

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2015.05.25 開館8周年記念イベントのご報告:「ジョイントライブ」編
先週の記念館便りに引き続き、開館8周年記念イベントの様子をお届けいたします。
本日レポートいたしますのは、伊丹さんのお誕生日でもある5月15日(金)の開館記念日当日に開催した「荘村清志・宮本信子ジョイントライブ」です!
***********************
ライブは、記念館の中庭回廊で開催いたしました。開演は17時――この季節の夕暮れはとっても過ごしやすい――のですが、当日の天気予報は"夕方から雨"。開演30分ほど前には一時小雨が降り心配いたしましたが、その後は雨に見舞われることもなく、無事お客様をお迎えすることができました。
今回のライブにご出演くださったのは――
伊丹さんの従弟で、日本を代表するギター奏者の荘村清志さん!ジャズシンガーとしても知られる宮本信子館長!
館長のライブで、いつもピアノを担当なさっている板垣光弘さん!
どんなライブになったのかと言いますと――
宮本館長の開演挨拶のあと、館長と板垣さんによるジャズのスタンダードナンバー「All of Me」でライブスタート。館長が「(一緒だと)安心して歌える」という板垣さんとの演奏は計5曲、軽快なナンバーからしっとりしたナンバーまで、お二人の息はピッタリです。合間の館長のトーク(伊丹さんの思い出エピソード)も、盛り上がりました!――続いて、いよいよ荘村さんの登場です!まずはソロで、ギターの名曲「アルハンブラの思い出」と、「愛のロマンス(映画『禁じられた遊び』のテーマ)」の2曲を演奏してくださいました。
夕暮れ時に中庭で荘村さんのギターを聴けるなんて――こんなに贅沢なこと、なかなかありませんよね......。皆様、じっと聴き入っていらっしゃいました。
ソロ演奏後は、宮本館長とのトーク。ギターが好きで練習熱心だった伊丹さんの話になり、「まるでプロのように練習していて驚いた」と荘村さん。懐かしそうに、笑顔でお話しくださいました。以前の記念館便りでご紹介させていただいた、伊丹さんがデザインした荘村さんの渡欧記念リサイタルポスターについてもご説明してくださいました。実は、5月15日限定で常設展示室にそのポスターを展示していたんです。
当日限定展示のポスターと一緒に。
ライブ前に、展示室もじっくりご覧くださいました。
楽しいトークの後は、いよいよジョイントです!「蘇州夜曲」(Gt:荘村さん、Vo:宮本館長)と「港町十三番地」(Gt:荘村さん、Vo:宮本館長、Key:板垣さん)の2曲!
「2曲もご一緒してくださるなんて、荘村さん本当に優しいから」と宮本館長。ご参加くださった約100名のお客様の手拍子に包まれて、最後まで大いに盛り上がりました。スタンディングでご参加いただくフランクなスタイルのライブではありましたが、宮本館長と板垣さんの演奏にはじまり、荘村さんのギターソロ、そして最後にジョイントと、盛りだくさんの45分間でした。
荘村さん、板垣さん、ライブにご参加くださった皆様、本当にありがとうございました!
無事に8周年を迎えることができましたのも、これまでご来館くださったすべてのお客様、いつもお力添えくださる皆さまのおかげでございます。スタッフ一同、心より御礼申し上げます。
9年目をスタートした伊丹十三記念館を、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
スタッフ:淺野
2015.05.18 開館8周年記念イベントのご報告:「収蔵庫ツアー」編
5月15日は伊丹十三の誕生日にして開館年記念日。私たちにとって特別な日です。
今年は、伊丹十三82回目の誕生日で、開館8周年を迎えた日でした。
今年の記念イベントは「無料開館」(4/5)、「収蔵庫ツアー」(5/9~5/11)、そして、今年は特別に「荘村清志・宮本信子ジョイントライブ」(5/15)を開催させていただきました。
ご参加くださった皆様の楽しそうなご様子をどのイベントでも拝見でき、お祝いしていただいているような気持ちでとっても嬉しかったです。ありがとうございました。
本日は、5月9日(土)から5月11日(月)の3日間各日2回、計6回行いました収蔵庫ツアーについてご報告させていただきます。
********
「収蔵庫ツアー」とは何か。それをご説明するには、当館の収蔵庫がどんな風であるかをご説明しなくてはなりません。普通の収蔵庫とはチョット違うのです。
伊丹十三は、俳優・映画監督・エッセイスト・テレビマン・商業デザイナーなど、さまざまの仕事に携わりました。多岐にわたる仕事のそれぞれで書いた(描いた)もの使ったもの、それから日々の愛用品の数々が、「展示風」に収められているコーナーが当館収蔵庫の2階に作られているのです。
「展示風」とは言っても、テーマ立てのある展示室でのご鑑賞とはまた異なった趣きで、お客様の見方・視点やお好みによって、より自由に立体的に伊丹十三を感じていただけるスペースとイベントだと思います。
その収蔵庫では、たとえば......
