記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2021.09.27 車の運転

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
記念館の庭木はまだまだ緑が目立ちますが、中には色づき始めているものもあって、秋が近づいてきているなぁと感じます。

0927-1.jpg

ほんのりと

 

さて本日9月27日は「女性ドライバーの日」だそうですね。
1917年に日本ではじめて女性が自動車の運転免許を取得したことに由来するとか。

私の運転免許取得日がたまたま1日違いの9月26日ということもあって、以前友人との雑談で知って以来、ちょっと印象に残っている日です。

日常的に運転するようになってずいぶん経ち、免許取り立ての、最初の頃のようなぎこちなさや拙さは多少なりとも減っている...とは思うのですが、その反面、良くない意味での慣れからくる " ひやっとした瞬間 " がたまにできてしまいます。
その度に「気をつけて運転しなくては」と猛省するのですが、そんなときに読み返したい伊丹さんのこんな文章がありますので、一部ご紹介しますね。
運転するときの心構えや乗り方が書かれています。

 

"  妹へ、
 とうとう免許をとったそうで、まずはおめでとう。
 忠告、といってもあまり口はばったいこともいえないが、自分がパトロール・カーになったつもりで運転してみてはどうだろう。
 自分は絶対違反していない、という確信から生まれる精神的な安定感、これが運転にゆとりをあたえるのです。"

「大英帝国の説得力」『ヨーロッパ退屈日記』より

 

" すなわち、どんなにゆとりのある場合でも正しい姿勢を崩してはならぬのだ。なぜなら、正しい姿勢のもつ真の意味は、突発的なできごとに即座に対処することができるという点にある。だから、自分の運転に責任を持つ人間は、必然的に正しい姿勢をとらざるを得ないのだ。
(中略)
 さて、いまさら申し上げることもあるまいが、自動車というものは危険物であります。これを扱うに当って、男たるもの、どんなに自分自身に厳しくあろうとも、厳しすぎるということはない。いわんや、いいかげんな気紛れや、でたらめは許せないのであります。
 たとえば、運転のさいの履物一つにしても、最も運転しやすい、正しい履物を選ぶべきである。底革の滑りやすい靴や、脱げやすい草履で運転することは断じて許せないのであります。
 これがすなわち「自動車の運転におけるヒューマニズム」というものである。
 そうして、われわれは、巧みに運転する前に、品格と節度のある運転を志そうではないか。"

「スポーツ・カーの正しい運転法」『女たちよ!』より

初めて読んだとき、当時、家族をはじめとするベテランドライバーの人たちから「ゆったりとした姿勢で、落ち着いて丁寧に運転しなさい」と繰り返し言われたことを思い出しました。
運転して何年も経つとこんなことを言ってもらえる機会も少なくなりますから、初心にかえって丁寧な運転を心がけられるよう、折に触れて読み返さなければ!と思う文章です。

ご興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。

0927-2.jpg

オンラインショップでも取り扱っています

スタッフ:山岡

2021.09.20 ぼくの伯父さん


もう10年以上前に記念館にご来館くださったお客様からお伺いした話があります。

その女性は当時高校生だった伊丹さんのご近所にお住まいだったそうで、実際に何度も伊丹さんを見かけたことがあるそうです。
その女性がおっしゃるには、伊丹さんは当時よく本を読みながらその辺を歩いていたそうです。
「こんな感じでね~」と、本を読みながら歩く伊丹さんのマネをしてくださいました。
二宮金次郎よりは背筋をすっと伸ばした状態でサササッと歩く様子が、映画のメイキング映像などで見る伊丹さんの歩き姿と似ていて、大変納得したことを覚えています。


それから10年近く経ってから、「ぼくの伯父さん」(つるとはな)を読んでおりましたら、その証言を裏付ける文章を発見しましたのでご紹介します。



「私はーーーわれわれの世代は誰でもそうだろうがーーー活字中毒である。なにしろ一刻も活字なしでは生活することができぬ。」



「風呂の中だろうが、食事中だろうが、床屋で髪を刈られながらだろうが、町を歩きながらだろうが、ともかく常になんかかんか本を読んでいる。」



「私なんかは高校が田舎だったからね、田圃の中を自転車で走りながら本を読んだものです。友達の家なんか遊びに行く時ネ、田舎のことだから、まあ、遠いところに住んでるやつがいるんだ、自転車で三十分も一時間もかかるようなとこにネ。そんな時には自転車を漕ぎながら本を読む。退屈だしねえ、どうせ野中の一本道だし、車が通るわけじゃなし...」


―「ぼくの伯父さん」(つるとはな)―




20210725-1.JPG




まさしく、「町を歩きながら」、と本人も書いていますね。

そして「高校が田舎だった」とありますが、まさしく松山のことですね。
松山の街を自転車で走っていたんですね。
伊丹さんは 一六タルト のコマーシャルがヒットして、その縁で松山に仕事でよく来るようになったそうですが、高校時代に自転車であちこち行っていたならば、もしかしたら、空港からの車中、松山の街を眺めて「懐かしいな~」などと思っていたかもしれません。
車の中で、活字を読んでいなければの話ですが...

