こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2025.11.10 手拭い
11月も半ばに入ってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館では中庭の桂をはじめとした木々の葉が色づき、ぽつぽつと落ち始めました。今年の夏は長く、9月の終わりごろまで暑かったので、秋はほとんど駆け足に過ぎて冬に向かっています。最近、ご近所の金木犀が一斉に咲いて、甘く華やかな香りが漂うなかで通勤しております。年々秋が短くなっている気がするのですが、過ごしやすいこの時期を少しでも長く楽しみたいと思う今日この頃です。
中庭の桂の葉
先の方が色づいています
愛媛に移り住んでもうすぐ4年になるのですが、こちらに来て大きく変わった習慣のひとつに、「定期的に温泉に行く」があります。地元にも有名な温泉地はありますが、車で1時間以上移動しなければいけない場所にあり、気軽に温泉に通うことができませんでした。しかし、愛媛は街中にいくつも温泉施設があり、仕事帰りや休日のお出かけのついでに本当にふらっと立ち寄ることができます。昔から温泉が好きだったので、気軽に立ち寄れる温泉がたくさんあることが嬉しく、こちらに移り住んでからはほぼ週に1度のペースで温泉に通うようになりました。
はじめは着替えを持参する程度だったのですが、移り住んで半年経つ頃にはお気に入りのシャンプー・リンス、タオル、ドライヤー、スキンケア用品一式も持っていくようになりました。
そんな日々使用している温泉用グッズの中で大活躍しておりますのが、こちらの記念館オリジナルの手拭いです。
記念館オリジナルの手拭い
私は空色を愛用しております
手拭いなので、薄くて軽くて持ち運ぶときにかさばらない。泡立ちが良く、すすいだときの泡切れも良くて便利。湯船につかるときには長い髪をまとめるのに頭に巻いておけますし、体をさっと拭いてから浴室を出ることができる。などなど、大変使い勝手が良いのですっかり温泉のお供です。
記念館オリジナルの手拭いは宮本信子館長プロデュースの商品でございます。伊丹さんの描いたカチンコの絵が並んでおりまして、端には「ITAMI JUZO MUSEUM」の文字がございます。さらりとした肌触りで使い心地がよく、黒色・空色・白色ピンク柄の3種展開されておりまして、お土産として大変好評です。
染めは捺染ですので、柄も文字も綺麗です
私は温泉に入るときに使用しておりますが、目隠しとして小窓などのカーテン代わりにさげる、日よけや寒さ対策として首に巻く、ペットボトルホルダーの代わりに使う、など様々な用途で使用することができます。以前手拭いをお買い求めくださった方は、「気に入った柄の手拭いは額縁に入れて部屋に飾っています」とお話しくださいました。
様々な使用用途のある手拭い、オンラインショップでもお取り扱いがございますので、よろしければぜひお買い求めください。
さて、今週の木曜日は13日となりますので、記念館ではおなじみの「毎月十三日は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」が13時から開催されます。2025年度6本目は『お葬式』。ご入館料だけで映画を全編ご覧いただけますので、13日にはぜひ記念館へお越しください。
学芸員:橘
2025.11.03 収蔵庫ツアーの思い出
今日、11月3日は文化の日。
文化イベントや、博物館・美術館の無料開館にお出かけになる方も多いのではないでしょうか。
伊丹十三記念館はと申しますと、本日までの3日間、「メンバーズカード会員様限定の収蔵庫ツアー」を開催しています。※メンバーズカードの会員様に事前にお申し込みいただいての開催です。ご了承ください。
「収蔵庫ツアー」とは何か。
記念館の収蔵庫の2階には「展示風収蔵」になっている5つのコーナーがございまして、直筆の原稿・原画、衣類、食器などの愛用品や書籍が収められています。"伊丹邸の一室の再現"もあります。
この5つのコーナーの収蔵品をご覧いただきながら、さまざまなものが宿した「いかにも伊丹さんらしい」あるいは「意外な」エピソードを学芸員が解説する催しです。
"周年記念イベント"としての開催が毎年春にあり、事前応募制で定員を超えた場合は抽選となります。
