した駅あったっけ?」と首をかしげたくなるほどに超特急な2024年でありますが、今から1ヵ月あまり前、まことにおめでたい映画ニュース――『ゴジラ -1.0(マイナスワン)』がアカデミー賞視覚効果賞を受賞! という吉報が日本を沸かせましたねぇ。
山崎貴さん(監督・脚本・VFX)のスピーチ、監督とともに渋谷紀世子さん(VFXディレクター)、髙橋正紀さん(3DCGディレクター)、野島達司さん(エフェクトアーティスト/コンポジター)の面々、すなわち、VFXプロダクション"白組"の方々がオスカー像を受け取る様子は、皆様、テレビやウェブサイトで何度もご覧になられたことでしょう。
白組は1974年設立、日本の特撮魂をベースに、アニメーションやCGによる映像制作を行うクリエイターたちが集っている企業です。
この白組、殊に山崎貴監督が、劇映画に携わるようになった初期の作品が伊丹映画だったことに触れた報道もありましたので、「山崎監督と伊丹さんにご縁があったとは!」と初めてお知りになった方、少なからずいらしたのではないでしょうか。
伊丹映画がVFXを導入した初めての作品は『マルサの女2』(1988年公開)。
地上げで巨額の利益を得ながら脱税を重ねてきた男が見る悪夢のシーンです。
このシーンの伊丹十三による直筆絵コンテ!
常設展「十三 映画監督」のコーナーでご覧いただけます。
それから、『大病人』(1993年公開)での主人公の臨死体験シーンでは、アナログの特撮とデジタル合成とが見事に融合した表現の数々をご覧いただくことができます。
若かりし頃の山崎さんと渋谷さんは、白組の調布スタジオで試行錯誤を重ね、伊丹さんとの打ち合わせを反映させたテスト映像を携えて、伊丹組のスタッフルームがあった日活撮影所との間を自転車で往復する日々を送られたそうです。(若いってすばらしい!と、四十路真っただ中のわたくしは唸ってしまいます......)
伊丹監督・伊丹組が若い方々の意見を柔軟に取り入れていたことなどなど、『白組読本』(公野勉/風塵社/2016年)で詳しくお読みいただけます。
半世紀にわたり最先端技術とクオリティの高さで映像の世界を開拓してきた集団の組織論としても、大変参考になる一冊です。ご興味のわいた方、ぜひお求めになってみてください。
一方、伊丹さんはといいますと、白組との協働について、こんな言葉を残しています。
合成に関しては、白組というのがあって、ずいぶん進歩した技術で合成をやってくれるんだけど、合成してもらう素材はこっちが心を込めて撮って渡さなきゃだめね。
立木義浩『伊丹十三映画の舞台裏 大病人の大現場』(集英社/1993年)
「心を込めて」というフレーズに、「1本の映画をまとめ上げてお客さんに届けて楽しんでもらうには、どのパート・どの世代も対等に話し合って、各々が全力を注がなくてはならない」という伊丹十三の映画作りの根本精神が詰まっていると感じます。
今回のご受賞、伊丹さんも心からの笑顔で拍手を送っていることでしょう。
これからの白組の皆さんのご活躍も楽しみにしております、遅くなりましたがこのたびは本当におめでとうございました!
右:『白組読本』
左:『伊丹十三映画の舞台裏 大病人の大現場』
どちらもオススメです!!
学芸員:中野
2024.04.15 伊丹十三とペタンク
先日「好きな部活」というトークテーマのラジオを聞いておりましたら、「ペタンク部」に所属しているという高校生からのお便りが読まれていました。そのラジオの出演者の方々は「ペタンク」を知らないということでしたが、みなさまはご存知でしょうか。ペタンクとはフランス発祥のスポーツで、「的」により近づけるように鉄の球を投げる球戯です。
伊丹さんファンの方の中にはご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、実は伊丹さんは「(自称)全日本ペタンク愛好家連盟会長」だったそうです。
伊丹さんのエッセイ『ヨーロッパ退屈日記』の『ペタンクと焙り肉』に、ペタンクについて詳しい説明が書かれておりますのでここでご紹介させていただきます。
「南仏の村人達のリクリエイションは、ペタンクという球戯であるが、これは、見る人に少々哀れを催させるほどに単純なゲームである。即ち、まず一人が二個ないし四個ずつの鉄の球を持つ。球の大きさは、野球のボールくらいだろう。
最初のプレイヤーが、「コショネ」と称する小さな木製の球を投げる。距離は六メートル以上十五メートル以内と定められている。これを標的にして順順に鉄の球を投げ、コショネに一番近いものが勝ち、ということになる。
仮にきみの球が一番近く、ぼくが二番であったとすると、きみは一点を得点する。
仮にきみの球Aが一番近く、きみの球Bが二番目、Cが三番目、ぼくの球が四番目であれば、きみの得点は三点である。
このようにして得点を加え、最初に十五点に達したものが勝利者になって、ワン・ゲームが終わるという、実に素朴なものであるが、単純なだけに、却って複雑な掛引き、高度の技術を要し、その「球趣は尽きるところがない」
わたくしは、今、四人用の球のセットをフランスから持ち帰って、「全日本ペタンク愛好家連盟会長」を自称しているのである。」
『ヨーロッパ退屈日記』の表紙のこの右下の丸いもの、これはペタンクの球を描いたものだそうです。
ヨーロッパ退屈日記の表紙
ペタンクに高校の部活動まであるというのは今回初めて知りましたが、改めて調べてみますと全国各地の市町村に「ペタンク連盟」や「ペタンク協会」が存在しているようです。道具についても伊丹さんはフランスから持ち帰ったということできっと大変だったと思いますが、現代ではお察しの通り今日注文すれば明日明後日には届くようです。是非チェックしてみてください。
『ヨーロッパ退屈日記』のご購入は こちら から
スタッフ:川又
2024.04.08 丼めし
4月に入り温かい日も増えてまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館では、昨年植えたロウバイにも葉が芽吹きはじめました。マンサクはまだ葉が出ておりませんが、もう少しで芽吹きそうな様子です。トサミズキや中庭の桂は葉が増え、賑やかになってきております。
ロウバイ
マンサク
中庭の桂
