記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2012.08.27 スパゲッティのおいしい召し上がり方

「アル・デンテ」という言葉を一番初めに日本に伝えたのは伊丹十三、という説があるそうです。

エッセイ「女たちよ!」の中に「スパゲッティのおいしい召し上がり方」という話があります。まずこのエッセイで伊丹十三は「スパゲッティは饂飩ではない」と、強く訴えています。
本人曰く当時の日本のレストランで食べるスパゲッティはほとんど例外なく、「茹ですぎてふわふわ」になってしまっていたそうです。

ここで伊丹十三は、イタリア人の理想のスパゲッティの茹で加減である「アル・デンテ」の紹介をしています。

イタリー人はスパゲッティの理想の茹で加減を「アル・デンテ」という言葉で表現する。アル・デンテとは「歯に」ということであって、つまりスパゲッティを茹でながら、茹で加減を見るために一本取り出して前歯で噛んでみる。
 硬すぎたり芯があっては問題にならないが、軟くなる一歩手前の、前歯でスコッと噛み切る時にまだかすかな抵抗が感じられる、この状態をアル・デンテと呼ぶのであります。

次に、アル・デンテに麺を茹でる方法を詳しく述べていますのでそのままご紹介いたします。

一、 イタリー製のスパゲッティを買う。五十センチの長さのもの一ポンドが百五十円くらいだろう。  これが約四人分から六人分である。
一、 スパゲッティはなるべく大量の水で茹でるのが好ましい。大きなシチュー鍋でも金盥でもよろしい。大きな容れ物で大量のお湯を沸すこと。これはどの麺類にも共通していえることだと思う。つまり水が少いと麺から出た澱粉でお湯が濁って、茹で上がりがねばねばするのですね。イタリーのスパゲッティの包み紙には一ポンドのスパゲッティに八リットルの水、と記されている。八リットルとは一升壜約四本分にあたる。
一、 塩を一摑み入れる。標準をいうなら一ポンドのスパゲッティに対して約四十グラムとでもいおうか。食卓塩の一瓶が百グラムだからね。あれでおよその見当がつくはずだ。
一、 煮えたぎっているお湯の中へスパゲッティを長いままで入れる。
一、 アル・デンテに茹で上がったら、
一、 手早くお湯を切り、
一、 バターを、左様、一ポンドのスパゲッティに対して約四分の一ポンドのバターを、湯気の立っているスパゲッティの中へほうりこんで手早くかきまわすと、スパゲッティもまだ熱い、鍋もまだ熱いからたちまち溶けるんじゃないの。


~略~

このエッセイを書いたのは伊丹十三が30代の頃、昭和30年代後半から40年代前半のことでしょうか。
今では割りと知られたスパゲッティの茹で方も、当時はとても新しい情報だったみたいですね。今でも「若い頃読んで、衝撃を受けた」というご感想を記念館で教えて下さる方がたくさんいらっしゃいます。
個人的には水八リットルのことをわざわざ「一升壜約四本分にあたる。」と書いてあるのが時代を感じるところです。

IMG_6819.JPG

【画像:伊丹十三が描いたイラストで作ったマグネット。右はスパゲッティの水切り器のイラスト。】


スタッフ:川又

2012.08.20 『天皇の世紀』視聴レポート

日本映画専門チャンネル「伊丹十三劇場」での『天皇の世紀』、ご覧になられましたか? 本編も特別番組も、面白かったですねぇ。

グっと来たところ、衝撃を受けたところ、思わず笑っちゃったところ、深々と考えさせられたところはいくつもありましたが、当館と関連のあるエピソードを、最終回の第26話からひとつご紹介します。

滅多にサインをなさらない、ほとんどの場合は丁重にお断りなさったという大佛次郎先生(原作者)が、生前、熊本のロシア料理店のマダムに頼まれて、珍しく色紙をお書きになったことがあるそうです。「弟が『天皇の世紀』を熱心に読んでおりますので、サインをいただけませんでしょうか」とお願いされて大佛先生が書かれた言葉は、連載担当記者の櫛田氏の回想によれば、このようなものだったそうです。