そのほか、メンバーズカード会員様には、抽選なしで必ずご見学いただける機会を年2回(2025年11月現在)設けております。
さて、この収蔵庫ツアー、「ご参加のお客様を学芸員がご案内する」というかたちを取っておりますが、ご案内する側である私たちのほうが教えていただくこともたくさんあって、さまざまに勉強を積ませていただいております。
特定の分野にお詳しい方から収蔵品に関する知識を授けていただくこともありますし、素朴なご感想に「そういう見方もありますね!」と新たな視点をいただくこともあります。
あれは何年前だったでしょうか――
収蔵庫をご見学中に「今の10代の子たちに伊丹さんの存在を知ってほしいですね、きっと楽になるんじゃないかな」とおっしゃった方がありました。
なぜそうお感じになったのかお尋ねしたところ、「今の子たちは、かなり早くから将来の道を決めて、効率よく駒を進めていかなくてはいけない。そういう中で育てられているので、とても息苦しいと思うんです。だから、伊丹さんの生き方にふれて『いろいろやっていいんだ』と分かったら、気持ちが楽になるんじゃないかと思ったんです」とのこと。
収蔵庫ツアーは「伊丹十三をより身近に感じていただける催し」を謳い文句にしているのですが、このお客様は「自分にとっての身近」を超えた「他の誰かにとっての身近」をも考えていらしたわけですね。
私がご提供に努めてきた「身近」のあり方は浅かった、と思い知った出来事でした。
と、このように非常に真面目なお話をすることもありつつ、基本的に「ものを見ながらとにかく楽しくおしゃべりする」気軽なイベントです。
どなた様でもご応募いただける開館19周年記念のツアーは、次回は2026年4月の開催を予定しています。
2月に募集告知をお出ししますので、ご興味のある方、ぜひまたホームページを覗きにいらしてくださいませ。
学芸員 : 中野
2025.10.27 第17回 伊丹十三賞贈呈式の様子
10月7日(火)に東京都港区六本木の国際文化会館にて開催された、第17回伊丹十三賞贈呈式ですが、数多くのメディアで取り上げていただきましたので、目にされた方も多いかと存じます。
伊丹十三記念館HPのニュース欄でもお知らせしたとおり、その模様は受賞者山田五郎さんご自身のYouTubeチャンネル「山田五郎 オトナの教養講座」においてその模様が公開されています。
↓↓↓こちらをクリック↓↓↓
【祝 山田五郎、伊丹十三賞 受賞‼️】
贈呈式の様子をほぼ全て公開します
さらに、五郎さんとチャンネルへ特別メッセージも⁉️
【ナント、あの人も登場】圧倒的感✨
本日27日時点で既に11万回再生されています!まだの方はぜひご覧ください。
そして、山田五郎さんの受賞者スピーチ、伊丹十三賞選考委員の南伸坊さんの祝辞の詳細は、前回、前々回の記念館だよりにおけるスタッフのレポートをぜひご覧ください。
伊丹十三記念館HP記念館だよりでの式のレポートは以下をクリック
伊丹十三記念館 記念館便り 第17回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました[1]
伊丹十三記念館 記念館便り 第17回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました[2]
スタッフ:川又
2025.10.20 第17回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました [2]
先週に引き続きまして、贈呈式の模様をお伝えいたします。
いよいよ、受賞者・山田五郎さんのスピーチです!
山田さんは、この度の受賞を「三重に嬉しい受賞になりました」とお話しくださいました。
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受賞者・山田五郎さんのスピーチ
皆さんどうも、今日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
この度、私がこの伊丹十三賞というものを頂戴することになったわけなんですが、南伸坊さんから「大変嬉しい」という言葉がありましたけれども、私も、大変に喜んでおります。