さて、前回の記念館便りでも紹介がございました通り、4月1日より企画展示室のスペシャル映像コーナーの「伊丹レシピ、私流。」にて新しく、映画評論家の三浦哲哉さんのスライドショーが追加されました。
三浦さんがご紹介くださるのは、満足飯。スライドショーをご覧になってお気付きの方もいらっしゃることと存じますが、こちらは書籍『ぼくの伯父さん』に収録されております、「丼めし」にて紹介されておりますレシピです。「丼めし」は下のようにエッセイが始まります。
辻留さんのお書きになった料理を、私は随分と片っ端から作ってみましたが、一番好評だったのが、"満足飯"というのです。これは、料理というよりも、もう少し原始的な段階の魚の食べ方なので、これが一番好評だったなどというと、辻留さんは不本意に思われるかも知れぬが、ともかく旨い。
(『ぼくの伯父さん』より「丼めし」)
伊丹さんが振る舞い、好評だったという満足飯。三浦さん流にアレンジされたレシピにてご紹介されますので、ご来館の際はぜひ新しいスライドショーをお楽しみください。
また、エッセイ「丼めし」には挿絵がついておりまして、こちらの原画を企画展室内にてご覧いただけます。
写実的な鉛筆画は、木目模様はもちろん、椀に反射する光や風景まで描かれており、つるんとした手触りまで感じられそうな原画イラストとなっております。
直筆原画・原稿コーナーにて展示中
ちなみに、同じ展示室内にてこのイラストの元になった椀も展示しております。ぜひ、実物と見比べてみてください。
「食べたり、」のコーナーにて展示中
エッセイやイラスト原画、スライドショーと、複数の面からお楽しみいただけます満足飯。ぜひエッセイをご一読いただいてから、展示をお楽しみいただけますと幸いです。
『ぼくの伯父さん』と中庭のタンポポ
学芸員:橘
2024.04.01 新年度がスタートしました
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
記念館の中庭では、桂が芽吹き始めました。
顔を出した可愛らしい黄緑の葉っぱが日に日に増えてきています。
さて今日から4月ですね。新しい学校、新しい仕事、新しい生活など、何かが新しく始まるという方も多いのではないでしょうか。
記念館も新年度を迎え、本日から以下の2つがスタートしますのでご案内させていただきます。
<<企画展のスペシャル映像コーナーに新作スライドショーが登場!>>
大好評開催中の企画展『伊丹十三の「食べたり呑んだり作ったり。」』のスペシャル映像コーナーに、新しいスライドショーが登場します。
スペシャル映像のひとつ「伊丹レシピ、私流。」では、伊丹さんのファンである各界の方々が、ご自分流にアレンジした伊丹さんにまつわる料理をスライドショーで紹介してくださいます。
新たに登場するのは、映画評論家の三浦哲哉さんによる「満足飯」です。どんなアレンジ料理を披露してくださるのか、ぜひ実際にご覧ください!
【4月1日(月)からの「伊丹レシピ、私流。」スライドショー】(二本立て)
・マンガ家・エッセイストの瀧波ユカリさんによる「最期のチャーハン」
・映画評論家の三浦哲哉さんによる「満足飯」
<<カフェ・タンポポで期間限定メニューがはじまります>>
期間を限ってご提供する「豆乳イチゴ」「アイスコーヒー」「アイスティー」を本日より開始いたします。
「豆乳イチゴ」は毎年春にスタートする人気メニューです。愛媛県内産のイチゴと豆乳をミックスしたシンプルな飲み物ですが、イチゴの酸味と甘みに豆乳のまろやかさが加わり、さっぱりとした甘さをお楽しみいただけます。
また、暑さが本格的になる季節はまだ少し先ですが、少しずつ気温が上がり始めるこの時期から「注文できますか?」とお尋ねが増えてくる「アイスコーヒー」「アイスティー」も同時にスタートです!
天気のいい日は日中汗ばむほどの陽気になり、冷たい飲み物が欲しくなりはじめる時期ですよね。カフェ・タンポポにお立ち寄りの際は、ぜひ冷たい飲み物で一息ついてください。
新年度も、伊丹十三記念館をよろしくお願いいたします。
スタッフ:山岡
2024.03.25 3月のグッド・ラック
3月半ばの休日、自宅のテレビをつけるとセンバツ高等野球。
春の休日ならではのお楽しみだなぁ、と堪能しています。(夏の選手権が朝8時に試合開始で出勤日でも第一試合の序盤は見られるのに対し、朝9時に試合が始まるセンバツは休みでなければ見られないので......)
野球はプロ野球もMLBも見ます。他の競技では、フィギュアスケートやスキージャンプ、それから、近年は大相撲も面白いと感じるようになりました。ラグビーやアメリカンフットボールは、ルールや戦略を理解して見られるようになってみたい! と憧れたりも。
お気に入りのチームや選手に肩入れしすぎてちょっと疲れてしまったこともありましたけれど、「私が松山で『ガンバレガンバレ』といくらリキんだところで役に立つわけでなし――ああ、そうか『ナイス・ゲーム頼むよ~』と『グッド・ラック!』でいいんだ」と気付いてからは、ユルめの気分で眺められるようになりました。
"グッド・ラック"。
そういう表現があることはもちろん知ってはいましたが、伊丹エッセイで「なるほど、いいな~」と思い、自分の実用ボキャブラリーに取り入れた言葉です。
そのエッセイをちょっと引いてみましょうか。
「これは荒木博之っていう先生の説なんだが――あんた、高野球好きでしょ?」
「ああ、大好きだね、テレビが始まるともう齧りついて応援するもんね」
「応援するときはガンバレっていうんじゃない?」
「そりゃそうですよ、他になんてって応援するんです」
「そこなんだよなあ、荒木先生がいうのは。われわれがスポーツ選手を応援する言葉は必ずガンバレであって、それ以外の言葉は絶対に使わないってんだな」
「スポーツだけじゃないですよ。この前ミス・ワールドだかなんだかの日本代表が決勝戦で外国行く時も、インタビューでガンバッテキマスって云ってましたぜ。ガンバルったってどうガンバルのか、顔でもイキませるのかと思ってあたしゃおかしかったんだが――」
「ネ? ところがガンバルって言葉は外国にはない。強いていうならドゥ・ユア・ベストとでもいうことになろうが、そんなこと、まあ、いわないね」
「普通グッド・ラックでしょうな」
「そう、グッド・ラックなのよね。ところが日本じゃガンバレ一点張りだ。これはなぜか?」
「なぜなんです?」