こんなものや――
こんなものですとか――
こんなもの――
を、「ものと伊丹さんとのエピソード」に関するご説明とともにご覧いただきます。
調子よくしゃべりたおしていると、博物館施設にお勤めの方や、映像制作のプロの方や、伊丹さんの高校の同期生の方がいらしていることが分かってヒヤヒヤの汗を流すことになったりもしますが、いつもお客様と楽しい時間をご一緒させていただいています。
今回は27名のお客様にお越しいただきました。ツアー終了後にいただいたご感想、ご紹介させていただきますね。
********
記念館には、開館当初に2回と今回、来る度に伊丹氏の才能に舌をまきます。「女たちよ!」を雑誌に書いていられた頃から、内容にも興味があった。『お葬式』、『あげまん』など映画を始められ、更なる才能の開花を喜んだものだった。
伊丹十三(私たちにとっては池内)が使い・作った品々を目近く見ることができて、胸が熱くなりました。<※松山東高の同期生でいらっしゃるそうです>
一般展示では見られないものを見ることができた。何をするにも、深いこだわりがある伊丹十三の性格がよくわかった。才能があるということは、「変っている」という側面もあるのかなと思った。
伊丹さんをとても近くに感じることができました。いつも思うのですが、こちらの記念館は別荘のように落ちつける場所で、今回3回目ですが、毎回機会を作って訪れるのがとても楽しみです。初代Best Father賞受賞されていたのですね。書ききれないので今回はこのへんで、すみません。
伊丹十三記念館には、2010年に初めて足を運んで以来、今回で5回目となります。今日やっと念願の収蔵庫ツアーに参加することができ、感無量でした。伊丹さんのモノへのこだわりや、蔵書の量に圧倒されるとともに、記念館の形としてアーカイヴを見せる形を備えていることが大変すばらしいことだと思いました。DVD『13の顔を持つ男』に記念館のなりたちが映されていて<※特典映像の「伊丹十三記念館ができるまで」>、ここはぜひ観てみたいな、とずっと思っておりましたので、今日は本当に嬉しかったです。
念願の収蔵庫ツアーに参加できてうれしく思います。本棚をもっと目近かで見ることができればもっとよかったです。伊丹十三さんとの距離が少し縮まった気がします。
原稿や原画は別の機会に拝見したことがありましたが、衣裳や私物を間近で見ることができてとても面白かったです。映画を見返して確認しようと思います。オーデコロンいい香りでした。<※ツアー後に伊丹十三愛用のオーデコロンと同じものをお試しいただけます。>
映画を見返すときの楽しみが増えました。衣裳や小物などの私物を見ていると、なんとなく伊丹十三のモノの考え方が伝わってきて、ついニヤニヤしてしまいます。
宮本様 神奈川県から来ました。湯河原へも行きたいです。十三様のバイオリン、ギターの音源があれば聴かせていただきたいです。
夢の収蔵庫ツアーに参加出来、とても幸せでした! 伊丹さんの私物などとても興味深いものがたくさん見れて、ますます伊丹さんを大好きになりました。楽器を奏でている伊丹さんサイコーです!! ぜひ音色を聞きたいと思いました!! レアー映像があればお願いします!!!
