記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2023.01.30 寒波と朝顔


記念館便りをご覧の皆さまこんにちは。
先週は、松山もこの度の寒波で大変な寒さが続きました。
そんな先週、わが家では朝顔が芽を出しました。



0130-1.jpgこの鉢の根元から


0130-2.jpgなんと朝顔



この鉢は夏場外に出しており、秋ごろ室内に取り込んだものです。
こぼれ種から発芽したようです。
寒さ対策で部屋をいつも以上に暖めていたからでしょうか。




さて、私の中では朝顔といえば、伊丹さんです。
この伊丹さんの小学2年生の時の朝顔観察日記のインパクトがあまりに大きすぎたので。


gaido.jpg朝顔観察日記。小2でこのクオリティ。



夏がくる度、朝顔を見る=この朝顔観察日記を思い出して伊丹さんの子供時代に思いを馳せる、(そして記念館便りに書く)、という現象が起きているのですが、まさか冬にも起きるとは。


皆さまもご来館の際には、伊丹さんの大人になってからのたくさんの仕事とあわせて、子ども時代の作品の数々もぜひご覧ください。

きっと驚かれることと思います。伊丹十三記念館ガイドブックにもいろいろと載っていますのでこちらも是非チェックしてください。








0130-6.jpg朝顔と雪だるま




スタッフ:川又

2023.01.23 50年前に冬を待っていた少女

寒中お見舞い申しあげます――と型通りの時候の挨拶を申しあげてみますが、クリスマス前のあの厳しい冷え込みは何だったのか! と思うほど、あまり寒くない1月の松山です。

20230123_fukinotou.JPGちなみに、年末の帰省中、岩手もあまり寒くならず
母の庭のあちらこちらでフキノトウを見かけました。

「アンタ、暑いのが苦手なんだったら寒いのは好きか」と問われれば、答えはNO......
でも「寒い季節ならではの嬉しい感覚」は好きです。

例えば、冷たく冴えた朝の空気を鼻から吸い込むと、寝ぼけた脳にス~ンと沁みる感じ。
運動や食事の最中、手足の指先にあたたかい血がみなぎってくる感じ。
これらのちょっとした喜びが、どうも薄い気がするんですよねえ、今冬は。

などとウカウカしているところへ「最強寒波襲来!」のニュース。今週はビシビシと冷え込むそうじゃありませんか。皆様、寒さ対策・積雪対策のご準備はどうぞお早目&念入りに。

ということで、今回は「冬」で思い浮かぶ伊丹エッセイの一節をご紹介いたします。

(初夏の夜、自宅に招いた少女たちが無邪気に花火を楽しむ様子を眺め、彼女たちとは対照的な少女を見かけたことを回想する部分です――)

 私は二、三日前、原宿のレストランで見た少女を思い出した。あの少女も十七、八だった。男が一緒だった。男は私くらいの年恰好だった。二人の会話を、私は人を待ちながら、聞くともなしに聞いてしまったが、それは少女の最初の一と言が不思議だったからである。
「早く冬にならないかしら」
 少女はいった。まだ梅雨時で、空はどんよりと曇っていたのである。冬を思うには少し早すぎる。
「早く冬にならないかしら」
「冬になると、どうなってるのかね、われわれ」
「わからない」
「.........」
「冬、寒い中を胸を張って歩くのって、いいものよ」
「.........」

『再び女たちよ!』(1972年)「花火」より
現在は新潮文庫『再び女たちよ!』に収録

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ついつい意地悪オバサンの心境になって「妙に大人びた物言いしちゃってえ~」「若さゆえの背伸び、一過性の病みたいなものなんでしょ~」と思わなくもありませんが、「冬、寒い中を胸を張って歩くのって、いいものよ」には諸手を挙げて同意せずにはいられません。
「そうよね! アンタいいこと言うじゃないの! そんなヘドモドしたオヤジは置き去りにして、我が道をスタスタ歩んで行けばいいのよ!!」と加勢したい気分にすらなります。

ところで――
冬を待つ少女のエピソードが伊丹さんの創作でない、つまり、少女が実在の人物で、存命だとしたら......60代後半くらいになっているわけですね。この感性を失わずに大人になったのだろうか、幸せに暮らしているのだろうか、と考えてみたりも。
この原稿を書いていて「ああ、年月を経たエッセイには、そんな想像をかきたる性質もあるんだなあ」と気付かされました。

あ、そうそう。話は戻りますが、冬の楽しみをもうひとつ。
それは、落葉樹の葉が全部落ちて、樹木そのもののたたずまいを存分に眺められること。

館の南側に並ぶヤマザクラ四姉妹もこのとおり、冬仕様に――

20230123_yamazakura1.JPG
 

ん......?
オヤ、西(写真奥)から2番目の木の枝に何やら......