「ここから荒木先生の天才的分析が始まるわけなんだが、要するに、日本人は集団的人間であるト。集団の中の村人として自我を殺しに殺してムラの掟に従っているト。そういう他律的な性格を持っておるのだト、ネ? ところがこの、貧しく押しひしがれた、集団の中の個がだね、突如集団から切り離されてだな、たとえばオリンピックのマラソンならマラソンに出るということになる。当然、一個の独立した、自律的な個として行動することを要求されるわけだ」
「ハハァ――」
「しかし、彼自身の自我というものは、常日頃集団の中で殺され続けて、今や全く小さく惨めに萎んじゃってるというわけだな。この萎んじゃった小さな自我を本来自我がそうあるべき大きさにまで膨らませる作業がガンバルということなんじゃあるまいかト、そう荒木先生は説かれるわけよ」
「なるほど――」
(中略)
「私は昔外国映画に出て一つびっくりしたことがある。たとえば私なら私がね、その映画で初めて仕事するって時はね、みんながやってきて激励してくれるんだな」
「ホウ――」
「ピーター・オトゥール、ジェイムズ・メイスン、クルト・ユンゲルス――そういう連中がみんなやってきちゃ握手をしてくれてね、グッド・ラック! というわけよ。グッド・ラックね。みんなプロの役者だ。素質があって当然。その素質に磨きをかけるため、あらゆる努力をしてて当然。人事を尽して天命を待つ。人間の努力に対して天がいかなる評価を下すかは人知の与り知るところではない、われわれにできることは、おのが能力を最大限に出し尽すことだけだ、それがプロというもんだ、あなたがプロである以上、あとはラックだ、というわけだな。それがグッド・ラックだ。彼らは私を一人前の人間として扱ってくれたことになる」
「週刊文春」連載「日本世間噺大系 グッド・ラック」(1973年8月13日号)より
さて、世界的な名優たちに"グッド・ラック!"と送り出された若かりし頃の伊丹さん、その結果はいかに――
エッセイ「グッド・ラック」は『ぼくの伯父さん』(つるとはな/2017)『伊丹十三選集 第三巻』(岩波書店/2019)に収録されていますので、結末も含め、ぜひ全文をお楽しみください。
今週あたりは、大きな荷物を抱えて、明らかに旅行者とは異なる面持ちをした若者たちを駅前で多く見かけることでしょう。これも3月の風物詩。
進学でしょうか、就職でしょうか、地元に戻って勤めるのか未知の土地へ行くのか――どことなく緊張した雰囲気をまとって、高速バスや列車や船で若者たちが愛媛を旅立っていきます。
彼らにも「グッド・ラック!」、ですね。
学芸員:中野
2024.03.18 ロウバイ観察日記
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。
昭和初期に素晴らしい「朝顔観察日記」をつけていたのは小学2年生の池内岳彦君こと伊丹十三さんですが、令和に「ロウバイ」を毎日観察している伊丹十三記念館スタッフがおります。わたくしです。
【伊丹さんの朝顔観察日記は伊丹十三記念館ガイドブックにも掲載されています】
昨年、記念館の庭に植え付けたロウバイは2月の初旬ごろから花芽をつけはじめました。その頃から出勤日にはほぼ毎日写真を撮って観察をして参りましたのでここで一挙ご紹介させていただきます。
上の写真は観察初日、2月7日のロウバイです。遠目にはわかりづらいですが、近づいてみると、枝先には黄色い「芽」が見えます。
翌日、2月8日。
2月10日
2月15日
2月16日
2月18日
2月21日
2月22日、上の方の枝と下の方、それぞれ少し花が咲いてきたのがおわかりいただけますでしょうか。
2月23日
2月27日
3月2日
3月3日
3月4日
3月6日
3月7日
3月9日
3月10日
3月11日
3月13日
3月14日
3月15日
そして、こちらが今朝3月18日のロウバイです。撮影を開始した2月の初旬と比較していただくと、随分花が咲いているのがおわかりいただけるかと思います。
2月7日のロウバイ
一般的に落葉樹の植え付けは寒い時期に行う方が良いと言われているのですが、諸々の事情により、このロウバイは植え付けが5月末になってしまいました。ですので、去年の夏の間、記念館スタッフは他の木々の何倍も水をやり、どの木よりも注意して見守って参りました。そんな我々の心配をよそに、1年目から見事に花を咲かせてくれました。
ご来館の折にはお見逃しなく、見ごろを迎えた記念館のロウバイをご覧ください。
スタッフ川又
2024.03.11 ミモザ
春らしく暖かな日もあれば、雪が降るほど寒い日もあり、体調を崩しやすい季節となってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
まだまだ寒さの沁みる日もありますが、記念館の横を流れる川辺の菜の花が咲いて見頃となってまいりました。ロウバイやユキヤナギ、トサミズキも花をつけ、記念館は春らしい装いです。
ロウバイ
ユキヤナギ
トサミズキ
春も近付く今日この頃、とある記念日の名前を様々なニュースサイトや新聞で目にしました。それが、3月8日の「国際女性デー」です。
「国際女性デー」とは国際機関によって定められている記念日で、女性の社会参加や地位向上、平等などを訴える日です。世界中で記念行事が開催されているほか、国内でも女性の社会参加や平等などについてのニュースが多数報道されました。
この「国際女性デー」は、別名「ミモザの日」とも言うのだそうです。
ミモザの日と呼ばれる所以は、「国際女性デー」の象徴として親しまれている花だからだそう。イタリアでは3月8日を「Festa della donna」(女性の日)と呼び、男性が女性に感謝の思いを込めてミモザを贈る日でもあるそうです。
最近、道端や公園などでミモザの花をよく見かけておりましたので、この可愛らしい花が「国際女性デー」のシンボルというのは、なんだか嬉しく思われました。
散歩中に見かけたミモザ
さて、記念館でミモザといえば、『ヨーロッパ退屈日記』にございます、「ミモザ」が思い出されます。伊丹さんが飛行機に乗ったら飲むと決めていたカクテルのミモザについてのエッセイです。エッセイでは言及されておりませんが、こちらのカクテルの名前の由来は、黄色い花をつけるミモザに似ているからだと言われています。
飛行機で思い出したが、ヨーロッパの朝食で、一番贅沢な飲物は何だと思う?
