こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2024.11.18 寝室
11月も後半に差し掛かってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今年は10月を過ぎても暑かったので、秋が大変短く感じました。2024年も残り1か月半、やり残したことを片付けたいなと思う今日この頃です。
最近の記念館の様子。桂など木々の葉がだいぶ落ちてきました。
わたくしごとではございますが、実は近々引っ越しを控えておりまして、新居の掃除をして一部荷物を運んだり、現在の家の片付けをしたりなど少し忙しい日々を過ごしております。現在住んでいる部屋がワンルームで収納も少ないため、あまり物を溜め込んでいるという自覚がなかったのですが、荷物をまとめ始めてみると単身パックの引っ越しでは出来ない荷物の量と発覚いたしました。生活を営むのは意外と物入りなのですね。
伊丹さんは物を捨てない人だったそうですので、長い時間をかけて集まったものであるとは言え、収蔵されている愛用品の数を考えると、引っ越しはとても大変だったのだろうと予想されます。現在の企画展で展示されている調理器具や器だけでもかなりの量がありますので、これをひとつひとつ割れないように包んで箱詰めして...となるとかなりの重労働だったんだろうな、と最近は展示品を見るたびに考えてしまいます。
それぞれ形の違う盃は特に梱包が大変そうです。
部屋の片付けをする中で、自宅は趣味や好みが顕著に出るものだとしみじみ感じ、ベッド周りが特にその傾向が強いように感じました。さて、ベッドに持ち込む物について、伊丹さんが詳しく紹介しているエッセイがございます。それが『ぼくの伯父さん』に収録されている「寝室」です。
コシノ・ジュンコさんがベッドに持ち込む品品は次の通りであるという。(こういう癖がついたのは離婚してからだそうです)
電話・紅茶(ティー=ポットとカップ)・時計・煙草(ハイライト)・灰皿・ライター・鉛筆・消しゴム・水差し・目玉焼き・砂糖・塩・胡椒・ケーキ・テレビ・ノート・原稿用紙・レコード=ジャケット・爪切り・ポートレート・(アンティク=マーケットで売ってたやつ)・人形・マンガ・(たとえば『はじめ人間ゴン』)・本(たとえば『あの日暑くなければ』)・スケジュール表
これだけの物を持ち込んでしまうと、何か忘れ物があってももうベッドを出る気はなく、この上はただただ小間使いが欲しいとか......
私がベッドへ持ち込む品品
(例、昨夜)
原稿用紙・4B鉛筆・ペリカン消しゴム・明解国語辞典・新潮国語辞典・用字便覧・電気鉛筆削り・サントリー=オールド・氷・ミネラル=ウォーター(フジ)・タンブラー・オールド=ファッションド=グラス・おつまみ(竹輪、茹で玉子、里芋の煮ころがしの残り物)・書物(『古墳の話』『まぼろしの邪馬台国』『倩笑至味』)
大体以上のようなものだが、以前には煙草を吸っていたから、この上にロスマンズ二た箱・時計印マッチ・錫の灰皿(落しても割れない)が加わっていた。これだけの物を持ち込むと、私は安心のあまり、あっという間に寝てしまうことが珍しくないのである。
私の場合こういう癖は結婚してからついた。
(『ぼくの伯父さん』より「寝室」)
いかがでしょうか。原稿用紙や辞典は腹ばいで原稿を書く点からしても伊丹さんらしい物に思います。また、ウイスキーやグラスと書くのではなく、「サントリー=オールド」、「オールド=ファッションド=グラス」と書くのにこだわりが見られます。個人的には、竹輪と茹で玉子はともかく、里芋の煮ころがしの残り物まで持ち込んでいるのが、しっかり晩酌をしようという意気込みが感じられてとても好きなポイントです。(エッセイ内に箸が書かれていなかったのですが、伊丹さんもしかして素手で食べていた可能性もあるのかしら?)
