伊丹十三賞 ― 小池一子氏トークイベント「オルタナティブ・スピリット」採録

第14回「伊丹十三賞」受賞記念
小池一子氏トークイベント「オルタナティブ・スピリット」採録(6)

日 程:2023年3月6日(月)17時30分~19時
会 場:伊丹十三記念館 カフェ・タンポポ
登壇者:小池一子氏(第14回伊丹十三賞受賞者/クリエイティブ・ディレクター)
    佐村憲一氏(聞き手/グラフィック・デザイナー)
ご案内:宮本信子館長

佐村 その後、87年に武蔵美のファッションコースで教授をなさってたんですけど——ファッションというと、ああいう美大であればドレスメイキング、つまり服を作ることが当たり前なんですが、小池さんはファッション・デザイナーではないわけなので、そこでさらにオルタナティブ的な仕掛けをなさっていた、と私は思っているんですね。その辺りの大学教育についてはいかがですか。
小池 そうですね、「考えるデザイナーであってほしい」というのがひとつあるかな。
それは、三宅一生さんのような人に私が出会えたという幸運もあるんですけれども。

やはり「ただドレスメイキングをするだけではダメだ」ということは思ったんです。でも、もちろん作るということについての修練というか、それはきちんとできなきゃならない。カリキュラムを作ることで、それをなんとか克服しようとしていました。
イギリスのデザイン学校だと、アシスタントの専門化、ですね。見ること、または作ること。そういう特殊な、服作りのための技能をきちんとアシストする方たちがいます。ただ、そのデザインの構想というものをどういうふうに組み立てていくかは、いろんなカリキュラムがあるわけなので、そういうことを目指した、というのはあります。
佐村さんにも何度も講師として来ていただきました。

佐村 私の授業では、グラフィックの専門的なものを教えるというんじゃなくて、例えば、「学生のお母さんが田舎でちょっとブティック持っているとして、それを引き継いだ時にどうするか」みたいな、発注する側の、最低限のグラフィック的な知識程度を教えていました。簡単なロゴマークを作り、雑誌広告、ポスターを作るというようなことの指導を、小池さんの下でずっとやってたんですけれども。
小池 佐賀町エキジビット・スペースにも来てくれて。

講演会の様子

佐村 ところで、伊丹さんとはいつ、どういうきっかけでお会いしてます?
小池 私は伊丹さんが書かれた初期の本がすごく好きで、一方的な伊丹ファンだったんですよね。そんな、きちんと話できたことはなかったです。
佐村 そうですか。
小池 西友の広告デザインを中心に作った『感性時代』という本があるんですが、それで対談をさせていただいたときが初めてだった。
佐村 あれが初めてですか。
小池 そうです。あ、でも、佐村さんが勇気づけてくださったというか。
佐村 あの『感性時代』という本は、小池さんは編集者としても参加なさってたんですよね。
小池 はい。
佐村 それで、こんなこと言っていいのか分からないけど……
伊丹さんに対して激怒したのは、後にも先にも小池さんだけじゃないかと思うんです。覚えてます?

小池 覚えてない。
佐村 そうですか。あの対談の後に、おふたりともそれぞれに親しくさせて頂いていたので、「小池さん、伊丹さんとの対談どうでした?」って尋ねたら——
——「あんなに知識を振りかざす人、嫌いよ!」って。

小池 本当!?(場内笑)
佐村 ここだけの話ですよ。
宮本 でも、ね、なるほどと思いますよ(笑)。
小池 いえいえ!
佐村 私はね、(その本を)持ってますから、読み返してみたんですよ。そんなにね、知識を振りかざすっていう……小池さんが怒り狂うほどのこともないというか。
玉置さん(伊丹十三記念館館長代行・伊丹プロダクション会長)も、「あれは、ちょっと伊丹さんの話が活字になったものの中でも一番ひどいものだ」みたいなことを仰っていたけれども。

宮本 喧嘩してるようでしたよね。
佐村 いやぁ、伊丹さんは伊丹さんなりの精神分析とかの視点で、今の日本における大量消費社会、生産、流通などを喋ってて……。
宮本 面白かったですよ。
佐村 面白かったと思いますよ。
小池 何かそうですね、「キュレーターの仕事ってどういうことだろう」みたいなことを、伊丹さんが思ってらっしゃるのを聞いたんですよね。それがどこかだったかは覚えてないんだけど、でも、きちんと来てくださって、ゆっくり話していただいて、私はすばらしい体験をしたんです。
宮本 (笑)

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