グレープ・フルーツ・ジュース、なんかじゃないよ。グレープ・フルーツは、日本では二、三百円、高い時には五百円なんていう時があったが、ロンドンでは、一等いいやつが、一個一シル、即ち五十円だ。
何といっても奢りの頂上は「ミモザ」ということになる。「ミモザ」というのは、シャンパンをオレンジ・ジュースで割ったものだ。
シャンパン、というのは嫌いな人が案外多いものだが、「ミモザ」を作ってすすめると、大概のシャンパン嫌いも、オヤ、という顔をして、どんどんお代わりしたりなぞするようである。
わたくしは、飛行機に乗ったら、飲物は「ミモザ」ときめている。
一等なら、シャンパンは全くタダなのだが、わたくしは滅多に一等には乗らない。短い航路ならともかく、ヨーロッパ往復で、二等との差額が二十何万円にもなっては、乗りたくても乗りようがないではないか。
ところで「ミモザ」の話だが、シャンパンは何も一等と限ったことではないのだ。二等だって、お金さえ払えば、税無しの、素敵に安いシャンパンが飲めるのです。
ポメリーの半壜が、七百円と少しくらいだったと思う。オレンジ・ジュースはタダだから、自分で半々に割って、ま、気楽に召し上がって下さい。
(『ヨーロッパ退屈日記』より「ミモザ」)
「ミモザ」の挿絵で描かれているレモン搾り器
現在は企画展示室にて展示されています。
こちらのエッセイに登場するミモザは、記念館のカフェでもお召し上がりいただけます。
カフェではシャンパンを単品でお取り扱いしております。シャンパンは200mlの壜でのご用意となりますが、シャンパンをご注文の際、ご希望のお客さまにはミモザ用のみかんジュースを1杯分ご提供させていただきます。エッセイの飛行機と同じようにお出ししておりますので、ぜひご自身で混ぜてミモザをお作りください。
シャンパンと1対1で混ぜるみかんジュースは、愛媛みかん、清見タンゴール、デコタンゴールからお選びいただけます。
伊丹さんも愛飲していた、春先にぴったりの爽やかなカクテルのミモザ。ぜひ、エッセイを思いながらお楽しみください。
〈お知らせ〉
開館17周年の記念イベントとして、収蔵庫ツアーを開催いたします!
収蔵庫ツアーは、普段は公開をしていない収蔵庫を学芸員がご案内するツアーとなっておりまして、収蔵庫の2階部分にございます展示室風に整えた収蔵庫展示をご覧いただけます。
イラスト原画や生原稿、愛用品の数々、湯河原の自宅のダイニングを再現したコーナーなど、伊丹さんについてより深く知っていただけるツアーとなっております。
収蔵庫内の様子
2022年の秋からメンバーズ会員様限定のツアーは再開しておりましたが、2019年まで開催していた周年記念イベントでの収蔵庫ツアーは、実に5年ぶりの開催となります。
開催期間は4月19日(金)、4月20日(土)、4月21日(日)の3日間。各日10時30分~と14時30分~の2回ずつ、計6回開催いたします。
ご参加には事前応募が必須となりますので、詳しくはこちらをご覧ください。
※定員を超えるご応募がございました場合は抽選となります。ご了承ください。
この機会にぜひご応募くだされば幸いです。皆さまのご応募、お待ちしております!
学芸員:橘
2024.03.04 伊丹十三記念館の「タンポポ」
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。3月に入り、ますます春めいてきましたね。
記念館の中庭では、先週ビンカミノールが咲きました。今はまだ花は一つか二つですが、これから増えていき、合わせてタンポポの花が咲いたり桂の木が芽吹いたりと、中庭は徐々に色づいてきます。
ビンカミノール(ヒメツルニチニチソウ)
さて、これから開花が楽しみなタンポポですが、改めて「タンポポ」というと、皆さまは何を思い浮かべますでしょうか。
というのも、つい先日「『タンポポ』いいですよね~」と話すお客様がおられて、私はてっきり映画『タンポポ』のことだと思って映画の話をしましたら、実はお客様は記念館併設の「カフェ・タンポポ」のことを言っていた――なんてことがありました(かみ合わない会話をして、お客様にきょとんとした顔をさせてしまいました...)。
そういえば記念館にはいろいろな「タンポポ」があるなぁと改めて認識して、関連したものを集めてみましたので、皆さまにもご紹介いたしますね。
まずは映画『タンポポ』!
皆さまよくご存知の、伊丹十三監督映画作品です。記念館便りをご覧の皆さまの中には、もしかしたら真っ先に思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんね。
常設展示室でご覧いただける、映画『タンポポ』のポスターパネル。
このポスターのポストカードはショップで販売中です
そして展示室の出口を出て右手には「カフェ・タンポポ」があり、ここではタンポポの根っこを焙煎して作られたノンカフェインの「タンポポコーヒー」をお楽しみいただけます。
また、このカフェ・タンポポのガラスや、受付から中庭を望むガラスには、映画『タンポポ』で店の看板の絵に使用された、タンポポのイラストがプリントされています。
カフェ・タンポポの入口
タンポポコーヒー。見た目はコーヒーそっくりの、
"コーヒー風味"の飲み物です
ガラスにプリントされたタンポポイラスト
回廊を通って記念館のショップに来ますと、ガラスにプリントされたものと同じタンポポのイラストが使用された、一筆箋、封筒、ゴム印があります。
左から一筆箋(中身)、一筆箋(外)、封筒
タンポポのゴム印(左がSサイズ、右がMサイズ)
いかがでしょうか。記念館には思った以上に「タンポポ」があって、今更ながらびっくりしてしまいました。
ご来館の際は、ぜひそれぞれの「タンポポ」を見たり楽しんだりしてくださいね。
スタッフ:山岡
2024.02.26 『知恵泉』再放送!
寒くないのをありがたいと思うこともあったけど、冬らしくない冬だったなぁ、もう春が来てしまうなぁ、と惜しく感じられる今日この頃。
それでも朝の冷たい空気に触れると、心身がサッパリと洗われるようで嬉しくなります。「新鮮な空気はごちそうだね~」と胸いっぱいに吸い込みいざ出勤! と、ほどなくして伊丹さん言うところの"ラ・モルヴ"(※)が両の鼻からツツツ......春に先んじてスギ花粉の季節が到来......皆様いかがお過ごしでしょうか。
※ ラ・モルヴ : 詳細は『再び女たちよ!』所収のエッセイ「鼻の構造」でどうぞ
2月6日(火)、13日(火)の2週にわたって放送されたNHK Eテレの『先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)』、多くの方がご覧くださったことと存じますが、「しまった、放送も配信も見逃した!!」という方も少なくないと拝察いたします。
そんな見逃しさんに朗報、再放送のスケジュールが発表されました!!
メモのご用意を――いえ、今すぐ録画予約しましょう、リモコンのご用意を!!
『先人たちの底力 知恵泉 伊丹十三 人を魅了するには』
NHK Eテレ
前編:2024年3月2日(土)14:00~14:45
後編:2024年3月2日(土)14:45~15:30
前後編連続で週末に再放送されるのは『知恵泉』のスケジュールでは珍しいケースですね。
たくさんの方が伊丹さんの知恵と底力に触れて、活力にしてくださることを願っております。
撮影班のみなさん。アレコレ話し合う場面あり、
阿吽の呼吸が発動する場面もあり、
プロの仕事は見ていて面白い!