どの花も
それぞれの
願いがあって
咲く

酔 大佛次郎

私はハっとしました。
実は、同じ文句を伊丹さんが書いた色紙が記念館に所蔵されているのです。


donohanamo.jpg【展示はしていませんので画像でのご披露のみで申し訳ありませんが...】


この色紙を初めて見たとき、「いい言葉だけど、何だか伊丹さんのイメージとちょっと違うような」なんて思っていたのですが、元は大佛先生のサインだったのです。

「『天皇の世紀』撮影中、伊丹さんは大佛先生の原作本を片時も手放さなかった」という逸話も特別番組で紹介されていましたし、伊丹さん、大佛先生を心から敬愛していたんですね。

「熊本のロシア料理店を訪れてみたけれど、マダムは前年の5月に急性白血病で亡くなっていて色紙は行方知れず」と、このエピソードは結ばれていました。
色紙はその後も「発見」されていないのでしょうか......大佛先生の色紙も拝見してみたいですねぇ。できることなら、二人の色紙を並べて眺めてみたいですねぇ。

伊丹さん版サインのほうは、伊丹さんが大佛先生から受けた影響の浅からぬことを示す資料として、いつかお客様のお目にかけたいと思います。


ところで。(※ここから先は無駄話でございます)

8月13日(月)の放送初日、『天皇の世紀』「夜の部」を鑑賞するために、ワタクシ、鼻息を荒げて自宅のテレビの前に陣取っておりました。

本編開始前、特別番組のスリリングな構成に「興奮メーター」の針は早くも振り切れ、本編第1話「福井の夜」に続いて第2話「宵山の動乱」へ快調に突入、というところで、窓の外で雷鳴が......あら、稲光まで......嫌な予感......ほどなくして雨が......あっという間に土砂降り......あ、画像が乱れた......音声が途切れた......と思った直後、予感的中、画面は真っ暗闇に......しんとなった部屋に響く激しい雨音............

ええ、泣きましたとも。第2話の途中、嵐電に乗りながら京都の町並みについて説明する伊丹さんの姿が画面に映し出されてからも、しばらくの間はさめざめと泣きましたとも。よりにもよって『天皇の世紀』が40年ぶりに放送されているときに雷雨なんて! 神様、あんまりです! このために加入したのに~!(いえ、「昼の部」を録画しておかなかった自分が悪いのですケド......)

ま、そんなこともございましたが、翌日記念館で館長代行とカワマタさんに話したら結構ウケてくれたので、幾分かは元が取れたような気がします。悪天候で映像が乱れたり映らなくなったりするのが衛星放送というものですしね。これから加入される方も、その辺はよーくご了承ください。


ロンドンオリンピック、高校野球、さらに『天皇の世紀』一挙放送、ということで、我が家のオンボロテレビおよびレコーダーも私の心身も、耐久レースのような日々でした。
『天皇の世紀』をひととおり見終えて、すばらしい作品を満喫した充足感と、何だか妙に燃え尽きた感があります。「ああ、夏が終わったな」と。


setonai_kai.JPG
【『天皇の世紀』最終回を見届けた後、ちょっとお出かけしてきました】


とはいえ残暑は続きます。そして、そろそろ夏の疲れが出る頃。
皆様、引き続きシッカリとご自愛くださいませ。

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『天皇の世紀』再放送予定のお知らせ

ドキュメンタリー版 : 日本映画専門チャンネル / 9月18日(火)から
ドラマ版 : 時代劇専門チャンネル / 本日8月20日(月)からと、9月16日(日)から

ワタクシのように予想外の事態で悲しい思いをなさった方も、まるまる見逃した方も、再放送をぜひ。

※ドキュメンタリー版とドラマ版で放送チャンネルが異なる点、どちらも契約の必要な有料チャンネルである点、何卒ご了承くださいませ。

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もひとつ告知です!

伊丹十三監督作品『タンポポ』が「山田洋二監督が選んだ日本の名作100選喜劇編」(BSプレミアム)で放送されます。8月21日(火) 21時から、お見逃しなく!


学芸員:中野

2012.08.13 封緘(ふうかん)

封緘(ふうかん)ってご存知ですか。
封筒の封じ目によく「緘」と押してありますよね。
あれのことです。

IMG_6732.JPG
記念館の取引先で面白い封緘を押して、郵便物を送ってくれる会社があります。

IMG_6733.JPG

「封じた感」がよくでていますね。
遊び心があって、その会社らしさがよく出ていて素敵です。

記念館でも一風変わった封緘印を使っています。
こちらです。

IMG_6737.JPG映画撮影の際使用する「カチンコ」のイラストで作ったオリジナルのゴム印です。
もちろん、伊丹さんの描いたイラストです。

他のゴム印も押してみました。
こんな封緘で封書を受け取ったら、なんだかちょっと和みそうですね。

IMG_6742.JPG

IMG_6741.JPG

IMG_6739.JPG

 

伊丹十三記念館オンラインショップにはこの他にもいろんなゴム印を取り揃えています。→こちらから。

 

 

スタッフ:川又

 

2012.08.06 2012夏のお知らせ・その2!

