記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2020.11.30 贈り物

帰省を控える方々を中心に、お歳暮向け商品の需要が高まっているそうです。
それとは逆に、帰省できない方々へご家族などが故郷の味を贈る"帰省暮(きせいぼ)"なんていう言葉も耳にしました。


この冬は、「会えない分、気持ちだけでも...」と贈り物に思いを込める方がたくさんいらっしゃることでしょうね。



記念館にも贈り物にまつわる展示がございまして――

まあお聞きや。
どうててこうてて、わしゃたまげたぞよ。
どがいにもこがいにもよいよいじゃが。
こんながねゃ、一六のタルト送ってきたんじゃが。
ほよほよ、あのよもだぎり言いよるんが、お前、
一六のタルトぞ。
わしゃもう、おっとろしいかぃ。

伊丹十三作・出演で1979年から愛媛県内で放映された、一六タルトのテレビCM「贈物篇」の語りです。

20201130_16cm_okurimono.png現在の企画展「おじさんのススメ シェアの達人・伊丹十三から若い人たちへ」で
松山弁・標準語訳の字幕付き(!)映像をご覧いただけます。

「まだまだ子供だと思っていた若者から、思いがけずタルトを贈られた親戚のおじさん」という設定なのかな、など想像がふくらみますが、「あいつも大人になったねぇ」というようなありきたりなことは言わずに「たまげた」「よいよいじゃ」「おっとろしい」と半分トボケた憎まれ口で表現しているのが、なんとも味なコマーシャルです。
一人芝居仕立てでありながら、長年にわたるあたたかい関係が、贈る人・贈られる人の間にあることが表現されていますよね。

※一六タルトCMの中でも「贈物篇」は『13の顔を持つ男』には収録されていませんので、ぜひ展示室でご覧ください。

それから、常設展示室「十二 CM作家」コーナーには、こんなものもあります。

20201130_seiyucm.JPG左:「アノネ、愛に関しては女の人は名人なわけよ。愛とは実践的にいうなら、
相手の立場に立つということだよね。相手のほしいものが判っちゃう」
右:「オイ、お前、しっかりやってこいよナ。
大体お前はちょっと気が弱くて引っ込み思案のところがあるけど、
自分のことをつまんないものだなんて思っちゃだめだぜ」

1970年代から80年代にかけて携わっていた、西友のCMシリーズの語りのメモで、お歳暮・商品券のCMのものです。

「女と愛とお歳暮選び」「商品券への激励」など、独特の切り口での宣伝となっていると同時に、「贈答とは何か」「お付き合いの神髄とは」を綴った小文としても読めてしまう、伊丹十三のコマーシャルの面白さを感じていただける資料です。

いつも通りの展示室でも、季節や社会情勢によって目に留まるものや心に残るものが変わるなあ、と殊に感じる今日この頃です。

あわただしい年の瀬を迎えるこれからの季節、「ちょっとひと息つきたいな」というとき、ぜひ記念館へいらしてください。お待ちしております。

学芸員:中野

2020.11.23 こんな「読書」はいかがでしょうか

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
中庭の桂は日に日に落葉し、葉っぱを楽しめるのもあと少しになりました。冬ももうすぐですね。



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さて、スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋...いろいろある「秋」を、「読書の秋」として過ごされている方も多いと思います。


ちょっと気分を変えて、こんな「読書」はいかがでしょうか――ということで今回ご紹介させていただきたいのが、伊丹さんが翻訳を手がけた『ポテト・ブック』です。



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マーナ・デイヴィス著、伊丹十三訳、トゥルーマン・カポウティ序

2014年11月に河出書房新社より復刊されました。


一見すると絵本のようなこの『ポテト・ブック』。
その名の通り、ポテトにまつわるあれこれがぎゅぎゅっと凝縮された、一冊まるごとポテトの本です。

伊丹さんの軽やかで味のある訳文で、ポテトの持つパワーやポテトの買い方、貯蔵法、ポテト料理の最初のステップ(ボイルする、蒸す、ベイクする、フライする)が紹介され、そのあとに90種類を超えるポテトを使った料理のレシピが続きます。
「ポテトの石鹸」「インチキ・フレンチ・フライ」「植木鉢のパン」――これらは『ポテト・ブック』で紹介されている料理の名前です。どんな料理なのか、ちょっと気になりませんか?
また、レシピだけでなく、ポテトの歴史やポテトを使ったゲーム、ポテト工芸や健康と美容に関する言い伝えなども載っています。多くのイラストレーターの方々によるユーモラスなイラストレーションも見ごたえがありますよ!

