記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2024.12.16 煮付大根の天ぷら

2024年も残りあと半月となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。冬らしく冷え込む毎日、皆さま年の瀬でお忙しいことと存じますが、体調を崩されませんよう何卒ご自愛ください。

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最近は日の入りが早いので、日没後はライトアップされた記念館をご覧いただけます。夕方ごろにお越しくださる方はぜひ、記念館の幻想的な雰囲気をお楽しみください。

 

12月頭ごろ、ぐっと冷え込む日が多くなっておりましたので、何か温かいものを食べたいと思い、松山市駅の近くの某天ぷら屋さんに行きました。

そのお店は目の前で店員さんが天ぷらを順番に揚げて提供してくださるところで、あつあつのうちに天ぷらを食べることが出来ます。単品での注文も可能ですが、定食にするとお代わり自由のご飯、お味噌汁、食べ放題のご飯のお供(明太子、高菜など)が食べられます。

その天ぷら屋さんは、旬の食材を使った、季節ごとに変わる味覚定食を提供しておりまして、今回のラインナップがとても魅力的でしたので迷わずそちらを頼みました。

提供される7品は、ズワイガニ、ふぐ、メバル、海老と蓮根、ブロッコリー、煮付大根、ごぼうと人参と塩昆布のかき揚げ。なんとも食欲をそそられるラインナップ!

寒い中待った甲斐があるとほくほくした気持ちで食べ進めておりましたところ、煮付大根の天ぷらが出てきました。

 

 

 

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左から煮付大根、ブロッコリー、

追加で頼んだモッツァレラチーズの天ぷらです。

 

 

 

もちろん揚げたてですので「熱いだろうなぁ」と思って少しのあいだ時間をおき、湯気も出なくなったころに口へ運んでみました。

一口かじって、思わず叫びそうになりました。じゅわっと煮汁があふれる煮付大根をそのまま揚げられているため、熱が圧縮されているかのような熱さだったのです。なんとか一口嚙み切ったのですが、歯はじんじんと熱く、大根からは大量の湯気が立ちのぼっています。その時、反射的に伊丹さんのエッセイに出てきた、犬の歯を抜く話を思い出しました。それがこちらです。

 

 

 私が子供の頃から大好きな「大嘘」が二つある。一つは、土龍を退治する法であって、これは安岡章太郎さんが「良友・悪友」という著書の中にも書いていらっしゃる。

(中略)

 その二は、犬の歯を抜き取る方法である。これはごく簡単なものだ。すなわち、大根を厚切りにして、だし汁の中でぐらぐらと煮る。芯まで熱くなったらこの大根を犬に食わせればよい。

 犬がぱくりと大根を銜える――と、熱のために歯がすっかり抜けて大根の中に残る、というのだ。

 土龍の話にしても、犬の歯を取る話にしても、嘘とわかっていながら、話に妙な実感があるところがいい。土龍が剃刀の刃で真二つになった姿が、あるいは、大根の中に、馬蹄形に埋めこまれた犬の歯が、まざまざと目に浮かぶところが実に卓抜だと思う。そして、また、なんのために、いったい犬の歯など抜く必要が生じるのか、そのへんが一向に説明されていないところも、まことに人を食っている。

(中略)

妙な話になったが、実は先日風呂吹大根を食べながらふと犬の歯を取る話を思い出したのがきっかけであった。

ネ? どう考えたってあの話は、だれかが熱すぎる風呂吹大根に嚙みついてしまった時に発明したんだとしか考えられないじゃないの。

(『女たちよ!』より「犬の歯を抜く話」)

 


「シロや ホラ オイシイ ダイコン」の文字が添えられたイラストが印象的なこのエッセイ。大嘘ですので、もちろん本当に犬の歯が大根で抜けるはずがなく、ましてや人間の歯も抜けるはずなどないのですが、芯まで熱くなった大根のとんでもない熱さを経験してみると妙に納得させられそうになります。

 

 

 

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犬の歯を抜く話を思い出した時、伊丹さんもこれくらい熱い風呂吹大根を食べたのかしら、と煮付大根の天ぷらを涙目になって咀嚼し、その日は定食を平らげました。

