記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2017.08.28 宮本館長の挨拶映像と伊丹十三監督作品特報セレクション

「伊丹十三」の名前にちなんで13のコーナーで伊丹さんを紹介している常設展示室。
その常設展示室に入ってすぐ左側に、42インチのモニターがあります。展示室に入るタイミングによって最初に目に入る映像は異なりますが、ここでは、宮本館長の挨拶映像と伊丹十三監督作品の特報セレクションを座ってご覧いただくことができます。
繰り返し観てくださるお客様も少なくないこの映像資料について、少しご紹介しますね。

まずは宮本館長の挨拶映像です。
「伊丹十三記念館にようこそお越し下さいました。館長の宮本信子です」にはじまるこの映像では、「伊丹十三は不思議な人でした」「ここは伊丹十三の家です」――など、ご来館の方に向けて、笑顔の宮本館長が伊丹さんや記念館について話しています。
この映像だけでも「伊丹十三ってこういう人なのか」「この記念館ってこういうところなのか」と感じていただけると思います。特に「伊丹さんってどんな人?」という方や記念館にはじめてお越しくださった方は、最初に観ることで、その後の記念館での時間をよりご堪能いただけるのではないでしょうか。13のコーナーを楽しむ前に、ご覧になってみてくださいね。

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宮本館長の挨拶映像。現在は夏バージョンです(9月末まで)。

同じモニターで伊丹十三監督作品特報セレクションをご覧いただけます。「特報」は映画撮影開始前、または撮影中など、作品が完成していない段階で告知を開始するための映像です。映画館で、作品の上映前にご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。工夫を凝らした様々な特報がありますが、伊丹映画の特報は、なんと監督自身が出演し観客に語りかけるという手法で作られています。

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ご来館のお客様から「伊丹映画を(また)観たくなりました」というお声をよくうかがいますが、その理由として「特報が面白かったので」と仰る方も いらっしゃるんですよ。現在は『タンポポ』(1985年)、『マルサの女2』(1988年)、『あげまん』(1990年)、『スーパーの女』(1996年)、『マルタイの女』(1997年)の5作品の特報映像をご覧いただいています(※特報映像の作品は変わる場合がございますのでご注意ください)。
映画を観たことがある方もそうでない方も楽しめる映像です。お見逃しなく!

ちなみに...
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、この館長挨拶と特報映像を流している同じモニターで、毎月13日の13時から伊丹監督映画作品を1本ずつ上映しています。この8月はお休みさせていただきましたが、9月は13日(水)の13時より、『マルサの女2』を上映いたします!

※詳細や今後の上映スケジュールはコチラ

当日は映画をさらに楽しんでいただけるよう記念館オリジナルのミニ解説もお渡ししています。
お誘い合わせのうえ、ぜひ足をお運びくださいませ。

スタッフ:山岡

2017.08.21 残暑お見舞い申しあげます

今年も暑いなぁ、とホカホカの溜息をつきながら指を折って数えてみましたら、2008、2009、2010......2017、松山へ来て10度目の夏です。
松山じゅうの方(特にご年配の方)が口を揃えて「昔はこんなに暑くなかったんじゃけどねぇ」とおっしゃるので、「"こんなに暑くない"松山はどんなにかステキだろう」との想像が止まりません。

冷夏の地域もあって農作物への影響が心配ですが、みなさまお元気でいらっしゃいますか。心よりお見舞い申しあげます。

さて、東北生まれで暑さに弱い私にとって、読むだにつらい伊丹エッセイがあります。
播州赤穂の「爺さん」に「僕」がインタビューをしている形式で、「入り浜式」時代の過酷な製塩労働が綴られている、ちょっと変わったスタイルのエッセイです。

爺さん:ツチ入れたら、また海水をかけんならんでしょう。海水かけるゆうたかて、あのダイ(高濃度の塩水を濾し取る装置)ちゅうもんは二た坪ぐらいありますがな、四畳敷きの風呂へ水汲むようなもんでっせ。しかもそれが毎日八十(の塩田)でっしゃろ。

僕:フーン――で、その作業は午後ですか。

爺さん:そうですなア、七八月頃でしたら、二時半か三時頃じゃろかなア、炎天の一番暑い時分に、その一番えらい仕事をしよったんですから、それでえらかったんですわ。

僕:足もとはどうしてるんですか?

爺さん:足はもうハダシです。

僕:熱いでしょうが?

爺さん:熱いんですがな。

僕:焼けてるんでしょ、下は?

爺さん:焼けとるんですがな。足がアンタ、どない言うてええんか、ヤケドしたら火ぶくれになりましょ? あないになるんですがな。(中略)夏やったらね、足の裏が白うなってね、ほいで穴があくんですわ。そいつがえらかったんですがな。足の裏にね、こういう、力が入るとこに穴があいたりしてね、それが辛いんですがな。

 

「塩田」『日本世間噺大系』(文藝春秋、1976年)より
初出は雑誌『話の特集』1975年2月号

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この「塩田」は、現在は新潮文庫版の『日本世間噺大系』でお読みいただけるので、多くの方にお馴染みの作品だと思いますが、同じご老人から聞いたお話を元にした別のエッセイがあるんです。ご存知の方はあまりいらっしゃらないと思うので、一節をご紹介いたします。

この間、赤穂へ行って来た。
(中略)宿へ着いてね、出かけようと思ったら、ホラ、下足番っていうの? そのおじいさんが凄く体格がいいのね。で、ア、この人はもしかすると塩田で働いてた人じゃないかなと思って訊いてみると、この勘がピタリと当たったわけよ。五十年も塩田で働いてた人だったわけ。