【※】
私の人生、賞罰とはまるで無縁な66年間の人生でございました。
今までにもらった賞というのは、大学のマスコミ関係者の人がマスコミ関係で活躍した人に贈る『コムソフィア賞』と、友だちのみうらじゅんが、その年に一番よく飲んだ友だちに贈る『みうらじゅん賞』という。
この二つしか受賞したことがない私に、伊丹十三賞という身に余る賞が贈られるようになって、長生きはするもんだなと思っております。
【若い頃「こういう大人になりたい」と思っていた人の名前を冠した賞をいただいたのが嬉しい】
ことのほか嬉しかったのは、この伊丹十三賞という賞は、「伊丹十三」という人――私どもが学生時代からリアルタイムでその活躍を観て来た人なんですね。
その洒脱なエッセイに感心したり、グラフィックに感心したり、あるいは80年代に『mon oncle』(モノンクル)という雑誌を出しておられたりとか。
その後映画を撮られたりという、そういうご活躍を目の当たりにして、面白い人だなと。
若い頃なんかは、「こういう大人になりたいな」というふうに思ったんですね。

【※】
だから、雑誌のタイトルに使われたモノンクル、ぼくのおじさん――まさに我々の世代にとって伊丹十三という人は、いろんな、学校で教わらないことを教えてくれるモノンクル、お洒落なおじさんだったわけです。
その人の名前を冠した賞をいただいたというのが、とても嬉しい。
芥川賞、直木賞だといっても、生前の芥川龍之介を知りませんし、直木三十五に至っては著作を一冊も読んだことはないわけですよ。(場内笑)
それに比べて、伊丹十三の仕事っていうのは我々たっぷり見てきて、その伊丹十三賞をいただけたということが本当に嬉しいです。
【みんなで一緒に作り上げてきたYouTubeの番組が評価され、一緒に喜ぶことができる仲間がいるということがとても嬉しい】
そして、その授賞理由にYouTubeの番組を選んでいただいたということがとても嬉しいです。
あの番組は、実はコロナ禍にできまして。
私はBS日テレで『ぶらぶら美術・博物館』という展覧会を紹介する番組をやっていたんですけれども、コロナで展覧会がぜんぶ廃止になっちゃって。
私も困ったけれども、番組を作っている制作会社も困ったということになりまして。
そこにおります、当時ADだったワダが企画書を書いて、YouTubeで番組をやることになって。
私はYouTubeのことなんかさっぱりわかりませんから、こんなことをやって何になるんだろうと思いながら始めて。
最初の頃は観る人もいなくて、ワダのご両親が一日中回しっぱなしにして閲覧数を稼ぐっていう。(場内笑)それでも100もいかないわけですよ。
...ということから始まって、それがいま70万人だかになりました。(2025年10月20日現在、チャンネル登録者数は74.8万人)
70万という数字は、私が雑誌編集をしていた時にも達成したことのない数字なんです。自分が担当した雑誌で一番売れたのはたしか62万部なんですね。
まさかここで70万という数字を達成するとは思いませんでした。

数もさることながら、先ほどの伸坊さんのスピーチのように「あ、こんなによく観てくれてる人がいるんだ」ということに驚いております。
そういう、わたし一人の力じゃなくて、東阪企画という制作会社なんですけれど、そこのスタッフみんなで一緒に作り上げてきたYouTubeの番組が評価された。
つまり、一緒に喜ぶことができる仲間がいるっていうことがとても嬉しいです。
【伊丹さんは絵の神童。絵を紹介するYouTube番組を評価されたことが嬉しい】
今回受賞した時に、記念館から『13の顔を持つ男』というDVDと、伊丹十三さんの業績を紹介する本をいただいて、改めて見直したんです。
僭越ながら私が改めて思ったのは、伊丹十三という人は、何よりもまず絵の神童だったと思うんですね。
セザンヌと違って、小さい頃から抜群に絵がうまいんですよ。
絵を描くっていうことは見ることでもあるから、観察眼に繋がって、ああいう洒脱なエッセイや、最終的にその才能の全てを映画というところに集約していったんだなと改めて思いました。
絵の神童である伊丹十三の賞をもらった、絵を紹介するYouTubeの番組を評価されてもらったということが、三番目に嬉しい点です。
そんなこんなで、三重に嬉しい受賞になりました。
宮本信子館長、選考委員のみなさん、ありがとうございます。
そしてお集まりのみなさん、今日はどうも本当にありがとうございます。(場内拍手)
宮本信子館長のご挨拶
今日はお忙しい中、本当にたくさんの方にご出席いただきまして、誠にありがとうございます。
改めまして、山田五郎さん、本当におめでとうございました。(場内拍手)
受賞のコメントに、「最高の励ましをいただきました」というお言葉が山田さんからございまして、私はちょっと、胸が熱くなりました。
いやいやこちらこそ、もらっていただいて本当に嬉しく、ありがたいと思いました。
ありがとうございました。(場内拍手)