毎日寒く、温かい料理が恋しい季節。皆さま、熱い料理を食べる際にはくれぐれもご注意ください。

 

 

s-IMG_6734.jpg挿絵のイラストは常設展示室の手まわし式閲覧台でもご覧いただけます。

 

 

『女たちよ!』は記念館のオンラインショップでも発売中です。ぜひ、年末年始のお休みの際に読んでみるのはいかがでしょうか。

 

〈年末年始 休館・開館日のお知らせ〉

2024年12月28日(土)~2024年1月1日(水)は休館いたします。

2025年1月2日(木)、1月3日(金)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とさせていただきまして、1月4日(土)より通常開館いたします。

 

学芸員:橘

2024.12.09 山口祐加さん、企画展に登場!

館庭の落葉が進んで、木々の枝ぶりが随分とはっきり見えるようになってきました。

20241209_1.jpg皆様おなじみ、中庭の桂です

木がこの状態ということは――
ハイ、地面はこの有様です。

20241209_2.jpgこの日は45リットルのゴミ袋3つ分、かき集めました

いずれ終わりがくることだと分かっていても、落ち葉との闘いの日々につきまとう果てしない感じ、独特のものがありますねぇ。

黙々と作業をしていると、何となく視界に入った桂の落ち葉の中に、思っていたより大きなものがあってビックリ、なんてことも。
見上げると、日当たりの加減なのか、高い枝では葉の成長が進んでいたようです。葉が茂っている季節には上のほうの葉はあまり見えず気に留めていなかったのですが、落ちてきてくれたから気付くことができた、と言っておきましょう。

20241209_3.jpg右が"スタンダートサイズ" だと思っていた大きさで
葉の直径約4cm、左は約8cm

そんな発見をして時の流れに感じ入ったり、まあまあ楽しみながらやってます。

20241209_4.jpg雨上がりの朝は、靴の裏で"のし落ち葉"ができあがります
(靴から剥がれたと気付かず回廊に落ちているのを初めて見た時は
「新種の生物か!?」とこれまたビックリしたものです)

さて、12月1日(日)、企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』のスペシャル映像コーナー「伊丹レシピ、私流。」に新作が登場しました。

自炊料理家の山口祐加さんが「映画『タンポポ』の朝食」作りをご披露くださるスライドショーです。

『タンポポ』の朝食、印象深くご記憶なさっている方が多いのではないでしょうか。

20241209_tampopo.jpg「カーチャンもすごいよ。カーチャンの作った料理はうまいからねえ」
「うん、うまい。こんなうまい漬物食ったのは、
十何年ぶりだ。この漬物なんか日本一だ」

家庭的かつ庶民的な手作りの朝ごはんをみんなでパクパク――豪華な料理や珍しい食べ物がたくさん登場する『タンポポ』ですが、実は、私が最も「たまらーーん!」となるのはこの場面なんですよね......ああ、おひつのごはん、お味噌汁、アジの干物、海苔......お漬物に納豆そして大根おろし......!!

山口さんはこの場面を「日本食卓遺産」と呼んで、今回のスライドショーのメニューに選んでくださいました。

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自炊料理家ならではの手際と即興にはもちろんのこと、美しく使いこまれた道具にも惚れ惚れするスライドショーです。お料理を楽しくする裏技、便利グッズ、材料の驚きの再利用法まで伝授してくださっていますので、必見ですよ。

稲田俊輔さんの「サラド・ニソワーズ」(3/31まで)との二本立てでご鑑賞いただけます。どうぞお見逃しなく!

