記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2015.09.28 常設展示室の引出しの中をお見逃しなく

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
昼間はまだ少し汗ばむこともありますが、特に朝晩はめっきり冷え込むようになってきました。夏の疲れも出てくる時期ですので、体調を崩されないよう、どうぞくれぐれもご自愛くださいね。

さて、記念館にある展示室2つのうちの一つ、常設展示室には、いくつか「引出し」があります。

展示台に据え付けられたこの引出しは、展示コーナーそれぞれに合った取っ手の形や大きさをしており、その中にも、伊丹さんのオリジナル原稿や著書、雑誌、愛用していた文房具や食器類、衣服、エッセイその他で目にしたことのあるイラストなど、様々な展示品が収められています。
実はこの引出し、お客様ご自身で開けたり閉めたりして中の展示品をご覧いただけるスタイルの展示なのです。

「展示なのに触ってもいいんですか?」と仰るお客様もたくさんいらっしゃるのですが、開けるワクワク感も含めて楽しんでいただきたい展示ですので、ご遠慮なく、しっかり手前まで引いて中の展示品をご覧になってください!

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どのコーナーに引き出しがあるのかは展示品リスト(受付を済まされたお客様にお渡しします)に記載されていますが、引出しがきっちり閉まっている場合など、取っ手の位置がお分かりになり辛い時はスタッフまでお気軽にお声掛けくださいね。どうぞお見逃しなく!

常設展示室には、他にも手まわし式イラスト閲覧台など引出しと同じくお客様ご自身が触って、動かしてご覧いただく展示がございます。記念館にお越しの際は、じっくりご堪能くださいませ。

スタッフ:山岡

2015.09.21 記念館の入館チケット

伊丹十三記念館のチケットは落ち着いた黒色の厚紙でできており、記念館のロゴと伊丹さんのイラストがデザインされています。まずご来館のお客様に受付でお渡しするのですが、皆様から大変ご好評を頂いております。

IMG_1927.JPG大人と高校生・大学生で使われているイラストは異なります。向かって右が高校生・大学生のチケットで左が大人のチケットです。

高校生・大学生のチケットで使用されているイラストは、伊丹さんの人気のエッセイ「女たちよ!」の中の「ハリーズ・バーにて」という話の挿絵です。

クラブ・ハウス・サンドウィッチという大型のサンドウィッチを食べる人の姿が描かれており、イラストには「ベーコンはこまかく切っていれよう。」と書かれています。

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「ベーコンの炒ったやつなんかはいっていて、うっかり端を銜えて引っぱろうものなら、ベーコンというやつは決して途中で切れないから、中身が巻添えを食って全部外へ零れてしまったりする。
クラブ・ハウス・サンドウィッチはほんとうは手で食べるものではないので、ナイフとフォークで食べるべきものなのかもしれぬ。私はホテルなんかでは、ルーム・サーヴィスでしかこれを食べない。
(略)
すなわち部屋でなりふりかまわず食べるに限るのだ」

と、本文にはこうあります。豪快な雰囲気が表現されたイラストで、まさに「若者=高校生・大学生」のチケットにぴったりなイラストです。

ちなみに、大人のチケットのイラストは、こちらも伊丹さんのエッセイ「問い詰められたパパとママの本」の中の「ママハイツモオ化粧シテルノニドウシテ肌ガアレテルノ?」という話の挿絵が使われています。
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イラストには「奥サマガ眠ッテイル間ニモ三十分ニ一度 濡レタガーゼデ顔ヲフイテヤルヤサシイ夫!」とあります。

何のことやら気になりますね。「問い詰められたパパとママの本」も大変人気のエッセイですので気になる方は是非読んでみて下さい!



スタッフ:川又

2015.09.14 アクセス情報

松山を代表する観光スポットといえば、道後温泉が有名ですね。
「道後温泉を訪れる時に、伊丹十三記念館まで足をのばしてみたい」と、当サイトをご覧になられている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
事前に、道後エリアから記念館までのアクセスをお問合せくださる方もいらっしゃいますので、公共交通機関を使用した移動方法をひとつご案内させていただきますね。市内電車(路面電車)と路線バスを乗り継ぐ方法です。

