こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.08.07 オーブン付きガスコンロ
8月に入り、大変暑い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。ほんの少しの時間でも、太陽の光を浴びているだけで体調不良になりそうな日々ですので、皆さま熱中症には十分ご注意くださいませ。
私ごとではございますが、8月1日より学芸員の肩書きをいただきました。まだまだ至らぬ点も多く、勉強の日々ではございますが、少しでも早く専門的な知識を吸収し、皆さまのお役に立てるよう精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
7月15日よりスタートいたしました新企画展示『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』、ご覧になった方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
新聞やテレビで新企画展示について取り上げていただき、7月中は「新聞で見ました!」「昨日のニュースで見ました!」とお声掛けくださるお客様がたくさんいらっしゃいました。
展示室入口のタイトル
食をテーマにしている今回の企画展示では、伊丹さんが実際に使っていた愛用品が「食べたり、」「呑んだり、」「作ったり」のコーナーに分けて、数多く展示されています。うつわやカトラリー・調理器具の他、イラストの原画や生原稿、映像資料なども展示されていて、ボリュームのある企画展示となっております。くわしくはぜひこちらのページをご覧ください。
見どころ満載の新企画展示となっておりますが、今回の記念館便りでは展示品の中でもかなり大物にあたります、オーブン付きガスコンロをご紹介させていただきます。こちらのガスコンロはアメリカのマジックシェフ社のもので、4口コンロの下にオーブンが付いている代物です。
4口のガスコンロ
オーブンの扉部分
「どこかで見たことがあるような......」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。こちらは1973年に移り住んだ湯河原の自宅で実際に使用されていたガスコンロです。湯河原で撮影されたCMや映画に映り込んでいたものですので、そちらでご覧になった方が多いと思われます。
映画『お葬式』の冒頭、台所が映るシーン
少し見えにくいのですが、中央にあるのがガスコンロです。
当時でもオーブンの付いたガスコンロは珍しかったそうで、食にこだわる伊丹さんならではの展示品となっております。お客様に間近で見ていただけるのは初めてのことですので、お手を触れていただくことは出来ませんが、ぜひじっくりご覧いただけますと幸いです。
最後に、オーブンについてのお話が出てくるエッセイを2つご紹介させていただきます。(伊丹さんは、エッセイの中でオーブンを「オヴン」と表記するこだわりも見ることが出来ます。)
さて、ロースト・ビーフから血をしたたらせるにはどうすればよいか。イギリスのある俳優からきいたこつを書いておく。
順序を追っていうなら、ロースト・ビーフ用に縛った肉に、串でたくさん穴をあけ、小さく刻んだ大蒜をつめる。表面に塩、胡椒をふりかけ、マスタードの粉をすりこむ。次にサラダ・オイルをかけて、あらかじめ強火にしたオヴンに入れる。オヴンに入れる時間は肉の大きさによって異なるが、大切なのは最後の十五分間くらいの間、オヴンの扉を十センチばかり開けておくことである。
これによって、外へ発散しようとしていた血が全部肉の中へ逆戻りするから(なぜかは知らぬ)うまい具合いに「血のしたたるような」ロースト・ビーフができあがるのである。
(『女たちよ!』より「血よ、したたれ!」)
料理は今やできあがろうとしている。人数分のお皿を温いオヴンにほうりこむ。テーブルにテーブル・クロスをしく。ナイフとフォークを並べる。ナプキンを置く。――サア皆サン、席ニツイテクダサイーーパンとバターと葡萄酒とグラスを出す。台所へひきかえしてオヴンから温いお皿を出し料理をつぐ。――およそ料理をしたことのある人ならだれでも知っているだろう、心の浮き立つような一瞬である。
(『女たちよ!』より「温められた皿」)
オーブンを使用していたことが伺えるエッセイを2つをご紹介させていただきました。展示されているオーブン付きガスコンロは、『女たちよ!』の出版よりも後に湯河原に導入されたものですので、実際にこのオーブンの付きガスコンロを使用して書かれたエッセイではないのですが、少しでも雰囲気を感じていただけますと幸いです。
映画に映っていたもの、エッセイに書かれていたものが実際に展示され、一つの展示品をいろいろな角度から楽しむことが出来る今回の企画展示。ぜひこの夏休みを利用してご来館ください。
※8月15日は火曜日ですが、お盆期間ですので通常開館しております。
詳しくは開館カレンダーをご覧ください。
学芸員:橘
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