

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2025.02.24 宮本館長 出勤のお知らせ
記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
やっと少し暖かくなってきたと思うとまた寒くなって、気温差の激しい日が続いていますね。体調その他、皆さまくれぐれもお気をつけて日々をお過ごしください。
さてそんな寒い中に、ホットなニュースをお届けいたします。
宮本館長の出勤日が決定いたしました!!
<宮本館長出勤日と時間帯>
3月20日(木・祝)15時頃~16時半頃まで
3月21日(金)13時頃~16時頃まで
※状況により、急きょ予定を変更する可能性がございます。何卒ご了承ください。
ご来館の方から、また、お電話などでもよく「宮本館長は次回いつ来ますか?」とご質問をいただくので、お知らせできて本当に嬉しいです。
当日、宮本館長は私たちスタッフと一緒にお客様をお迎えいたします。
「いらっしゃいませ!ようこそ!」とお声がけして、お話しして――そんなお客様との時間を、宮本館長は本当に楽しみにしています。
今回の出勤日には祝日も含まれていますので、平日はお仕事で来られないという方も、ぜひこの機会に、宮本館長に会いに記念館にお越しくださいね。
宮本館長、スタッフ一同、皆さまのご来館をお待ちしています。
スタッフ:山岡
2025.02.17 料理と後片付け
今年最強といわれる寒波が過ぎ去り、ふと春の匂いを感じるような日も出てきた今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
先週は少し暖かくなっておりましたが、今週は全国的にも冷え込むとの予報です。体調を崩されないようお体を大事にお過ごしください。
記念館では、ロウバイやユキヤナギに花がつきはじめました。少しずつ近づく春を楽しめたらな、と思う毎日です。
【ロウバイ】
【ユキヤナギ】
さて、わたくしごとではございますが、昨年11月ごろから二人暮らしを始めました。生活は滞りなく営めているのですが、ここ数か月の大きな悩みは食事、そして後片付けについてです。
自分一人だと「今日は疲れたしコンビニ弁当にしよう。洗い物も出ないし」のような適当さでも生きていけますが、いかんせん人と暮らすとなると、同居人との食事についてきちんと考えなければなりません。栄養バランスの取れた献立、品数も少なすぎると食卓が味気ないので一汁三菜くらいは頑張りたい、でも夜遅くになると揚げ物などの重たい料理は胃にも悪いし太るし――と日々頭を悩ませています。
もちろん、同居人も食事を用意してくれる日があったり、外食やお惣菜で済ませる日もありますので必ずしも毎日料理を作るというわけではありません。ですが、やはり食べるというのは毎日のことですので、帰宅途中は食事のことで頭の中がいっぱいになる日がほとんどです。
そして、帰宅してなんとか3品作って食べるころにはシンクに大量の洗い物が。フライパン2つに鍋1つ、おたまに包丁、まな板、菜箸、ボール、大さじ小さじのスプーン。これに2人分の食べ終わったお皿たちが足されると、文字通り洗い物が山のようになってしまうのです。
私は家事の中では洗い物が特に苦手でして、食事のこととなると食器などの後片付けまで考えなくてはならないので、日々悩みが尽きないです。
このように毎度大荒れになる台所で料理を作りながら「ああ、伊丹さんはこういう惨状を見て、あのエッセイを書いたのだな」と思い起こされるのが、「料理人は片づけながら仕事をする」です。
私が料理を始めた動機というのは、ごく愚劣なものなのです。まあお聞き下さい。
二年ばかり前、私ども夫婦は半年ばかりロンドンで暮した。ハムステッドにフラットを借りて自炊して暮した。ここの家主というのがフランス料理の大家で、自分の作った料理をひとに食べさせるのがなによりも好きという独り者のうえに、うちの奥さんがそれに輪をかけた料理気違いです。