ところで。
わたくし、記念館での館蔵品撮影のお手伝いのほか、ほんの少しだけインタビュー出演させていただいたのですが、自分の話しぶりたるや、何ともはや、な仕上がりでした。
収録の時には「私にしては落ち着いてお話しできているぞ~」と思っていたのに、放送された映像の中の自分の姿は、一言発するごとに謎の"頷き"を繰り返していて......まるで赤ベコ。
「誰に対する頷きなんだ!」とセルフ・ツッコミをした後、「あ、自信のなさが、頷きの動作になってあらわれているんだ......いわば、自分に対する確認というか......」と気付きました。自分を外側から観察するというのはなかなかに厳しい作業でありますが、話し方も大事ですね。精進します。
というわたくしの赤ベコぶりはさておき、『知恵泉』前後編を視聴しての感想――
ゲストのみなさんお一人お一人のお話に感銘を受けつつ、「みんなで伊丹さんについてワイワイ語っている様子を眺めるのは、やっぱり楽しいなあ、大好きだなぁ」と感じました。
『知恵泉』再放送、ぜひご視聴ください!
3月2日土曜日、NHK Eテレで14時スタートです!!
・・・・・・お知らせ・・・・・・
2024年2月26日(月)~3月1日(金)
空調工事のため臨時休館させていただきます。
何卒ご了承くださいますようお願い申しあげます。
学芸員:中野
2024.02.19 NHK Eテレ『先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)』の反響など
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。
2月も終盤にさしかかり、ここのところ暖かい日が続いている松山です。
さて、皆さま、以前より記念館HPでも告知させていただいておりました2月6日(火)と2月13日(火)放送のNHK Eテレの教養番組『先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)』をご覧いただけましたでしょうか。
「伊丹十三 人を魅了するには」と題し、2月6日(火)には「前編」、2月13日(火)には「後編」と、2週にわたって伊丹さんの特集が組まれました。
やはり記念館においても「知恵泉」の反響は大きく、6日の「前編」放送後の2月10日からの3連休は多くのお客様で賑わいました。
伊丹さんといえば何と言っても映画監督としての顔が一番有名であるかと思いますが、「前編」では映画監督になる前の仕事である「エッセイスト」や「テレビマン」時代の伊丹さんについて深く語られており、宮本信子館長のインタビュー盛りだくさんの「後編」とあわせて、ともに大変ディープな内容で見応えがありました。
番組を見逃した、という方、再放送や見逃し配信等でご覧いただけるようですので是非お調べください。
NHK Eテレ『先人たちの底力 知恵泉』
https://nhk.jp/chieizu
↑ 番組内容等詳細はこちらから。
一人でも多くの方にご覧いただきたい番組でしたので、是非番組HPをチェックしてみてください。
スタッフ:川又
2024.02.12 テレビマンとしての伊丹十三
あっという間に2月となり、寒さのやわらぐ日も出てまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今週から来週にかけては暖かくなったり冷え込んだりと、寒暖差の激しい日々が予想されます。季節の変わり目に入ってまいりますので、皆さま何卒お身体を大事にお過ごしください。
さて、2月6日(火)に放送された、NHK Eテレの教育番組『先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)』の伊丹さんの特集の前編、皆さまご覧くださいましたでしょうか。
"伊丹十三 人を魅了するには"をテーマに、今回放送された前編では、伊丹さんが映画監督になるまでに携わった、商業デザイナー、エッセイスト、俳優、テレビマンなどの仕事について紹介されました。
番組を見ていて、伊丹さんを知らない方や映画監督のお仕事だけを知っている方は、番組の中で紹介されている伊丹さんの様々なお仕事の経歴に興味が湧いたのでは...!と思いましたので、本日の記念館便りでは様々なお仕事のひとつ、テレビマンとしての伊丹さんについてご紹介をさせていただきます。
1971年、テレビマンユニオンが制作する人気テレビ番組『遠くへ行きたい』への出演を機に、テレビの面白さや可能性に惹かれた伊丹さんは『天皇の世紀』や『欧州から愛をこめて』、『古代への旅』など様々な番組に関わっていき、出演者としてだけではなく、制作スタッフとして番組作りにも携わりました。
そんな伊丹さんのテレビマンとしての活動。2024年現在は映像の全容を見ることは難しいですが、いくつかの媒体から番組の内容を知ることが出来ます。
テレビマンとしての伊丹さんをもっと知りたいという方はぜひ、これからご紹介する映像や書籍をご覧ください。
まずは、記念館の企画展示室にて上映しております、『遠くへ行きたい』より「伊丹十三・宮本信子の旧婚旅行」の映像です。こちらは企画展示『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』での上映のため、食に関する場面が取り上げられたダイジェスト版となっており、ドキュメンタリー番組の案内役をしている伊丹さんを約15分じっくり見ることが出来ます。ご来館の際にはぜひ、ご覧いただけますと幸いです。
企画展示室で上映されている『遠くへ行きたい』の映像
お次は、記念館のショップで販売をしているDVD『13の顔を持つ男』です。
このDVDは伊丹さんのテレビ番組の映像を収録しており、ダイジェスト版となっておりますが『遠くへ行きたい』や『天皇の世紀』の映像をご覧いただけます。
DVDの映像
常設展示室でもご覧いただけます。
初めて出演した『遠くへ行きたい』の「親子丼珍道中」や「ズッコケ発明珍道中」の他、『先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)』でも紹介のあった「天が近い村」も収録されています。
「天が近い村」は、婚姻の歌を撮るはずが、「お祝いの歌を撮るなら最初から結婚式を全部やってしまった方がいい」という村の人々の善意ではじまった本格的な結婚式の撮影となり、"撮影をしようとしたところ、番組のために村の人々が結婚式をしてくれたという"事実を、ドキュメンタリーとしてありのまま伝えた回です。
「天が近い村」のエピソードにつきましては、第8回 伊丹十三賞 受賞記念で開催された、受賞者・是枝裕和さんと今野勉さんの対談、「是枝裕和×今野勉対談「伊丹十三とテレビ」」の採録でもご覧いただけます。
こちらの対談に登壇している今野勉さんは、『遠くへ行きたい』や『天皇の世紀』など様々な番組にディレクターとして関わっておられ、伊丹さんと共に番組を作られていました。そんな今野さんは昨年、テレビマン時代の伊丹さんに関する書籍、『テレビマン伊丹十三の冒険』を出版されています。
制作に関する伊丹さんのエピソードを沢山知ることが出来ますので、合わせてご覧いただけますと幸いです。
DVD『13の顔を持つ男』は、記念館のオンラインショップでもお取扱いがございますので、まだご覧になっていない方はぜひお買い求めください。
お次は、『伊丹十三選集 第1巻』です。こちらには、伊丹さんのエッセイの他に、ドキュメンタリー番組『伊丹十三の古代への旅』の番組内容の書きおこしが収録されております。1977年に放送された番組で、古代日本や古代アジアをテーマに、その分野の専門家に話を聞きに行くという内容です。『伊丹十三選集 第1巻』では「古代への旅」の中で全13話の番組の書きおこしが収録されております。
えーテレビで古代史をやってみろということになったわけです。古代史というのは非常に面白いのですけれども、テレビにするとなるとまるで自信がない。古代の遺跡や先生方の話だけで番組ができるんだろうか、その辺がよく分からんわけですねえ。従って今回は番組を作りつつ、とりあえず古代史とテレビの接点を探ってみたいと思うわけです。
(『伊丹十三選集 第1巻』より「古代への旅」)
映像ではご覧になれませんが、伊丹さんの聞き書きのスタイルを思わせる書きおこしの文章は大変読みごたえがございますので、ご覧いただけますと幸いです。
いかがでしょうか。今日では、伊丹さんの出演しているテレビ番組映像を全編視聴することは叶いませんが、面白い番組を作り続けた伊丹さんの足跡に触れる機会は沢山ございます。
『知恵泉』をご覧になり、映画監督以外のお仕事も気になった方がいらっしゃいましたら、ぜひ、書籍やDVD、そして記念館の展示で伊丹さんをもっと知っていただけますと幸いです。
明日、2月13日(火)は後編が放送されます。
予告編はこちらからご覧いただけます。来週は宮本信子館長のインタビューもございますので、ぜひご覧ください!