● 市内電車「道後温泉」電停乗車→「大街道」電停下車
   乗車時間約11分
          ↓
● 徒歩/市内電車「大街道」電停→路線バス「大街道」バス停
   約2分
          ↓
● 路線バス(伊予鉄バス「砥部線」)「大街道」バス停乗車→「天山橋」バス停下車
   乗車時間約15分
          ↓
● 徒歩/路線バス「天山橋」バス停→伊丹十三記念館
   約3分

※市内電車「大街道」電停と伊予鉄「大街道」バス停は、松山城ロープフェイ乗り場から徒歩5分程ですので、松山城からの移動のご参考にもどうぞ。

市内電車(路面電車)は、JR松山駅や伊予鉄松山市駅、道後温泉等を結ぶ便利な交通機関で、城下をのんびりガタゴト走る様子がいかにも松山らしく、観光客の方にも人気です。

station.JPG市内電車「道後温泉」駅舎


train.JPG「道後温泉」駅構内・市内電車車両

 

明治時代から松山市民の足として親しまれた蒸気機関車を、ディーゼルエンジンで復元した「坊ちゃん列車」も路面電車と同じ軌道を走っていますので、そちらを目当てになさる方もいらっしゃるようです。
ちなみに現在、道後温泉およびその周辺エリアでは、アートフェスティバル「蜷川実花×道後温泉 道後アート2015」が開催されています(2016年2月29日まで)。この会期に合わせて来松なさる方もいらっしゃることと存じますが、同イベントのアート作品のひとつとして、蜷川さんの写真を路面電車の車両全体にまとった「ラッピング電車」も一部運行しているそうですよ。

松山にいらしたら、観光の合間に、記念館にもお立ち寄りいただけましたら幸いです。

スタッフ:淺野

2015.09.07 戦後70年

 だまされたものの罪は、ただ単にだまされたという事実そのものの中にあるのではなく、あんなにも造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになってしまっていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである。

「だまされていた」という一語の持つ便利な効果におぼれて、一切の責任から解放された気でいる多くの人々の安易きわまる態度を見るとき、私は日本国民の将来に対して暗澹たる不安を感ぜざるを得ない。

「だまされていた」といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそによってだまされ始めているにちがいないのである。

 一度だまされたら、二度とだまされまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない。

「文化的無気力、無自覚、無反省、無責任――私のことかしら」とギクリとして、思わず正座しそうになる文章ですが、書かれたのは終戦翌年の1946年。伊丹十三の父・伊丹万作(1900-1946)が、当時の映画界における戦争責任者追及のあり方に疑問を持ったことから、雑誌『映画春秋』創刊8月号に発表した「戦争責任者の問題」の一節です。

我々は、はからずも、いま政治的には一応解放された。しかしいままで、奴隷状態を存続せしめた責任を軍や警察や官僚にのみ負担させて、彼らの跳梁を許した自分たちの罪を真剣に反省しなかったならば、日本の国民というものは永久に救われるときはないであろう。

原発事故から今年の戦後70年にかけて「現代にも通じる」「今の日本のことを言い当てているようだ」と取り上げられる機会が続きましたので、どこかで目にした方、聞いた方も多いことでしょう。
先日は、朝日新聞(大阪版夕刊、愛媛版等)で紹介していただきました。

 朝日新聞デジタル 「だまされる罪」鋭い批評(2015年7月25日)

  全20回の連載「1945年 夏を訪ねる」の第6回です。
  無料登録で全回読めます。ぜひどうぞ。

「戦争責任者の問題」は、ウェブサイト青空文庫で全文お読みいただけますが、2010年に復刊された『伊丹万作エッセイ集』(ちくま学芸文庫)に収録されていて、よく売れています。

mansaku_essay.jpg記念館のグッズショップでも販売しています。

グッズショップでお買い上げくださる方から、「知り合いに勧められて」「ネットで知って衝撃を受けました」「手元にいつも置いておきたいと思いました」等、お声掛けをいただくことが多々あり、お客様の真剣な眼差しに「しっかりやっていかねば」と緊張を覚えます。

伊丹万作は、「戦争責任者の問題」を発表した年の秋に、この世を去りました。草葉の陰で「アシが70年近くも前に書いたものがまだ読まれているとは、有難い反面、日本も困ったものじゃのう」と嘆息しながら苦笑しているかもしれません。

これからの戦後80年、90年、100年――年月を経るにつれ、驚きをもって注目されるのではなく、万作の説いた自己反省の精神が、誰にとっても当たり前のことになっていくように心から願いつつ、広く長く伝えていきたいと思います。

学芸員:中野