伊丹十三賞 ― 第3回受賞記念講演会 採録

内田樹氏講演会 伊丹十三と「戦後精神」(1)

2011年11月29日 / 松山市総合コミニュティセンター キャメリアホール
講演者 : 内田樹氏(神戸女学院大学名誉教授 / 『内田樹の研究室』)
ご案内 : 宮本信子館長

【館長挨拶】

こんにちは! 館長の宮本信子でございます。
今日は、内田先生の第3回伊丹十三賞の受賞記念講演でございます。ご応募をすごくたくさんいただいて、「どうしましょう」という話を、スタッフからずいぶんと聞きました。
ほんっとにいっぱいのお客様にご来場いただいて、内田先生の大ファンの方ばっかりでございますので、今日はどんなお話が伺えるのか楽しみにしております。

今朝、先生は伊丹空港から、私は羽田空港から、松山空港で11時45分に合流いたしました。そして、お昼をご一緒させていただいて、記念館を見ていただきました。そして、記念館のカフェ・タンポポでお茶を飲みました。
そうしましたら記念館――本来、火曜日は休館なんですけど 今日は特別に開いておりまして――そのお客様が、「宮本さん、お昼は海鮮北斗だったんですよね」っておっしゃるので、「えーっ!? どうしてご存知なの!?」って。

…Twitterです。かの有名な、内田先生のTwitterでご覧になったんですね。それで、「そうなんです」って、そう申しました。
そうなんです、先生は、車の移動中も、こうして、こう(携帯電話を操作する仕草)…何度もやってらっしゃるんです。「あ、Twitterってこういうことなんだわ」と楽しく拝見しておりました。

内田先生のゴハンを召し上がるスピードは相当、速い。はい、そう思います。
そして、その間に、いろんなお話を先生に伺いました。(伊丹十三の)講演に行ったお話とか、大阪ダブル選挙の話とか、いろいろ伺って、「ああ、館長ってこういう役得があるんだな」と。こんな幸せな時間はありませんでした。

では早速、内田先生をご紹介したいと思います。先生どうぞ!

講演会の様子

【内田先生登場】
内田 どうもありがとうございます。
宮本 どうも。何か話さなくちゃいけないんですよね、ふたりで。
内田 そうですね。あのー、美味しかったですね、今日のご飯ね。
宮本 ほんとうにもう、すごく美味しかったんですよ(客席に)。
内田 海が見えるところで。
宮本 はい。
内田 すーごく美味しかったですね、最初がイカで。
宮本 イカとピータン和え。
内田 それからブリとオコゼのお造りで、それから、えーと、ヒラメ…
宮本 ヒラメ?
内田 ヒラメが出ましたね。
宮本 あ、ヒラメでした? フグじゃなかった?
内田 ヒラメの唐揚げを藻塩(もじお)で食べて、藻塩が美味い美味いと言って料理長を呼んで、この藻塩はどこで採れるんだと聞いて。
宮本 お塩ですね。
内田 このお魚5品だったんですけど、お昼の12時にお魚5品を出されて、酒を飲まずにいるということの苦しみに…もう、苦しかったですね(笑)。
宮本 かなり。「私たち、もうこれいただいたら帰りましょうか」みたいな。
内田 「これ、ちょっともう、お酒頼んじゃいましょうか。7時からだから、ちょっと飲んじゃっても」って。
宮本 そんな感じ。でも先ほど先生また召し上がりましたよね。パクパクって。
内田 ああ、カツサンドをいただきました。終わるの9時頃になるというので、お昼から何も食べていなくて途中でガソリンが切れるとまずいので、ちょっとカツサンドをいただきました。
宮本 それも速かったですね。お速かったですねスピード。
内田 ご飯食べるの速いんです。
宮本 素晴らしいです(笑)。
内田 …えー、(客席を見て)今日はすごいですね。なんか漫才みたいですけど、すごいです(笑)。上までいっぱい入って。
宮本 ほんとうにすごいんですよ、はい。
内田 こんなにたくさん入っている会場でやるのは久しぶりです。2年くらい前に鳥取西高校の高校生2千人を前にしてやって以来で(笑)。あの時は高校生でしたけども、今回は年齢も、男女もさまざまな方たちで、大体どんな客層なのかよく判ってないんですけども。
(客席の一角を指して)そこら辺にいるのはうちの身内なんですけどね。

宮本 そうなんですか、ようこそ、ようこそ(笑)。
内田 僕がここで講演するっていうので「それじゃあ」とかこつけて、講演聞きがてら道後温泉に行こうっていう人たちが集まって、バスを仕立てて来てるんですよ。「社員旅行」です。
宮本 そうですか、まあ、ありがとうございます。
内田 なんかねえ、ほんとに、大衆演劇の追っかけみたいな(笑)。だからこの人たちは何を言っても笑ってくれるので、すごく楽なんです。
宮本 じゃあその他のお客様に…
内田 だから、他の方たちとすごく温度差が出来るとやだなと思って。
宮本 先生は伊丹十三が大好きだって贈呈式のときに言ってくだすって、それですごくびっくりしたのが、自転車に乗るときに、坂ですよ、坂をブレーキをかけないで…
内田 そんな話はしてませんよ(笑)。
宮本 え、そうでした?
内田 いや、車の運転のときの話ですよ。
宮本 あ、車の運転のときだ。
内田 車の運転のときはギアチェンジで減速するものであって、ブレーキを何度も踏むものじゃないっていけないってエッセイに書いてありましてね。最初にそれを読んだ頃はまだ免許持ってなかったんですけど。
宮本 ええ。
内田 とにかく多くのことをわたくしは伊丹十三のエッセイ集から学んできました。
宮本 でも私、伊丹さんのことで真似してもらいたくないことがあって、それは何かっていうと、あの…車で走っていて、ものすごい勢いで割り込みする人を、絶対にね、入れなかったんですよ。
内田 ああ、そうなんですか。
宮本 絶対、入れないの。
内田 妨害するわけですか。
宮本 妨害っていうか、「絶対許さない!」っていう感じで。そうすると向こうが、頭にきますよね。そうしてガーッと寄ってくるのに、それをこらえてまた走るんです。
内田 すごいですね、『ベン・ハー』みたいですね。
宮本 横に乗っていて、「お願いだからやめて、やめて!」って。先生それだけは、真似しないで。
内田 あ、僕はそういうことはしないですね。
宮本 そうですか、ああ良かった。これでもう私安心しました。
内田 僕ね、人に"人の道"を教えるっていうタイプの人間ではあんまりないのですよ。あ、今日その話もするんですけどね。伊丹さんのある種の自己規範とか規律性とかあるいは規矩の精神とか、その話を「戦後精神」と絡めてお話したいと思います。
宮本 ああ、もうぜひ。
内田 僕は「戦後精神」じゃないのですけども、憧れを持っておりますので、その憧れについてお話しをしたいと思います。
宮本 では、さっそく先生、よろしくお願いします。
内田 よろしくお願いします。

(宮本退場)

1 2 3 4 5 6 7 >


伊丹十三賞