それゆえ、私が居間でもってソファーにふんぞりかえって子母澤寛氏の「味覚極楽」なんぞを繙いていると(中略)このドメスティックな二人組は台所で盛んにラルースの「フランス料理大全」なんかをひっくりかえしたり、なにやら討議したり、一人が用ありげに台所から出てきたり、また別の一人がしばらく買い物に出かけたり、そうこうしているうちに、なにやら刻む音、なにやら煮立つ音とともに、予測のつかぬ香ばしい匂いなども漂いはじめ、台所の中の動きがただならぬ具合いにあわただしくなったと思うと、ファンファーレの音高く(もちろん、これは料理人の心の中で鳴り渡っているのだが)本日のスペシャル・メニュー! がしずしずと現われる、という仕掛けの毎日を私は送っていたのです。
(中略)
このような結構な毎日ではあったが、私には気に食わぬことが一つあった。すなわち、彼らが料理した後の台所は散らかり放題に散らかって、足の踏み場もないのである。
あらゆる鍋、皿、ボウル、スプーン、包丁、布巾、調味料、野菜の切れ端、使い残しの肉、卵の殻、そういうものどもが、死屍累々という塩梅で台所のあらゆる空間をおおいつくすのであって、どうもこれは気に食わない。仕方がないから、そうだ!身をもって範を垂れよう。本当の料理人は常に片づけながら仕事をする、ということを見せてやろう。
こうして私は生まれて初めて包丁を持ったのであります。忘れもしない、私はまずカレー・ライスを作ったね。料理の本を読むと、いやあ、便利なものですな、これは。「まず玉葱を紙のように薄く切り、これを大量のバターを使ってとろ火で炒める。狐色に色づいた時玉葱を引きあげ、紙の上に並べて油を切る。二、三分もすると玉葱はパリパリになりますから、これをスプーンの底ですりつぶして粉にする。この玉葱の粉がカレー粉の色と香りの基調になるのでございます」なんぞということが書いてある。なるほどやってみると、その通りになっていく。鶏のぶつ切りを炒め、じゃがいも、人参を炒め、チリー・パウダー、塩を少少、カレー粉を次次に加え、同時に鶏のスープを仕込み、炒めたものにスープを加え、玉葱の粉を一緒に煮込んでいく。いやはや、面白いのなんの。トマトを布巾で絞る、これが酸味。マンゴ・チャトニの瓶詰のドロドロの部分で甘味をつけ、最後にライムを一絞りしぼって味を引きしめる、なんて、まあただで教わるのが勿体ないようなことがすっかり書いてあって、その通りやるとその通りのものができる。これは驚きましたねえ。
傍ら私はどんどん物を片づけましたよ。それが目的なんだからね。要するに、片っ端から常に片づければそれでいいのさ。汚れ物というものは加速度的に増えるから、一旦溜り始めるともういけない。追いつけなくなってしまう。
ま、そういうわけで、私の料理の第一日目には今まで食べた最良のチキン・カレーとピカピカに磨き上った台所が同時にできあがったわけで、目出度き事限りなし。そうして物事は初めが大事だ。初めに身についた習性というものは、なかなか抜けるもんではないのでして、今でも女房は台所が汚れてくると私の料理を所望するのです。
(『女たちよ!』より「料理人は片づけながら仕事をする」)
自らも台所に立ち、家族や来客に料理を振舞っていた伊丹さん、なおかつ同時に片付けもしていたとは!とエッセイを初めて読んだ時は驚きました。
レシピに忠実に従いながら料理を作り、片付けも同時進行で行う。簡単なようで意外と難しいと実際に生活をしていてひしひしと感じます。
このエッセイを思い出すたびに、気持ちを新たにして料理と後片付けの同時進行に挑戦しておりますが、毎度あまり上手くはいきません。伊丹さんの言うとおり、「初めに身についた習性というものは、なかなか抜けるもんではない」のですね。精進をしていきたいと思います。
さて、今週21日(金)からは、ついにTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて『日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭』が開催されます。22日(土)にはTOHOシネマズ日比谷にて宮本信子館長の登壇イベントもございますので、ぜひぜひチェックしてください!
