記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2023.08.28 マグネットもおすすめです

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。

8月23日は二十四節気でいう「処暑」でした。厳しい暑さが峠を越す頃だそうですが、昼間はまだ気温の高い日が続いています。朝晩の気温差が大きくなってくる時期でもありますので、お体にはお気をつけてお過ごしください。

さて、記念館では新企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』展が始まり、同時に記念館のショップでは、書籍『伊丹十三の台所』(つるとはな)の販売を開始しました。
企画展と書籍を合わせてお楽しみいただくと、「食べること、作ること」を楽しむ伊丹さんをより堪能できると思います。ぜひ両方をご覧になってみてくださいね。

ところで、記念館のショップには『伊丹十三の台所』以外にも、新企画展をご覧になった方におすすめの商品があります。
記念館オリジナルグッズの一つ、マグネットです。

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ショップのマグネット売り場。
税込330円/個で販売中です。

企画展に合わせて作られた...というわけではないのですが、冷蔵庫に簡単なメモやチラシなどを貼るもの、というマグネットのイメージから、プリントされているのは「食」に関する伊丹エッセイの挿絵となったイラストばかりなのです。もちろん、伊丹さん自身が描いたものです。

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マグネット全5種類。
詳細はコチラ

 

そして、このマグネットのイラストは企画展示スペースの壁面にもプリントされていて、新企画展の中でもご覧いただくことができるんです(同じ壁面には上記以外の伊丹さんのイラストもあります。ぜひ現地でご覧ください)。

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新企画展の壁面

 

「伊丹十三記念館で新しい企画展を見てきたよ!」という記念にぴったりのマグネットを、ご来館の際は手に取ってみてくださいね。

スタッフ:山岡

2023.08.21 新企画展へのご感想は「みなさまの声」でチェックしてください


記念館便りをご覧の皆さまこんにちは。


伊丹十三記念館ホームページでは、記念館を訪れてくださった皆様に館の感想をお聞きし、当サイトをご覧の方々に、記念館の雰囲気の一端を感じていただこうというコーナー「みなさまの声」を毎週金曜日に更新しています。



みなさまの声は   こちら  から



7月15日から開始した新しい企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」展』へのご感想もぞくぞくとお寄せいただいております。



当館の館長・宮本信子が建築家の中村好文先生に記念館建物の設計を依頼する際、「伊丹さんの家みたいにしてね」とお願いしたことは記念館便りでも何度かご紹介させていただいたかと思いますが、まさしくこの度の企画展は伊丹家の台所に遊びに来たような感覚で、「伊丹さんにそんなに詳しくない」とか「旅行で松山に来ただけ」という方にも、気負わずに楽しんでいただける展示ではないかと思います。



「みなさまの声」を拝見しても、そのようなご意見が目立ちます。



是非、気軽なお気持ちで新しい企画展を見にご来館くださったらと思います。そして「みなさまの声」にご意見いただけましたら幸いです。


s-「伊丹十三の台所」表紙(帯あり).jpg
「伊丹十三の台所」も絶賛発売中



スタッフ:川又

2023.08.14 デンマークの伊丹十三

みなさま、残暑お見舞い申しあげます。


イヤハヤ暑い、「スーパー・エルニーニョ」だの「フェーン現象」だのと言われると余計に暑い、日本中が暑いと聞くともはや八方塞がりの感......


その一方、朝夕の日差しの加減などから暑さが徐々に和らぎゆくのも感じる、今日この頃の松山です。

エー、前回、新企画展の開始とともに「常設展示室の『七 料理通』のコーナーもリニューアルしましたヨ」とお知らせ申しあげましたが、皆様、もうご覧くださいましたでしょうか?