読んで、見て、作って......文庫本等と異なるこんな「読書」も、面白いのではないでしょうか。

「料理の本」ではあるけれど、ただそれだけではないこの『ポテト・ブック』。
伊丹さん自身、「訳者まえがき」でこんなふうに書いています。

 私はこの本を訳しながら、片っ端から作ってみましたよ。作っちゃぁ女房子供に食べさせた。これは楽しかったですね。ポテト料理というのは、安直でいながら、しかも想像力を刺戟するところがいいんです。つまり、今までせいぜい、じゃがいもの煮ころがしや、挽き肉とじゃがいもを甘辛く煮たやつや、マーケットのポテト・サラダや、肉屋で買ってくる冷えたコロッケや、どちらかといえば夢のない、いかにもお惣菜風の扱いでしかなかったポテトの彼方に、突如として、広広とした新大陸が出現したんです。ポテト料理とともに、牧畜文化が、大規模農業が、そして、それを生み出した生活のゆとりが、私の周辺に漂ってくると思われた......
 と、まあ、そんなわけで、私はこの「ポテト・ブック」を決してただの料理の本とは思ってないんです。いわば、アメリカ文化そのものが、自分の家の台所に出現した、というふうに感じるわけなんですね。この本自体が、私にとってはアメリカの旅なんです。


記念館ではショップ店頭で取り扱っていますので、ご興味のある方はぜひご覧くださいね。

スタッフ:山岡

2020.11.16 映画の前売券を購入した話



先日、初めて映画の前売券を購入致しました。


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1116-2-2.JPG【画像は前売券。裏面のQRコードで座席予約もできるそうです。】

11月20日公開の映画『STAND BY ME ドラえもん2』の前売券です。


実はこの『STAND BY ME ドラえもん2』には、みなさまご存知主人公・のび太君の「おばあちゃん」が重要な役どころで登場するのですが、今回そののび太のおばあちゃんの声を演じているのが、何を隠そう伊丹十三記念館の宮本信子館長なのであります。


という訳で日々更新されていくこの『STAND BY ME ドラえもん2』の公式サイトを日ごろからチェックしていたのですが、ある日「前売券を買うと特典でドラえもんのポストカードがもらえる」という情報を見つけ、今回人生初の前売券購入に踏み切ったという訳です。

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【特典のポストカード】



松山市近郊の方々はこの『STAND BY ME ドラえもん2』の前売券をこぞって購入されているようで、まず最寄りの映画館に直接買いに行ったのですが、前売券はあるけれど特典の在庫がないと言われたので諦め、その後近隣の映画館数件に電話をかけ、1セットだけ在庫があると回答下さった隣町の映画館まで買いに行ってきました。

みなさまの街の映画館にはもしかしたら在庫があるかも?
気になる方はぜひともお早めに!

さてこの『STAND BY ME ドラえもん2』の脚本・共同監督の山崎貴さんは、以前伊丹十三記念館にもご来館下さったことがあるのですが、実はお若いころに伊丹映画に携わったこともあるという経歴をお持ちの元「伊丹組」でいらっしゃるのです。

公式サイトで宮本館長も山崎貴監督もそのことに触れるコメントをしていらっしゃいましたのでそちらも是非ご覧頂きたいと思います。


そして映画公開日の20日には、テレビ朝日『徹子の部屋』に宮本館長が出演いたします。

『徹子の部屋』には何度も出演している宮本館長でありますが、今回もまた黒柳徹子さんと宮本館長の息の合ったトークが見られると思うとこちらも今からワクワクしています。


ますます20日が楽しみですね。



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映画『STAND BY ME ドラえもん2』で、当館の宮本信子館長が「のび太のおばあちゃん」の声を演じます。
■ 映画『STAND BY ME ドラえもん2』 全国東宝系にて公開
■ 公開日:11月20日(金)



テレビ朝日『徹子の部屋』に宮本信子館長が出演いたします。
■ テレビ朝日『徹子の部屋』
■ 放送日時:11月20日(金)13:00~13:30予定 




スタッフ:川又

2020.11.09 生きた豆

マンネリ化著しい食生活にテコ入れするべく、最近、自分で調理したことがない野菜や魚を積極的に試してみることにしています。


「そういう目」でスーパーを物色していると嬉しい出会いがあるもので、先日は産直コーナーでこんなものを見つけました。

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一見、何の変哲もない落花生。袋の内側にうっすらと結露が見受けられたことから「これはもしや!」と思いました。
伊丹さんのエッセイに"沖永良部島で食べた塩茹でがうまかった"と書かれている、炒られていない、生の殻つき落花生です。

スーパーでも飲食店でもお目にかかったことがなかったので、南の島に行きでもしなければありつけないものだと思い込んでいました。生産している農家が愛媛県にあり、しかも生で出荷されていることにちょっと驚きつつ、商品棚の最後のひと袋、迷わずつかんでおりました。350円也。
相場がいくらか分かりませんが、伊丹さんがうまいと言った味、身をもって確認するためなら安いものです。

エッセイには、旅先の前橋のおでん屋で食べた炒り落花生がおいしかった、というエピソードに続けて、こんなことが綴られています。

 そうして――どうも妙なものですな――それ以来というもの、私は落花生の味にこだわるようになってしまった。
 それまで、私は落花生を、別段うまいともまずいとも思わず、なんとなく惰性で食べていたのが、今、突然うまいまずいの尺度を知ってみると、普通われわれが食べている落花生のなんと押しなべてまずいことか!