皆さまもこのエッセイを読まれた後にベッド周りを見ていただきながら、伊丹さんに思いをはせていただけますと幸いです。
『ぼくの伯父さん』
オンラインショップでも販売中です。
さて、蛇足ではございますが、ベッドサイドテーブルに雑然と置かれておりました私が日ごろベッドに持ち込む物たちをご紹介したいと思います。たった数行でも、人となりがなんとなく分かるので面白いものですね。
読書灯・読みかけの本(『うたかたの日々』『きまぐれ博物館』『地下室の手記』『小さな名画の本』『哀れなるものたち』)・スケジュール帳兼日記帳・カラフルなボールペン数本・シールやコラージュ素材の入ったクッキー缶・常用薬やサプリ・蒸気で温めるタイプの使い捨てアイマスク・Switch・iPad・iPhone・各種充電器
学芸員:橘
2024.11.11 『お葬式』誕生40周年! その2
6月24日の投稿で「2024年は伊丹十三の監督デビュー作『お葬式』の制作・公開から40年のアニバーサリー・イヤー」とご紹介しました。
そしていよいよ、今週末の11月17日(日)は『お葬式』封切りから丸40年、「ハッピー・バースデー、『お葬式』!!」なのであります。("お葬式"の"バースデー"とは何とも妙な取り合わせですねぇ。)
ここでチョイと豆知識。
1984年10月、映画『お葬式』は、まだ一般公開されていなかったにもかかわらず、第8回山路ふみ子賞を獲得するという快挙を成し遂げています。
伊丹監督本人も「8月13日に完成してから、この一カ月くらい、ずっと試写をしていたので、公開されてるっていうことになったのかなぁ」(※)と若干戸惑った様子のコメントを発しましたが、前評判・期待値の高まる中、封切り日を迎えたのでした。
※1984年10月27日付毎日新聞より
さて、1億円強の制作費で完成した『お葬式』が"元"を取るには、上映用フィルムのプリント費用や宣伝費、映画館の取り分なども勘定に入れると、3億円分のお客さんを集めてやっとトントン。
このトントンのラインまでたどりつくためには、500人以上の客入りの映画館が10軒ある状況を6週間持続しなければならない、との試算(※)をしていたそうです。
そもそも上映予定館が10~14館と限られていた『お葬式』には、相当のハードルだったと言えるでしょう。
※『「お葬式」日記』p.319-320より。上映館と動員数の一覧表もp.321 に掲載されています
『「お葬式」日記』(文藝春秋、1985年)
6月のクランクインから8月の湯布院映画祭までの詳細な記録と
構想から公開までを微に入り細に入り解説した監督インタビュー、
『お葬式』のシナリオで構成されています。古書でお求めください。
が、11月17日の土曜日に封切られるや、上映館には老若男女が詰めかけ連日長蛇の列。立ち見客があふれて扉が閉まらない映画館もあったとか。そして客足は衰えることなく"3億円のハードル"は年末までにクリア、年明けからは全国展開――最終的に12億円もの配給収入(※)を上げ、大ヒット作となりました。
※配給収入:各映画館は興行で得た収入(=観客の鑑賞料金、興行収入)から配給会社に上映料金を支払います。この配給会社の収入を配給収入と言い、かつては映画の興行成績の指標として用いられていました。(2000年以降、興行成績の指標には「興行収入」が用いられています)
この大入り・大ヒットには"口コミ"が大きく影響したそうですが、SNSに感想を投稿したり評価サイトに☆をつけたりといった方法がなかった1984年、人々は「これは面白い!」「ぜひ見て!」という思いをどうやってやり取りしていたのでしょうか......
1980年代の口コミ事情をあれこれと想像すると、誰でもウェブサイトに書き込めるのが当たり前になった現代よりも、情熱的なものを感じずにはいられません。
映画の出来の良し悪しに売れたコケたはあまり関係ないと考えていますが、『お葬式』のヒットに関しては、公開当時の観客の面白い映画を渇望する思い、熱気が伝わってくるので「ああ、その熱狂の場を経験したお客さんたちが羨ましいなぁ」とため息をつくばかりです。
『お葬式』Blu-ray 税込5,170円
記念館グッズショップで販売しております!