学芸員:橘
2025.02.10 「映画館で観る映画」はいかにして作られるか
先日開始した告知のとおり、『日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭』が2月21日(金)より東京日比谷と大阪梅田のTOHOシネマズで開催されます。
日本映画専門チャンネルさんからタップリお届けいただいたフライヤー、
記念館のロビーで配布中です。どうぞお手に取ってみてくださいませ。
この特集上映のサイトでは「いま劇場で伊丹映画を観る喜び」というお題の、現役映画監督たちによるコメントが紹介されています。ベテラン監督、若手監督とも、短いコメントの中に独特の視点や背景があらわれていますよね。
その中で、「伊丹十三が活躍した時代、映画は映画館で観るから映画だった」に始まる周防正行監督のコメントには、技術の変化に対応しながら、受け手が身を置く鑑賞状況をも意識して、映画作りに努めてこられた周防監督のキャリアについて深く考えさせられました。
さて、「映画館で観る映画」、つまり「大きなスクリーンに映し出される映画」。
これを作るにあたって、伊丹十三監督が大いに腕を揮い、伊丹組の皆さんと数限りない創意工夫を凝らしたことは多くの方がご存知であろうと思いますが、予期せぬ壁にぶち当たることもあったようで――
たとえば、監督デビュー作の『お葬式』(1984年)の撮影初期にはこんなことがあったそうです。
一時から冠婚葬祭のVTR部分*1の撮影。(中略)VTRの機材は日活学院が使っている学校の備品である。VTRの技術者らしい人は誰もついてこない。一抹の不安はあったが快調に撮影進み、六時終了。(中略)
衣裳合せ中、撮影部から使いがきて、今日撮影したVTR、画質悪く使用不能という。撮影部へ行ってみると米造氏*2以下深刻な表情。キャメラが家庭用の安直な機械で、到底、大スクリーンに拡大は不可能とのこと。そういえばモニターの画が悪かったが、それはモニターそのものが悪いのだとばかり思っていた。不覚である。スタッフは画が粗いのは監督の狙いだと思っていたよし。(中略)俳優諸君には申し訳ないが、良いリハーサルをやらしてもらったと思うことにしよう。
細越氏*3、すっかり考えこんで、この分では十六ミリ部分*4も事故があるといけない、あそこも念のために三十五ミリで撮りましょう、といい出す。すでにして教訓は生き始めている。
伊丹十三『「お葬式」日記』(文藝春秋、1985年)p.312より
*1 通夜当日の朝、主人公の侘助・千鶴子夫妻が弔問客への対応を予習するために見るマニュアルビデオ / *2 前田米造さん(伊丹映画全10本のうち8本に撮影監督として参加したキャメラマン) / *3 細越省吾さん(『静かな生活』までの8本の製作を担ったプロデューサー)/ *4 作中、映画青年の青木が16ミリカメラで撮影したという設定で流れるモノクロ、サイレントの「ある葬儀の記録」。実際の撮影は淺井愼平さんが担当
「冠婚葬祭のVTR」の映像は、後日、撮影期間の終盤にベータカムという放送業務用の高画質カメラを使用して再度撮影され、無事に本編に組み込まれました。スケジュールに余裕のあった時期の失敗でよかったですねぇ......
それから、編集に関してはこんなことも。
『お葬式』『タンポポ』『マルサの女』では、イタリア製のインターシネという編集機が使われました。(蔵原惟繕監督が所有していたものを借りたんだそうです。)
この編集機は小型のスクリーンがついているのが特徴で、伊丹監督曰く
普通は編集マンがムビオラで仕事するために監督は非常に不自由な形でしか編集に参加できぬが(ムビオラは一度に一人しか覗けない)インターシネの場合、画面が開放されているため監督は全面的に編集に参加することができる。
『「お葬式」日記』p.241より
ということで、撮影された個々のシーンが一本の映画として生き生きとつながるように、編集の鈴木晄さんと監督とで磨きあげていったわけですが、配給会社を経て映画館で上映される映画であるためには長すぎてもいけないので、"削る"(切る、カットする)のも大変に重要な作業でした。
映画編集者から見た監督・伊丹十三について、鈴木さんはこんなふうに証言なさっています。
どの監督ともそうだけど、初めて一緒にやるときは、監督が編集に何を求めているのか探ります。監督も編集者がどういう編集をするのか気になる。(中略)でも、伊丹さんの間合いはすぐにわかりました。伊丹さんも「鈴木さんはこうつなぐのか。じゃあ、俺はこう撮ろう」と先へ先へ行ってくれるから、非常に楽でしたね。初めて監督する人で、編集のことを考えながら撮影出来る人はなかなかいないですから。
それに編集に対しての細かい指示もそんなにはなかった。「そのカットは短くね」とか、抽象的な指示だけ。「もうあと何コマ切って」とか、そんな細かいことは一切言わない。「ちょっと切っといてね」の「ちょっと」の部分を感じて、上手に細工のできる感性を要求する人でしたよね。
