記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2021.10.25 読書の秋と食欲の秋に

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
ついこの間まで「今日も暑いですね~」と挨拶のように口にしていたのですが、ここ数日は「寒いですね~」に変わってきてしまいました。冷房から暖房に早変わりです。
急な気温の変化に、皆さまどうぞご注意くださいね。


1025-1.jpg中庭の桂も秋めいてきました

つい先日のことですが、記念館ショップの本棚の前で「この本おすすめだよ!読書の秋と食欲の秋、両方楽しめてお得だよ!」と、伊丹さんの著書『女たちよ!』を手に、お連れ様に熱心にプレゼンをされているお客様がいらっしゃいました。


お客様がすすめていらした『女たちよ!』(新潮文庫)は、スパゲッティのおいしい召し上がり方から車の正しい運転方法まで "真っ当な大人になるにはどうしたらいいのか" 伊丹さんが実用的な答えを示しているエッセイですが、その中には料理通で知られた伊丹さんならではの、食や料理に関するエッセイがいくつも載っています。そのとおりに作ることのできる "レシピ" も書かれているのです。

例えば、「カルボナーラ」や「ダッグウッド・サンドウィッチ」の作り方がこんなふうに書かれています。

 スパゲッティを大きな鍋で、できるだけ大量のお湯で茹でる。スパゲッティはすかっとした歯ざわりが身上であるから決して茹ですぎてはならない。
 ベーコンを小さく切って、ベーコンが油と分離してかりかりになるまで炒め、これを油ごとあらかじめ暖めた大きな鉢に入れる。一人一個くらいの割りで卵をとき、その中に胡椒挽きで黒胡椒をがりがり挽いて入れる。
 さて、これで準備完了、仕上げは瞬間的である。すなわち、スパゲッティのお湯を手早く切り、まだ熱くて湯気の出てるやつを、ベーコンを入れた鉢にどっとあけ、卵をざぶりとかけてかきまわす、これでよい。
 卵が少なすぎると卵がそぼろ風に固まってうまくないから注意を要する。
 食べる時にはパルミジャーノというチーズを、スパゲッティが見えなくなるくらい振りかけて召し上れ。

「深夜の客」より

 

 

 サラダ菜、胡瓜、トマト、ロース・ハム、やわらかく作ったスクランブルド・エッグ、オイル・サーディン、バター、ジャム、マヨネーズ、マスタード、こういうものを食卓の上に賑ぎにぎしく取り揃えて、片っ端からパンにはさんで食べる。少くとも厚さ四、五センチのサンドウィッチを作って、行儀にかまわず食べる。

「ダッグウッドの悦び」より

確かに、このお客様のおっしゃる通り、読んで楽しめて、かつ実際に作って食べるとおいしいという、「読書の秋と食欲の秋、両方楽しめてお得」なエッセイですね!お連れ様も興味津々になってお買い上げくださいましたので、今頃いくつかの料理にチャレンジされているかもしれません。

『女たちよ!』には、この他にも食や料理に関するエッセイが何編も掲載されています。
秋の夜長に、ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

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スタッフ:山岡

2021.10.18 アーティチョーク


先日、花屋で見つけて思わず買ってしまいました。アーティチョークの苗です。

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アーティチョークとは、伊丹十三が「ヨーロッパ退屈日記」で紹介していた野菜、といいますかハーブです。

伊丹十三はこのアーティチョークの蕾をおつまみとして食していたそうです。スーパー等でこの蕾が売っているのは見かけたこともありますが、苗を見たのは初めてだったのでよく調べもせず思わず勢いで買って帰ってしまいました。

だって「ヨーロッパ退屈日記」での伊丹さんのアーティチョークの説明がとても美味しそうだったからです。



「アーティショーというものがある。英語でいうとアーティチョークである。一見、緑色をした巨大な百合根の如きものであって、その、松傘風に重なった、鱗状の葉っぱの一つ一つは、肉の厚さや、先が針のようになっているところなど竜舌蘭の葉に似ている。」
 
「これを二十分ばかり茹で、次に冷蔵庫に入れて冷やすのである。これで調理は終り。
 小皿にオリーブ油を入れて、これにレモンを少々絞り、ブラック・ペパーをたっぷり、塩を少量振りかけてドレッシングを作る。
 食べ方、などといっても格別のことはない。アーティショーの葉っぱを、外側から順に一枚ずつむしってはドレッシングにつけて食べるのである。
 ただし食べるといっても、葉っぱの一番根元のところに少量の柔らかい肉があるだけだから、葉っぱの真中あたりを歯でくわえ、葉っぱの先端をつまんでしごくように引き抜くのである。
 こうして何十枚の葉っぱを順番に食べてゆくと、内側になるに従って、葉っぱはだんだん柔らかくなり、ついには殆どそのまま食べられるようになる。
 さて、葉っぱを全部むしってしまうと、お皿の形をした芯が残る。芯には細かい毛が密生しているが、これはつまんで引っ張れば一団となって簡単にはがれるから、むしり取って捨てる。この芯がまたうまいね。しかもこの芯に至るまでの行程が、どんなに急いでも十分や二十分はかかるから、こんな愉しい食べ物はまたとあるまい。わたくしは、マドリッドでアパートを借りてから毎日二つか三つずつ食べ続け、多い時には一日七つも食べたのである。
 どんな味がするかっていうと、そうですねえ、一等近いものはそら豆じゃないかな。」


