記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2009.07.30 イトイさん、乗組員さん、やぁ、いらっしゃい

7月10日の記念館だよりで少雨を嘆いてから、雨のよく降る松山です。
普段はゆるゆるとした流れに鯉や亀の姿が見え隠れするのどかな小野川(記念館のすぐ側を流れている川です)も、雨の後は増水して、いろんなものが流されてきます。ある日などは、オレンジ色の丸いものが急流にもまれながら近付いてくるのを「まさか...ミカンじゃないよね」とよくよく見ると、やっぱりミカン。後を追うようにしてさらに2個流れてきました。さすが愛媛。(海岸でもミカンが打ち上げられているのをしばしば見かけますが、他のミカンどころでもよくあることなのでしょうか。)

記念館に糸井重里さんと「ほぼ日」乗組員(「ほぼ日」では、スタッフのことを"乗組員"というのだそうです)の「シェフ」さん「りか」さん「トリイ」さんがいらっしゃったのは、そんな風にミカンが流れていったおよそ1時間後のことでした。

現在、糸井さんが編集長をおつとめのインターネットサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」伊丹十三特集をしていただいていまして、伊丹さんにゆかりのある方たちのお話が日々続々と更新されています。

今までに登場した方を挙げますと...

●テレビマンユニオン・浦谷年良さん
●作家・村松友視さん
●伊丹プロ社長・当館館長代行・玉置泰
●テレビマンユニオン・佐藤利明さん
●イラストレーター・矢吹申彦さん

今回は、記念館を設計した建築家の中村好文さんと糸井さんの対談を「現地」で行いましょうということで、ご一行様のご来館とあいなったのでございます。

京都でのお仕事を終えて駆けつけてくださった中村さんが合流して展示室へ...伊丹さんの「やぁ、いらっしゃい」の写真がみなさんをお出迎え。

中村さんのお話も面白かったですし、それを聞く糸井さんの反応も「さすが」という感じでシビレました。何というのでしょう...感心力と関心力が抜群に強い方なんだな、と感じました。それをひとことで(しかもシンプルなことばで!)まとめてあらわすのも、もう、ほんとうに一瞬で...。糸井さんの頭の中に隠してあるブラックボックスを見てみたい!と思いました。

常設展示室と企画展示室、カフェをご見学いただいた後は、ミーティングルームで対談。日頃から「糸井さんとゲストはどんな雰囲気でお話なさっているのかしら」と気になっていましたが、そうか、なるほど、結構オットリふんわりした空気なんですね、と納得しました。脳ミソを稼動させながらも、ふんわりしているのって、なかなかできることではありません。(そういえば、乗組員の方々も柔和な方ばかりです。見習いたい...。社風なんでしょうか。)

そんなこんなの対談でどんなお話が飛び出したかは「ほぼ日」での掲載をお楽しみに!私も楽しみです!!

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オマケ:あるお客様曰く「何か取材が入ってるな?とは思ってたけど、『メイちゃんのお父さんの声がする!』と思って見てみたら糸井さんだった!」と。この話を聞いてから、『となりのトトロ』が観たくてしょうがありません。

写真:(奥左から)糸井さん、中村さん/(手前左から)トリイさん、りかさん、シェフさん

 

 

学芸員:中野

2009.07.20 仕事復帰

育児休暇を終え、無事に復帰させていただきました。
少人数で運営している記念館で、1年間も休ませて頂き、スタッフには多々迷惑をかけたにも関わらず、あたたかく迎えてもらい感動の初日でした。ここは、本当に伊丹さんのお家だなぁとつくづく思い、「伊丹ファミリーサイコー」と中庭で叫びたい気分でした。

大人になってからの1年は、「今年も変わりなく終わったなぁ」という年もありますが、
赤ちゃんの1年というのは目まぐるしいもので、はじめは寝ているだけの赤ちゃんだったのに、寝返りをし、ハイハイをし、つかまり立ちをし、歩きはじめてと、すさまじい進化をします。子供ができて、今までの生活はガラっと変わり、価値観や考え方も少し変わってきました。見慣れていた記念館の周りの風景もなんだか新鮮で、空を見上げて深呼吸をすると、なんとも言えない気持ち良さでした。

