記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2025.01.20 カクテル

2025年に入り1月も半ばを過ぎましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

インフルエンザなども流行っておりますので、なるべく暖かくしてお過ごしください。

 

皆さまは年末年始、どのように過ごされましたでしょうか。私は久しぶりに地元に帰省し、友人や家族と楽しい時間を過ごしました。

年末のある日、友人と一緒に地元の映画バーなるものに行ってまいりました。この映画バーは、映画のポスターやグッズが所狭しと並び、映画のサウンドトラックが流れ、映画をモチーフにしたカクテルを提供しているお店です。往年の名作から最近の話題作まで、さまざまな映画タイトルのカクテルを楽しめるお店でした。

日本映画もチラホラあるとSNSで拝見しておりましたので、「伊丹さんの映画もあるかも!」とお店で実際にメニューを見て探してみたのですが、『東京物語』や『七人の侍』、『ゴジラ -1.0』など日本映画はいくつかあるものの、残念ながらメニューの中に伊丹さんの映画はありませんでした。

しかし、『ローマの休日』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『タイタニック』など、有名なタイトルがたくさん並んでいて、メニューを見ているだけでも楽しかったです。この日いただいたのは、『ニュー・シネマ・パラダイス』と『羊たちの沈黙』でした。

s-IMG_3017_1.jpg『ニュー・シネマ・パラダイス』

s-IMG_3019_1.jpg『羊たちの沈黙』

 

どちらも映画のイメージにぴったりで、他にもいろいろと飲みたかったのですが、『羊たちの沈黙』の度数の高さ(なんと26%...!)にやられてしまったので、初めての映画バーは2杯のみとなりました。来ているお客さまも映画好きの方ばかりで、マスターを交えて映画を話している常連の方々とのお話もすごく楽しかったです。

映画バーのような、いわゆるコンセプトバーに伊丹さんが行くようなイメージはあまり持てないのですが、お酒が好きな方でしたし、新しいものや面白いものには敏感な方だったので、伊丹さんも「面白いね」と言ってくださるかなと考えながら飲んだ年末でした。

 

ちなみに、『ヨーロッパ退屈日記』の中で伊丹さんはカクテルについて以下のように書いております。

 

 つまり、カクテルというものは、味覚と演出とが五分五分くらいに入り混ったものだ、と思うのです。

(中略)

 本当においしいカクテルを、ミックスできるバーテンダーが、一体東京に何人いるか、おそらく十指に満たないと思うのです。だから、それ以外の場所で、怪しげなマルティニを飲んだ人々は、ことごとく、カクテルに対して偏見を抱くようになってしまう。

 まったく惜しいと思うのです。カクテルというものは、本当は愉しいものなのにねえ。第一、カクテルがないとしたら、晩餐前、夜の早い時間に何が飲めるだろう。ブランディは食後の飲み物だから先ず除外しよう。ビールはおなかが一杯になってしまう。じゃあ、日本酒でも飲むかね。これからステーキでも食べようという時にも日本酒でいってみますか。すると残りはウイスキーとてもいうことになるのだろうが、ご婦人と一緒の場合だってあるんだぜ。君はウイスキーでいいだろうが彼女には何を飲ますかね。

 わたくしは、彼女の、その日の気分や、好み、アルコール許容度、そして服装の色などをおもんぱかって、これ以外なし、というカクテルをピタリと注文する悦びは、男の愉しみとしてかなりのものと考えるのだが、いかがなものであろうか。

(『ヨーロッパ退屈日記』より「カクテルに対する偏見」)

 

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エッセイではこの後、マルティニ、ギムレット、ジン・バックなどのカクテルについて、本格的な作り方が続きます。本物志向である伊丹さんらしいエッセイとなっておりますが、同じ『ヨーロッパ退屈日記』の中には、もっと簡単で親しみやすいカクテルの紹介もございます。以前の記念館便りでもご紹介させていただいたことのあるミモザです。

 

 わたくしは、飛行機に乗ったら、飲物は「ミモザ」ときめている。

 一等なら、シャンパンは全くタダなのだが、わたくしは滅多に一等には乗らない。短い航路ならともかく、ヨーロッパ往復で、二等との差額が二十何万円にもなっては、乗りたくても乗りようがないではないか。