面白い人、何でもできるマルチな才能を持った稀有な人材としか思っていませんでした。今回、収蔵庫を見せて頂いて、ますますの不思議感がつのりました。世の中にこんな人が存在したのだということが驚きです。それが才能のみでなく、不断な努力に根ざしているのだということに納得しました。ほんっとにすごい人です。同郷の人間として誇りに思います。面白かったです。
好きな子の実家に行って、お茶を取りに彼女が行っている間に、その子の部屋をジロジロ見る感じ。何でも見れて少しドギマギする。
今日は楽しい時間をありがとうございました。普段見ることの出来ない貴重な品々に興奮してしまいました。本当にこだわりの人なんだなと実感し、余りにも早すぎた死が残念でなりません。特に、十三さんから信子さんに宛てたカタカナ書きの手紙が私は好きです。(ここには、本当の十三さんが見てとれると思うからです。)よくぞ捨てないでくれたと思います。<※この「手紙」は収蔵庫ツアーではご案内しておりませんが、新潮社『伊丹十三の本』に掲載されているものについてご感想をお聞かせくださいました。>
初めての伊丹十三記念館、そして収蔵庫ツアーの参加でした。前々から伊丹十三ファンでしたが、ツアー中、沢山のことを説明していただき、より一層、伊丹十三のことを理解し、好きになることができました。これを機会に時々、記念館を訪れたいと思います。
あまり意識していませんでしたが、自分の若かりし頃に大切にしていた時間が伊丹さんとつながっていたのだなあと楽しく過ごさせていただきました。
伊丹十三さんと宮本信子さんの生活が目に浮かぶようですごく心地よい気分になりました。説明を聞いた後、又、常設展示も改めて時間を取って観させてもらいたいと思います。気遅れする所があって来ること自体も迷っていたのですが、参加させていただいて本当に良かったです。
愛用品の食器などは、使い勝手の良さそうな器ばかりだなあと感じました。再現のブースの湯河原の家は、間取りとかがあればわかりやすいかなと思いました。収蔵庫にはまだまだたくさんの資料があるようですので、今後の企画展示が楽しみになりました。
今回、バックヤードツアーがあるということで初めて来館しました。愛用品や蔵書をみせてもらってよかったです。ちゃんと作った民芸品がいっぱいあって、それらを選んでいたのだとかんじました。選ぶの・みつけるのも楽しかったのでしょうね。写真ではわからない本人の想いに少しふれられて、来てよかったです。大切に残してください。
********
収蔵庫ツアーは、開館1周年記念のときに初めて開催して以来、毎年続けているイベントですので、もう8回目になるのですね......と感慨深くも自分の成長ののろさに驚いてしまいます。
亀の歩みながら「年中行事として担当してきたことで、『その1年間で伊丹十三について自分はどういうことを考えてきたのか』をまとめるいい機会になっているな」と気付きましたし、今回もまた、お客様方とご一緒させていただくうちに、さまざまの「伊丹十三像」を勉強させていただきました。ありがとうございました!
伊丹さんのサイン本をご持参くださった
お客様もいらっしゃいました!
わ、あのサインと同じフレーズですね!!
8周年ともなりますと、「10」の区切りが非常に現実的なものとして視野に入ってきてつい興奮してしまいますが、この記念館に足を運んでくださるお客様と収蔵品を日々大切にして、いい日を重ねていけるように過ごしたいと思います。
これからも伊丹十三と伊丹十三記念館をどうぞよろしくお願いいたします。
※収蔵庫ツアーは毎年3月下旬から4月下旬にかけて参加者を募集しています。
ご興味おありの方は、来年の春にぜひこのホームページを覗きにいらしてくださいませ。
学芸員:中野
2015.05.11 グッズショップからのお知らせ
記念館グッズショップから、期間限定プレゼントと新商品のお知らせです。
期間限定プレゼント:復刻版・金榮堂ブックカバー ※期間5月1日~5月31日
伊丹十三がデザインした、北九州市小倉の書店・金榮堂のブックカバーです。
金榮堂が閉店した後は「幻のブックカバー」となっていましたが、金榮堂書皮復刻製作委員会よりご提供いただいた復刻版ブックカバーを、期間中(5月1日~5月31日)、対象商品をお買い上げの方にプレゼントいたします!
対象商品:伊丹十三記念館ガイドブック/映画『お葬式』シナリオつき絵コンテノート/伊丹万作エッセイ集※/伊丹十三の本/伊丹十三の映画/万作と草田男-「楽天」の絆
※万作エッセイ集はオンライショップでの取り扱いはございません。
新発売:「伊丹さんの言葉」のしおり
記念館グッズショップで、「伊丹さんの言葉」を載せたしおりの販売を始めました。
紙製のしおり1枚につき1つの言葉が載っており、言葉はすべて宮本館長が選びました。それぞれに伊丹さんの描いたイラストを添え、全部で3種類。3つの言葉をご紹介しますと...