20230717_permanentA.JPG「えっっ、変わってたの? 気付かなかった!」はナシですよ~~
受付でお渡しする解説とともに、じっくりご覧ください。

たまたま、と申しますと何ではございますけれども――今回はじめて展示にかけた伊丹十三の愛用品で、デンマーク製の生活用品がふたつあります。

どれがそうかはご来館の際に展示室でご覧いただきたいので今は詳細を控えさせていただきますが、お客様の中には「アラ、伊丹さん、北欧デザインがお好みだったのかしら?」とお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。


特に好んだという確証はございませんが、素材を生かした平面と曲面の絶妙なバランス、シンプルでいながら飽かず眺めていられそうなフォルムのそれらは、いかにも伊丹さんが気に入りそうな姿をしているなァ、と感じます。

で、特別に好んだかの確証はないなりに、伊丹さんとデンマークのかかわりをご紹介いたしますと、TVシリーズ『世界の学校』(全3回/1975年10月-76年3月/朝日放送)でデンマークの学校における性教育を取材したのが大きな契機であったと言えましょう。

この番組での経験はエッセイにもなっていまして、次のように書き残されています。

(まことにおおらかでオープンな性教育の授業風景の描写に続いて――)

 なんでも実地に見てみないとわからぬものだと思ったのは、性教育は、子供たちにとって、当然のことながら、まず親の物語なのである。そうして、それが同時に、なぜ自分がこの世にあるかということへの答えになっている。これはなかなか大変なことである。子供が親の性を知るということは、タテマエとしての親の消滅を意味する。親子関係の根底に横たわるうそがとっぱらわれ、親の権威が消滅してしまうと、親は当然、一個の赤裸々な人間として子供と向かい合うという結果にならざるをえない。性教育は、実に社会を根底から変えるような副次的な効果を持つのである。

(中略)デンマークの性教育を見ていて感動的なのは、先生も生徒も非常に自然だということである。性について話していながら、道学的なところが一切ない。陰湿な点、犯罪めいた点、話してはならぬことを話しているという雰囲気が一切ない。
 先生は、まるでスポーツ選手のように、フットワークも軽々と教室中を動きまわる。生徒たちも先生の名を呼び捨てである。全体に、管理する者とされる者という雰囲気がまるでない。教師対生徒という上下関係とは全く別なところで信頼が成り立っているように思われる。おそらく、遠い昔、デンマークの先生は、権威を捨てて自由と平等をとったのだろう。管理を捨ててコミュニケーションと友情をとったのだろう。


「デンマークの性教育」『ぼくの伯父さん』(つるとはな)より

1970年代の初めからテレビドキュメンタリーに携わるようになった伊丹十三の取材先は、70年代半ばには海外にも及ぶようになり、行く先々で日本社会の変テコさを痛感しきりであったようです。


上に引用したエッセイでは「日本では、いかに管理されやすい人間をつくるかが教育の最大の目的であり、学校は、いきおい管理社会のヒナ型とならざるをえない。学校の授業もまた『出席をとる』という、実に、この上なく管理的な作業から出発する」とも書かれています。


修業期間にある子供が身近にいない私には、今の日本の学校教育がどのようであるか、幾分かは変わることができたのか、具体的なところは分からないのですが、新学期が近付くにつれつらい気持ちに陥る子供のいない社会になるように、一市民として努めてまいりたいと思います。

20230814_haguro tombo.JPG川や林に近い記念館にはいろんな虫がやってきます。
黒い姿・ヒラヒラとした飛び方がエレガントなこちらのトンボは
「ハグロトンボ」というそうです。他地方からご来館くださるお客様には
このような四国・愛媛の自然もお楽しみいただけましたら嬉しいです。

学芸員:中野

2023.08.07 オーブン付きガスコンロ

8月に入り、大変暑い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。ほんの少しの時間でも、太陽の光を浴びているだけで体調不良になりそうな日々ですので、皆さま熱中症には十分ご注意くださいませ。

 

私ごとではございますが、8月1日より学芸員の肩書きをいただきました。まだまだ至らぬ点も多く、勉強の日々ではございますが、少しでも早く専門的な知識を吸収し、皆さまのお役に立てるよう精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

 

7月15日よりスタートいたしました新企画展示『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』、ご覧になった方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