https://www.nhk.jp/p/chieizu/ts/R6Z2J4WP1Z/episode/te/J1MM41V5P3/
学芸員:橘
2024.02.05 必見!TV番組情報
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
本日2月5日は、ニ(2)コ(5)ニコの語呂合わせで「笑顔の日」だそうですね。
ということで、常設展示室入口で皆さまをお迎えする伊丹さんの、とびきりの笑顔の写真をどうぞ!
単行本『伊丹十三の本』(新潮社)の表紙にもなっている写真です。
つられて顔がほころんでしまう、素敵な笑顔です
2月というと、他にも一昨日の節分、バレンタインデー、「建国記念の日」や「天皇誕生日」といった祝日などいろいろある月ですが――今年は特に、必見のTV番組があります!
記念館TOPページの告知欄や番組HPなどでご存知の方もいらっしゃると思いますが、NHK Eテレの教養番組『先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)』で、伊丹さんが特集されることになりました!!
NHK Eテレ『先人たちの底力 知恵泉』
「伊丹十三 人を魅了するには 前編」
2月6日(火)午後10時~10時45分
https://nhk.jp/chieizu
番組内容等詳細はこちらから。予告動画も観られます。
『先人たちの底力 知恵泉』は、"歴史居酒屋「知恵泉」" で、現代人のいろいろな課題について歴史上の人物、先人たちの知恵と行動から解決のヒントを探っていくという番組です。
いよいよ明日に迫った初回放送は、司会はNHKアナウンサーの高井正智さん、スタジオご出演はタレントの伊集院光さん、女優の山田真歩さん、作家・編集者の松家仁之さんです。このプロフェッショナルな方々が伊丹さんについてどんなお話をしてくださるのか...今からとっても楽しみです!!
記念館も取材を受け、記念館関係者へのインタビューのほか、記念館の収蔵品などたくさん撮影していただきました。
皆さまぜひご覧ください!
スタッフ:山岡
2024.01.29 正月飾りをめぐるアレコレ
記念館のエントランスに掲げていた今年の正月飾りを1月7日いっぱいで下げ、先日、神社に納めてきました。
正月飾りの準備係と処分係を他のスタッフに頼りきりできてしまったこれまでを反省して、今回は自分から志願。
「毎年どういうところで買ってます?」と尋ねたら「ホームセンターとかにいっぱい並んでますよ」とのことだったので、12月に入ってからというもの、あっちの店こっちの店へ足を運んでお飾りコーナーを物色してまわり、年の瀬も押し詰まってきた頃にやっと決めたのですが、いやあ、色んな種類があるものなんですねぇ。
購入者目線で見てみると、実に多種多様で悩ましい――さらに正確に言うなら、「伊丹さんの記念館の正月飾りとして合格でしょう」と思えるものになかなか行き当たらない、「こんなにいっぱいあるのに!」ということには驚きました。
「プラスチックのミカンや松がついてる正月飾りなんて興ざめじゃない...?」
「謹賀新年とか迎春とか書いてあるのはいいんだけど、どれもこれもフォントがダッサいのはなぜなの!?」
年末、天山界隈のホームセンターやスーパーで怒りあるいは落胆のオーラを放出しまくっている中年女を見かけたという方、それは私であった可能性大、です。
そんなこんなしているうち
「時代のせいか景気のせいか今はあまり見かけなくなったけど、昭和の頃には一般のご家庭でも門松を飾るのが普通だったなぁ」
「自動車のフロントグリルに付けるお飾りとかも流行ったよねぇ」
などなど、懐かしい記憶がよみがえったりも――
そうそう、伊丹エッセイには「車の正月飾り」にまつわるこんなエピソードがございます。
私が自分のロータス・エランを赤にしたのは、こいつなら赤でも目立たない、と思ったからでありますが、さらに念を入れるなら、この車はよごれっぱなしのほうがいい。埃や泥はもちろん、小さな引っかき傷や、軽いへこみも、そのままにしておいたほうがいい。
私の分類では、こいつは、雨具や履物の部類に属する。仕立ておろしのレインコートや、ま新しい靴というのが、どうにも気恥ずかしいものであると同様、車も、ある程度薄よごれた感じのほうが、私には乗り心地がいい。
ま、そういうわけで、私は自分のロータスを掃除しないことにしている。昨年の暮れには、ひと月ばかりガレージにいれっぱなしにしておいたから、実にいい工合に埃がつもって、その埃の上に猫の足あとなんかついて、ほとんど私の理想に近い、芸術的なよごれをみせるようになった。
私は、この埃の上に、指で絵を描こうと思った。そうだ! 注連飾りの絵を描いて年始に出よう、と思った。
「猫の足あと」『女たちよ!』(文藝春秋1968年/新潮文庫2005年)より
さて、この伊丹十三の年始大作戦の結末やいかに――
エッセイ集『女たちよ!』でぜひお楽しみください。
"お正月×地方"で盛り上がるネタというと「お雑煮」がメジャーですが、正月飾りも地方によって様々な違いがあるようなので、出身地の異なる方との話題にしてみると面白いかもしれませんよ。
ちなみに、愛媛の正月飾りは、地域ごとに差はあるものの"輪っか・プラス・アルファ"タイプ。
我が故郷・岩手では、細く綯(な)った縄にお幣束・昆布・イワシの煮干しがついたものを、50~60cmに切った松の枝にくくり付けて、玄関の左右に飾るのが主流です。
というわけで、1月の下旬も下旬になりましたが、本年もどうぞよろしくお願い申しあげます。
暖冬には暖冬なりのしんどさがありますね、皆様くれぐれもご自愛くださいませ。
中庭の桂の幹に季節外れのセミの抜け殻が...
