こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2024.01.29 正月飾りをめぐるアレコレ
記念館のエントランスに掲げていた今年の正月飾りを1月7日いっぱいで下げ、先日、神社に納めてきました。
正月飾りの準備係と処分係を他のスタッフに頼りきりできてしまったこれまでを反省して、今回は自分から志願。
「毎年どういうところで買ってます?」と尋ねたら「ホームセンターとかにいっぱい並んでますよ」とのことだったので、12月に入ってからというもの、あっちの店こっちの店へ足を運んでお飾りコーナーを物色してまわり、年の瀬も押し詰まってきた頃にやっと決めたのですが、いやあ、色んな種類があるものなんですねぇ。
購入者目線で見てみると、実に多種多様で悩ましい――さらに正確に言うなら、「伊丹さんの記念館の正月飾りとして合格でしょう」と思えるものになかなか行き当たらない、「こんなにいっぱいあるのに!」ということには驚きました。
「プラスチックのミカンや松がついてる正月飾りなんて興ざめじゃない...?」
「謹賀新年とか迎春とか書いてあるのはいいんだけど、どれもこれもフォントがダッサいのはなぜなの!?」
年末、天山界隈のホームセンターやスーパーで怒りあるいは落胆のオーラを放出しまくっている中年女を見かけたという方、それは私であった可能性大、です。
そんなこんなしているうち
「時代のせいか景気のせいか今はあまり見かけなくなったけど、昭和の頃には一般のご家庭でも門松を飾るのが普通だったなぁ」
「自動車のフロントグリルに付けるお飾りとかも流行ったよねぇ」
などなど、懐かしい記憶がよみがえったりも――
そうそう、伊丹エッセイには「車の正月飾り」にまつわるこんなエピソードがございます。
私が自分のロータス・エランを赤にしたのは、こいつなら赤でも目立たない、と思ったからでありますが、さらに念を入れるなら、この車はよごれっぱなしのほうがいい。埃や泥はもちろん、小さな引っかき傷や、軽いへこみも、そのままにしておいたほうがいい。
私の分類では、こいつは、雨具や履物の部類に属する。仕立ておろしのレインコートや、ま新しい靴というのが、どうにも気恥ずかしいものであると同様、車も、ある程度薄よごれた感じのほうが、私には乗り心地がいい。
ま、そういうわけで、私は自分のロータスを掃除しないことにしている。昨年の暮れには、ひと月ばかりガレージにいれっぱなしにしておいたから、実にいい工合に埃がつもって、その埃の上に猫の足あとなんかついて、ほとんど私の理想に近い、芸術的なよごれをみせるようになった。
私は、この埃の上に、指で絵を描こうと思った。そうだ! 注連飾りの絵を描いて年始に出よう、と思った。
「猫の足あと」『女たちよ!』(文藝春秋1968年/新潮文庫2005年)より
さて、この伊丹十三の年始大作戦の結末やいかに――
エッセイ集『女たちよ!』でぜひお楽しみください。
"お正月×地方"で盛り上がるネタというと「お雑煮」がメジャーですが、正月飾りも地方によって様々な違いがあるようなので、出身地の異なる方との話題にしてみると面白いかもしれませんよ。
ちなみに、愛媛の正月飾りは、地域ごとに差はあるものの"輪っか・プラス・アルファ"タイプ。
我が故郷・岩手では、細く綯(な)った縄にお幣束・昆布・イワシの煮干しがついたものを、50~60cmに切った松の枝にくくり付けて、玄関の左右に飾るのが主流です。
というわけで、1月の下旬も下旬になりましたが、本年もどうぞよろしくお願い申しあげます。
暖冬には暖冬なりのしんどさがありますね、皆様くれぐれもご自愛くださいませ。
中庭の桂の幹に季節外れのセミの抜け殻が...
夏からずっとくっついていたのでしょうか?
暖冬で最近ウッカリ羽化したとか...いやまさか...