新聞やテレビで新企画展示について取り上げていただき、7月中は「新聞で見ました!」「昨日のニュースで見ました!」とお声掛けくださるお客様がたくさんいらっしゃいました。

 

s-IMG_4841.jpg展示室入口のタイトル

 

食をテーマにしている今回の企画展示では、伊丹さんが実際に使っていた愛用品が「食べたり、」「呑んだり、」「作ったり」のコーナーに分けて、数多く展示されています。うつわやカトラリー・調理器具の他、イラストの原画や生原稿、映像資料なども展示されていて、ボリュームのある企画展示となっております。くわしくはぜひこちらのページをご覧ください。

 

見どころ満載の新企画展示となっておりますが、今回の記念館便りでは展示品の中でもかなり大物にあたります、オーブン付きガスコンロをご紹介させていただきます。こちらのガスコンロはアメリカのマジックシェフ社のもので、4口コンロの下にオーブンが付いている代物です。

 

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s-IMG_4956.jpg4口のガスコンロ

 

 

s-IMG_4957.jpgオーブンの扉部分

 

「どこかで見たことがあるような......」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。こちらは1973年に移り住んだ湯河原の自宅で実際に使用されていたガスコンロです。湯河原で撮影されたCMや映画に映り込んでいたものですので、そちらでご覧になった方が多いと思われます。

 


s-osoushiki.jpg映画『お葬式』の冒頭、台所が映るシーン

少し見えにくいのですが、中央にあるのがガスコンロです。

 

当時でもオーブンの付いたガスコンロは珍しかったそうで、食にこだわる伊丹さんならではの展示品となっております。お客様に間近で見ていただけるのは初めてのことですので、お手を触れていただくことは出来ませんが、ぜひじっくりご覧いただけますと幸いです。

 

最後に、オーブンについてのお話が出てくるエッセイを2つご紹介させていただきます。(伊丹さんは、エッセイの中でオーブンを「オヴン」と表記するこだわりも見ることが出来ます。)

 

 さて、ロースト・ビーフから血をしたたらせるにはどうすればよいか。イギリスのある俳優からきいたこつを書いておく。

 順序を追っていうなら、ロースト・ビーフ用に縛った肉に、串でたくさん穴をあけ、小さく刻んだ大蒜をつめる。表面に塩、胡椒をふりかけ、マスタードの粉をすりこむ。次にサラダ・オイルをかけて、あらかじめ強火にしたオヴンに入れる。オヴンに入れる時間は肉の大きさによって異なるが、大切なのは最後の十五分間くらいの間、オヴンの扉を十センチばかり開けておくことである。

 これによって、外へ発散しようとしていた血が全部肉の中へ逆戻りするから(なぜかは知らぬ)うまい具合いに「血のしたたるような」ロースト・ビーフができあがるのである。

(『女たちよ!』より「血よ、したたれ!」)

 

 料理は今やできあがろうとしている。人数分のお皿を温いオヴンにほうりこむ。テーブルにテーブル・クロスをしく。ナイフとフォークを並べる。ナプキンを置く。――サア皆サン、席ニツイテクダサイーーパンとバターと葡萄酒とグラスを出す。台所へひきかえしてオヴンから温いお皿を出し料理をつぐ。――およそ料理をしたことのある人ならだれでも知っているだろう、心の浮き立つような一瞬である。

(『女たちよ!』より「温められた皿」)

 

オーブンを使用していたことが伺えるエッセイを2つをご紹介させていただきました。展示されているオーブン付きガスコンロは、『女たちよ!』の出版よりも後に湯河原に導入されたものですので、実際にこのオーブンの付きガスコンロを使用して書かれたエッセイではないのですが、少しでも雰囲気を感じていただけますと幸いです。

 

映画に映っていたもの、エッセイに書かれていたものが実際に展示され、一つの展示品をいろいろな角度から楽しむことが出来る今回の企画展示。ぜひこの夏休みを利用してご来館ください。

 

※8月15日は火曜日ですが、お盆期間ですので通常開館しております。

詳しくは開館カレンダーをご覧ください。

 

学芸員:橘