記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2021.07.26 伊丹さんの夏休み


松山は1週間ほど前に梅雨が明けました。そして夏休みも始まりました。

私は毎年夏休みの時期になると伊丹さんの子供時代の立派な研究や日記や観察ノートの数々について考えます。
ちょうど一年前の 「記念館便り」 にもそれらについて書いていたようです。
どんな風に夏休みを過ごして、あんなに立派な研究や観察ノートを仕上げていたのか気になりませんか?

伊丹さんが自身の小学校三年生の頃の夏休みの様子について書いた文章をご紹介します。



今、私は目を閉じると、小学校三年の夏休みにつかまえたミヤマクワガタの姿がありありと目に浮かぶ。幼なかった私の小さな手がそいつをひっくりかえすと、そいつの六つの小さな足が一斉に空中でもがいた。そのありさまがまざまざと目に浮かぶ。
私はそいつを「観察」し「研究」してノートを作る。ノートにセルロイドの下敷きを敷き、とんがった固い鉛筆で一心に書く。夏の昼下り、底抜けに明るい光の中で、カブトムシがかさこそと動く。
あれから私は何をしたろう。笹舟を水に浮かべて遊んだのかな。床屋へ行ったのかな。床屋はクリクリ坊主になった私の頭へ、ツンとしみる緑色の液体を振りかけたのかな。

ー『カブトムシの歌』「ぼくの伯父さん」(つるとはな)より



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小学三年生の伊丹さんが夢中になってクワガタの観察をする姿が目に浮かびますね。
立派な研究や観察ノートは人一倍の好奇心や探求心で仕上げられていたことがわかります。
何でもない日常が輝いた思い出になっている様子も印象的です。
この文章の後には実際に「三年ろ組」の伊丹さんのクワガタの研究内容も載っています。
立派な研究内容ですので、機会がありましたら是非ご覧ください。


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【こちらは同じ小学三年生のときの玉ねぎ観察日記】



という訳で、皆さまも伊丹さんに負けないくらいこの夏の良い思い出を作って下さい。


スタッフ:川又

2021.07.19 豆乳ブルーベリーはじめました

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
夏らしく、気温もどんどん上がってきました。さらに緑色を深めた中庭の桂の木には、特に天気のいい日などそこかしこに蝉がとまって、にぎやかな大合唱が聞こえてきます。

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そんな夏の中庭を眺めながらお寛ぎいただくカフェ・タンポポで、期間限定のメニュー・豆乳ブルーベリーがスタートいたしました!

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この時期になると登場する季節メニューですが、ありがたくも毎年多くのお客様にオーダーしていただく、大人気のドリンクです。

ブルーベリーの酸味と豆乳のまろやかさが程よくミックスされ、後味はすっきり。いかにも「ブルーベリー!」という紫色に、上にのせたミントの緑がちょっとしたアクセントとなって、見た目もさわやかですよ。

小さいお子様からご年配の方まで世代を問わずお楽しみいただけます。

この豆乳ブルーベリーのほか、6月7日の記念館便りで「これからのおすすめメニュー」をご紹介しています。
記念館にお越しの際は、ぜひお好みのドリンクと一緒にカフェ・タンポポでお寛ぎください。

スタッフ:山岡

2021.07.12 伊丹万作の手作りカルタ


伊丹十三記念館には伊丹十三の父・伊丹万作手作りの「芭蕉いろはカルタ」を展示しています。

伊丹万作が市販の軍国主義的な内容のカルタで遊ぶ子供たちを不憫に思い、その裏側に芭蕉の俳句と絵を描いて作ったものなのだそうです。

伊丹十三は子供の頃、実際にこのカルタでよく遊んだそうですが、大人になって三十年ぶりにこのカルタを見た際には大変驚いたそうです。




「これはびっくりしましたねえ。まず、その力量に圧倒されましたね、私は。そしてまた、その絵や字の裏に流れている、なんともいえぬ人間の好さ、高さですね、これはもう参りましたね。ああ、ここまで行ってる人だったか、という思いがありましたね。
 父がこれを作った時、四十四歳くらいだったわけですから、考えてみれば私はそろそろ同じ年齢に達しようとしてるわけでしょう。こりゃ考えますねえ、だって、これを描けるようになるには、また別の一生を必要とするようなものですよ、このカルタは。」

―「父、万作のかるた」『ぼくの伯父さん』(つるとはな)より


大人になると、子供の頃に見たものや景色が随分違って見えることって確かにありますが、大人になった伊丹十三にここまで言わせるってすごくないですか?

記念館企画展示室にはこの伊丹万作手作りのカルタの複製と、一部実物も展示しています。

これらをご覧いただきましたら、伊丹十三の言う通り力量に圧倒されるというのも確かにそうですが、伊丹万作の子供たちへの愛情や思いも伝わってくるかと思います。
ご来館の際にはお見逃しなくご覧ください。


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スタッフ:川又

2021.07.05 旅とは何か

7月になりました。
梅雨が明ければ夏本番、ということになります。

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この夏、旅行をしてもいいものか、どうか、悩んでおいでの方がたくさんいらっしゃることでしょう。

あるいは、旅行はまだまだ、帰省もまだまだ、と割り切っていながら、夏休みや年末年始、GWが近付くたびに「旅や遠出の計画を立てられないのはつまらないなあ」と心が萎れそうになり、それに耐えるので精一杯という方も多いことでしょう。

わたくしは、と申しますと、旅行というものにそれほど興味がないといいますか、むしろ「苦手」と自覚しているほうなので、旅に出られないこと自体にはさほど苦痛を感じないのですが、たとえば――

  • 伊丹さんが小さい頃に家族と行った、京都府立植物園
  • 辻留さんに教わったと『女たちよ!』に書かれている箸屋さん、四条堺町の市原箸店
  • 『小説より奇なり』の三島雅夫さんの談話に登場した、昔ながらのお菓子屋さんいろいろ
  • 『あげまん』のロケ撮影に使われた日枝神社

といった、「業務をかねて覗きに行ってみたいところリスト」が全然消化できない事態には、少々焦りを感じはじめております。


「次に東京に行ったらついでに」「次に関西に行ったらついでに」と思っていましたら、その「次」の機会が全然来なくなってしまいまして......

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まあ、今の世の中、旅行や外出に関して、何の鬱屈も感じずに生きていられる人はいませんよね......というわけで、ここでひとつ、旅の達人・伊丹十三による名言を。

旅をする心を持つ人にとっては、近所を散歩して、見知らぬ道にふいと踏み入ることすら旅であるだろう。

「おしゃべりな旅人」『JJ』1975年6月号より

ご参考になりましたら幸いです。
どなた様もご自愛くださいますように。

学芸員:中野