記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2026.04.13 開館19周年記念イベント「収蔵庫ツアー」を開催いたしました

4月に入り、2週間ほど経ちましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

中庭の桂は4月に入って葉が芽吹いたと思ったら、1週間ほどですっかり枝を覆うほど葉が育ちました。中庭のタンポポも咲き、春爛漫という様子の記念館です。

 

s-IMG_8354.jpg緑いっぱいになった中庭の桂

 

s-IMG_8356.jpg中庭のタンポポ

 

来月、5月15日(金)は伊丹さんの93回目のお誕生日、そして、伊丹十三記念館は開館19周年を迎えます。開館記念日に先立ちまして、開館記念イベントの「収蔵庫ツアー」を4月3日(金)~4月6日(月)の4日間で開催いたしました。

 

収蔵庫ツアーは、普段は公開をしていない収蔵庫の2階にございます、展示室風に整えた収蔵庫を、学芸員がご案内するツアーとなっております。

イラスト原画や直筆原稿、愛用品の数々、湯河原の自宅のダイニングを再現したコーナーなどをご覧いただき、伊丹さんについてより理解を深めていただけるような催しです。

 

新型コロナウイルスの影響で13周年~16周年の間は開催できなかった収蔵庫ツアーも、復活して今年で3年目。今年も、県内外からたくさんのご応募をいただきました。ご応募くださった皆さま、誠にありがとうございました。

 

それでは、収蔵庫ツアーにご参加くださった皆さまのご感想をご紹介させていただきます。

 

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●日本、それどころか世界におけるプロフェッショナル オブ プロフェッショナルのトップ オブ トップの伊丹十三さん。

細部にいたるまで、ファッション、エンターテイメント、機能性の最高のバランスをとことん考えつくして創られるもの全てが感動的でした。本物を追求する僕にとって最高に尊敬するモデルです。

伊丹さんは商業デザイナー、俳優、エッセイスト、イラストレーター、料理通、テレビマン、CM作家、映画監督、全てにおいて超一流。約8万点の収蔵品から見事にセレクトされたものを見るだけで最高でした。

まだまだ未公開のものもあるとのことで...また来年新しい発見をしたいです。

ありがとうございました。

 

●伊丹さんにまつわる貴重な品々を真近で拝見することができ、本当に幸せでした。

伊丹さんの愛した品々は、伊丹さんの化身のようで、彼の人となりを饒舌に語ってくれました。どうして伊丹さんの映画が唯一無二の名画となったのか、よく分かりました。幼い頃から培った審美眼と物の本質を鋭く見抜く力、そしてユーモアあふれるユニークな表現力の集大成が伊丹映画だったのですネ。これからも伊丹さんの残して下さった作品を楽しんでいきたいと思います。

今日はありがとうございました。

s-IMG_8347.jpg収蔵庫ツアーの様子

 

●日常生活での強い拘りが映画制作に反映されていると感じました。久しぶりに伊丹作品を見て、新たな発見をしたいと思います。

本日はありがとうございました。

 

●作品は生き続けていると、生き続けている理由を垣間見れた感激がありました。1時間では足りません(笑)

 

●伊丹十三さんの息遣いが聞こえるような展示品の数々に圧倒されました。元々好きな方でしたが、また一段と好きになりました。こちらにはもっと足繫く通いたいと思います。

ありがとうございました。

 

s-IMG_8359.jpg湯河原の自宅のダイニングを再現したコーナー

 

●本日はありがとうございました。

収蔵庫ツアーに参加して、益々、伊丹さんのことが気になりました。

今日見て感じたのは、伊丹さんは感覚がめちゃくちゃに鋭い人だったんだなということです。

観察眼だったり、新しい物事を吸収、発散する力がとてつもない人。

私は幸か不幸か、伊丹さんの作品をまだまだ知りません。これから知って、伊丹さんを感じていくことができるのが幸せです。

 

●伊丹十三さんの様々な顔を見せて頂いた気がしました。

大変貴重な時を過ごさせていただき、感謝しています。

又、ゆっくりと記念館に来て今日のことを思いかえしたいです。

 

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ご感想をくださった皆さま、誠にありがとうございました。

 

収蔵庫ツアーでは学芸員がお客様をご案内させていただいているのですが、ご参加くださった皆さまからいただく新たな視点や情報など、ご案内している私たちも勉強をさせていただく場面が多くございます。ツアーに熱心にご参加くださるから方がいらっしゃるからこそ、収蔵庫ツアーが充実した内容になっております。重ねてではございますが、ご参加くださった皆さま誠にありがとうございました。