 ところで「ミモザ」の話だが、シャンパンは何も一等と限ったことではないのだ。二等だって、お金さえ払えば、税無しの、素敵に安いシャンパンが飲めるのです。

 ポメリーの半壜が、七百円と少しくらいだったと思う。オレンジ・ジュースはタダだから、自分で半々に割って、ま、気楽に召し上がって下さい。

(『ヨーロッパ退屈日記』より「カクテルに対する偏見」)

 

本格的なものを好んでいた伊丹さんではありますが、心から美味しいと思えるものを綴っておられたのだなと感じることの出来るエッセイとなっております。こちらの2編の他にもお酒に関するエッセイはたくさんございますので、ぜひ『ヨーロッパ退屈日記』をはじめとする伊丹さんの著書をご覧いただけますと幸いです。

 

さて、現在開催中の企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』のスペシャル映像コーナー、「伊丹レシピ、私流。」について嬉しい出来事がございましたので皆さまにもご紹介させていただきます。

 

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昨年12月1日より公開の、「伊丹レシピ、私流。」スライドショーに出演してくださっております自炊料理家の山口祐加さんが、各SNSにてスライドショーのご紹介をしてくださいました。スライドショーの中の一部画像とともに、今回のスライドショー出演について書いてくださっております。

山口さんの投稿は以下のURLよりご覧いただけますので、ぜひご覧ください。

 

【X】https://x.com/yucca88/status/1873678817304432812

【Instagram】https://www.instagram.com/p/DEHdrm3PXip/

【note】https://note.com/yucca88/n/n25461d25eaec

 

山口さんのスライドショーは先月公開されたばかり。まだご覧になったことのない方は、ご来館の際に楽しんでいただけますと幸いです。

 

s-IMG_6784.jpgスペシャル映像コーナーの前には、

座ってご覧いただけるようにベンチのご用意もございます。

ぜひ、腰をおろしてゆっくりご覧ください。

 

学芸員:橘

2025.01.13 パンダ年と青い空

皆様こんにちは、ウン度目の年女・中野です。

幼少の砌――3歳か4歳ぐらいだったでしょうか――「なんでワタシはヘビ年って決まってるの? ヘビ年なんてヤダ! "パンダ年"になるぅ~」と駄々をこね、家族を苦笑爆笑させたことがございました。今なお中野家における語り種となっております。

想像するに「ヘビ=怖いし気持ち悪い」「パンダ=かわいい」という幼児らしい安直な思考から飛び出したひとことだったのでしょうが、家族に理解してもらえないうえに笑われる理由が分からず、ひたすらに恥ずかしく悲しく悔しかったことを鮮明に覚えています。

20250113_diary.jpg今では「いやいや、ヘビってカッコいいじゃん」と
思っている私の今年の手帳はもちろんヘビ柄です。

このように、幼児というのは発想に枷がないため何を言い出すか分かったものではなく、周囲の大人、殊に両親を「ギョッ」「ハッ」とさせる存在である、というのは昭和も令和も変わらぬ家庭の風景だろうと思います。

そして、年を重ねてみるといつの間にやら親との立場が逆転していて、今度は自分が「ギョッ」「ハッ」とさせられる側になっている――これもまた人の世の"あるある"でありましょう。


「ところで、空ってなんで青いんだっけ?」

と母から問いかけられたのは、昨年末から元日にかけての帰省中、わが故郷・三陸の青い青い冬の空に見とれて「美しいなぁ、三陸のキリッとした空気ゆえの青さだなぁ」と感慨に浸っていたときでありました。

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「空はなぜ青いの?」という質問、尋ねられて答えに窮する代表例ですよね。

「せっかくいい気分でいた今、それについて説明するのはめんどくさすぎる...」とチラッと思いはしたのですけれど、実はこれ、伊丹エッセイの読者であれば「よくぞ聞いてくれました!」なネタなのであります。

1968年に刊行されたエッセイ集『問いつめられたパパとママの本』は、「無限の可能性を秘めた子供の好奇心の芽を摘むことなく、正しくいい方向に伸ばすため、大人は科学的な物の考え方、知識に対する憧れと畏れを身につけましょう」という信念に貫かれた一冊で、いわば"子育て中の方のための想定問答集"。
これを紐解きますと、ドンピシャリ、「空ハナゼ青イノ?」と題された項があるのです。

勝利を確信した私が、心の中でガッツポーズをキメながら『問いつめられたパパとママの本』で読み識った答えをひととおり述べ、「以上、ご納得いただけましたでしょ~うか?」と母の顔を覗き込みましたところ――