引き続き暑中お見舞い申しあげます。
ワタクシ、先日、暑さのあまり頭痛とふるえを催す、ということがございました。「すわ、危険水域!」とちょっと慌てました。大事にはいたりませんでしたけれど、ハイ、みなさまもご自愛くださいませ。


さて、今週もまたまた『天皇の世紀』関連の重要なお知らせでございます。
日本映画専門チャンネルの番組ホームページ、もうご覧くださいましたでしょうか?

「もう見たよ~」という方も、まだの方も、番組ホームページの「特別番組」のボタンをクリックなさってみてください。なぜかといいますと、1973年から74年に制作された『天皇の世紀』を大解剖する(らしい)この特別番組がめちゃくちゃに面白そうなのです!

特別番組「ドキュメント"天皇の世紀"をドキュメントする」(全3回)
http://www.nihon-eiga.com/osusume/tennounoseiki/specialprogram.html
(↑とりあえずクリックしてみよう!)


----見ました? 見ました!? すごい面々ですね!! 私はもう、初めて見たときは腰が抜けそうになりました。

当時の制作者、現在活躍中のドキュメタリストの方々のコメントが少しずつ載っています。
「これこそがテレビ」、「テレビ的手法」、「テレビというものを学んだ」----
「危険な番組」、「とんでもない企画」、「斬新」----
これらの言葉を見るだけでも、「歴史とは何か」、「日本人とは何か」というテーマだけでなく、「テレビとは何か」、「テレビのおもしろさは何か」という問いにも挑んだ番組だったことが分かります。どんな挑戦だったのか、みなさんのお話で詳しく伺うのが楽しみですねぇ。

『天皇の世紀』は8月13日(月)11時40分の特別番組の放送から始まります!ぜひ、きっと、どうしてもご覧ください!

●再放送もあるそうですよ。放送予定のチェックには、こちらが便利です。
 →http://www.nihon-eiga.com/program/index.html#4
●月間番組表はこちら
 →http://www.nihon-eiga.com/timetable/pdf/201208.pdf


7月から始めたTwitter「伊丹十三の言葉」では、伊丹さんのテレビ論に関するこんなつぶやきもお読みいただけます。

およそ表現の仕事というものは、何をどう表現するかもさることながら、その表現自体が、一つにはメディア論になっており、つまり、テレビでいうなら、番組自体が「テレビとは何か」という問いかけを含んでおり、なおかつ、表現自体が組織論にもなっておらねば何の価値もあるまい。

『女たちよ!男たちよ!子供たちよ!』(文藝春秋、1979年)より

o_o_k.jpg【名著! しかし残念ながら絶版なのです...復刊希望!】


どうです? われわれ視聴者も、テレビについて深々と考えさせられる、そんなひとことでしょう? ...ハッッ、これ、まだ投稿してないつぶやきでした! ととと特別です! ヒ、ヒミツですよ!!

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と、いうわけでございますので、8月、9月の「伊丹十三劇場」では『天皇の世紀』と特別番組をお楽しみください。伊丹十三監督作品(映画本編)と、ドキュメンタリーシリーズ『新・13の顔を持つ男』の放送は10月までお休みとなります。

プロデューサー・ディレクターの浦谷年良さんが『新・13の顔を持つ男』と並行して(!)お作りになったドキュメンタリー『ベニチオ・デル・トロ広島へ行く』が、広島平和記念日、広島に原爆が投下されて67年の本日8月6日(月)、13時から放送されます。こちらも日本映画専門チャンネルで、ぜひご覧ください。

  • 日本映画専門チャンネルは申込みの必要な有料放送です。視聴方法などチャンネルに関する詳細情報はこちらをご覧ください。
  • 『ベニチオ・デル・トロ広島へ行く』8月6日13時からの放送は、ノンスクランブルの無料放送です。アンテナと受信機(テレビ、レコーダーなど)視聴できる環境があればご覧いただけます。
学芸員:中野