学芸員:中野

2024.12.02 稲田俊輔さんのレシピ


記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。ここのところ朝晩随分寒くなってまいりましたがいかがお過ごしでしょうか。


さて、先日、ネットニュースを見ておりましたらチーズトーストにドライのオレガノをかけて焼くという料理が反響を呼んでいるという記事を発見しました。
その投稿者の方のお母さまが発明された料理だということで、「簡単なのに美味しそう!」と称賛の声が殺到しているということです。


「X」やネットニュース等でご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。


という訳で、早速「オレガノチーズトースト」を作ってみました。オレガノ独特の香りが効いて美味しい。そして何より簡単。


20241202.JPG作ってみたオレガノチーズトースト




さて、この投稿をされた方は、南インド料理専門店「エリックサウス」の総料理長をされている稲田俊輔さんです。


稲田俊輔さんは今年の8月より、伊丹十三記念館の企画展示室のスペシャル映像コーナーの「伊丹レシピ、私流。」にて、「サラド・ニソワーズ」(ニース風サラダ)のレシピをご紹介くださっています。詳しくは8月5日の橘学芸員の記念館便り 「企画展示室のスペシャル映像コーナーに新たなスライドショーが追加されました」 をご覧ください。

稲田さんのお作りになるサラダは見た目にも大変美しく、是非実際にご覧いただきたい映像となっておりますので、ご来館の折にはお見逃しなくご覧ください。



スタッフ:川又

2024.11.25 口コミと思い出

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
一気に寒くなってまいりました。特に朝晩はかなり冷え込むようになりましたので、お体にはくれぐれもお気をつけください。

20241125-1.jpg現在の中庭。桂の木もかなり落葉しました。

さてご存知の方も多いと思いますが、記念館のサイトに「みなさまの声」というコーナーがあります。


ご来館のお客様に記念館の感想をうかがって掲載し、当サイトをご覧いただく方に、記念館の雰囲気の一端を感じていただこうというコーナーです。

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「みなさまの声」コーナー

ご来館いただくお客様の中には、実際に「みなさまの声」をご覧になり、「雰囲気が伝わってきて、訪れてみたくなりました」という方もいらっしゃいます。カフェのメニューやグッズについて書かれた「声」を読んで、来館時にそのメニューを注文してくださったり、グッズを手に取ってくださったりすることもあります。
これから記念館を訪れる予定がある方、もしくは記念館に行ってみたいと思っている方には、ぜひぜひ見ていただきたい " 口コミ " なんですよ。

一方で、感想をお寄せくださったお客様にとっては、ご来館の"思い出"をご覧いただけるスペースでもあります。

 

10月の終り頃、「『みなさまの声』を書いたことがあります!」という再来館のご夫婦がいらっしゃいました。5年程前に奥様と当時大学生の息子さんと来館され、「みなさまの声」に写真(撮影・掲載許可をいただいた方のみ)と感想をお寄せくださったそうです。今回はご夫婦おふたりでのご来館でしたが、社会人となった息子さんとたまに見返しては、当時の思い出話などをして、「また三人で行こうね」と話しているそうです。

 

「みなさまの声」は毎週金曜日に更新(追加)をしており、公開したものは長期間さかのぼってご覧いただけます。紹介されたご自身の「声」をご覧になって、「記念館へ行ってきました」とお知り合いに紹介したり、折にふれて思い出話をしたりするのはいかがでしょうか。 

 

これから来館される方には"口コミ"、来館された方には"思い出"としてご覧いただける「みなさまの声」は、お客様の声を直に聴くことができるとして、宮本信子館長も毎週楽しみにしているコーナーです。

 

ご来館の際はぜひお声をお聞かせくださいね。

20241125-4.jpg「みなさまの声」シート。こちらにご記入いただいています

スタッフ:山岡

2024.11.18 寝室

11月も後半に差し掛かってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今年は10月を過ぎても暑かったので、秋が大変短く感じました。2024年も残り1か月半、やり残したことを片付けたいなと思う今日この頃です。

 

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s-IMG_6695.jpg最近の記念館の様子。桂など木々の葉がだいぶ落ちてきました。

 

わたくしごとではございますが、実は近々引っ越しを控えておりまして、新居の掃除をして一部荷物を運んだり、現在の家の片付けをしたりなど少し忙しい日々を過ごしております。現在住んでいる部屋がワンルームで収納も少ないため、あまり物を溜め込んでいるという自覚がなかったのですが、荷物をまとめ始めてみると単身パックの引っ越しでは出来ない荷物の量と発覚いたしました。生活を営むのは意外と物入りなのですね。

 

