記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2024.06.24 『お葬式』誕生40周年!

学生時代のバイト仲間で同い年の友人から手紙をもらいました。嬉しく読んでいると「私たちも、あっちゅう間にアラフィフ」との文字......「ハッッ!!」ではなく、「エッッ!?」となった中野です。
「アラフィフなんて、そんなはずないっ」とまでは申しませんが、忘れちゃうんですよね、自分の年齢。光陰矢の如し、とは言うものの、ちょっと速すぎやしないでしょうか――

さて、今年2024年は、伊丹十三の監督デビュー作『お葬式』の制作・公開から40年のアニバーサリー・イヤーです!

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『お葬式』は、1983年秋に伊丹十三が義父(宮本館長のお父さん)の葬儀を経験したことから発想された作品で、服喪中の年末年始でシナリオが書きあげられました。
年明けには準備稿台本が印刷されて、スタッフ編成、キャスティング、予算組み、と瞬く間に準備が進められ――

1984年6月2日(土)、いよいよクランク・イン。7月18日(水)にほぼクランク・アップ。
編集ダビング作業を経て、8月26日(日)の夜、湯布院映画祭で初めて一般の観客向けに上映され、11月17日(土)封切り。映画館に大勢の観客が詰めかけ全国で拡大上映されるにいたった大ヒットぶりは、一種の社会現象に。
"異業種"監督として注目を集めた伊丹十三でしたが、その後も続々と映画作品を発表し、誰もが認める映画監督となったのでした。

という怒涛の一年だったわけですが、調べてみました。40年前の今日、1984年6月24日(月)、新人監督・伊丹十三は何をしていたのでしょうか?

撮影から湯布院映画祭にいたるまでの日々を記録した『「お葬式」日記』(文藝春秋、1985年)には、このように記されています。

6月24日
曇り。湯河原ロケ。ラストの仏壇。続いて遊動円木の千鶴子。編集材料にこと欠かぬよう、十種類ほどのアングルで撮りまくる。昨日のラッシュの影響もあり、現場での材料収集にはかなり用心深くなっている。
遊動円木の撮影では揺れる被写体をカメラが追うわけだが、被写体の揺れとカメラの振りをあわせると、揺れの両端で静止状態ができてしまう。
それを避けるためには、カメラの折り返しを、被写体の折り返しから一瞬遅らせねばならぬのだが、これを米造氏*1に説明するのが難しく、大いに手古摺る。「勉強になりました」と米造氏。
夕景狙いで、シーン4の、きく江、たおれた真吉*2を介抱し、布団を敷く段。最初にこのシーンをトライしたのはクランク・インの日だった。あれから二十日余り、二人とも随分役になったものだ。自分のほうも二人につける動きが自由に湧いてくる。
きんさん、ラストの挨拶、もう一度やりたいよし。こちらも昨日のラッシュを見て、背景を変えてもう一度やりたいと思っていたところだ。(芝居はOKなのだが、きんさんの背景が曇り空で、白バックになってしまったのである。今度はもう少しカメラの位置を高くして、緑バックでいければと思う)

 

*1:前田米造さん(伊丹映画全10本のうち8本に撮影監督として参加したキャメラマン)
*2:配役はきく江=菅井きんさん、真吉=奥村公延さん。宮本館長演じる千鶴子の両親

「二人とも随分役になったものだ」と伊丹さんは書いていますが、「ベテラン俳優につける動きを自由に発想したり、キャメラマンに意見したり、二十日余りで伊丹さんも随分カントクになったように思いますよ~」とわたくしは考えるのであります。

202406241_osoushiki diary.jpg1日分の日記で上に引用したほどのボリュームなのですから
1冊全体ではとんでもない情報量です!

それにしても、40年、ですか。
嬉々として映画館に通っていた大学生の頃、私が好んで見ていた「昔の映画」の中には、当時から約40年前(1960年前後)に作られたものがたくさんありました。
年齢を重ねるうちに今昔の感覚が広がったことが少し影響しているのかもしれませんが、今から40年前に作られた『お葬式』から「昔の映画」という感じを受けたことはありません。また、伊丹映画全般について「古さを感じさせない」「何度見ても発見がある」とは、多くの方がおっしゃっていることです。


作品そのものにみずみずしい生命が宿っている、作品そのものがひとつの生命体のように出来あがっている、そういう映画だけが時代を超えていけるのだろうと思います。

そんな映画を作り続けた伊丹十三の創造力の源に触れていただける記念館、ワクワクと楽しんでいただける記念館であり続けられるよう、なおいっそう努めてまいります。
暑い日も雨の日も(火曜日以外は)開館して、お客様をお待ちしております!

202406241_yonezou san.jpg記念館限定販売のDVD『13の顔を持つ男』には
遊動円木のシーンの撮影を振り返っての
前田米造さんのインタビューが収録されています。必見!

学芸員 : 中野

<雑誌掲載情報>

【発売中】ヘリテージ刊「昭和40年男」vol.85

5 月11 日発売(奇数月11 日発売の隔月刊) 本体定価900 円+税

特集連載「タイム・トラベル」で1984 年の出来事・カルチャーを紹介。映画監督・伊丹十三の誕生のいきさつと、デビュー作にして大ヒットとなった『お葬式』が取り上げられています。
全体特集は「俺たちが愛した昭和洋画」。誌名にあてはまらない世代の方も女性も、映画好きならどなたでも楽しめるコンテンツ満載の一冊です。

【近日発売】キネマ旬報ムック「キネマ旬報の100年

7月27 日発売 本体予価3,000 円+税

監督第10 作『マルタイの女』完成直後、映画作りについて伊丹十三が大いに語った1997 年の対談記事が再掲されます。お相手は野上照代さん。数々の黒澤明作品でスクリプター、プロデューサーを務め、伊丹万作亡き後には岳彦少年の"保護者" 役でもあった野上さんとのプロフェッショナルにしてざっくばらんな映画談義をご堪能いただけます。
そして、父・伊丹万作の随筆「僕の一番苦しむもの」も、1935 年新春特別号の<映画作家一言集>の中の一篇として再掲。
厳選された過去の名記事多数、映画の黎明期から続く『キネマ旬報』の歴史が約400ページに凝縮された豪華ムックです。日本映画史における伊丹父子の存在感にも触れられることでしょう。