 

この度の収蔵庫ツアーでは各日4名、定員16名となっておりましたが、定員を大きく上回る49名様にご応募をいただき、全日程が抽選となりました。落選となった方、誠に申し訳ございません。収蔵庫ツアーは来年の春に開館記念イベントとして開催を予定しておりますほか、今年は秋ごろにも収蔵庫ツアーの開催を予定しております。ぜひ、またの機会にご応募いただけますと幸いです。

 

また、随時募集しておりますメンバーズカード会員にご入会くださいますと、メンバーズ会員様限定の収蔵庫ツアーにご参加いただけます。ご興味のあります方はぜひ、こちらのメンバーズご利用案内のページをご覧ください。

 

さて、ここからはイベントに関するお知らせです。

本日から情報解禁となりましたが、来る5月17日(日)に宮本信子館長と松家仁之さんのトークイベント『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。――宮本信子、おおいに語る。」』を伊丹十三記念館のカフェ・タンポポにて開催いたします!

現在開催中の企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』に関連したイベントとなっておりまして、記念館の事業や伊丹十三関連書籍の出版で長年のご愛顧をいただいている松家仁之さん(小説家・編集者)を聞き手に、伊丹十三の食の世界について、宮本信子館長が"おおいに語る"トークイベントとなっております。

概要は以下のとおりです。

 

開催日:2026年5月17日(日)

時 間:16時~17時30分(開場15時)

会 場:伊丹十三記念館 カフェ・タンポポ

定 員:40名(事前申込・先着制 / 全席主催者指定)

 

こちらのイベントは事前にお申し込み(先着制)いただいてご参加いただくイベントです。今週末の4月19日(日)の午前10時から記念館のホームページ内のお申し込み用フォームよりお申込みいただけます。

 

詳細なお申し込み方法などについてはこちらのイベントページよりご覧いただけます。

イベントページはこちら→https://itami-kinenkan.jp/event/event_talkevent2026.html

募集開始までお時間ございますので、ぜひ内容をご覧いただき、4月19日(日)の午前10時より、お申込みいただけますと幸いです。

皆さまのお申込みをお待ちしております。

 

学芸員:橘

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2026.04.06 『スーパーの女』30周年!!

仕事を終えて、「春の夕暮れ時って景色も空気もイイのよね~」と鼻歌まじりに向かう先はどこか。
スーパーです。ほぼ毎日、行きます。

20260406.jpgさーて、帰るぞー

スーパー行くぞー



「今日の晩ごはんのために」が主なテーマなんですが、最近の私の買い物は「必要な栄養素を揃える」ことが軸になっていて、「何の料理を作るかは二の次、あとでどうとでもできる」というスタンスなので、あんまりギラギラしていないというか、ちょっと淡泊というか、少し退屈ですらあります。

そこで、頭の中の退屈しのぎに何をしているか。
他のお客さんの観察です。
凝視するわけではなくつい目が行ってしまう程度の観察でも、何をどのように選んでいるのか、人それぞれで楽しくなってしまうのです。

ギラギラした様子でお魚を物色している人も面白いし、スマホを見い見い自信なさげにお野菜を選んでいる人も面白い。マイ定番とばかりにお豆腐を迷いなく手に取りカゴに入れる人を見ると「私も買ってみようかな」と思ったりします。
「この人はプロスポーツチームの選手なんだろうな」という方のお買い物姿にも興味津々。

みなさん、何を買って何を作るのかな~
どうしてこんなに面白いのかな~

思い出されるのは『スーパーの女』(1996年)のワンシーン。

小学校の同級生だった花子(宮本信子館長)と五郎(津川雅彦さん)が何十年ぶりかで再会。家業のスーパー経営に興味が持てず立て直し方が分からない五郎を、スーパー大好きオバサンの花子が励ます場面です。

少々長くなりますが、この場面の二人の会話をご紹介いたしましょう。

(以下、五郎 / 花子 で色分けします)

正直言って、俺はスーパーに向いてないような気がする。
やってて何にも面白くない、この商売。

あら、スーパーはいい商売じゃない。

どこがいいの? こんな商売。

だって面白いじゃない、スーパーって。

だから、どこが面白いんだよ。

 
20260406_1 HanakoGoro.jpg


例えばさ、ここに一人の主婦がいるとするだろ?
この主婦がスーパーにやってくる!
彼女はまだ何を買うか決めてない!
彼女はまず何をするか!?
まず台所で切れてるものを補充する。
ジャガイモキャベツタマネギトマトキュウリ......
だからスーパーの売り場はまず野菜から始まってるわけだよ。

......あ? そうなの??