20230123_yamazakura2.JPG

あらまあ、鳥の巣が! いつの間にこさえられていたのでしょうか!?

寒い中ご来館くださいました際には、季節限定のこんな景色もどうぞお見逃しなく。

学芸員 : 中野

・・・・・お知らせ・・・・・

この冬、日本映画専門チャンネル「伊丹十三劇場」で伊丹十三脚本監督全10作の4Kデジタルリマスター版が放送されています。
オールメディア独占・テレビ初放送――つまり、今、最新版の伊丹映画を観られるのは日本映画専門チャンネルだけ!

2Kダウンコンバートでの放送ですが、リマスターによってグンと明るくクリアになった映像をお楽しみいただけます。放送スケジュールや視聴方法など、ぜひWebでご覧ください。

2023.01.16 

春先のように暖かい日もあり寒暖差の激しい日々ではございますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

私事ではございますが、松山に住み始めて初の年越しを経験いたしまして、元旦には椿神社に初詣に行ってまいりました。おみくじでは大吉を引き当てましたので、今年一年健康に頑張ることが出来そうです。

 

今回の記念館便りを書いている本日、松山ではしとしとと雨が降っております。雨の日となると外出が難しくなるかと思うのですが、記念館では天候に関わらず展示をゆっくりご覧になれますので、雨の日のご来館もおすすめです。雨の日の中庭は少し落ち着いた雰囲気で、雨音やペトリコールを楽しんでいただけます。

 

s-IMG_3733.jpg雨の日はカフェや回廊でお客様が景色に見入っているのを
拝見することが多いです

 

 

s-IMG_2877.jpg濡れて艶やかな石をじっと見ていると
なんだか自分も洗われているような気持ちになったりもします

 

さて、こんな雨を見ていて思い起こすのは、映画の中で雨が降っているシーンです。伊丹さんの映画の中でも印象的な場面が多い雨ですが、皆様はどのシーンが特に印象に残っていらっしゃるでしょうか。

 

『お葬式』での高速道路を走りながらサンドイッチを手渡すシーン。『タンポポ』でタンポポの店に初めてゴローたちが訪れるシーンや、白服の男が撃たれるシーン。『マルサの女』の権藤が愛人に廃棄させた証拠を、板倉亮子がゴミ捨て場で探すシーン。『静かな生活』でのイーヨーが意を決してマーちゃんを救うシーン。

 

 

s-osoushiki2.jpg『お葬式』よりサンドイッチを手渡した後のシーン

 

 

s-marusa.jpg『マルサの女』よりゴミ捨て場のシーン

 

 

注目しながら見てみると、伊丹さんの映画作品には頻繁に雨が登場していることが分かります。

 

雨のシーンの撮影に関する話が、『マルサの女をマルサする』にてご覧いただけます。

 

s-meikingu2.jpg『マルサの女をマルサする』より撮影風景

 

撮影初日からいきなり土砂降りの雨のシーンの撮影をする伊丹さん。雨というのはカメラに向かって逆光気味に光を当てないと光らないとのことで、撮影する際には雨を降らせる特殊機械部門だけでなく、カメラや照明などのスタッフが一丸となって撮影に臨む必要があるそうです。これから映画を撮影するスタッフをまとめあげるために、雨のシーンを最初に撮影するという伊丹さんの作戦だったようです。

 

同じメイキングの中で、伊丹さんは雨が好きだというナレーションがあります。映画の中でたびたび雨のシーンが出てくるのは、伊丹さん自身が雨を好きで撮影されていたのかもしれないですね。

雨の日にご来館の際には、映画の中の雨を思い出しながら記念館を楽しんでいただけますと幸いです。

 

スタッフ:橘

2023.01.09 お正月の料理

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。

遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。
本年も、伊丹十三記念館を何卒よろしくお願いいたします。

※宮本信子館長からの「新年のご挨拶」もぜひご覧ください!