ただ、伊丹さんには編集卓のモニターは劇場のスクリーンと違って小さいから、モニターだけを見て判断しては危険ですよ、ということを伝えました。モニターを見た感覚と、完成してスクリーンで見たときの感覚は違う。どうしても、モニターでずっと見ていると、情報量が少ないからたるく感じちゃう。引いたカットの表情なんか特にね。
伊丹さんも、「つないでみたらかったるい。つまらない」と言って、どんどん編集で切ろうとしていたんだけど、「今、切ったらダメです。もっと完成に近いものを見てからでないと。途中でチョコチョコ切っちゃうと、慌ただしいだけで味がなくなっちゃう」といつもアドバイスしていました。
普通、監督というのは撮影したものをできるだけ切りたくないわけです。編集者が切ろうとしても、「そこは大事なとこだから」と伸ばそうとする。それなのに伊丹さんは逆。「これは要らない、あれも要らない」って、どっちが編集者かわからない(笑)。僕が必死で「全部つながってから切るようにしましょう」とか「もう一回大きな画面で見てから詰めましょうよ」とか言うわけです。
『伊丹十三の映画』(新潮社、2007年)p.113-114より
監督自ら書いたシナリオは、『お葬式』の場合でいえば、そのまま映画にすると2時間半を超えてしまう長さだったため、「どう縮めるか」は撮影前からの課題になっていました。鈴木さんは「書いたものは切れませんが、撮ったものは切れますから(=シナリオを切ってしまって撮影せず、つないだときに素材が足りないとなっては手立てがない)」と伊丹監督を励ましていたそうですが、"切りたがり"な監督との編集卓を前にした攻防が待ちうけていたとは、ベテラン編集者でも予想外だったことでしょう。
伊丹組スタッフ・キャストの皆さんのインタビュー満載、
『伊丹十三の映画』(税込3,630円)は伊丹十三記念館限定販売です。
「伊丹十三4K映画祭」の予習にも復習にも最適!
――等々あって生み出された伊丹映画。
その全10作をスクリーンでご鑑賞いただける機会が今回の『伊丹十三4K映画祭』です。
『「マルサの女」日記』(文藝春秋、1987年)のしめくくり近く、「自分の映画を上映している映画館の近所をのんびり歩いている人を見ると『映画館はあっちだ!』と叫びたくなってしまう。スクランブル交差点の中にひしめいている人人を見ると、投網でひっさらって映画館へどさりと投げ込みたくなってしまう」と伊丹十三は綴りました。
伊丹さんに投網でひっさらわれて映画館に投げ込まれた! と思って劇場の客席に身体をうずめるのも一興、かもしれません。
ぜひスクリーンでご堪能ください。
学芸員 : 中野
2025.02.03 【朗報】伊丹映画をスクリーンでご覧いただける大チャンスです!
伊丹十三記念館ホームページの告知欄でもお知らせしております通り、2月21日(金)より、TOHOシネマズ日比谷と、TOHOシネマズ梅田において『日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭』の開催が決定いたしました!
4Kデジタルリマスター版の伊丹十三脚本監督全が、2月21日(金)より各作品1週間ずつ10作品10週連続で上映されます。
伊丹映画は現在配信サービスではご覧いただくことができない上、劇場でご覧いただける機会も限られている中、スクリーンでご覧いただける大変貴重な機会でございます。伊丹映画の4Kデジタルリマスター版を是非みなさま劇場でご覧ください。
また、上映記念イベントとして、2月22日(土)には TOHOシネマズ日比谷 にて当館の宮本信子館長とテレビドラマ演出家、プロデューサー、映画監督である塚原あゆ子さんによる登壇イベントの開催も決定しているということです。塚原あゆ子さんと言えば、昨年末に放送されたTBS系日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」の演出をご担当されており、同作品でキーパーソン「いづみ」を演じた宮本信子館長と作品の撮影秘話なども語られるのではないでしょうか。
『日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭』
の詳細は こちら をご覧ください。
上記のサイトでは、第16回伊丹十三賞の受賞者である、のんさんや、伊丹十三賞の選考委員をお務めの周防正行監督、映画監督の山崎貴監督、岩井俊二監督、奥山大史監督から「いま劇場で伊丹映画を観る喜び」というテーマでコメントもいただいており、必見です。
さらに5月には日本映画専門チャンネルにおいて、伊丹映画全10作品が一挙放送される予定とのことです。放送情報の詳細は後日発表ということですので、発表されましたら、また改めてお知らせさせていただきます。
この機会に是非、劇場で、そのあとおうちで、4Kデジタルリマスター版の伊丹映画をご堪能ください。
スタッフ:川又