夏からずっとくっついていたのでしょうか?
暖冬で最近ウッカリ羽化したとか...いやまさか...
学芸員:中野
2024.01.22 臨時休館のお知らせ
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。
いよいよ1月も下旬に差し掛かって参りました。
1月2日に更新いたしました宮本信子館長の新年のご挨拶の記念館便りはもうご覧いただきましたでしょうか。
もしもまだ、という方がいらっしゃいましたら、是非ご覧ください。
こちらをクリック → 館長・宮本信子から新年のご挨拶
さて、ニュース欄でもお知らせさせていただいております通り、
2月26日(月)から3月1日(金)までの間、
伊丹十三記念館は臨時休館をさせていただきます。
この期間、記念館では展示室の空調機器の交換工事と、外周の板塀の塗り替え工事を行う予定です。
【画像:板塀の現状。この度の臨時休館中に生まれ変わります。】
ご来館のお客さま方からよく「綺麗!」と言われる記念館の建物ですが、実はもうすぐ築17年になりますので、いつまでも新築気分という訳にはいきません。
日々問題なく元気に記念館を営業していけるよう、このように時折、所々メンテナンスをしております。という訳ですので、今回の臨時休館におきましても、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
【画像:今にも咲きそうな蝋梅の花芽】
今年も伊丹十三記念館をどうぞよろしくお願い申し上げます。
スタッフ:川又
2024.01.15 手袋
1月も中旬に差し掛かってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館では、ユキヤナギが少しずつ花をつけ始めました。ゆっくりですが、春に向かって季節が進んでいるようです。
花をつけ始めたユキヤナギ
トサミズキはまだ蕾です
少しずつ春に向かっているのを感じますが、暦はまだまだ冬。朝晩と冷え込む日が続いております。私は記念館まで自転車で通っているので、この時期は厚手の手袋とマフラーが手放せません。皆さまも温かくして、体を大事にお過ごしください。
さて、本日の記念館便りでは、冬に活躍する手袋についてのエッセイをご紹介させていただきます。
皆さまは伊丹さんのエッセイで手袋の話題だと、『ヨーロッパ退屈日記』にございます「エルメスとシャルル・ジュールダン」が思い浮かぶのではないでしょうか。手袋のイラストも印象的です。
パリへ来るたびに、わたくしは、ドライヴ用の手袋を買うことになっている。シャンゼリゼの、リドのアーケードの裏門に近い男物の店に、絶妙の手袋があるのだなあ。これは、少なくとも六双は買いたい。
(『ヨーロッパ退屈日記』より「エルメスとシャルル・ジュールダン」)
『ヨーロッパ退屈日記』より手袋のイラストページ
気に入ったものはいくつも買い、ストックをしていた伊丹さんらしいエッセイですが、本日ご紹介したいエッセイは、『ぼくの伯父さん』に載っている「手袋」です。
この手袋は、西独逸製のスキー手袋の、右の片一方である。左手はスキー場のリフトから落っことしてしまった。
アルヴィン・トフラーという学者によれば、われわれが幼年時代以来、この世から学ぶ最も大切なことの一つは「持続の予見」であるという。「持続の予見」とは何かというと、ある物事が持続するのに「大体これはこのくらいの時間がかかるだろう」という、その見当――とでもいおうか、昼や夜が持続する長さをはじめとして、食事の持続する長さ、学校の授業が持続する長さ、一日の勤務時間が持続する長さ、一人の女との恋が持続する長さ――要するに、この世でわれわれが遭遇するたいがいの事柄の持続する長さについてですね、われわれは、それが「大体これはこのくらい持続するだろう」という、おおよその見当を、いつの間にか持っているわけで、だからこそ、われわれは「それがどのくらい持続するのか」という尺度を「まだ形成していない」事柄に出喰わすと、途端に心理的な混乱に陥ってしまい、その時間をひどく長く感じてしまう。たとえば、初めて、ある場所を訪ねるような場合「行きの道は果てしなく遠く感じられたが、帰りは、これが同じ道かと思うくらい呆気なく思われた」などというのはそれであります。
『ぼくの伯父さん』より手袋のイラストページ
ええと――なぜこんな話をするかというと、この手袋の片一方をなくした時、ちょうどその事を考えていたからなのです。
私はその時、故障して停まってしまったリフトに乗って、深い深い谷の上にぶら下がり、動かぬリフトの上では、なぜ時間がいつもよりゆっくり過ぎるのか、という命題について考えていた。リフトが故障してから、まだせいぜい一時間ぐらいしか経っていなかったでしょうが、リフトの上の私には、それはほとんど小規模な永遠とでもいうべき苦痛であった。私の心の中の、いかなる「持続の予見」も役に立たなかった。一体あとどのくらいの時間、この吹きっさらしの空中に、逃れる術もなく放置されるのか、根拠のあるいかなる「持続の予見」もできはしなかった。
私が手袋を落っことしたのは、ポケットに残っていた三本の煙草の、最後の一本を取り出そうとして左手の手袋を脱いだ時であった。
アッ、と思った時、すでに手袋は空中に浮かんでいた。
谷底まで百メートル以上あったろうか。手袋はゆっくりと落下して、音もなく谷底の雪の上に横たわった。
(中略)
煙草を吸い終わらぬうちに、モーターの唸る音が聞こえたかと思うとガタンとリフトが動き始めた。
動いてみれば、何のことは無い、今までの、いつ果てるとも知れぬ苦痛など嘘のように消えて、時間はまた流れ始めていた。
私が、手袋の、残った一方を捨てかねているのは、別に感傷的な理由からではない。ただこの手袋がひどく高かったからである。この手袋を買ったのは、もう十五年も昔のことになろうか。確か一万五千円であった。当時の私の給料が三万円くらいだったから、私はいわば決死の覚悟でこの手袋を買ったのである。それほど私はこの手袋のデザインを気に入っていた。
それにしても、あれから十五年か!