【※】
山田五郎さんの、このおめでたい受賞に乾杯をします。
そして、山田さんと奥様の礼子さんに、エールを送りたいと思います。
乾杯! (乾杯後、場内拍手)

【※】左から周防正行さん、酒井順子さん、山田五郎さん、
宮本信子館長、南伸坊さん

【※】正賞・盾を持ってニッコリ
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以上、贈呈式の様子をご紹介させていただきました。
このあとお庭で集合写真の撮影が行われ、お飲み物・軽食をご用意したご歓談の時間となりました。

【※】お庭にて
今回の受賞について「嬉しい」と何度も口にされていた山田さんのスピーチ、いかがでしたでしょうか。
そんな山田さんを中心に、贈呈式は終始和やかな、それでいてあちこちから楽しそうな話し声の聞こえる、いい式典となりました。
改めまして、山田五郎さん、選考委員の皆さま、ご来場くださった皆さま、関係者の皆さまに心より御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
今後とも、伊丹十三賞をよろしくお願いいたします。
............というところで毎回レポートを終わらせていただくのですが、今年はなんとですね、お伝えしてきた贈呈式の模様などをYouTubeでご覧いただくことができます!
山田五郎さんと一緒に、今回の授賞理由にもなったYouTube番組を作り上げてこられたスタッフの皆さまが、多くの方々に式典の様子がご覧いただけるよう作成してくださいました。ニュース欄でもご紹介していますので既にご覧になった方もおられると思いますが、まだの方はぜひご覧くださいね。
『山田五郎 オトナの教養講座』(←こちらをクリック)
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【※】の写真は、撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)、
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさんです。
スタッフ:山岡
2025.10.13 第17回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました [1]
去る10月7日(火)、第17回伊丹十三賞を山田五郎さんにお贈りする贈呈式を国際文化会館で開催いたしました。
台風が近づいており、お天気に不安があったのですが、開催時間になるころには晴れ間も見え、心地よい秋の陽気の中での贈呈式となりました。
贈呈式につきましては、今週、来週と2回の記念館便りに分けてレポートいたします。

第17回伊丹十三賞をご受賞くださった、編集者・評論家としてご活躍中の山田五郎さんのプロフィールや賞の概要はこちらをご覧ください。
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贈呈式は、進行役を務める玉置泰館長代行の挨拶に始まり、この度の受賞者・山田さんと授賞理由が紹介されました。
授賞理由は「美術を対話的に掘り下げるインターネット番組「山田五郎 オトナの教養講座」の斬新さ、おもしろさに対して」です。
続いて選考委員の3名と宮本信子館長の紹介があり、選考委員の南伸坊さんから祝辞が贈られました。
祝辞 選考委員・南伸坊さん
山田五郎さん、伊丹十三賞受賞おめでとうございます。
そして受賞ありがとうございます。
私は美術番組が好きでテレビでやっていますと大概見てしまいます。見て、大概がっかりします。(場内笑)
最近はYouTubeでも美術番組が増えましたが、テレビとあんまり変わりがない。というより、テレビの美術番組よりもさらにがっかりさせられるようなものばっかりです。
つまり、見ていて発見がない。
作っている側に発見が無いので、見ている方は何でもないまんまです。
私は、人間は発見が嬉しいように脳がプログラムされていると考えています。
誰かの言うことに発見があると、それに触発されて、聞いている側にも発見が生まれてくる。つまり、影響されて見ている側にも発見が生まれるのです。
こういう時に人間は面白い。私も人間ですから(場内笑)、山田さんのYouTubeの美術番組にはこの発見があるのです。