学芸員:中野
2024.01.22 臨時休館のお知らせ
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。
いよいよ1月も下旬に差し掛かって参りました。
1月2日に更新いたしました宮本信子館長の新年のご挨拶の記念館便りはもうご覧いただきましたでしょうか。
もしもまだ、という方がいらっしゃいましたら、是非ご覧ください。
こちらをクリック → 館長・宮本信子から新年のご挨拶
さて、ニュース欄でもお知らせさせていただいております通り、
2月26日(月)から3月1日(金)までの間、
伊丹十三記念館は臨時休館をさせていただきます。
この期間、記念館では展示室の空調機器の交換工事と、外周の板塀の塗り替え工事を行う予定です。
【画像:板塀の現状。この度の臨時休館中に生まれ変わります。】
ご来館のお客さま方からよく「綺麗!」と言われる記念館の建物ですが、実はもうすぐ築17年になりますので、いつまでも新築気分という訳にはいきません。
日々問題なく元気に記念館を営業していけるよう、このように時折、所々メンテナンスをしております。という訳ですので、今回の臨時休館におきましても、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
【画像:今にも咲きそうな蝋梅の花芽】
今年も伊丹十三記念館をどうぞよろしくお願い申し上げます。
スタッフ:川又
2024.01.15 手袋
1月も中旬に差し掛かってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館では、ユキヤナギが少しずつ花をつけ始めました。ゆっくりですが、春に向かって季節が進んでいるようです。
花をつけ始めたユキヤナギ
トサミズキはまだ蕾です
少しずつ春に向かっているのを感じますが、暦はまだまだ冬。朝晩と冷え込む日が続いております。私は記念館まで自転車で通っているので、この時期は厚手の手袋とマフラーが手放せません。皆さまも温かくして、体を大事にお過ごしください。
さて、本日の記念館便りでは、冬に活躍する手袋についてのエッセイをご紹介させていただきます。
皆さまは伊丹さんのエッセイで手袋の話題だと、『ヨーロッパ退屈日記』にございます「エルメスとシャルル・ジュールダン」が思い浮かぶのではないでしょうか。手袋のイラストも印象的です。
パリへ来るたびに、わたくしは、ドライヴ用の手袋を買うことになっている。シャンゼリゼの、リドのアーケードの裏門に近い男物の店に、絶妙の手袋があるのだなあ。これは、少なくとも六双は買いたい。
(『ヨーロッパ退屈日記』より「エルメスとシャルル・ジュールダン」)
『ヨーロッパ退屈日記』より手袋のイラストページ
気に入ったものはいくつも買い、ストックをしていた伊丹さんらしいエッセイですが、本日ご紹介したいエッセイは、『ぼくの伯父さん』に載っている「手袋」です。
この手袋は、西独逸製のスキー手袋の、右の片一方である。左手はスキー場のリフトから落っことしてしまった。
アルヴィン・トフラーという学者によれば、われわれが幼年時代以来、この世から学ぶ最も大切なことの一つは「持続の予見」であるという。「持続の予見」とは何かというと、ある物事が持続するのに「大体これはこのくらいの時間がかかるだろう」という、その見当――とでもいおうか、昼や夜が持続する長さをはじめとして、食事の持続する長さ、学校の授業が持続する長さ、一日の勤務時間が持続する長さ、一人の女との恋が持続する長さ――要するに、この世でわれわれが遭遇するたいがいの事柄の持続する長さについてですね、われわれは、それが「大体これはこのくらい持続するだろう」という、おおよその見当を、いつの間にか持っているわけで、だからこそ、われわれは「それがどのくらい持続するのか」という尺度を「まだ形成していない」事柄に出喰わすと、途端に心理的な混乱に陥ってしまい、その時間をひどく長く感じてしまう。たとえば、初めて、ある場所を訪ねるような場合「行きの道は果てしなく遠く感じられたが、帰りは、これが同じ道かと思うくらい呆気なく思われた」などというのはそれであります。
『ぼくの伯父さん』より手袋のイラストページ
ええと――なぜこんな話をするかというと、この手袋の片一方をなくした時、ちょうどその事を考えていたからなのです。