そういうわけで、今年の11月17日、帰宅したら「40年前の映画館にいるつもり」に浸りながら『お葬式』をBlu-rayで鑑賞してみようと思います。
みなさまもぜひ。
学芸員:中野
2024.11.04 メンバーズ会員制度と収蔵庫ツアー
記念館便りをご覧のみなさまこんにちは。ここのところ随分涼しくなってきましたがいかがお過ごしでしょうか。
さて、今月はメンバーズ会員様限定の収蔵庫ツアーが開催される予定です。
まず、メンバーズ会員制度とは、1年間入館料無料で何度でも伊丹十三記念館にご来館いただける制度です。さまざまな特典をご用意しています。
メンバーズ会員制度について詳しくは こちら から
そして、収蔵庫ツアーとは、普段はご覧いただけない収蔵庫を学芸員がご案内する催しです。もともと収蔵庫ツアーはメンバーズ制度関係なく、開館記念の4月か5月に開催されるイベントでもありますが、大変人気のあるイベントでご応募が多く毎度抽選となってしまいます。
収蔵庫全体
しかし、メンバーズ会員様にはこれとは別に「メンバーズ限定収蔵庫ツアー」を設けており、収蔵庫ツアーにご参加いただけるようになっているのです。
収蔵庫には、数多くの伊丹さんのコレクション、原稿などがあり、どれも見応えがありますが、さりげないところにも伊丹さんのセンスの良さが垣間見えるモノが置いてあったりして、我々も入る度に発見があります。
記録撮影のために同行した収蔵庫ツアーにおいて、思わず撮影してしまったゴミ箱
是非みなさまにも伊丹さんの世界に触れていただき、伊丹さんらしさを発見していただきたいと思います。
今月行われる秋の「定期開催ツアー」は締め切りが終了しておりますが、4月、9月21日~翌年3月の期間中のお好きな日をご自由に選んでお申し込みいただける「自由申込ツアー」もございますので、気になる方は是非メンバーズ会員へのご入会をご検討ください。
スタッフ:川又
2024.10.28 グッズのリピート
記念館便りをご覧のみなさま、こんにちは。
日中、もうすぐ11月とは思えないくらい気温の高い日がありますが、朝晩はそれなりに冷え込んでまいりました。気温差が大きく体調を崩される方が多いと聞きます。皆さま、どうぞ日々お気をつけてお過ごしください。
さて、9月の中旬に来館されたあるお客様は、3年程前にも一度お越しくださったという再来館の方でした。
前回の来館時に、記念館のショップでクリアファイル、マグネット、ゴム印などのオリジナルグッズを多数購入され、ずっと使ってくださっていたそうです。
「気に入ってよく使っていたら、特にクリアファイルはぼろぼろになってしまった」ということで、再来館を機にもう一度お買い求めくださいました。
記念館のグッズを長く、しかもリピートして使い続けてくださるのは本当に嬉しいです!
今回リピート購入してくださったのはA5サイズのクリアファイルとマグネットでした。お土産やご自分用に人気のある商品ですので、ちょっとご紹介しますね。
<A5クリアファイル>
デザインは2種類あって、一つは1971年4月に雑誌「ミセス」に掲載された伊丹さんのエッセイとその挿絵をプリントしたもの(下の写真左)。もう一つは、『伊丹十三選集』(全三巻、岩波書店)の刊行記念で作ったもので(下の写真右)、本のケースにプリントされたイラストが並んでいます。
A5クリアファイル(各税込220円)
裏側には「伊丹十三記念館」のロゴがプリントされています。
A5サイズの書類が入り、レシートやチケット、小さなメモ書き等々、ちょっとしたものを入れて持ち運ぶのに重宝するということで、大変ご好評いただいている商品です。A4サイズのクリアファイル(こちらもデザイン2種類、各税込220円です)もありますよ。
記念館のロゴ
A4とA5のクリアファイル
<マグネット>
直径5.5センチのマグネットには、伊丹さんが描いたエッセイの挿絵がプリントされています。全部で5種類の絵柄がありますが、マグネットを冷蔵庫に貼るというイメージから、料理や調理道具にちなんだイラストが使われています。もちろん冷蔵庫に限らず、家中いろんなところに使っていただけます。
マグネット(各税込330円)
今回ご紹介したのはA5クリアファイルとマグネットですが、他にも、Tシャツやゴム印、マグネットなどなど、日常で使っていただけるオリジナルグッズをご用意しています。オンラインショップでも取り扱っていますので、ご興味のある方はもちろん、リピートされたい方はぜひご利用ください。
お客様のいつもの日常で、グッズを使っているときにふと記念館を思い出していただけたら、スタッフ一同大変嬉しく思います。
ご来館の際は、ぜひショップをご覧になってくださいね。
スタッフ:山岡
2024.10.21 『フランス料理を私と』
