こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2020.11.09 生きた豆
マンネリ化著しい食生活にテコ入れするべく、最近、自分で調理したことがない野菜や魚を積極的に試してみることにしています。
「そういう目」でスーパーを物色していると嬉しい出会いがあるもので、先日は産直コーナーでこんなものを見つけました。
一見、何の変哲もない落花生。袋の内側にうっすらと結露が見受けられたことから「これはもしや!」と思いました。
伊丹さんのエッセイに"沖永良部島で食べた塩茹でがうまかった"と書かれている、炒られていない、生の殻つき落花生です。
スーパーでも飲食店でもお目にかかったことがなかったので、南の島に行きでもしなければありつけないものだと思い込んでいました。生産している農家が愛媛県にあり、しかも生で出荷されていることにちょっと驚きつつ、商品棚の最後のひと袋、迷わずつかんでおりました。350円也。
相場がいくらか分かりませんが、伊丹さんがうまいと言った味、身をもって確認するためなら安いものです。
エッセイには、旅先の前橋のおでん屋で食べた炒り落花生がおいしかった、というエピソードに続けて、こんなことが綴られています。
そうして――どうも妙なものですな――それ以来というもの、私は落花生の味にこだわるようになってしまった。
それまで、私は落花生を、別段うまいともまずいとも思わず、なんとなく惰性で食べていたのが、今、突然うまいまずいの尺度を知ってみると、普通われわれが食べている落花生のなんと押しなべてまずいことか!
その後、私は一度だけ落花生をうまいと思ったことがあった。
この夏、沖縄のちょっと手前の、沖永良部という島へ行った。沖永良部では落花生を、炒らずに殻のまま塩茹でにして食べる。外の殻だけば剥くが、茶色の薄皮は食べてしまうのである。ちょっと渋味があって、これがなかなかよかった。ああ、やっぱり、落花生と言うのは生きている植物の実だったんだな、というのを久しぶりに思い出しながら、私は、大きな皿に山盛りになった落花生を際限もなく剥いては食べた。
伊丹十三「落花生」『ぼくの伯父さん』(つるとはな・2017年)より
どうです? 食べてみたいなあ、と思いますよね。
まあ、ウキウキで買って帰って検索し「茹で時間40分」と知ったときには、ちょっと気が遠くなりましたけれど......
40分後、茹であがった落花生は、見た目にはあまり変化はないようでしたが、剥いてみると殻いっぱいに実が詰まっています。
お味のほうは、炒った落花生でおなじみの「知ってる味」でありながら、ムッチリとやわらかいのが不思議な感じで、他の豆類の煮たのよりはバナナやアケビに近いような、甘いなめらかさがありました。
ザルにあげてしばらく冷ましてからのほうが、塩気が殻の内側に馴染んで美味しくなるようです。20分ほど、といったところでしょうか。
手に入りさえすれば調理はまことに簡単、ただし、ありつくまでに小一時間。
そんな生落花生ではありますが、試してこそというもので、「ウーム確かに、"生きている植物の実"を食べている実感があるぞ」と頷きながら、私もまた、際限もなく剥いては食べ続けたのでありました。
ここでは一部のみ引用しましたが、「落花生」は導入の小噺も愉快なエッセイです。
『ぼくの伯父さん』でぜひお読みください。
記念館のグッズショップ、オンラインショップでも販売しております。
(生の落花生よりは簡単に入手できますね!)
====== おしらせ ======
毎月13日のお楽しみ「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」、今月の作品は『ミンボーの女』です。
11月13日(金)の13時、常設展示室でお待ちしております。
とある企業の民事介入暴力対策をモチーフに「人間の自由を脅かす者には立ち向かおう、
戦い方のコツをつかんでいれば怖くない!」と励まし教えてくれる作品です。
学芸員:中野
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