そうなのって、しっかりしろよお前。いいか、ここが大事なんだよ。
とりあえず野菜売り場で毎日の野菜をカゴに放り込むうちに、だんだん彼女の買い物気分が盛り上がってくるんだよ。

 

20260406_2 HanakoGoro.jpg


......相撲の仕切りに似てるな。

そうだよ、仕切りで盛り上がったところに、活きのいいタイが目に飛び込んでくる。
「今夜はタイチリにしようかな」
「あ、おでんもおいしそうだ」
「そうだ、それとも久しぶりにすき焼きでもやるか!」

最後にうどん入れてな!

煮詰まったとこにな!

......なんか鍋に偏ってないか、彼女の献立。

一家団欒って言ったらやっぱり鍋だもん。

そう、家族そろって湯気の出る鍋を囲んで。夢だなあ。

夢よ。

なるほど。売り場に触発されて一家団欒のメニューが決まってくる。

 

20260406_3 HanakoGoro.jpg
 
そうそう。それはね、彼女にとっては買い物のドラマなの。
「こんなに素晴らしい晩ごはんをこんなに安く作る、あたしってなんて素敵な主婦なんでしょう! 家族の幸せ、あたしに任せといて頂戴!」

......お前、もしかして不幸なんじゃないのか?
俺でよかったら慰めてやろうか。

うるさいな!
お前んとこの売り場には、この主婦を興奮させるドラマがない!
いい売り場は主婦に対して話しかけてくるんだよ。
「奥さーん、今日の晩ごはん、これにしましょうよ」ってね。

なるほど、私は他の買い物客の「ドラマ」を想像するのが面白くて観察してしまう、ということだったようです。

『スーパーの女』はバブルがはじけて不況のムードが社会を覆い始めた時代に作られました。
1996年6月15日公開ですから、今年で30周年ですね。

野菜がしなびている、魚から赤いオツユが出ている、昨日の売れ残りをリパックして今日の日付に変える、売り場は売り切れだらけ、店内はゴミだらけ、社員も取引先も不正してるわ、悪徳ライバル店が買収を仕掛けてくるわ――
ダメスーパーの見本のような"正直屋"、花子と五郎とお店のみんなで立て直せるか!? という物語の大ヒット映画です。

別のシーン、花子はこんなことも言っています。

見てごらんよ。
この町の中に何万人もの人が生活してる。
みんな稼ぎは決まってる。
その稼ぎの中で、少しでもいい暮らしをしようとしている。
だからお客様は真剣よ。
スーパーへ来て、少しでもいいものを、少しでも安く買おうとする。
その期待に応えられるスーパーは生き残る。

 

20260406_4.jpg20260406_5 Hanako.jpg

公開から30年を経た『スーパーの女』ですが、今でも高い人気を誇っています。「いい商売」と「いい消費」が相関関係にあるということの本質が描かれているからなのだと思います。
映画を観た消費者が賢くなったがために、日本中のスーパーが「いい商売」を目指すようになった、とまで言われているとか――

誰しもが職業人であり消費者ですから、両方の視点をもって楽しめるところもオススメポイントです。

まだの方はもちろん、映画館やテレビ、レンタルビデオで「観たことあるよ」という方はぜひもう一度、つまり全人類にご覧いただきたい作品です。

20260406_6.jpg祝、30周年!!

『スーパーの女』ほか伊丹十三脚本監督作品は、東宝から発売されているBlu-ray「伊丹十三FILM COLLECTION」シリーズ(各作品4,700円+税)でご鑑賞いただけます。

公式サイトはこちらからどうぞ。

学芸員 : 中野

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2026.03.30 伊丹十三記念館 館長・宮本信子『出勤』のお知らせ

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。

ホームページのニュース欄でもお届けしている通り、館長・宮本信子の『出勤日』が決定いたしました!!




