記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2021.09.20 ぼくの伯父さん


もう10年以上前に記念館にご来館くださったお客様からお伺いした話があります。

その女性は当時高校生だった伊丹さんのご近所にお住まいだったそうで、実際に何度も伊丹さんを見かけたことがあるそうです。
その女性がおっしゃるには、伊丹さんは当時よく本を読みながらその辺を歩いていたそうです。
「こんな感じでね~」と、本を読みながら歩く伊丹さんのマネをしてくださいました。
二宮金次郎よりは背筋をすっと伸ばした状態でサササッと歩く様子が、映画のメイキング映像などで見る伊丹さんの歩き姿と似ていて、大変納得したことを覚えています。


それから10年近く経ってから、「ぼくの伯父さん」(つるとはな)を読んでおりましたら、その証言を裏付ける文章を発見しましたのでご紹介します。



「私はーーーわれわれの世代は誰でもそうだろうがーーー活字中毒である。なにしろ一刻も活字なしでは生活することができぬ。」



「風呂の中だろうが、食事中だろうが、床屋で髪を刈られながらだろうが、町を歩きながらだろうが、ともかく常になんかかんか本を読んでいる。」



「私なんかは高校が田舎だったからね、田圃の中を自転車で走りながら本を読んだものです。友達の家なんか遊びに行く時ネ、田舎のことだから、まあ、遠いところに住んでるやつがいるんだ、自転車で三十分も一時間もかかるようなとこにネ。そんな時には自転車を漕ぎながら本を読む。退屈だしねえ、どうせ野中の一本道だし、車が通るわけじゃなし...」


―「ぼくの伯父さん」(つるとはな)―




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まさしく、「町を歩きながら」、と本人も書いていますね。

そして「高校が田舎だった」とありますが、まさしく松山のことですね。
松山の街を自転車で走っていたんですね。
伊丹さんは 一六タルト のコマーシャルがヒットして、その縁で松山に仕事でよく来るようになったそうですが、高校時代に自転車であちこち行っていたならば、もしかしたら、空港からの車中、松山の街を眺めて「懐かしいな~」などと思っていたかもしれません。
車の中で、活字を読んでいなければの話ですが...

皆さまも松山に来られた際には、街全体を「伊丹さんが多感な頃を過ごした街」だと思って眺めていただければ、より趣が増すことと思います。



さて、この「ぼくの伯父さん」は伊丹さんの没後20年、2017年に発売された単行本未収録エッセイ集です。
みなさんの知らなかった伊丹さんに、会えるかもしれません。
私のように「ああ、前にこういう話聞いたな~」と話が繋がることもあるかもしれません。
伊丹さんファンで当時出版された単行本はもう全部持っているという方などにも、ぜひおすすめいたします。


スタッフ:川又