「えーっと、分かったような、分かんないような......」

予想外の敗北感にうなだれる結果となってしまいましたが、まあ、私の説明も整然としたものではなかったので、(半分くらいは)致し方ありますまい。

さて、では、空はなぜ青いのでしょうか、伊丹センセイにご解説いただきましょう。

 光というものは一種の波でありますが、波には波長というものがある。波長とは、波が高くなって低くなってまたくなる、その山の頂上から頂上までの長さではありますが、赤、だいだい、黄、緑、青、あい、すみれ、七つのひかりのうち、赤いほうほど波長が長い。いや、長いといっても一ミリの千分の一よりまだ小さいような規模での話でありますが、ともかく赤い光のほうが波長が長く、青のほうが短いのです。そうして、太陽光線が空気の中を通過する時、波長の長いもの、つまり赤い光ほど空気の分子によって散乱させられることが少なく、すなわち遠くまで達するのであります。

(中略)するとどうなるか。太陽から出た光は四方八方に向かって遠くまでまっすぐに進むのですから、つまり別の言葉をかりていえば散らばってしまうのですから、私が空を仰いださいに、私に割り当てられた赤い光というのはごくわずかであるということになる。極端なことをいうなら、太陽からまっすぐ私の方に向かって進んできた分だけが私の目にはいる。
 ところが青い光のほうは、空気の分子によって散乱させられるから、つまりこれは青い光を専門にはねかえす小さな鏡が空一面に散らばっているようなもので、それゆえ空のあらゆる隅々から青い光が私の方へ集まってくる。すなわち絶対多数決で空は青く見えるのであります。

 

「空ハナゼ青イノ?」『問いつめられたパパとママの本』(中央公論社、1968年)より

いかがでしょう?
「うん、ちょっとまだよく分かんない」と感じる方のために、続きを少し。これならば分かり易いこと請け合いです。

そこで坊やに説明してください。
「あのね、お日さまからはね、赤い光と黄色い光と青い光が出てるのよ。赤い光と黄色い光はさきに行っちゃったんだけど、青い光だけがお空で道草して遊んでるの。わかった? 坊や」

――子のないわたくしではありますが、目の前の幼児に何かしらの疑問や悩みを示されたときは「そんなこと知らなくても生きていけるよ」「大人になったら分かるよ」などと逃げを打つことなしに、そのときの自分が理に適っていると思える説明をして(答えられない場合にはせめて「一緒に調べてみよ!」と誘って)、彼らの好奇心の芽を育むお手伝いをしたいものだなぁ、と感じた、2025年の年頭でありました。

皆様の2025年、伊丹十三記念館の2025年、よい一年になりますように。

学芸員 : 中野

2025.01.06 伊丹家のお正月料理


記念館便りをご覧のみなさま、あけましておめでとうございます。2025年も伊丹十三記念館をどうぞよろしくお願いいたします。


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1月2日更新の宮本信子館長の記念館便りはご覧になられましたでしょうか。まだの方は是非ご覧ください。

2025.01.02記念館便り 館長・宮本信子から新年のご挨拶



さて、みなさまお正月はいかがお過ごしになられましたでしょうか。おせちやお雑煮などのお正月料理をお召し上がりになられましたでしょうか。


ご家庭それぞれに「ならでは」のお正月料理があると思いますが、伊丹十三さんのお宅ではなんと、「チーズフォンデュ」がお正月料理の一つだったそうです。


『わが家の正月料理が決定した。一つはフォンデュ。スイス料理である。簡単にいうなら、煮立てた白葡萄酒でチーズを溶かしちぎったフランスパンをつけては食べる、というだけの素朴な料理である。発明したのは牛飼いだろう。こいつが滅法うまい。寒い夜親しい友とこれを囲んで、プツプツ煮立つやつをパンにからめとっては口に運ぶと、腹の底から生きる力が沸いてくる。厳格なる自然食主義者の私も、この魅力には抗し難い。ベルンに五日滞在したときは、五日連続でフォンデュを食った。最後の夜などは二人前のフォンデュを食べおわってまだ足りず、さらに二人前注文して、ついにはそれも平らげてしまった。それほど「力」のある料理なのだ、フォンデュというのは。
 だから、そのフォンデュを、東京のとあるスーパーの片隅に発見したときの私の喜びをお察し願いたい。いやア、おどろいたですねエ、あったんですよアナタ、フォンデュが。タイガー印とかいって二人前九百円というインスタント・フォンデュを私は発見してしまったのである。早速買い求めて試験してみると、こいつはイケル!スイスで食べるのと全く変わらない。「正月の料理はこれ」と、直ちに決定し、二十箱注文したら、嬉しいじゃありませんか、年末のせいか、九百円のフォンデュが七百四十円に値下げという、まるでボタ餅で、ほっぺたをなでられるような話なんだなア。』