20260330.jpg

<宮本信子出勤日と時間帯>
5月15日(金)14時頃~16時頃まで


※状況により、急きょ予定を変更する可能性がございます。何卒ご了承ください。



伊丹十三記念館にとって、5月15日といえば・・・。

伊丹さんのお誕生日で、伊丹十三記念館の開館記念日となります。

伊丹さんは昭和8年(1933年)生まれですので、同日は93回目のお誕生日となり、伊丹十三記念館はおかげ様で本年5月15日に開館19周年を迎えます。

そんなダブルでおめでたい日の出勤となりますので、ぜひみなさまにお越しいただき、宮本館長とお話しやお写真撮影をしていただきたいと存じます。

ぜひこの機会に記念館にご来館ください。
宮本館長とスタッフ一同、皆さまのご来館をお待ちしています。


スタッフ:川又

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2026.03.23 春のおすすめメニュー

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
3月も残すところ1週間余りとなりました。朝晩はまだ肌寒いですが、日に日に日差しが温かくなってきている感じがします。先週は卒業式帰りの学生さんなどを目にする機会もあって(ご卒業された皆さま、おめでとうございます!)、より一層「春だなぁ」と実感しました。

さてカフェ・タンポポでは、この度「豆乳イチゴ」をスタートいたしました。

20260323-1.JPG豆乳イチゴ(税込800円)

豆乳イチゴは、毎年この時期に提供を開始する、期間限定のメニューです。

ネーミングそのままの、イチゴと豆乳を使ったシンプルなドリンクですが、ほどよくミックスされたイチゴの酸味と甘み、豆乳のまろやかさを味わっていただけます。
ドリンクのピンク色と上にのせたミントの緑色の組み合わせがなんとも春めいていて、これからの時期にぴったりなんですよ。
期間限定メニューですので、ご来館の際はぜひお試しください。


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イチゴは愛媛県産を使用しています

また、「愛媛みかんジュース飲み比べセット」もおすすめです。

こちらは1年を通じてご提供していますが、みかん栽培の盛んな愛媛県ということもあって、ドリンク類ではホットコーヒーに次ぐ人気のメニューです。

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愛媛みかんジュース飲み比べセット(税込800円)

愛媛みかん(温州みかん)、清見タンゴール、デコタンゴールの3種類のみかんジュースを飲み比べていただけます。果汁100%のストレートジュースですので、みかんそのままの風味を味わっていただけますよ。
県外の方のみならず、愛媛県内からの方にもご好評いただいています!

ちなみに......ご注文の際、よく「量ってどれくらいですか?」とご質問をいただくのですが、『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫)と並べるとこのくらいの大きさです。

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愛媛みかんジュース飲み比べセットと
『ヨーロッパ退屈日記』(新潮社)

春の行楽シーズン、お出かけの際はぜひ記念館にもお立ち寄りください。
ご来館をお待ちしております!

スタッフ:山岡


【 お知らせ:5月17日(日)の開館時間およびカフェ営業につきまして

5月17日(日)は開館時間を短縮し、10時~14時(最終入館13時30分)とさせていただきます。カフェ・タンポポは終日休業いたします。

ご不便をおかけし誠に恐れ入りますが、何卒ご了承ください。

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2026.03.16 花粉症

3月も半ばとなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館ではトサミズキ、ロウバイなどが次々に花をつけており、中庭ではヒメツルニチニチソウが咲きました。タンポポもじきに咲き始めることでしょう。春はすぐそこです。



s-IMG_8255.jpgトサミズキ


s-IMG_8258.jpgロウバイ


s-IMG_8249_1.jpgヒメツルニチニチソウ

さて、私は季節としては春が一番好きなのですけれども、この時期に毎年悩まされている現象として、花粉症がございます。
今年も1月の終わりごろに怪しい気配を感じ、2月の中頃には諸症状が急に増えたのであわてて病院に行き、薬を処方してもらいました。
花粉症だと気づいたらすぐに病院に行けばよいのですが、不思議なもので症状が軽い状態の時には「あれ、少し鼻がムズムズする?」、「目がかゆいかも?」程度で、病院に行くほどでは無いと思ってしまい、毎年症状が酷くなってから病院に行っております。
例にもれず頻繁なくしゃみと鼻づまり、目どころか顔全体のかゆみに襲われてかかりつけの病院に行きましたところ、「うん、炎症がおこってますね。アレルギーの人の鼻です。来年からはもう少し早く、1月の終わりには来てください」と念を押されました。

そんなこんなで無事に薬もいただき、これで症状が治まると安心しておりましたが、症状が酷くなってから薬を飲み始めたので効きが悪くて鼻づまりが治らず、喉の炎症まで拗らせました。結果は副鼻腔炎だったのですが、レントゲンを撮っていただき、耳鼻科の担当の先生に丁寧に「ここが鼻で、ここに4つ空洞があるんだけどね。これ副鼻腔。白く曇ってますね」と鼻の状態を説明していただきました。その、レントゲンで鼻の状態を説明されております際に、思い出した伊丹さんのエッセイがこちらの「鼻の構造」です。