「セザンヌは絵が下手だったと考えると色々に腑に落ちることがある」こんなことを言うんですよ。
あの、セザンヌ。今までどんな美術番組や美術評を見ても、セザンヌが下手だったなんで聞いたことがない。私の経験では、大橋巨泉さんが放言したくらいしか知りません。
しかし私にもセザンヌがどうしてこんなに尊敬されているんだろうという疑問はありました。どうしてピカソはセザンヌをあんなに持ち上げたんだろうという疑問がある。ピカソがアンリ・ルソーをほめるのはすごく分かる。ものすごく分かります。
でも、それが、「セザンヌが絵が下手だった」といわれて、あっ!と思った。えー!と思いました。
そこに、「この絵見てくださいよ」と言ってセザンヌの学生時代の絵をフリップで出す。お父さんに画家志望の進路を反対されて、自分がいかに絵がうまいか、才能があるかをアピールするために描いて送った絵です。
下手なんです。(場内笑)
典型的な素人の絵です。
そうか、セザンヌはピカソにとってルソーとおんなじなんだな。これは面白い発見でした。
セザンヌの絵が下手なのは一目でわかった。
じゃあ、なぜピカソはそのセザンヌを尊敬したのか。なぜセザンヌをほめる。
セザンヌといえば必ず出てくるのが"多視点"という言葉です。色んな方向から見たところを同一平面に平気で描いてしまう。例えば水差しの口は上から見ているのに、水差しの底は水平から見たように描いてしまう。
これが、絵が下手に見えてしまう典型的な素人の絵の特徴です。
プロの画家は視点を動かしません。一点から見る。いつも同じ一点から見るようにしていると、上手な絵が描けます。
上手な絵って何か。それは写真で写したような絵なんです。セザンヌはそのコツがなかなかつかめなかった。一生つかめなかったのかもしれません。で、開き直った。"多視点"から見るっていうのは、下手を開き直ったところで、それを自分の芸風にしたということです。
そのように肝を据えてしまうと、どういうことが起きたか。
自信を持てるようになる。自身を持って描いた絵は魅力的だ、というのは皆さんもお分かりだと思います。
セザンヌの理屈は頑固なだけじゃない。人間はいつも、だってそうやって見てるじゃないか。一点からだけ、片目で何かを見るなんてことはしていない。人間はいつだって"多視点"で見ているわけです。
【※】
セザンヌは頑固で不器用であったから、普通の器用な画家たちのようにプロのコツを呑み込めないまま下手を温存することになったのですが、その代わり、どんどん自信を持って理屈を言うようになり、すっかり堂々たる絵になって堂々たる画家になった。
ピカソは一点から見るコツを身に着けなかったセザンヌにヒントを得て、キュビスムという手を思いついた。
キュビスムっていうのは色んなところから見たところを平面に展開してしまう、掟破りの絵です。
しかし、掟とはなんでしょうか。その大もとは写真のイメージです。
西洋の絵はこの写真のイメージに何百年もの間とらえられてきたのでした。
印象派から始まって、イタリア未来派だと、絵画の革命競争になったのは、この写真の呪縛から逃れる足掻きだったんです。というようなことを暴論的部分まで山田さんがおっしゃったわけではありませんが、山田さんの発見がこのように私に影響を与えてくださったということを私は言いたくて、長々と理屈をのべました。
こんな美術番組は他にあるか。
私は山田さんの番組の他に、発見を促される番組はひとつしかありません。
伊丹十三さんの「アートレポート」という大昔の伝説的番組だけです。こんなに伊丹十三賞にふさわしい人は、今年は山田五郎さんしかいないじゃないか、と私はおもいました。
そして、私はそれを激しく主張しました。
だから私は、今日、すごく嬉しい。(場内笑)
山田さんが伊丹十三賞をもらってくれて、すごく嬉しいです。
ありがとうございます。(場内拍手)

正賞(盾)贈呈 選考委員・酒井順子さん
【※】
副賞(賞金)贈呈 宮本信子館長
【※】
- - - - - - - - - - - - -
祝辞の中でもお話しくださったとおり、南さんは山田五郎さんを激押しされていたそうでとても嬉しそうに祝辞を述べられていたのが印象的でした。祝辞をじっと聞き入っている山田さんも嬉しそうにしておられ、会場は和やかな雰囲気に包まれていました。
来週の記念館便りでは、受賞者・山田五郎さんのスピーチをお届けいたします。
来週もお楽しみに!
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【※】の写真は、撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)、
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさんです。
学芸員:橘
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