○やぁ、いらっしゃい
...常設展示室に入ってすぐ、伊丹さんのパネルにある「やぁ、いらっしゃい」。
伊丹さんの手書き原稿からの言葉です。
○骨が折れまする。
...伊丹さんがよく口にしていた言葉だそうです。宮本館長ならではのセレクトですね。
○「要するにプなんだよ、プ」
...ご存知の方も多いかもしれません。伊丹さんの著書『日本世間噺大系』にある、タイトル「プ」というエッセイからの引用です。
3種類各1枚ずつ入って1セット.。記念館内のグッズショップで販売中です(※オンラインショップでの取り扱いはございません)。文庫本にもお使いいただけるサイズですので、記念館にお越しの際は手に取ってご覧になってみてください。
スタッフ:山岡
2015.05.04 第7回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました!
4月23日(木)、第7回伊丹十三賞を新井敏記さんにお贈りする「贈呈式」を開催いたしました。
会場の国際文化会館。毎年お世話になっております。
六本木ヒルズ森タワーが見えますねえ。
新井さんのご関係者のみなさま、そして、歴代受賞者、伊丹十三ゆかりの方々に当財団の関係者のみなさま、合わせて150名様を超える方々がにぎやかな集まりにしてくださいました。今回は、その贈呈式の模様をご報告いたします。
選考委員・中村好文さんの祝辞
新井敏記さん、このたびは、第7回伊丹十三賞受賞おめでとうございます。
伊丹十三賞は、イラストレーター、グラフィックデザイナー、俳優、エッセイスト、映画監督などなど、さまざまな分野で類まれな才能を発揮した伊丹十三の足跡と業績を称え、伊丹十三さんと同様に、さまざまな分野ですぐれた仕事をしている方にお贈りする賞です。
今回は、雑誌編集者でノンフィクション作家でもある新井敏記さんに受けていただくことになりましたが、実を言いますと、伊丹十三さんが才能を発揮した様々な分野の中に、ちゃんと、雑誌編集者という項目も入っていますから、このたびの新井敏記さんは、伊丹十三賞にまさにぴったりの選択だったと思います。そういう意味では、どこからか「選考委員の面々、よくやった」という声が聞こえてきても悪くはない......ような、気がします。まだ聞こえてこないので(場内笑)、多分、パーティーの席で追い追い聞こえてくるんじゃないかと思います。
「面々」の南伸坊さん、平松洋子さん、周防正行さん、そして宮本館長
わたくしごとになりますが、私が34、5歳の頃に、伊丹十三さんのお父さんで、映画監督だった伊丹万作さんの全集が筑摩書房というところから出版されました。(※1982年『伊丹万作全集』新装版)
一時期、私は、この全集が面白くて繰り返し読みふけっていたことがあります。そしてこの全集の中の昭和19年7月20日の日記の中で、私自身を励まし、勇気づけてくれる素敵な言葉に出会い、胸の奥に深く留めてきました。言ってみれば、私はその言葉を座右の銘にしてこれまで生きてきたことになります。せっかくですから、ここでその言葉をご紹介します。
才能とは努力ではない。それは、一つの事を長い年月にわたって愛しつづけてあきない熱情である。
「静身静心録」伊丹万作全集 第2巻
この言葉こそ、新井さんの才能の中身を見事に言い当てたものだと思います。また、長年にわたる雑誌への取り組みとその成果に、ぴたりと重なり合うものだと思います。そしてこの言葉は、今回の新井さんの受賞に対する、またとない祝福の言葉になっていると思うのです。
「束ねられた状態の紙がほんとに小さい頃から好きで、
高校時代、活版印刷屋に原稿を持ち込んで雑誌を自主制作したとき
印刷機の音、インクのにおいに心が躍った」という
新井さんのインタビュー記事を読んで
「この人は筋金入りの編集者だ」と確信し推挙した、と中村さん。
新井さん、紙の束に目を見張り、活版印刷機の音に胸をときめかせた少年の日から今日にいたるまで抱きつづけた雑誌への熱情をどうか衰えさせることなく、これからも、私たち読者の目を見開かせ、心を躍らせ、時には力強く鼓舞してくれる、すばらしい雑誌を出し続けてください。
このたびの新井敏記さんの伊丹十三賞受賞を心よりお祝い申しあげます。
――えっと、ここまでが......あいさつなんですけど、このあとちょっと付録があります。
最後に余談をひとつ。
新井さんに第7回の賞をお贈りしようと決めたときに、選考会の進行役をしてくださっている松家仁之さんがポツリともらされた言葉がとても印象的でした。
というのは、ある作家の方――有名な作家で『スイッチ』で何度か特集号も出してらっしゃる方なので、みなさんもよくご存じの方ですけれども、えー......その方が新井さんを評して語った言葉が傑作だったのです。えー......