 私が鼻のことを書こうと思ったのは、今、風邪をひいているからなのである。
(中略)
 風邪をひいて、鼻が詰まったりぐずぐすしたり、不調なままに寝込んでいる間に、私は、鼻の構造というものが次第に気になり出してきた。
 私は、鼻の穴が、鼻をさかのぼり、鼻の付け根のあたりで奥のほうへ曲がってゆくらしいことを気配で知っている。
 そうして、やはり、気配によると、その穴は、口の中の天井の部分、つまり口蓋というのかね、その口蓋の途中へ抜けているらしいのだが、以上が私の鼻に関する知識のすべてであって、つまり私にとって、鼻は、入口と出口以外は全く神秘に包まれているといってよいのだ。
 第一の神秘は、かの「ラ・モルヴ」であろう。食事中の読者もあるかも知れぬから、鼻に関係した、例の粘液を、フランス語でこう呼ばせていただく。
そもそも、ラ・モルヴは、なんでまあ、ああも無尽蔵に、かめどもかめども出てくるのだろうか。一体どこにその源泉があるのか。
ラ・モルヴ以外の分泌物に関しては、われわれは一応なになに腺とかいって、その出所を教えられているのに、なぜこのラ・モルヴに関してのみ教わったことがないのか。
「脳中の水分が滲み出したものがラ・モルヴである」
 ギリシャの哲人ならさように考えたかも知れぬ。いや、それも案外当ってるのかも知れないよ。ともかく、なんにも知らないんだからどうにもならぬ。
 私の印象によれば、鼻の裏側に、二つの壺状の容器があるように考えられる。この壺の中にはラ・モルヴが澱んでおり、ラ・モルヴの量が壺の容量を超えると、ラ・モルヴは鼻の鼻孔のほうへ流れ出るのである。
 いや、壺の容量を越えぬ場合でも、われわれが横になった場合には、その壺も横になるから、当然ラ・モルヴは流れ出すものと考えられる。
 風邪をひいた場合、咳や、熱や、頭痛などは眠っている間、ある程度後退するものであるが、鼻詰まりだけはむしろ悪化するのであって、その原因は実にここにあるのです。

 私の場合、風邪はまず鼻へくる。そうして一晩たって喉へくるのが常であります。ということは、夜のうちに、ラ・モルヴが流れ出し、仰向けに寝ている関係上、口蓋を伝って喉のほうへ流れてゆく。このラ・モルヴの流れに一晩さらされた喉の粘膜は、なんじょうもってたまるべき、たちまちにして炎症を起こす、というのが私の理論であった。
 理論であった――というのは、どうも、この理論は間違っていたらしいのだな。壺を横にするから、ラ・モルヴの流出が激しくなる、従って、ラ・モルヴの流出を防ぐためには壺を直立の位置に保てばいい筈だ――この理論に従って、私はうつ伏せになって寝てみたのである。
 翌朝の喉の痛み、鼻の不快感は想像を絶するものであった。
 さて、私は、これから平凡社の世界大百科事典「ノウ―ハン」の一巻を開いてみようと思う。
「ハナ」の項を開く。おそらく頭部の断面図が描かれているだろう。
 鼻のうしろに壺は有りや、無しや?
 今まさに神秘の扉は開かれようとしている。

(『再び女たちよ!』より「鼻の構造」)

薬の処方を待っている間に、スマートフォンであらためて鼻の構造を検索してみました。なるほど、伊丹さんの言うところの"ラ・モルヴ"は鼻の粘膜で作られている。そして私がアレルギー性鼻炎を拗らせて急性副鼻腔炎になったのは、文字のとおり鼻腔(鼻の穴)に沿うように存在している空洞の副鼻腔に炎症が起き、"ラ・モルヴ"が鼻の通り道をふさいだり溜まったりしていたようです。
伊丹さんの理論の"ラ・モルヴ"が溜まっている壺は残念ながら無いですが、空洞は確かに存在しております。全くの間違いではないようです。伊丹さんのエッセイと、レントゲンを見ながら教えてくださった耳鼻科の先生のおかげで、鼻の穴の構造に少し詳しくなりました。

ちなみに、こちらのエッセイ「鼻の構造」で省略させていただきました部分では、伊丹さんの鼻についてのお話しがもう少し載っておりますので、気になる方はぜひ実際に読んでいただけますと幸いです。


s-IMG_8253_1.jpg「鼻の構造」が載っている『再び女たちよ!』
オンラインショップでもお買い求めいただけます。

学芸員:橘

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