―出展「正月料理」(『伊丹十三の台所』つるとはな)-




フォンデュへの愛と、東京でフォンデュを見つけたときの嬉しさが伝わってきますね。
伊丹家ではフォンデュのほかにも「粕汁」もお正月料理のひとつだったそうです。
詳しくは「伊丹十三の台所」【つるとはな・定価2,600円(税別)】をご覧ください。お正月料理のほかにも伊丹さんや伊丹家の「食」にまつわる情報が満載です。是非。



スタッフ:川又

2025.01.02 館長・宮本信子から新年のご挨拶

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日々是好日!


心からそうなってほしいと思っております。

何があっても超然としている。


ドシッ!  ドカッ!


いつも笑って私は生きていきたいと思う~~。

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皆様の御来館をスタッフ一同、お待ち申し上げております。


今年も宜しくお願い申し上げます。


館長 宮本信子

2024.12.23 本の帯

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。

 

皆さまは読む本を選ぶとき、何をポイントにされますでしょうか。

好きな作家さんの本、好きなジャンル、あるいはデザインで選ぶ方もおられるかもしれませんね。他にも、お仕事関係や学びたい内容から選ぶなど人によっていろいろだと思いますが、本に付けられた「帯」で選ぶという方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

 

記念館のショップでは伊丹さんの著書や伊丹さんに関する本を取り扱っており、日々お客様にご購入いただいているのですが、先日3冊の本をまとめて買われたお客様の、選んだ決め手が「本の帯」でした。

 

お客様曰く「(展示を見て)伊丹さんに興味を持ったら、帯のキャッチコピーが目に止まって読みたくなりました」とのことで、購入されたのがこの3冊です。

書かれたキャッチコピーをちょっとご紹介しますね。

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左から『伊丹十三の本』(新潮社)/『伊丹十三の映画』(新潮社)
/『伊丹十三の台所』(つるとはな)

それぞれの帯と書かれたキャッチコピーはこちらです。

"「ぼくの叔父さん(mon oncle)」は、こんな人だった――。"(『伊丹十三の本』)

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"そろそろ映画についてもお話ししましょうか――。"(『伊丹十三の映画』)

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"食いしんぼうですね、伊丹さん!"(『伊丹十三の台所』)

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いかがでしょうか。帯やキャッチコピーで興味を持たれた方は、本の詳細をご紹介している記念館便りをぜひご覧ください。

 

『伊丹十三の本』『伊丹十三の映画』『伊丹十三の台所』

店頭で内容を全て把握して本を買うのはなかなか難しいですが、目を引くキャッチコピーが書かれた帯が付いていると、「読んでみようかな」と思えて、後押ししてくれている感じがします。帯は、本の魅力を伝えて読者(になる人)と本を結びつけてくれるんですね。

記念館のショップの本で、現在帯がついているものを並べてみると、上述の3冊以外にこのとおり、たくさんありました。中にはデザインの一部になっているものもあります。
記念館にお越しの際はぜひご覧いただき、気になる本はご遠慮なく手に取ってみてください。

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上段:左から『女たちよ!』(新潮社)/『主夫と生活』(アノニマスタジオ)/
『中村好文 集いの建築、円いの空間』(TOTO出版)
下段:左から『MUJIBOOKS人と物8 「伊丹十三」』(無印良品)/
『ぼくの伯父さん』(つるとはな)/『テレビマン伊丹十三の冒険』(東京大学出版会)


さて、早いもので2024年も残すところ1週間余りとなりました。記念館は12月27日を年内
の最終開館日とし、来年は1月2日の朝10時より開館いたします。

本年も弊館をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
来る2025年も、伊丹十三記念館をどうぞよろしくお願いいたします。

<年末年始 休館・開館日のお知らせ>
2024年12月28日(土)~2024年1月1日(水)は休館いたします。
1月2日(木)3日(金)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とし、
1月4日(土)より通常開館いたします。

スタッフ:山岡