――新井君は、"味方にまわすと"怖い人だ。
神妙な面持ちから一転。
場内からも笑いが...あっ、拍手まで......
なんとなく新井さんのキャラクターとか、編集者としての辣腕ぶりというのを言い当てているような気がして、私は妙に納得してしまいました。
私は新井さんとは、つい先ほど控室でお目にかかるまで面識がありませんでしたけれども、今回のこの会が縁になって、もしも......味方についたりしたら......怖いことになるなぁ、と今はビクビクしています。(場内笑)
ここにいらっしゃる方も、新井敏記さんを味方につけるときはくれぐれもご用心ください。(場内笑)
受賞者スピーチ
今日はほんとうにありがとうございます。「味方にすると怖い男」の新井です(笑)。
3月の半ばぐらいに玉置さん(館長代行・財団理事長)から電話をいただいて、「伊丹十三賞というものがありまして......」という話をされたときに、「あ、また事務方の手伝いをやれっていうふうに言われるのかな?」と思って聞いていたら、「今回、賞を受けていただけますか?」とおっしゃったんですが、自分は今まであんまり経験したことがないので、間髪を入れず「はい」ってお答えしたんです。そしたら、玉置さんがもう一度「授賞を、受けていただけますか?」「はい」って念押しで(笑)。
それほど、僕にとっては賞というものは無縁でした。
中学時代、親友が作文コンクールで県知事賞を受賞。
朝礼で表彰され、作文を立派に披露した親友の姿を見て嬉しくも違和感。
放課後の号令台に立って「ごっこ」を試みたことがおありだそうです。
今回、授賞の理由として、「『スイッチ』を30年続けてきたこと」という言葉をいただきました。
32、3年前、フジパシフィック音楽出版で働いていた友人から、新しく立ち上げるレーベルのPR誌をやらないかと言われて「やるやる!」と受けて、友人と考えていろいろ浮かんだ名前の中で「スイッチ」というのが妙に語呂がよくて、ちょっと調べたら、「変わる」とか、「しなやかな枝」とか、あと「根源」っていう意味があって、僕たちがこれから歩む音楽としても活字としてもふさわしいんじゃないかな、と思って『スイッチ』と名前をつけました。
そのときに、まだ、海のものとも山のものともつかないものに応援していただいたフジパシフィックにお礼を言いたいと同時に、8ページぐらいのタブロイドペーパーだった『スイッチ』をタダで配るのが嫌で、100円の定価をつけて本屋さんに持ってったんです。本屋さんは売れないから困るんですが、そのときある本屋さんのおやじさんに「絶対つぶすなよ」ってことを言われたんです。そのおやじさんの言葉は、僕の中でひとつの思いとして、「雑誌を長く続けなきゃいけない、長く続けないと雑誌というものはほとんどゴミになる」っていうのと同じぐらいすごく胸に残りました。
『スイッチ』は1990年に伊丹十三さんにインタビューさせていただいたんですが、そのとき伊丹さんはちょうど『あげまん』の公開のときで、「人の希望に寄り添うこと、自分の希望に寄り添って、そのふたつをすりあわせること」というのをお話しされたのが記憶に残っています。それは僕にとって、雑誌の編集の「これだ!」という思いを伝えるまたとない機会のひとつになったと思います。
伊丹さんが20代の頃に携わった雑誌『漫画読本』で、輸入漫画の
「ブロンディ」や「意地悪爺さん」を5、6歳にしてご愛読!!
