記念館の展示・建物 ― 常設展
展示(11)「精神分析啓蒙家」
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「精神分析啓蒙家」伊丹十三が二人の息子の父となり、湯河原の自然が豊かな場所で子育てをしたい、と移住を決断した頃から、伊丹十三の「男性的人生観」に変化が現れ始めます。子を育てていると、育てられていたときの自分が見えてくるから、なのでしょうか。本読みだった伊丹十三は、この湯河原時代に精神分析に傾倒し、一冊の本と衝撃的な出会いを果たします。その本、岸田秀『ものぐさ精神分析』を読む経験を伊丹十三はこう書いています──「いつしか私の存在の一番深いところで共鳴が始まり(中略)私は自分の目の前の不透明な膜が弾けとんで、目の眩むような強い光が射しこむのを感じ始めたのである。(中略)私は、自分自身が確かに自分自身の中から手を伸ばして世界をつかみとっているのを実感し、驚きと喜びに打ち震えた」(岸田秀『ものぐさ精神分析』(中公文庫)解説より)
 この“遭遇”の翌年、伊丹十三は岸田秀との対談共著『保育器の中の大人』を早くも刊行し、まもなく精神分析をテーマにした一般読者向けの斬新な月刊誌『モノンクル』を責任編集者として創刊するに至ります。『モノンクル』は話し言葉で書かれた雑誌を目指していた、ちょっと「早すぎた」雑誌だったのかもしれません。

雑誌「mononcle」

 伊丹十三責任編集による月刊誌。精神分析の視点から「日本語」「性」「映画」「犯罪」「子育て」「人生相談」など同時代の社会や生活を捉えた、画期的な雑誌でした。
 若手から大御所まで当時の代表的文化人を揃えた執筆陣は、現代では再結集不可能なほど豪華な顔ぶれ。ちなみに、タイトルはフランス語で「ボクのおじさん」という意味です。

雑誌「mononcle」

精神分析を分かりやすく

 精神分析にのめり込んだのは自身の子育てが契機だったと言われています。
 精神分析学者岸田秀とは数回に亘って対談を行ないましたが、その際には文字起こしから自分で行ない、説明の補助としてのイラストを描くことで、一般には疎遠なイメージの強い精神分析を分かりやすく伝えることに心を砕いていました。

精神分析を分かりやすく