伊丹さんは物を捨てない人だったそうですので、長い時間をかけて集まったものであるとは言え、収蔵されている愛用品の数を考えると、引っ越しはとても大変だったのだろうと予想されます。現在の企画展で展示されている調理器具や器だけでもかなりの量がありますので、これをひとつひとつ割れないように包んで箱詰めして...となるとかなりの重労働だったんだろうな、と最近は展示品を見るたびに考えてしまいます。

 

s-IMG_6699.jpgそれぞれ形の違う盃は特に梱包が大変そうです。

 

部屋の片付けをする中で、自宅は趣味や好みが顕著に出るものだとしみじみ感じ、ベッド周りが特にその傾向が強いように感じました。さて、ベッドに持ち込む物について、伊丹さんが詳しく紹介しているエッセイがございます。それが『ぼくの伯父さん』に収録されている「寝室」です。

 

 コシノ・ジュンコさんがベッドに持ち込む品品は次の通りであるという。(こういう癖がついたのは離婚してからだそうです)

 

電話・紅茶(ティー=ポットとカップ)・時計・煙草(ハイライト)・灰皿・ライター・鉛筆・消しゴム・水差し・目玉焼き・砂糖・塩・胡椒・ケーキ・テレビ・ノート・原稿用紙・レコード=ジャケット・爪切り・ポートレート・(アンティク=マーケットで売ってたやつ)・人形・マンガ・(たとえば『はじめ人間ゴン』)・本(たとえば『あの日暑くなければ』)・スケジュール表

 

 これだけの物を持ち込んでしまうと、何か忘れ物があってももうベッドを出る気はなく、この上はただただ小間使いが欲しいとか......

 

私がベッドへ持ち込む品品

(例、昨夜)

 

原稿用紙・4B鉛筆・ペリカン消しゴム・明解国語辞典・新潮国語辞典・用字便覧・電気鉛筆削り・サントリー=オールド・氷・ミネラル=ウォーター(フジ)・タンブラー・オールド=ファッションド=グラス・おつまみ(竹輪、茹で玉子、里芋の煮ころがしの残り物)・書物(『古墳の話』『まぼろしの邪馬台国』『倩笑至味』)

 

 大体以上のようなものだが、以前には煙草を吸っていたから、この上にロスマンズ二た箱・時計印マッチ・錫の灰皿(落しても割れない)が加わっていた。これだけの物を持ち込むと、私は安心のあまり、あっという間に寝てしまうことが珍しくないのである。

 私の場合こういう癖は結婚してからついた。

(『ぼくの伯父さん』より「寝室」)

 

いかがでしょうか。原稿用紙や辞典は腹ばいで原稿を書く点からしても伊丹さんらしい物に思います。また、ウイスキーやグラスと書くのではなく、「サントリー=オールド」、「オールド=ファッションド=グラス」と書くのにこだわりが見られます。個人的には、竹輪と茹で玉子はともかく、里芋の煮ころがしの残り物まで持ち込んでいるのが、しっかり晩酌をしようという意気込みが感じられてとても好きなポイントです。(エッセイ内に箸が書かれていなかったのですが、伊丹さんもしかして素手で食べていた可能性もあるのかしら?)

皆さまもこのエッセイを読まれた後にベッド周りを見ていただきながら、伊丹さんに思いをはせていただけますと幸いです。

 

s-IMG_6704.jpg『ぼくの伯父さん』

オンラインショップでも販売中です。

 

さて、蛇足ではございますが、ベッドサイドテーブルに雑然と置かれておりました私が日ごろベッドに持ち込む物たちをご紹介したいと思います。たった数行でも、人となりがなんとなく分かるので面白いものですね。

 

読書灯・読みかけの本(『うたかたの日々』『きまぐれ博物館』『地下室の手記』『小さな名画の本』『哀れなるものたち』)・スケジュール帳兼日記帳・カラフルなボールペン数本・シールやコラージュ素材の入ったクッキー缶・常用薬やサプリ・蒸気で温めるタイプの使い捨てアイマスク・Switch・iPad・iPhone・各種充電器

 

学芸員:橘