彼が1981年に創刊した『モノンクル』には、インタビューの見事な原稿が掲載されていて、「人に会って話を聞くこと」を伊丹さんに教わったような気がします。
『スイッチ』もインタビュー雑誌として30年経っていますが、その、「人の気持ちに寄り添う」ということを、今さらながらに、この賞を誉れとして、ある種の叱咤激励として受けました。
さっき中村好文さんから紹介のあった「ある作家」の方が、僕は15歳の頃から好きで、当時の日記には「その人になりたい」と書いてたんです。その人の文章からこれから自分が生きていくことへのすごく大きな励ましみたいなものを得たので、まず「その作家になりたい」というかたちがあって、と同時に「その作家がどういうことを考えてるのか、インタビューを通してひとりでも多くの読者に知って欲しい」という思いがあって、雑誌を続けています。
スイッチ・パブリッシングは、今、『スイッチ』(カルチャー雑誌)、『コヨーテ』(旅の雑誌)、『モンキー』(文芸雑誌)、と、3つの雑誌をやってるんですが、その変わらぬ思いの根幹として、人の気持ちに寄り添いながら......ときどき「味方にすると怖い」って言われるんですが、それともうひとつ、基本的に「ドロ舟に乗った気持ちで!」(場内爆笑)っていうのが僕のモットーなので、それを軸として、これからもがんばっていきたいと思います。
今日はありがとうございました。
館長あいさつ
新井さん、ほんとうにおめでとうございます。
こんなにたくさんの、大勢のみなさまにいらしていただいて、お会いできて嬉しゅうございます。
『スイッチ』の創刊30周年のこの2015年、おめでたい年に伊丹十三賞が重なっているというのは、偶然だとは思いますが、ほんとに嬉しく思っております。
新井さん! すごくお若いと思うんですけど、ほんとにお体大切になさって、いっぱいいっぱい、たくさんたくさん、お仕事なさってください! 応援しております!
カンパーイ!
館長の乾杯の音頭で、贈呈式は終了。つまり、お楽しみのパーティーの始まり~! なの・です・が......
主役の新井さんは、ご取材にお越しくださった記者のみなさんに、丁寧に、熱心に、語りかけるように、たっぷりと時間をかけてご対応くださっていました。
(以下、新井さんのお背中を眺めながらのわたくしの回想です。)
思えば、カルチャー雑誌を意識的に手に取るようになった学生時代、大学生協や書店に並ぶ数多の雑誌の中で、『スイッチ』は「近所の(あるいはちょっとした遠縁の)おもろい兄ちゃん」のような存在でした。伊丹さんの雑誌が「ぼくのおじさん」(mon oncle)なら、『スイッチ』は「わたしの兄ちゃん」だったな、と。
たまに会うと、「お前、知ってるか、こんなおもろい人に会ったんだけどさ!」と、おもろい兄ちゃんがさらにおもろい人のことを語りだして、止まらないのなんの。「世の中は広くて面白いのだなあ」と相槌を打つうちに気付けば夜更けに――という具合に、雑誌の重みも構わずに夢中で読むうち、私の腕と肩はカチカチになったものでした。
という例え話を同世代の人にすると、みんな「分かるわ~」と頷いてくれるので、私はちょっと得意な気分でいたのですが、今回、新井さんとお仲間のみなさまにお目にかかって「この方々がみんなの"兄ちゃん"の正体なのね」と感慨深く、心の中で手を合わせた次第です。
<↑ クリックで拡大表示されます ↑>
第1回受賞者・糸井重里さん、第3回受賞者・内田樹先生も
お越しくださってとっても嬉しかったです。
スイッチ・パブリッシングのみなさんもありがとうございました!!
今年もまた「よい会でした」「楽しかった」とのお言葉をたくさん頂戴いたしましたが、お客様方にこそ、気さくであたたかくて愉快な集まりにしていただいている伊丹十三賞です。
年度明けのお忙しいウィークデーにご来場くださったみなさま、まことにありがとうございました。
そして、7回目ともなりますと、「今度の十三賞はどんなイベントにつながるのかな?」と今から楽しみにしてくださっている方も大勢いらっしゃることと思います。
企画発表まで......しばらく......そのまま楽しみに......お待ちくださいませ!
伊丹十三賞、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
【謝辞】
池田晶紀さん、「ほぼ日」のゆーないとさん、
笑顔あふれるお写真をたくさんご提供くださり
ありがとうございました!
学芸員:中野

記念館便り BACK NUMBER
- ●2024年10月
- ●2024年09月
- ●2024年08月
- ●2024年07月
- ●2024年06月
- ●2024年05月
- ●2024年04月
- ●2024年03月
- ●2024年02月
- ●2024年01月
- ●2023年の記事一覧
- ●2022年の記事一覧
- ●2021年の記事一覧
- ●2020年の記事一覧
- ●2019年の記事一覧
- ●2018年の記事一覧
- ●2017年の記事一覧
- ●2016年の記事一覧
- ●2015年の記事一覧
- ●2014年の記事一覧
- ●2013年の記事一覧
- ●2012年の記事一覧
- ●2011年の記事一覧
- ●2010年の記事一覧
- ●2009年の記事一覧
- ●2008年の記事一覧
- ●2007年の記事一覧