記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2023.01.23 50年前に冬を待っていた少女

寒中お見舞い申しあげます――と型通りの時候の挨拶を申しあげてみますが、クリスマス前のあの厳しい冷え込みは何だったのか! と思うほど、あまり寒くない1月の松山です。

20230123_fukinotou.JPGちなみに、年末の帰省中、岩手もあまり寒くならず
母の庭のあちらこちらでフキノトウを見かけました。

「アンタ、暑いのが苦手なんだったら寒いのは好きか」と問われれば、答えはNO......
でも「寒い季節ならではの嬉しい感覚」は好きです。

例えば、冷たく冴えた朝の空気を鼻から吸い込むと、寝ぼけた脳にス~ンと沁みる感じ。
運動や食事の最中、手足の指先にあたたかい血がみなぎってくる感じ。
これらのちょっとした喜びが、どうも薄い気がするんですよねえ、今冬は。

などとウカウカしているところへ「最強寒波襲来!」のニュース。今週はビシビシと冷え込むそうじゃありませんか。皆様、寒さ対策・積雪対策のご準備はどうぞお早目&念入りに。

ということで、今回は「冬」で思い浮かぶ伊丹エッセイの一節をご紹介いたします。

(初夏の夜、自宅に招いた少女たちが無邪気に花火を楽しむ様子を眺め、彼女たちとは対照的な少女を見かけたことを回想する部分です――)

 私は二、三日前、原宿のレストランで見た少女を思い出した。あの少女も十七、八だった。男が一緒だった。男は私くらいの年恰好だった。二人の会話を、私は人を待ちながら、聞くともなしに聞いてしまったが、それは少女の最初の一と言が不思議だったからである。
「早く冬にならないかしら」
 少女はいった。まだ梅雨時で、空はどんよりと曇っていたのである。冬を思うには少し早すぎる。
「早く冬にならないかしら」
「冬になると、どうなってるのかね、われわれ」
「わからない」
「.........」
「冬、寒い中を胸を張って歩くのって、いいものよ」
「.........」

『再び女たちよ!』(1972年)「花火」より
現在は新潮文庫『再び女たちよ!』に収録

futatabi_bunko.jpg

ついつい意地悪オバサンの心境になって「妙に大人びた物言いしちゃってえ~」「若さゆえの背伸び、一過性の病みたいなものなんでしょ~」と思わなくもありませんが、「冬、寒い中を胸を張って歩くのって、いいものよ」には諸手を挙げて同意せずにはいられません。
「そうよね! アンタいいこと言うじゃないの! そんなヘドモドしたオヤジは置き去りにして、我が道をスタスタ歩んで行けばいいのよ!!」と加勢したい気分にすらなります。

ところで――
冬を待つ少女のエピソードが伊丹さんの創作でない、つまり、少女が実在の人物で、存命だとしたら......60代後半くらいになっているわけですね。この感性を失わずに大人になったのだろうか、幸せに暮らしているのだろうか、と考えてみたりも。
この原稿を書いていて「ああ、年月を経たエッセイには、そんな想像をかきたる性質もあるんだなあ」と気付かされました。

あ、そうそう。話は戻りますが、冬の楽しみをもうひとつ。
それは、落葉樹の葉が全部落ちて、樹木そのもののたたずまいを存分に眺められること。

館の南側に並ぶヤマザクラ四姉妹もこのとおり、冬仕様に――

20230123_yamazakura1.JPG
 

ん......?
オヤ、西(写真奥)から2番目の木の枝に何やら......

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あらまあ、鳥の巣が! いつの間にこさえられていたのでしょうか!?

寒い中ご来館くださいました際には、季節限定のこんな景色もどうぞお見逃しなく。

学芸員 : 中野

・・・・・お知らせ・・・・・

この冬、日本映画専門チャンネル「伊丹十三劇場」で伊丹十三脚本監督全10作の4Kデジタルリマスター版が放送されています。
オールメディア独占・テレビ初放送――つまり、今、最新版の伊丹映画を観られるのは日本映画専門チャンネルだけ!

2Kダウンコンバートでの放送ですが、リマスターによってグンと明るくクリアになった映像をお楽しみいただけます。放送スケジュールや視聴方法など、ぜひWebでご覧ください。