記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2026.03.16 花粉症

3月も半ばとなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館ではトサミズキ、ロウバイなどが次々に花をつけており、中庭ではヒメツルニチニチソウが咲きました。タンポポもじきに咲き始めることでしょう。春はすぐそこです。



s-IMG_8255.jpgトサミズキ


s-IMG_8258.jpgロウバイ


s-IMG_8249_1.jpgヒメツルニチニチソウ

さて、私は季節としては春が一番好きなのですけれども、この時期に毎年悩まされている現象として、花粉症がございます。
今年も1月の終わりごろに怪しい気配を感じ、2月の中頃には諸症状が急に増えたのであわてて病院に行き、薬を処方してもらいました。
花粉症だと気づいたらすぐに病院に行けばよいのですが、不思議なもので症状が軽い状態の時には「あれ、少し鼻がムズムズする?」、「目がかゆいかも?」程度で、病院に行くほどでは無いと思ってしまい、毎年症状が酷くなってから病院に行っております。
例にもれず頻繁なくしゃみと鼻づまり、目どころか顔全体のかゆみに襲われてかかりつけの病院に行きましたところ、「うん、炎症がおこってますね。アレルギーの人の鼻です。来年からはもう少し早く、1月の終わりには来てください」と念を押されました。

そんなこんなで無事に薬もいただき、これで症状が治まると安心しておりましたが、症状が酷くなってから薬を飲み始めたので効きが悪くて鼻づまりが治らず、喉の炎症まで拗らせました。結果は副鼻腔炎だったのですが、レントゲンを撮っていただき、耳鼻科の担当の先生に丁寧に「ここが鼻で、ここに4つ空洞があるんだけどね。これ副鼻腔。白く曇ってますね」と鼻の状態を説明していただきました。その、レントゲンで鼻の状態を説明されております際に、思い出した伊丹さんのエッセイがこちらの「鼻の構造」です。

 私が鼻のことを書こうと思ったのは、今、風邪をひいているからなのである。
(中略)
 風邪をひいて、鼻が詰まったりぐずぐすしたり、不調なままに寝込んでいる間に、私は、鼻の構造というものが次第に気になり出してきた。
 私は、鼻の穴が、鼻をさかのぼり、鼻の付け根のあたりで奥のほうへ曲がってゆくらしいことを気配で知っている。
 そうして、やはり、気配によると、その穴は、口の中の天井の部分、つまり口蓋というのかね、その口蓋の途中へ抜けているらしいのだが、以上が私の鼻に関する知識のすべてであって、つまり私にとって、鼻は、入口と出口以外は全く神秘に包まれているといってよいのだ。
 第一の神秘は、かの「ラ・モルヴ」であろう。食事中の読者もあるかも知れぬから、鼻に関係した、例の粘液を、フランス語でこう呼ばせていただく。
そもそも、ラ・モルヴは、なんでまあ、ああも無尽蔵に、かめどもかめども出てくるのだろうか。一体どこにその源泉があるのか。
ラ・モルヴ以外の分泌物に関しては、われわれは一応なになに腺とかいって、その出所を教えられているのに、なぜこのラ・モルヴに関してのみ教わったことがないのか。
「脳中の水分が滲み出したものがラ・モルヴである」
 ギリシャの哲人ならさように考えたかも知れぬ。いや、それも案外当ってるのかも知れないよ。ともかく、なんにも知らないんだからどうにもならぬ。
 私の印象によれば、鼻の裏側に、二つの壺状の容器があるように考えられる。この壺の中にはラ・モルヴが澱んでおり、ラ・モルヴの量が壺の容量を超えると、ラ・モルヴは鼻の鼻孔のほうへ流れ出るのである。
 いや、壺の容量を越えぬ場合でも、われわれが横になった場合には、その壺も横になるから、当然ラ・モルヴは流れ出すものと考えられる。
 風邪をひいた場合、咳や、熱や、頭痛などは眠っている間、ある程度後退するものであるが、鼻詰まりだけはむしろ悪化するのであって、その原因は実にここにあるのです。

 私の場合、風邪はまず鼻へくる。そうして一晩たって喉へくるのが常であります。ということは、夜のうちに、ラ・モルヴが流れ出し、仰向けに寝ている関係上、口蓋を伝って喉のほうへ流れてゆく。このラ・モルヴの流れに一晩さらされた喉の粘膜は、なんじょうもってたまるべき、たちまちにして炎症を起こす、というのが私の理論であった。
 理論であった――というのは、どうも、この理論は間違っていたらしいのだな。壺を横にするから、ラ・モルヴの流出が激しくなる、従って、ラ・モルヴの流出を防ぐためには壺を直立の位置に保てばいい筈だ――この理論に従って、私はうつ伏せになって寝てみたのである。
 翌朝の喉の痛み、鼻の不快感は想像を絶するものであった。
 さて、私は、これから平凡社の世界大百科事典「ノウ―ハン」の一巻を開いてみようと思う。
「ハナ」の項を開く。おそらく頭部の断面図が描かれているだろう。
 鼻のうしろに壺は有りや、無しや?
 今まさに神秘の扉は開かれようとしている。

(『再び女たちよ!』より「鼻の構造」)

薬の処方を待っている間に、スマートフォンであらためて鼻の構造を検索してみました。なるほど、伊丹さんの言うところの"ラ・モルヴ"は鼻の粘膜で作られている。そして私がアレルギー性鼻炎を拗らせて急性副鼻腔炎になったのは、文字のとおり鼻腔(鼻の穴)に沿うように存在している空洞の副鼻腔に炎症が起き、"ラ・モルヴ"が鼻の通り道をふさいだり溜まったりしていたようです。
伊丹さんの理論の"ラ・モルヴ"が溜まっている壺は残念ながら無いですが、空洞は確かに存在しております。全くの間違いではないようです。伊丹さんのエッセイと、レントゲンを見ながら教えてくださった耳鼻科の先生のおかげで、鼻の穴の構造に少し詳しくなりました。

ちなみに、こちらのエッセイ「鼻の構造」で省略させていただきました部分では、伊丹さんの鼻についてのお話しがもう少し載っておりますので、気になる方はぜひ実際に読んでいただけますと幸いです。


s-IMG_8253_1.jpg「鼻の構造」が載っている『再び女たちよ!』
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学芸員:橘