記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2020.02.03 椿

立春を前に、併設小企画「伊丹万作の人と仕事」に展示している"かるた"の入れ替えを行いました。

このかるた、元は、『子供トナリグミカルタ』といいまして、1942年に発売された市販の玩具で、名前から容易に察せられるとおり、「ツクレ ツヨイ ダイトウア」「ススムニッポン ケンセツ ニッポン」などの標語で少年少女たちを軍国主義に染め上げようというものでした。
小学生だった伊丹十三がそんなかるたを買ってきて遊んでいるのを見た父・万作は、「何ということだ、これではいけない」と許しがたく耐えがたく思ったのでしょう。

あまたある松尾芭蕉の俳句から「いろは」ではじまる47句を選りすぐり、『子供トナリグミカルタ』の札を裏返して、読み札・絵札を全部自分で描いた......という、完全手作りの1点モノにして、万作の人柄をよくあらわす品なのであります。

伊丹万作についてはこちらのページもご覧ください。

karuta_c.jpgすべての札の両面を複製し、壁面に並べています。
伊丹万作の手作りかるた(上2段)と『子供トナリグミカルタ』(下2段)。
("入れ替え"たのは、このコーナーの展示台に入れている"実物"です。)

俳句をもとに作られているだけあって、季節の風物・風景が描かれているのを楽しくご覧いただける品(さすが元挿絵画家!)でもありますから、暦に応じた季語の札を8組ずつピックアップして、お目にかけています。

展示する札を決めるときは「絵札のモチーフの種類(風景・人・動物・虫など)」「色味」といった見た目のバランスを重視してきましたが、今年の春は、お花ばかり選んでみました。

20200203_karuta_spring.JPG右上から「いろは」順に
龍門の 花や上戸の 土産にせむ / るすに来て 梅さへよその 垣根かな /
よく見れば なづな花さく 垣根かな / 両の手に 桃と桜や 草の餅 /
園ひろき 徳ありてこそ ふきのとう / 落ちざまに 水こぼしけり 花椿 /
くたぶれて 宿かるころや 藤の花 / 山路来て 何やらゆかし すみれ草 /

「春の花」と言っても、まだ寒いうちから咲くものもあれば、暑くなりはじめる頃に咲くものもあり、表情豊かな展示になっています。

今の時季にぴったりなのは、


 20200203_karuta_spring_camellia.JPG
やはり椿でしょうか。

ちなみに、松山市の花もヤブツバキ。1971年に市花に制定されました。


ごく簡単に申しますと「聖徳太子が道後温泉を訪れたとき(596年)、温泉のすばらしさを讃えて作ったと言われる碑文の中に、温泉の周りに椿が生い茂って赤い花が咲き、見事な景観だったことが記されていた(らしい)」というのが由来なのだそうです。

ご遠方からいらっしゃる方は、松山のあちこちで椿の木・花をお見かけになったり、 "椿""つばき""キャメリア"のつくお店の名前・施設名、椿の意匠のお菓子やお土産品が多いことにお気づきになったりして、「おや?」となることと思いますが、そういうわけなのでございます。

そして、お足元に注目していただきますと、こんなものも――

20200203_manhole_2.jpg松山のマンホール蓋(彩色バージョン)です。
紅白の椿の周りにあしらわれているのは伊予絣の井桁文様。
松山市中央公園の野球場「坊っちゃんスタジアム」前で撮影しました。

聞くところによれば「"ご当地絵柄"のマンホールの蓋を探して、写真に撮るのを旅の習慣にしている」という方が少なからずいらっしゃるんだそうですね。(調べてみると、全国津々浦々、まことに様々な絵柄の蓋があり、各自治体が"マンホールカード"なるものを配布しているとか。)

椿の名所は日本各地にありますが、記念館、松山でも椿いろいろ、ぜひお楽しみください。

学芸員:中野