私はその時、故障して停まってしまったリフトに乗って、深い深い谷の上にぶら下がり、動かぬリフトの上では、なぜ時間がいつもよりゆっくり過ぎるのか、という命題について考えていた。リフトが故障してから、まだせいぜい一時間ぐらいしか経っていなかったでしょうが、リフトの上の私には、それはほとんど小規模な永遠とでもいうべき苦痛であった。私の心の中の、いかなる「持続の予見」も役に立たなかった。一体あとどのくらいの時間、この吹きっさらしの空中に、逃れる術もなく放置されるのか、根拠のあるいかなる「持続の予見」もできはしなかった。
私が手袋を落っことしたのは、ポケットに残っていた三本の煙草の、最後の一本を取り出そうとして左手の手袋を脱いだ時であった。
アッ、と思った時、すでに手袋は空中に浮かんでいた。
谷底まで百メートル以上あったろうか。手袋はゆっくりと落下して、音もなく谷底の雪の上に横たわった。
(中略)
煙草を吸い終わらぬうちに、モーターの唸る音が聞こえたかと思うとガタンとリフトが動き始めた。
動いてみれば、何のことは無い、今までの、いつ果てるとも知れぬ苦痛など嘘のように消えて、時間はまた流れ始めていた。
私が、手袋の、残った一方を捨てかねているのは、別に感傷的な理由からではない。ただこの手袋がひどく高かったからである。この手袋を買ったのは、もう十五年も昔のことになろうか。確か一万五千円であった。当時の私の給料が三万円くらいだったから、私はいわば決死の覚悟でこの手袋を買ったのである。それほど私はこの手袋のデザインを気に入っていた。
それにしても、あれから十五年か!
考えてみれば、十五年前には時間はのろのろと、たゆたうように懶く過ぎていたように思う。そのうち、やがて一年一年が次第に早く過ぎ始め、二十五歳を過ぎてからは、三年、五年が一と塊りになって走り過ぎるようになってしまった。今に十年、二十年が一と塊り、という時期がくるのであろう。一体、人生を長く暮らす方法はあるのか、ないのか? 停まったリフトの上ででも暮らしてみるか......
現在私はこの手袋を、熱湯を入れると、どうしても開かなくなる癖のある、古い魔法瓶の蓋を開けるのに使っている。それからまた、猫が頑固にくわえて放さない食べ物を取り上げる時にも使っている。
私と猫と魔法瓶と手袋の中では、猫が一番新しく、今年で九歳になった。
(『ぼくの伯父さん』より「手袋」)
伊丹さんは気に入ったら同じものをいくつも買ってストックをしていた方であると同時に、気に入ったものを長く愛用する方でもありました。当時のお給料の半分で買った手袋とのことなので、おいそれと捨てられなかったのだろうと考えられます。しかし、片一方になっても魔法瓶の蓋を開けたり、猫が頑固にくわえたままの食べ物を取りあげる時に使ったりと、ずっと手袋を"愛用"していたことが伺えます。気に入ったものは修繕して使い続けていた伊丹さんの人となりが出ているエッセイのひとつです。
『ぼくの伯父さん』と『ヨーロッパ退屈日記』
ちなみに、なぜこちらのエッセイを本日ご紹介させていただいたかと申しますと、手袋のエッセイであることに加え、「一年一年が次第に早く過ぎ始め、二十五歳を過ぎてからは、三年、五年が一と塊りになって走り過ぎるようになってしまった。」という一説に強い共感を抱いたからです。
2023年末、1年が過ぎるのってこんなに早いのかとしきりに思っていたのですが、2024年の1月もあっという間に中旬。年を重ねるごとに1年が短くなっている気がしてならず、年末年始は特にそんなことばかり考えておりました。
『ぼくの伯父さん』を読み返し、伊丹さんもそんな風に感じていたんだなぁと親近感を覚えました。
本日ご紹介させていただきましたエッセイが載っている『ヨーロッパ退屈日記』と『ぼくの伯父さん』は記念館のショップ、オンラインショップで取り扱っております。まだご覧になっていない方はぜひこの機会にご覧ください。
学芸員:橘
2024.01.08 『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」展』好評開催中です
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
2024年も、伊丹十三記念館をよろしくお願い申し上げます。