(中略)いやあ、入り浜式の塩田での労働っていうのは、聞きしにまさる物凄さね。(中略)何が大変だというと、まあ、ともかく重いわけよ。なんたって土と水を扱うわけだからね。ともかく、掻き集めてきた山のような土をダイの中に入れるわけでしょ。しかも、それを毎日八十やるわけでしょ。入れたら今度は水を運んで、それへかけなきゃならんでしょ。(中略)水を入れたら、あとで、また用済みになった土を出し、その土をまた撒くわけだからね。で、土を撒いたら、またその上へ水を撒かなきゃならんでしょう。

これを、カンカン照りの中でやるわけだから、重い上に熱いわけよ。砂なんかもう焼けてるわけだからね。で、その上を裸足で働くわけでしょう。もう、足が擦りむけてさ、皮が破けて肉が出ちゃうわけ。それでもって、下は焼けた砂。しかも塩をまぶした砂よ。もう――なんていうかね。どうする? っていいたくなっちゃうわけよ。

 

大京観光広告『詩のあるまち』シリーズより(日本経済新聞1973年11月9日)

時期的には、こちらのエッセイのほうが1年3ヶ月ほど先に発表されています。塩田の重労働を新聞広告用のエッセイに記した後、今度は自身の雑誌連載で「爺さん」の言葉として伝えたい、と考えたのかな......というのは私の推測なのですが、真夏の炎天下にも真冬の冷たさの中でも、海水と、海水を浸み込ませた重い土を運び続けたご老人の話は、伊丹さんの心を強く捉えたようですね。

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広告エッセイは、現在の企画展「ビックリ人間 伊丹十三の吸収術」で紙面ごと展示しております。塩田のお話、文庫で、展示で、ぜひお読みください。

朝夕の空の色や空気に秋を感じるようになってきましたが、少し涼しくなってきた頃が、夏の疲れの出る頃です。みなさま引き続きご自愛くださいませ。

学芸員:中野

2017.08.14 庭木の水やり

暑い日が続いていますね。真夏のこの時期は、庭木の水やりが記念館スタッフの大事な仕事の一つです。
たとえば記念館のシンボルツリー・中庭の桂は、街路樹にも使用される木で暑さに強いと聞きます。とはいえ降雨状況によってコンディションは変わるため、気は抜けません。

20170814_1.JPG中庭の桂
開館当初に比べて随分大きくなりました


毎年梅雨が明けた頃から、天気と相談しつつスタッフが交代で水やりを行います。朝、あるいは夕方の涼しくなった時間帯に行うのですが、庭木の数も多いため、一日で全てに水をやることはできません。日によって場所を変えながら、数日のサイクルでまんべんなく行き届くように気をつけています。

20170814_2.JPG正面入口前の庭

20170814_3.JPG建物南側には山桜が4本あります

20170814_4.JPG水やり中の様子
根にたっぷり行き届くように気をつけています


毎日水やりをしておりますと、庭木のコンディションを把握できるだけではなく、合間に草むしりをしたり、外回りの清掃状況をチェックしたりと、広く館外の手入れもできます。また、お客様から「庭が素敵ですね」といったお言葉をいただきますと、「楽しんでいただけて良かった」と大変嬉しく存じます。

厳しい暑さを乗り越えますと、庭から虫の音が聴こえてきたり庭木が色づきはじめたり......と、季節の移ろいを感じる楽しみも待っていますので、もうしばらく水やりに励みます。
記念館にいらした際には、ぜひ庭の様子も楽しんでくださいね。

スタッフ : 淺野

2017.08.07 伊丹十三記念館のリーフレット

記念館便りでも何度かご紹介させて頂いている、伊丹十三記念館のリーフレットがこちらです。

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このリーフレットは、見開きで建築家の中村好文先生の描かれた記念館の見取り図が見られることがひとつの大きな特徴ですが、このリーフレットに載っている、宮本信子館長のメッセージがとっても素敵なのでご紹介させて頂きます。

ある昼下がり。
 中庭の草の上に、腹這いになっている人がいる。
どうやら本を読んでいるようだー。そばにシャンパンのグラス。
 近づいてみると、ナント、「伊丹十三!」
そして、「やぁ!いらっしゃい!」。少しニヤリと笑って言った。
 続けて、彼はまた、言う。
 「楽しんでいって! けっこう面白い所だよ、ここは―。
 記念館としては旨くいったネ。僕も気に入ってるんだよ。
まぁ...ごゆっくり...いやぁー(頭を掻く)よかったら、また、来てネ!」

 「伊丹十三記念館」は、隅々まで伊丹十三が感じられる、あたたかくて、気さくで、見ごたえのある記念館です。

伊丹さんの一番近くにいた宮本信子館長だからこそ書ける文章ですよね。途中で(頭を搔く)と入っているところなど、多分伊丹さんの癖で、宮本館長には目に浮かぶ光景だったのでしょう。

ちなみに、私がこの文章を初めて読んだのは、記念館で働き始めるよりも、記念館のオープンよりも前のある日のことでありました。
通りすがりに現在記念館が建っているこの場所に「伊丹十三記念館」という工事幕を見つけて、「伊丹十三の記念館ができるんだ!楽しみ!」と家に帰りすぐに「伊丹十三記念館」とインターネットで検索して、今よりももっと情報の少なかった当時の記念館のHPを見つけ、この文章を読み、記念館のオープンがより一層楽しみになったことをよく覚えています。

記念館のリーフレットは県内外さまざまな施設に設置させて頂いています。どこかで見つけた方は、是非お手にとってご覧ください。この文章を読んで、中村好文先生の記念館の見取り図を見たら、きっとすぐに伊丹十三記念館を訪れたくなることと思います!

スタッフ:川又