記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2021.04.26 灯台下暗し

快晴の4月中旬、「いざ出陣、もとい出勤!」と愛馬(ただの自転車)にうち跨った瞬間、アツアツになったサドルでお尻を焦がしかけました。
今年もまた、いつの間にか春は終わっていたようです。暑いですネ~

そういうわけで、近々、サッパリと過ごせる夏物の服を買いに行きたいと考えていたのですが、不要不急の外出の自粛が求められる状況に再びなった今、急を要するかと自問すれば「そうでもないな」と思われ、「まあいいか」と延期に延期を重ねておりますと、日に日に気温は上がっていくのでありまして――

フと見ると、あるじゃないですか。
マチナカへ出かけなくても、目の前に。

20200727_1.JPGIMG_7813 (300x200).jpg言わずもがなですが、記念館のグッズショップです

灯台下暗しとはまさにこのこと。

苦笑と喜び半々で、『スパゲッティを巻くスペースを作る』(税込3,250円)の黒を買い求めることにしました。(ちょっと古い記事ですが、絵柄の由来はコチラでどうぞ。)

『スパゲッティを巻くスペースを作る』シリーズ(黒・赤)と『猫三匹』(ネイビー)は薄手のTシャツ地を使っていますので、軽くて爽やかな着心地です。

新品だし涼しいし、サッパリとした、いい気分です!

※『二日酔の虫』シリーズ(白・黒)のほうは、これぞ定番Tシャツといった感じの、シッカリめの生地が使われています。

記念館オリジナルTシャツはオンラインショップでも全種類取り扱っていますので、ご遠方の方、お近くでもお出かけ我慢中の方、ぜひご利用くださいませ。

ただし、店頭・オンラインショップとも、在庫状況によって一時的に欠品することがございます。暑くなってくるこれからの季節、どうぞお早めに。


と、いうようなことを書いているうち、これを機会に全国の博物館施設のオリジナルTシャツを買い求めてみたくなってきました。
いつか行ってみたいと思っている博物館で、なるべく遠いところから順に......少しずつではありますが、(ささやかながら応援の気持ちもこめて)集めていきたいと思います。

学芸員:中野

2021.04.19 まえがき

皆さまは本を読むとき、「まえがき」は読まれますか?

「まえがき」は本編の前に書き添えられた文章で、伊丹さんの著書にも何冊かまえがきが書かれているものがあります。先日来られた伊丹さんのエッセイファンの女性が、最初に伊丹さんの著書を読もうと思ったきっかけがまえがきだったというお話をうかがいましたので、少しご紹介させていただきますね。

この女性が読まれたまえがきがこちら。『問いつめられたパパとママの本』(中公文庫)からご紹介します。

 一体これはなんの本だろう――そう思いながら本屋の店頭でこの頁を繰っていらっしゃる方があると思う。
 われわれ、だれしも本屋で本をパラパラめくりながら思うものです。
「どんなことが書いてあるのかな」
「おもしろいのかしら、ほんとうに」
「途中で飽きてほうり出すなんていやだもんなあ」
 そういう方に説明したいと思う。
 この本はおもしろい。いや、おもしろくなくては困るのです。
 この本を私は、生まれつき非科学的な人、つまりあなたのために書いた。
(中略)
 実用的にみるなら、また、この本は、ホラ、子供がよく親にいろんなことを訊くじゃありませんか、
「空ハナゼ青イノ?」
「オ月サマハ、ボクガ歩クトドウシテツイテクルノ?」
 そういう時に繙いていただきたい虎の巻でもある。
 子供の質問というのは、素朴で根源的であるだけに、難問であることが多いのであります。親のほうはハタと困ってしまう。
 そうして、こういう時の親の態度というのが大切なのですよ。実に大切だ。子供の心は染まりやすい。確信のない、ごまかしの返事をしたり、
「うるさいわねぇ。ママ、いま忙しいのよ、サ、いい子だからあっち行って遊んでらっしゃい」
 などと逃げをうつ。こういうことが積み重なると、折角の子供の好奇心の芽がどんどん摘みとられてしまって、遂には知識欲のまるで乏しい子供ができてしまう。そうなってしまってから、子供を塾なんぞへいれて、やいのやいの勉強しろったって、そりゃ子供が可哀そうだよ。向学心をひからびさせちゃったのはあなたなんだからね。