 その後、私は一度だけ落花生をうまいと思ったことがあった。
 この夏、沖縄のちょっと手前の、沖永良部という島へ行った。沖永良部では落花生を、炒らずに殻のまま塩茹でにして食べる。外の殻だけば剥くが、茶色の薄皮は食べてしまうのである。ちょっと渋味があって、これがなかなかよかった。ああ、やっぱり、落花生と言うのは生きている植物の実だったんだな、というのを久しぶりに思い出しながら、私は、大きな皿に山盛りになった落花生を際限もなく剥いては食べた。

伊丹十三「落花生」『ぼくの伯父さん』(つるとはな・2017年)より

どうです? 食べてみたいなあ、と思いますよね。

まあ、ウキウキで買って帰って検索し「茹で時間40分」と知ったときには、ちょっと気が遠くなりましたけれど......

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40分後、茹であがった落花生は、見た目にはあまり変化はないようでしたが、剥いてみると殻いっぱいに実が詰まっています。

お味のほうは、炒った落花生でおなじみの「知ってる味」でありながら、ムッチリとやわらかいのが不思議な感じで、他の豆類の煮たのよりはバナナやアケビに近いような、甘いなめらかさがありました。
ザルにあげてしばらく冷ましてからのほうが、塩気が殻の内側に馴染んで美味しくなるようです。20分ほど、といったところでしょうか。

手に入りさえすれば調理はまことに簡単、ただし、ありつくまでに小一時間。


そんな生落花生ではありますが、試してこそというもので、「ウーム確かに、"生きている植物の実"を食べている実感があるぞ」と頷きながら、私もまた、際限もなく剥いては食べ続けたのでありました。

ここでは一部のみ引用しましたが、「落花生」は導入の小噺も愉快なエッセイです。
ぼくの伯父さん』でぜひお読みください。

bokuoji.jpg記念館のグッズショップ、オンラインショップでも販売しております。
(生の落花生よりは簡単に入手できますね!)

====== おしらせ ======

毎月13日のお楽しみ「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」、今月の作品は『ミンボーの女』です。

11月13日(金)の13時、常設展示室でお待ちしております。

mimbo_s.jpgとある企業の民事介入暴力対策をモチーフに「人間の自由を脅かす者には立ち向かおう、
戦い方のコツをつかんでいれば怖くない!」と励まし教えてくれる作品です。

学芸員:中野

2020.11.02 伊丹さんの言葉

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。秋も深まってきて、記念館入り口横のヤマボウシも色づき始めました。

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さて「読書の秋」ですね!特に10月27日から11月9日までは「読書週間」と呼ばれる期間ということもあり、読書にちなんだコーナーを設置したり、フェアを開催している書店さんも多いのではないでしょうか。
記念館便りをご覧の皆さまの中にも、この機会に伊丹さんの著書を読んでみよう、もしくは読み返してみようという方がいらっしゃるかもしれませんね。

そんな皆さまに、著書とあわせてぜひおすすめしたいのが伊丹十三記念館による公式bot「伊丹十三の言葉(伊丹十三記念館)」(@juzo_itam)です。

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「伊丹十三の言葉(伊丹十三記念館)」は、伊丹十三の著作から様々な事柄に関するユニークな言葉を1日3回ツイートしているものです。パソコンやスマートフォンから、ちょっとした空き時間を使って「伊丹さんの言葉」に触れることができるんですよ。
少しご紹介しますと――

正装する、ということは愉しいことである。社会の掟に、進んで身をまかせ、自らを縛する、というところに、一種の快い、引緊った安堵がある。タクシードを着て凛々しい快感を覚えぬ男があるだろうか。『ヨーロッパ退屈日記』(1965)

プロになるわけじゃないんだ。今からでも決して遅くはないよ。楽器を弾くということは愉しいことだよ。楽器は決して人を裏切らない。生涯の友だちだよ。そうして、楽器を弾くということは、楽譜を通じて、バッハやモーツァルトと直接つきあうということなんだよ。『女たちよ!』(1968)

伊丹さんが語りかけているようなこの「つぶやき」。
伊丹さんをよく知らないという方には、より気軽に伊丹さんを知るきっかけになりますし、すでに本を読んでいる方でも、書籍とはまた違った印象を受けると思います。皆さまにとって印象に残る言葉を探してみてください。

なお、伊丹十三記念館公式botには、伊丹十三の父・伊丹万作の著書からの「伊丹万作名言集(伊丹十三記念館)」(@mansaku_itami)もございます。ぜひ合わせてご覧くださいね。

スタッフ:山岡

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<<開館スケジュールのお知らせ>>

通常火曜日は休館日とさせていただいておりますが、

明日11月3日(火)は文化の日で祝日のため、開館いたします。
皆さまのご来館をお待ちしております!

※翌日11月4日(水)を臨時休館日とさせていただきます。