2024年も残すところあと2か月と2週間となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
10月も中頃になっているのに最高気温が30度に近く、いまだに夏の終わりのような感覚で、本当に冬になるのかしら...と心配になってしまう今日この頃ですが、記念館では中庭の桂がだいぶ色付いてまいりました。中庭にほんのりキャラメルのような甘い香りが漂っていて、気温は高いですが秋を感じられる毎日です。
皆さまは秋といえば何を思い浮かべられるでしょうか。芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋、実りの秋、食欲の秋――。
色々な"○○の秋"がございますが、本日は、食欲の秋にぴったりな『フランス料理を私と』をご紹介させていただきます。
『フランス料理を私と』は文藝春秋社から1987年に刊行された書籍で、雑誌「文藝春秋」での連載「伊丹十三のフランス料理+α」がまとめられています。
全12編で構成されておりまして、文化人類学、精神分析、言語学などの様々なジャンルの研究者・専門家たちのお宅を訪問し、台所を借りて本格的なフランス料理の指導を受けながら調理をし、出来立ての料理を食べながら対談をするという内容です。
本格的なフランス料理を作り、対談を行い、自ら書き起こして原稿執筆をするという、伊丹さんだからこそ出来た挑戦的な内容となっております。
なお、この本をクックブックとして使用するというような、一部の無謀な読者のために、御覧のように料理の写真を多用することになってしまった。それも、文章は文章、カラー写真はカラー写真などといういい加減なことはいやなので、料理の解説とその説明のための写真をできるだけ一致させることを原則にして本を作ったため、全ページカラーというこの種の書物としては馬鹿馬鹿しい構えにならざるをえず、従って、活字と写真分離方式より若干値段が高くなっているが、これはやむをえないことである、御賢察いただかねばならぬ。
(『フランス料理を私と』より「フランス料理 玉村豊男」編から一部抜粋)
書籍の最初で上のように伊丹さんが宣言しているとおり、調理についての詳細な手順がカラー写真を多用して紹介されております。こちらのページでは、エクルヴィスという養殖のアメリカ・ザリガニの背ワタの取り方、殻の取り方の手順を詳しく紹介しております。全編にわたって、料理パートではこのように詳しくカラー写真で説明がなされており、大変見ごたえのある内容となっております。
カラー写真を多用した調理パートも面白いのですが、対談の内容も大変面白いのです。(対談パートに載っている写真は、完成した料理のカラー写真と、対談の様子のモノクロ写真です。)
精神分析理論家の岸田秀さんとは育児論について、心理学専攻の佐々木孝次さんとは日本人論について、動物学専攻の日高敏隆さんとは進化論についてなど、食と人類をテーマに対談しています。生活をする中で当たり前の営みである食を発端に専門的な分野から人類について考察していくので、難しそうな内容でもすんなりと読むことが出来ます。
さて、本日ご紹介させていただきました『フランス料理を私と』ですが、こちらは現在記念館で開催しております企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』にて、書籍の見開きページと直筆原稿をご覧いただけます。
展示しておりますのは、エッセイスト・画家として知られる玉村豊男さんとの対談部分です。直筆原稿は、書籍に掲載されております対談の後半部分、全10枚がご覧いただけます。伊丹さん流のダイエットの「型」について話を進めますが、そのダイエットの取り組み方から母親・父親との関係や他者との関わり方について考察が深まっていく様子を直筆原稿にてご確認いただけますので、ご来館の際にはぜひご一読ください。
また、企画展示室にて、『フランス料理を私と』に載っている伊丹さんの写真をスライドショーでご覧いただけるコーナーもございますので、お見逃しなく!
企画展示室にてご覧いただけますスライドショー「フランス料理に挑戦!」
調理している様子や、使用する食材と一緒に映る伊丹さんがご覧いただけます。
食欲の秋にふさわしい『フランス料理を私と』、いかがでしたでしょうか。残念ながら現在は絶版となっておりますので新品を購入いただくことは出来ないのですが、企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』にて十分に魅力を感じていただけることと思いますので、ぜひご来館いただきましてお楽しみいただけますと幸いです。
学芸員:橘
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