―『ヨーロッパ退屈日記』「おつまみ」-


1018-2.jpg【ヨーロッパ退屈日記の挿絵】


ね。思わず苗を買って育ててしまいたくなる文章でしょう?

ところで、買ったあとに気づいたのですが、かなり葉がトゲトゲしています。
それもそのはず、アーティチョークはアザミの仲間だそうです。
しかも成長すると葉は直径1メートルほどになるとか、ならないとか。

何はともあれ、収穫に向けてプランターに植えてみました。


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オリーブオイルとレモンとブラック・ペパーとお塩でオシャレに愉しくアーティチョークを食べられる日はくるのでしょうか。

収穫できましたら、記念館便りにてご報告させていただきますので、期待してお待ちください!


スタッフ:川又

2021.10.11 チラシ裏面

あさって「十三」日は、「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」の日です。

今回は伊丹さんの映画監督デビュー作品「お葬式」を上映いたしますので、ご興味のある方、お時間のある方はぜひご鑑賞にお越しくださいね。

詳細はコチラをクリック

さて、記念館には伊丹さんの映画が好き・興味がある、という方はたくさんお越しくださいますが、そんな方に見ていただきたいのが、常設展示室「十三 映画監督」のコーナーにある可動式パネル展示台です。


自分で動かして(めくって?)みることができる80センチ×60センチのパネルは、一方の面は映画のポスター、そしてもう一方はその映画のチラシ裏面になっています。

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可動式パネル展示台

 

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映画「お葬式」チラシ裏面

見ごたえのあるポスターはもちろんなのですが、合わせてじっくりお読みいただきたいのが、反対側のチラシ裏面。
思わず観てみたくなるように映画が紹介されていて、当時、このチラシ(の裏)をみて実際に映画館に行かれた方がたくさんいらっしゃったんだろうなぁ...と思います。

例えば今回の「お葬式」のチラシ裏面ではこんなふうに。

伊丹監督のクランク・インの弁。
「私の目的はただ一つ。映画らしい映画を作りたい、ただそれだけです。
この作品の中では、葬式というふるさとの儀式の中に突然投げこまれた都会人たちの滑稽にして悲惨な混乱ぶりを涙と笑いのうちに描きたい。幸い脚本は評判よく、また最高のキャスティング、最高のスタッフ編成ができたので監督としてはみんなの仕事ぶりをただ眺めていればよいのではないか。」

実際に、伊丹映画は未視聴というお客様から「チラシ裏面やパンフレット(企画展示室でご覧いただけます。時期により作品は異なります)を見たら、映画を観たくなりました」とお声がけいただいたこともあるんですよ。
もちろん、観たことがある方も十分面白く読んでいただけると思います。

今ではなかなか目にする機会も少ないと思いますので、ご来館の際はぜひお見逃しなく!

スタッフ:山岡

2021.10.04 伊丹さんが愛用していた調味料


先日、常設展示室の展示台の消毒をしながら、展示されている伊丹さんの「厚焼玉子」のレシピをぼんやり眺めておりました。
そうしましたら、その厚焼玉子のレシピの中に「味の素」という文字を発見しました。

伊丹さんは「味の素マヨネーズ」のコマーシャルに長く出演しており、展示室内でも、売店の店頭で常時流しているDVD「13の顔を持つ男」の中でも、もう何度となく伊丹さんの声で「味の素」と耳にしています。

しかし、お仕事とまったく関係のない完全に自分のためのメモです。
字も人に見せるための字ではないようです。

そんな超プライベートなメモの中に「味の素」の文字を発見すると
「あ、伊丹さんも味の素使うんだ~」
と、何だか改めて驚き、そしてしみじみしました。

きっと伊丹さんのことですから試行錯誤を重ねて出来上がったレシピなのでしょう。
その中に、「味の素」。
「うま味調味料」なんて書きません。
「味の素」です、「味の素」。

わかりますよ伊丹さん、味の素を入れると何でも美味しくなるんですよね~。


記念館にはこのように、ふと、仕事の顔や外に向けた顔ではなく、普通に生活していた一人の人としての伊丹さんの素の部分が垣間見えるところがあります。

皆様もご来館の際には発見して、しみじみして下さいませ。

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厚焼玉子のレシピをよく見ると


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ほら!味の素。



スタッフ:川又