皆さまも松山に来られた際には、街全体を「伊丹さんが多感な頃を過ごした街」だと思って眺めていただければ、より趣が増すことと思います。



さて、この「ぼくの伯父さん」は伊丹さんの没後20年、2017年に発売された単行本未収録エッセイ集です。
みなさんの知らなかった伊丹さんに、会えるかもしれません。
私のように「ああ、前にこういう話聞いたな~」と話が繋がることもあるかもしれません。
伊丹さんファンで当時出版された単行本はもう全部持っているという方などにも、ぜひおすすめいたします。


スタッフ:川又

2021.09.13 メンテナンス作業をしやすく

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。

本日は、ご来館のお客様より「あれは何ですか?」「登れるんですか?」とご質問をいただくことのある、こちらの設備(下記写真)について少しご案内します。

常設展示室のちょうど真ん中くらいに設置された螺旋階段と、それがつながっている天井にかかった黒い足場です。

20210913-1.jpg

常設展示室入り口から

 

20210913-2.jpg

別の角度から

これは何かといいますと、高所の作業がしやすいように設けられた、メンテナンス用のブリッジです。照明交換や手回し式イラスト展示台のメンテナンスなどが必要になった時、螺旋階段を使って、作業する人が簡単に登っていくことができるようになっています。
記念館を設計した中村好文先生が、展示作業やメンテナンスなどの  "  裏方 " 作業を行いやすいよう、いろいろと工夫してくださったんですね。

(この階段とブリッジは、室内のしつらえに合ったデザインということもあって、登ってみたい、上から見てみたいとお声をいただくこともあるのですが、安全上、お客様にはお入りいただけない場所です。申し訳ございません!)

他にも、常設展示室の展示コーナーの後ろ側(お客様からは見えないスペースになります)にはメンテナンス用の通路が設けられていて、展示や照明器具の取り換えが背後から容易にできるようになっています。

残念ながらお客様は体感できない設備・エリアではありますが、このような裏方作業への配慮も、皆さまに楽しんでいただける展示につながるのだと思います。
そんな記念館の展示を、ご来館の際はじっくりご堪能ください。

スタッフ:山岡

2021.09.06 伊丹十三の映画監督デビュー


伊丹十三が映画監督デビューをしたのは、51歳のときです。

それまでは、俳優、CM作家、エッセイスト、テレビマンなど様々な分野で活躍し結果を残していました。
しかし、いくら見事な経歴の持ち主だからと言って、必ず映画監督として成功するとは言い切れません。
残念ながら有名人の「映画撮影に挑戦して結果、大赤字」というエピソードは正直よく耳にする話であります。
蓋を開けてみるまではわからないということですね。


そう考えると伊丹さん本人の「映画を撮る」という決断も確かにすごいことですが、伊丹さんの映画監督デビューを支えた周りの人々にはより頭が下がる思いがいたします。


「あなたは伊丹万作の息子なんだから、映画監督になるべき人物よ。1本でいいから映画を撮ってちょうだい!」と言って伊丹さんを鼓舞した当館の宮本信子館長。


そして映画撮影にかかる大金の多くを準備した玉置泰館長代行。


『お葬式』の後も続く伊丹さんの映画監督としての成功を知っているので、この伊丹さんの監督デビューを支えた人々の行動について、わかっているつもりで実際にはピンときていなかった部分があったと感じています。


なかなかできるものではありませんよね。


先日拝見した山田洋次監督の『キネマの神様』で主人公ゴウが映画初監督作品に挑むシーンを観ながら、映画そっちのけでそんなことを考えていたわたくしでございます。



この伊丹さんの映画監督デビューにまつわるエピソードについては先日の 記念館便り にて新潮社発売の「伊丹十三の映画」とほぼ日の「伊丹十三特集」をご紹介いたしましたが、伊丹十三記念館限定で販売されているDVD『13の顔を持つ男』にも宮本信子館長や玉置泰館長代行のインタビューがありましたのでよろしければ是非ご覧ください。
映像をご覧いただければ、より伝わるものがあるかと思います。


20210906.jpg「13の顔を持つ男」



「13の顔を持つ男」 は こちら

「伊丹十三の映画」(新潮社)は  こちら

ほぼ日刊イトイ新聞 玉置泰館長代行のインタビューは こちら






スタッフ:川又