宮本館長の新年のご挨拶もぜひご覧ください。
※上記のご挨拶にある新たに植樹した
「ロウバイ」 「マンサクの木」について
詳しくはそれぞれのリンク先をご覧ください。
さて昨年12月も半ば頃、「これまでの企画展を全部観ているんですよ」という男性がお越しくださいました。
ご存じの方も多いと思いますが、記念館にはお客様にご覧いただく展示室がふたつあります。
ひとつは、伊丹さんの名前にちなみ13のコーナーに分けて伊丹十三という人物、その仕事や趣味を紹介する「常設展示室」。そしてもうひとつが、伊丹さんについて独自のテーマを設け、期間を区切って展示を行う「企画展示室」です。
改めて、これまでの企画展を振り返ってみますと――2007年の記念館オープンと同時に開催された「お葬式」(2007/05-2008/12)に始まり、「マルサの女」(2008/12-2010/12)、「父と子 ― 伊丹十三が語る父・伊丹万作の人と芸術 ―」(2010/12-2013/12)、「旅の時代 ― 伊丹十三の日本人大探訪 ―」(2013/12-2015/12)、「ビックリ人間 伊丹十三の吸収術」(2015/12-2017/12)、「おじさんのススメ シェアの達人・伊丹十三から若い人たちへ」(2017/12-2023/6)と、6つの企画展を開催してまいりました。
記念館便りをご覧の方の中にも、このうちのどれか、もしくはいくつかをご覧くださった方がいらっしゃるのではないでしょうか。それぞれのテーマを通じてより深く伊丹さんを知っていただけたなら、そして皆さまに楽しんでいただけたなら、大変嬉しく思います。
そして現在は、昨年7月から、7つ目の企画展となる『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』が開催されています。
企画展示室入口
展示しているのは、伊丹さんが愛用していた器や皿、酒器、調理道具、湯河原で実際に使用していたオーブン付きガスコンロや冷蔵庫、「食」に関するエッセイのイラスト原画などなど。スペシャル映像コーナーでは、『遠くへ行きたい』第39回のダイジェスト版や「私流伊丹レシピ」スライドショーもご覧いただけます。
料理通としても知られた伊丹さんが、どのように食べること、呑むこと、作ることを楽しんだのか、「食」という私たちにとっても身近なテーマの展示を通して、より等身大の伊丹さんを感じていただけることと思います。
ありがたいことにテレビや新聞などいろいろな媒体でご紹介いただき、「企画展を楽しみにしてきました」という、上述のお客様のような方も多くお越しくださっています。好評開催中ですので、興味のある方はぜひお越しくださいね。
皆さまのご来館を、スタッフ一同お待ちしております。
記念館の収蔵品が多数登場する
単行本『伊丹十三の台所』(つるとはな)も要チェックです!
最後に、記念館よりふたつお知らせです。
【その1】-------
2024年最初の「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」は、『あげまん』(1990年)です。1月13日(土)の13時スタートです。
記念館オリジナルのミニ解説とともに、伊丹十三記念館で伊丹映画をぜひご堪能ください。
【その2】-------
2024年2月26日(月)~3月1日(金)は、空調設備工事のため臨時休館させていただきます。ご不便をおかけし恐れ入りますが、何卒ご了承の程お願い申し上げます。
※TOPページの開館カレンダーも合わせてご覧ください。
スタッフ:山岡
2024.01.02 館長・宮本信子から新年のご挨拶
今年はどんな年になりますでしょうか......。
是非とも良い年であって欲しいと祈っております!
去年、記念館正面の前庭に、二本、植樹を致しました。
ロウバイ(蝋梅)とマンサクの木です。
春になれば黄色のかわいい花が咲き、
そこはかとなく漂う香りがすると思います。
すっごーーく、楽しみにしている私です!
春よ来い~~~。
は~やく来い~~~(笑)
その頃には私、受付に立っていると思います~~(笑)
スタッフと共に、お待ちしております。
今年もよろしくお願い申し上げます。
館長 宮本信子
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