 子供の好奇心を、正しくいい方向に伸ばそうではありませんか。それは無限の可能性を秘めているみずみずしい知識の若木なのですから。
 そうして、そのためには――子供に問いつめられたパパとママよ、まずあなた自身が科学的な物の考え方を身につけるほかないと私は思う。知識に対する、憧れと畏れを身につけるほかないと私は思うのであります。

まさに本屋さんでこのまえがきを読み、購入を決めたとのこと。たしかに本編を読んでみたくなるまえがきですよね。お客様曰く「これを書いた人がどんな人か興味が湧いて」「どんなことが書かれているのかワクワクしながら頁をめくれそう」と思ったのが決め手だったそうです。

もうひとつ、『女たちよ!』(新潮文庫)のまえがきから一部ご紹介します。

 

 寿司屋で勘定を払う時、板の向こうにいる職人に金を渡すものではない。彼らは直接食べ物を扱っているのだから。このことを私は山口瞳さんにならった。
 包丁を持つ時には、柄のぎりぎり一杯前を握り、なおかつ人さし指を包丁の峰の上にのせるのが正しい。私はこのことを辻留さんにならった。
 そうして、正しく握った包丁で俎に向かう時、躰を斜にかまえて包丁を俎と直角に使う。これが俎に対して、また材料に対しての礼である。このことを私は築地の田村さんにならった。
(中略)
 と、いうようなわけで、私は役に立つことをいろいろと知っている。そうしてその役に立つことを普及もしている。がしかし、これらはすべて人から教わったことばかりだ。私自身は――ほとんどまったく無内容な、空っぽの容れ物にすぎない。

本編とはまた違ったところから書き手である伊丹さんのお人柄や考え方が垣間みられるようなまえがきと、本編を読むと、よりその一冊が楽しめると思います。未読の方はぜひ読んでみてくださいね。

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今回はまえがきについて引用してご紹介しましたが、上記の『問いつめられたパパとママの本』や、『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫)には、伊丹さんの書いた「あとがき」も載っていますので、ご興味のある方はそちらもご覧になってみてください。

20210419-2.jpgおまけ:中庭の桂は新緑のきれいな季節です

スタッフ:山岡

2021.04.12 伊丹十三記念館に関する最新情報は「ニュース欄」をご覧ください



現在、伊丹十三記念館は通常通りのスケジュールで開館をしています。


今後もスケジュール通りの開館を予定しておりますが、もしも今後について何か変更が生じた場合には、すみやかにこの記念館ホームページの「ニュース欄」でお知らせさせていただきますので、気になる方は時折チェックしてみて下さい。


さて、記念館ホームページの「ニュース欄」ですが、場所はパソコン上で見るとこの右側の部分。

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スマートフォンで見ると、上から「ごあいさつ」



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その次に「開館カレンダー」と続き、その下に出てきます。


0412-3.jpgのサムネイル画像

ここで、記念館からの最新の情報を皆様にお届けしています。

宮本館長の来館予定やイベントの案内などを掲載していることもあります。


と言いましても、ここのところは中々そうもいかないというのが現状ではありますが...



ワクワクするような情報をお届けできる日々が、早く戻って来ますように!