考えてみれば、十五年前には時間はのろのろと、たゆたうように懶く過ぎていたように思う。そのうち、やがて一年一年が次第に早く過ぎ始め、二十五歳を過ぎてからは、三年、五年が一と塊りになって走り過ぎるようになってしまった。今に十年、二十年が一と塊り、という時期がくるのであろう。一体、人生を長く暮らす方法はあるのか、ないのか? 停まったリフトの上ででも暮らしてみるか......
現在私はこの手袋を、熱湯を入れると、どうしても開かなくなる癖のある、古い魔法瓶の蓋を開けるのに使っている。それからまた、猫が頑固にくわえて放さない食べ物を取り上げる時にも使っている。
私と猫と魔法瓶と手袋の中では、猫が一番新しく、今年で九歳になった。
(『ぼくの伯父さん』より「手袋」)
伊丹さんは気に入ったら同じものをいくつも買ってストックをしていた方であると同時に、気に入ったものを長く愛用する方でもありました。当時のお給料の半分で買った手袋とのことなので、おいそれと捨てられなかったのだろうと考えられます。しかし、片一方になっても魔法瓶の蓋を開けたり、猫が頑固にくわえたままの食べ物を取りあげる時に使ったりと、ずっと手袋を"愛用"していたことが伺えます。気に入ったものは修繕して使い続けていた伊丹さんの人となりが出ているエッセイのひとつです。
『ぼくの伯父さん』と『ヨーロッパ退屈日記』
ちなみに、なぜこちらのエッセイを本日ご紹介させていただいたかと申しますと、手袋のエッセイであることに加え、「一年一年が次第に早く過ぎ始め、二十五歳を過ぎてからは、三年、五年が一と塊りになって走り過ぎるようになってしまった。」という一説に強い共感を抱いたからです。
2023年末、1年が過ぎるのってこんなに早いのかとしきりに思っていたのですが、2024年の1月もあっという間に中旬。年を重ねるごとに1年が短くなっている気がしてならず、年末年始は特にそんなことばかり考えておりました。
『ぼくの伯父さん』を読み返し、伊丹さんもそんな風に感じていたんだなぁと親近感を覚えました。
本日ご紹介させていただきましたエッセイが載っている『ヨーロッパ退屈日記』と『ぼくの伯父さん』は記念館のショップ、オンラインショップで取り扱っております。まだご覧になっていない方はぜひこの機会にご覧ください。
学芸員:橘
2024.01.08 『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」展』好評開催中です
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
2024年も、伊丹十三記念館をよろしくお願い申し上げます。
宮本館長の新年のご挨拶もぜひご覧ください。
※上記のご挨拶にある新たに植樹した
「ロウバイ」 「マンサクの木」について
詳しくはそれぞれのリンク先をご覧ください。
さて昨年12月も半ば頃、「これまでの企画展を全部観ているんですよ」という男性がお越しくださいました。
ご存じの方も多いと思いますが、記念館にはお客様にご覧いただく展示室がふたつあります。
ひとつは、伊丹さんの名前にちなみ13のコーナーに分けて伊丹十三という人物、その仕事や趣味を紹介する「常設展示室」。そしてもうひとつが、伊丹さんについて独自のテーマを設け、期間を区切って展示を行う「企画展示室」です。
改めて、これまでの企画展を振り返ってみますと――2007年の記念館オープンと同時に開催された「お葬式」(2007/05-2008/12)に始まり、「マルサの女」(2008/12-2010/12)、「父と子 ― 伊丹十三が語る父・伊丹万作の人と芸術 ―」(2010/12-2013/12)、「旅の時代 ― 伊丹十三の日本人大探訪 ―」(2013/12-2015/12)、「ビックリ人間 伊丹十三の吸収術」(2015/12-2017/12)、「おじさんのススメ シェアの達人・伊丹十三から若い人たちへ」(2017/12-2023/6)と、6つの企画展を開催してまいりました。
記念館便りをご覧の方の中にも、このうちのどれか、もしくはいくつかをご覧くださった方がいらっしゃるのではないでしょうか。それぞれのテーマを通じてより深く伊丹さんを知っていただけたなら、そして皆さまに楽しんでいただけたなら、大変嬉しく思います。
そして現在は、昨年7月から、7つ目の企画展となる『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』が開催されています。
企画展示室入口
展示しているのは、伊丹さんが愛用していた器や皿、酒器、調理道具、湯河原で実際に使用していたオーブン付きガスコンロや冷蔵庫、「食」に関するエッセイのイラスト原画などなど。スペシャル映像コーナーでは、『遠くへ行きたい』第39回のダイジェスト版や「私流伊丹レシピ」スライドショーもご覧いただけます。
料理通としても知られた伊丹さんが、どのように食べること、呑むこと、作ることを楽しんだのか、「食」という私たちにとっても身近なテーマの展示を通して、より等身大の伊丹さんを感じていただけることと思います。
ありがたいことにテレビや新聞などいろいろな媒体でご紹介いただき、「企画展を楽しみにしてきました」という、上述のお客様のような方も多くお越しくださっています。好評開催中ですので、興味のある方はぜひお越しくださいね。
皆さまのご来館を、スタッフ一同お待ちしております。
記念館の収蔵品が多数登場する
単行本『伊丹十三の台所』(つるとはな)も要チェックです!
最後に、記念館よりふたつお知らせです。
【その1】-------
2024年最初の「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」は、『あげまん』(1990年)です。1月13日(土)の13時スタートです。
記念館オリジナルのミニ解説とともに、伊丹十三記念館で伊丹映画をぜひご堪能ください。
【その2】-------
2024年2月26日(月)~3月1日(金)は、空調設備工事のため臨時休館させていただきます。ご不便をおかけし恐れ入りますが、何卒ご了承の程お願い申し上げます。
※TOPページの開館カレンダーも合わせてご覧ください。
スタッフ:山岡
2024.01.02 館長・宮本信子から新年のご挨拶
今年はどんな年になりますでしょうか......。
是非とも良い年であって欲しいと祈っております!
去年、記念館正面の前庭に、二本、植樹を致しました。
ロウバイ(蝋梅)とマンサクの木です。
春になれば黄色のかわいい花が咲き、
そこはかとなく漂う香りがすると思います。
すっごーーく、楽しみにしている私です!
春よ来い~~~。
は~やく来い~~~(笑)
その頃には私、受付に立っていると思います~~(笑)
スタッフと共に、お待ちしております。
今年もよろしくお願い申し上げます。
館長 宮本信子