伊丹さんの本で『小説より奇なり』の中の「人世劇場 孤軍奮闘篇」は主婦二人がお産の体験談を語っています。産後に読み返し、初めて読んだ時は、「ヘェ?」という感じだったのが、「ソウ!ソウ!」に変わり、ニヤリとしている自分がいました。
何はともあれ、生命の誕生という神秘的な場面に立ち会え、経験できた事は私の人生において、すばらしい宝になり、我が子の存在は仕事への活力になっております。

髪型も『マルサの女』の板倉亮子風にし、Caféタンポポの新メニューも張り切って考案中です。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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スタッフ:木山

2009.07.10 伊丹映画の雨

1ヶ月ほど前の松山は「断水カウントダウン」状態でした。工事のための断水以外は経験したことのない私にとって、日常的に断水が行われるという事態は想像を超えた部分が多く、頭の中に有事ランプが点灯、「11時にお水が止まるから、10時までにはご飯をすませて洗い物...ああ、洗濯もしなくちゃ...」とか「いざとなったらお水のたくさんある隣町に逃げよう」とかとシュミレーションしていました。
ある日の帰り道、スーパーで大々的にお水のタンクを売り出しているのを見て、「やっぱり、あった方が安心よね...」と20リットル・コック付きのものを購入。断水のための出費なんてしなくてすむ方がいいに決まってるんですが、「有事のために対策している私!」に若干興奮しながら帰宅すると、「明日から予定されていた時間断水は、そこそこ雨が降ったので中止」というニュースが...。
あれ以来、松山でもぼちぼち雨が降って、地下水位もダムの水位もだいぶ回復しました。よかったです、本当によかった!でも、雨の日に部屋の隅でホコリをかぶりはじめているポリタンクが目に入ると、有事を前に冷静でなかった自分を思い出して、何だか苦い気持ちになるのです。


ところで、雨といえば、伊丹映画には印象的な雨のシーンが多数あります。

例えば監督デビュー作の『お葬式』。
妻の父の訃報を受け、豪雨の晩、車を飛ばして病院に向かうシーンがあります。走っている車同士でサンドイッチを受け渡しする、あのシーンですね。
あのシーンは、人工の雨と、スタジオの中に停めてある車を使って撮っているんです。それなのに、あんなに疾走感があるのはなぜでしょう?ポイントは雨の降らせ方にあるのです。

普通に上から雨を降らせてみても、車が走っている感じが出ず、悩んだ結果...

やむなく思いつきで、雨を下から降らせてみたところ、カメラがやや俯瞰気味であったこともあって、車の正面から吹きつけると、画面の中の車は俄然フルスピードで走り出したかの如く見え始め、一同歓声を上げる」(『「お葬式」日記』より)

そして翌日のラッシュでは

サイレントのラッシュであるにもかかわらず車がぐいぐいと走り、スタッフから思わず感嘆のどよめきが洩れる。(中略)この上はカーチェイス全体をセットで押し切ってしまおうと、興奮して話しあう」(同じく『「お葬式」日記』より)

それから、『マルサの女』にも。
ゴミ収集車を追跡して、ゴミの山から脱税の証拠になる書類を掘り出すシーンは、実際のゴミ処分場でのロケ(きっと壮絶な臭いだったでしょうねぇ)でした。
スタッフが人工の大雨を降らせて、ライティングにも苦心して(逆光でないと雨の粒は写らないのです)、演じる俳優はズブ濡れになりながら本当のゴミにまみれて、どうにか撮影を終了。監督も

きつい撮影だったが、撮影というのはどんなにきつくても基本的に遊びである。今日は一日楽しく遊んだ」(『「マルサの女」日記』より)

と書いていますが、なんと、現像してみるとフィルムに傷が入っていてNGに...。後日、撮影所の一角に集めてきたゴミを積んで撮り直した、なんていうお話も1月の上映会で宮本さんから飛び出しました。


映画の世界は作り物の世界だと、伊丹監督は語っています。モノにせよ、ヒトにせよ、本bee.JPG当のことのように「作って」画面の中に存在させなくてはなりません。
雨、雪、風...自然現象の場合も「作る」のは大変です。現実に起こる自然現象に対する観察眼と、画面の中に「らしく」表現する創造力が問われます。


現実の世界でも映画の中でも、「ふつう」の雨がただの雨に見えない今日この頃です。

 

学芸員:中野 

*写真は、少雨にもメゲずに花を咲かせたド根性ミント+ハチ。

*「ほぼ日」で、伊丹プロ社長・当館館長代行玉置のお話連載中です。