こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.08.14 デンマークの伊丹十三
みなさま、残暑お見舞い申しあげます。
イヤハヤ暑い、「スーパー・エルニーニョ」だの「フェーン現象」だのと言われると余計に暑い、日本中が暑いと聞くともはや八方塞がりの感......
その一方、朝夕の日差しの加減などから暑さが徐々に和らぎゆくのも感じる、今日この頃の松山です。
エー、前回、新企画展の開始とともに「常設展示室の『七 料理通』のコーナーもリニューアルしましたヨ」とお知らせ申しあげましたが、皆様、もうご覧くださいましたでしょうか?
「えっっ、変わってたの? 気付かなかった!」はナシですよ~~
受付でお渡しする解説とともに、じっくりご覧ください。
たまたま、と申しますと何ではございますけれども――今回はじめて展示にかけた伊丹十三の愛用品で、デンマーク製の生活用品がふたつあります。
どれがそうかはご来館の際に展示室でご覧いただきたいので今は詳細を控えさせていただきますが、お客様の中には「アラ、伊丹さん、北欧デザインがお好みだったのかしら?」とお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。
特に好んだという確証はございませんが、素材を生かした平面と曲面の絶妙なバランス、シンプルでいながら飽かず眺めていられそうなフォルムのそれらは、いかにも伊丹さんが気に入りそうな姿をしているなァ、と感じます。
で、特別に好んだかの確証はないなりに、伊丹さんとデンマークのかかわりをご紹介いたしますと、TVシリーズ『世界の学校』(全3回/1975年10月-76年3月/朝日放送)でデンマークの学校における性教育を取材したのが大きな契機であったと言えましょう。
この番組での経験はエッセイにもなっていまして、次のように書き残されています。
(まことにおおらかでオープンな性教育の授業風景の描写に続いて――)
なんでも実地に見てみないとわからぬものだと思ったのは、性教育は、子供たちにとって、当然のことながら、まず親の物語なのである。そうして、それが同時に、なぜ自分がこの世にあるかということへの答えになっている。これはなかなか大変なことである。子供が親の性を知るということは、タテマエとしての親の消滅を意味する。親子関係の根底に横たわるうそがとっぱらわれ、親の権威が消滅してしまうと、親は当然、一個の赤裸々な人間として子供と向かい合うという結果にならざるをえない。性教育は、実に社会を根底から変えるような副次的な効果を持つのである。
(中略)デンマークの性教育を見ていて感動的なのは、先生も生徒も非常に自然だということである。性について話していながら、道学的なところが一切ない。陰湿な点、犯罪めいた点、話してはならぬことを話しているという雰囲気が一切ない。
先生は、まるでスポーツ選手のように、フットワークも軽々と教室中を動きまわる。生徒たちも先生の名を呼び捨てである。全体に、管理する者とされる者という雰囲気がまるでない。教師対生徒という上下関係とは全く別なところで信頼が成り立っているように思われる。おそらく、遠い昔、デンマークの先生は、権威を捨てて自由と平等をとったのだろう。管理を捨ててコミュニケーションと友情をとったのだろう。
「デンマークの性教育」『ぼくの伯父さん』(つるとはな)より
1970年代の初めからテレビドキュメンタリーに携わるようになった伊丹十三の取材先は、70年代半ばには海外にも及ぶようになり、行く先々で日本社会の変テコさを痛感しきりであったようです。
上に引用したエッセイでは「日本では、いかに管理されやすい人間をつくるかが教育の最大の目的であり、学校は、いきおい管理社会のヒナ型とならざるをえない。学校の授業もまた『出席をとる』という、実に、この上なく管理的な作業から出発する」とも書かれています。
修業期間にある子供が身近にいない私には、今の日本の学校教育がどのようであるか、幾分かは変わることができたのか、具体的なところは分からないのですが、新学期が近付くにつれつらい気持ちに陥る子供のいない社会になるように、一市民として努めてまいりたいと思います。
川や林に近い記念館にはいろんな虫がやってきます。
黒い姿・ヒラヒラとした飛び方がエレガントなこちらのトンボは
「ハグロトンボ」というそうです。他地方からご来館くださるお客様には
このような四国・愛媛の自然もお楽しみいただけましたら嬉しいです。
学芸員:中野
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