20230109.jpg

さて皆さまはこのお正月、「黒豆」を召し上がったでしょうか?
諸説あるようですが、「まめまめしく元気に働く」ということで、健康長寿の縁起物としてお正月のおせち料理にかかせない一品といわれています。この黒豆について、伊丹さんが "日本一の黒豆ができる " という煮方をエッセイの中で紹介しているのをご存じでしょうか。

昨年12月下旬に来られたお客様の中に、「来年のお正月のおせちで、伊丹さんが紹介していた黒豆にチャレンジします!」という方がおられたので、少しだけご紹介させていただきますね。

 さて、そこで黒豆の正しい煮方でありますが、これにはさまざまな説がある。今ここに述べようとするのは、私の京都の宿における流儀でありますが、これはさしてむつかしいものではない。二日間だけ真剣にとりくめば日本一の黒豆ができるのだから、読者よ、どうかその労をいとわないでもらいたい。

 それでは、第一日目について記す。(後略)

「黒豆の正しい煮方」『女たちよ!』(新潮文庫)より

......ここまででお分かりかと思いますが、紹介されている黒豆の煮方は、なんと2日をかけて作るというもの。エッセイの続きでは、一日目、二日目の作業が紹介されています。
料理通で知られた伊丹さんが紹介する作り方、ということで本格的ですね!上述のお客様も「家族も楽しみにしてるから、年末に頑張ります!」と大変張り切ってらっしゃいました。
このお正月、ご家族で楽しく話をされながら召し上がられたのだと思います。

もう一つお正月に関係するエッセイを紹介しますと――お正月料理といえばおせちやお雑煮などが真っ先に浮かぶ方が多いかと思うのですが、伊丹さんのお正月料理は、エッセイ「正月料理」によるとフォンデュと粕汁であったようです。


 我が家の正月料理が決定した。
 一つはフォンデュ。スイス料理である。簡単にいうなら、煮立てた白葡萄酒でチーズを溶かしちぎったフランスパンをつけては食べる、というだけの素朴な料理である。発明したのは牛飼いだろう。こいつが滅法うまい。寒い夜親しい友とこれを囲んで、ブツブツ煮立つやつをパンにからめとっては口に運ぶと、腹の底から生きる力が沸いてくる。厳格なる自然食主義者の私も、この魅力には攻し難い。

 (中略)

 もうひと品、いってみようか。
 この間、菊正宗の工場からテレビ中継するということがあり、そのとき、おみやげに大量の酒粕をいただいた。その酒粕を睨んでいるうちに、粕汁を作ってみたいという欲望がむらむらと沸き起こったのである。早速魚屋に電話して新巻きの頭を二つばかり取り寄せて調理にかかる。そのとき、圧力鍋を使ったのが勝利の原因であった。私は玄米食者であるから当然圧力鍋を持っている。この圧力鍋で鮭の頭を三十分ほど煮て、粕汁へぶち込んだ。
 ひと口食べてみて、女房が「アレッ」と言った。私も「オッ」と叫んだ。うまいのである。まさに「ほっぺたが落ちそう」という味なのである。

「正月料理」『ぼくの伯父さん』(つるとはな)より

こちらもおいしそうですね!ご家族とおいしそうに食べる伊丹さんの姿が浮かんでくるようです。ご興味のある方はエッセイを読んでみてください。『女たちよ!』『ぼくの伯父さん』ともにオンラインショップで販売中です。

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<記念館よりお知らせ>

12月はお休みさせていただいた「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」。1月13日(金)は、13時より『静かな生活』(1995年)を上映させていただきます。

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ご鑑賞が始めての方もそうでない方も、お時間おありでしたらぜひどうぞ!
スタッフ一同お待ちしております。

スタッフ:山岡

2023.01.02 館長・宮本信子から新年のご挨拶


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お正月早々、伊丹映画全10作品が、1月8日から
日本映画専門チャンネルで放映されます。
しかも4Kで~~! 皆、若いです~~(笑)若い!(笑)

この暗い重苦しい時、少しは伊丹映画で、
楽しく、前向きな気持になれるのでは~~
と思っております。

私も、早く見たいと~~!(笑)

今年も記念館に是非いらして下さいませ。
今年こそはと、おでかけ下さいませ。

スタッフ一同、心よりお待ちしております。

今年もよろしくお願い申し上げます

館長 宮本信子