という訳で、これからも伊丹十三記念館のニュース欄もお見逃しなく、期待してご覧下さい。





スタッフ:川又

2021.04.05 無法松の一生

伊丹万作脚本作品『無法松の一生』(1943年・稲垣浩監督)のBlu-rayが発売されました。

これまでもDVDやサブスクリプション配信、テレビ放送や特集上映などで鑑賞可能だった『無法松の一生』ですが、今回のBlu-rayは4Kデジタル修復版。
さらに、特典映像として、この作品の"歴史"と修復のドキュメンタリー、戦後GHQの検閲によって切除されたシーンなども収録されているそうで、豪華コンテンツですねぇ。さすが、阪東妻三郎さんの生誕120年記念!(※GHQ切除シーンは2012年発売のDVDソフトにも収録されています)

「古い映画は、ちょっと傷んだ映像で見るほうが趣があっていい」という方もおられましょうが、デジタル修復された映像では、俳優の表情、殊に、視線が鮮明になっていて、ハッとさせられることがたびたびあります。「何度も見た作品のはずなのに、まなざしひとつから登場人物の心情を感じる度合いがこうも違うものか」と驚きつつ、作り手の意図が十分に伝わる(ような作品の状態維持)って重要なことなんだな、と深く感じ入る瞬間です。
「大らかで、かつ精妙」「高度に完成されてくると、ほとんど技術的研鑚の痕跡すらとどめないということを改めて知らされる」と伊丹十三が讃えた(「父と子」『女たちよ!男たちよ!子供たちよ!』より)阪妻さんの演技、入手次第、4Kデジタル修復版で堪能したいと思います。

この『無法松の一生』は、制作当時には日本の内務省の検閲によるフィルム切除(脚本の事前検閲もありました)、戦後はGHQの検閲によるフィルム切除を受けた、受難の作品であります。およそ18分もの欠損がありながら名作として高く評価され、今なお愛され続けているのですから、存在自体も大変にドラマチックな作品と言えますね。

そして、『無法松の一生』が"息の長い"作品となったことで、伊丹十三にはまた別の、作者の息子ならではのドラマチックな体験がもたらされたようです。
公開当時に映画館で見て以来、34年ぶりにテレビで再見して綴ったエッセイによりますと――

 私はこの映画を見て、いつしか坐り直していた。突然私は悟ったのである。「この映画は父の私に宛てた手紙であったのだ!」それがいきなり判ってしまった。
 父は私が三歳の頃結核に斃れ、以来、敗戦直後、死ぬまで病床にあった。父の最大の心残りは、息子の私であったろうと、今にして思う。自ら育てようにも、結核は伝染病である。子供を近づけることすら自制せねばならぬ。かといって自ら遠ざかるうち、子供は、あらまほしき状態から次第に逸脱してゆく。このじれったさはどんなものであったろう。時時、それでもたまりかねて、父が私を呼ぶ。叱責するためである。
「意志が弱い」
「集中力がない」
「気が弱い」
「根気がない」
「グズである」
「ハキハキせよ」
「オッチョコチョイ」
「調子に乗るな」
「計画性がない」
「注意力が散漫である」
 その父が、思いのすべてを托せる物語に出会った。「無法松の一生」である。
 ひとりの軍人が病死し、あとに美しい未亡人と幼い息子が残される。息子は、気が弱い。意志が弱い。グズである。ハキハキしない。注意力散漫である。
 この息子に、男らしさを、勇気を、意志の強さを、喧嘩の仕方を教えてくれるのが松五郎であった。松五郎こそ、父の私に対する夢でなくしてなんであったろう。

「父と子」『女たちよ!男たちよ!子供たちよ!』より

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エッセイ「父と子」収録の単行本・文庫『女たちよ!男たちよ!子供たちよ!』(1979年、84年・文藝春秋)は残念ながら絶版ですが、2018~19年に岩波書店から刊行された『伊丹十三選集』の第3巻に再録されています。
上に引用した文章の続きにある「私は、伊丹万作、松五郎路線と、ほぼ反対の方向に子供を育てつつある自分を発見する」という、実に伊丹さんらしいお話も含めて、ぜひどうぞ、お読みください。

学芸員:中野