

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2025.10.06 伊丹映画のメガネ
「"年寄り笑うな行く道だもの"って格言だなぁ」と思うことが年々増える一方、「とはいえ、なってみないと本当には分からないものだなぁ」と妙に感心する場面も増えつつあります。
最近わたくしが「なった」ものは「老眼」。「分かった」ことは、「見えないことがこんなにもストレスだとは」と「老眼鏡がこんなにしんどいとは」。
観念して10日ほど前に購入したのですが、老眼鏡をかけたり外したり、なんとも煩わしいものですね。
日に何度叫びそうになることか。
「老眼鏡のレンズ、猫八さんみたいにパカッとやりたい!」と。
「猫八さんのパカッ」は、伊丹十三の監督デビュー作『お葬式』(1884年)でご覧いただけます。
映画『お葬式』より
江戸屋猫八さん演じる葬儀屋の海老原は
サングラスをかけているのですが――
パカッ。
色付きレンズと度付きレンズが二重になっているのです。
ごくたまに、色付きレンズを跳ね上げます。
さらに、つるのない老眼鏡を一番内側に仕込むことが可能。
驚異の三重構造!
伊丹監督がこの映画の着想を得たのは、前年に経験した義父(宮本信子館長のお父さん)のお葬式。その時の葬儀屋さんがこんなメガネをかけていらしたのだそうです。
『お葬式』ではこんなカットもあります。
霊安室に横たわる"じいちゃん"を
みんなでのぞき込む場面
画面内が見事にメガネだらけ。
実は、伊丹映画はメガネの宝庫なのでありまして、『マルサの女』(1987年)のパチンコ屋のシーンも見ものです。
ヒロインの税務調査官・パチンコ屋の社長・税理士、それぞれのキャラクターを際立たせるメガネが利いています。伊東四朗さんのメガネにいたっては、笑いを誘うレベルのハマり具合い。
『タンポポ』(1985年)の接待フレンチのシーンでは、サラリーマン6人中5人がメガネをかけていてます。デザインはそれぞれ違うのに、全員ちゃんとサラリーマンらしく仕上がっているのですから、メガネの効果は深い。
では、伊丹映画のメガネはどのように選ばれているのでしょうか。
こちらは『大病人』(1993年)で看護師・林久子を演じた、木内みどりさんの衣裳合わせの模様。
メイキングビデオ『大病人の大現場』より
「伊丹十三 FILM COLLECTION Blu-ray BOX Ⅱ」の
特典ディスクに収録されています。
俳優一人の一本のメガネのために、これだけ候補を揃えるんですね!
メイキングビデオ『大病人の大現場』では、この直後、木内さんがあれこれとかけてみて、みんなで具体的な"久子像"を探っていく様子が捉えられています。
そして、選ばれたメガネがこちら――
映画『大病人』より
「聡明で頑張り屋で、愛らしくてちょっぴり毒舌だったりもする久子さんには、このメガネしか考えられない!」と感じてしまうほど、メガネが役の一部になっています。
ちなみに、津川雅彦さんは10本ある伊丹映画のうち9本に出演なさっていて、6本でメガネをかけていらっしゃいます。それを見比べてみるというだけでも、「映画の秋」が成立しちゃいますね。いかがでしょうか。
以上、今週の記念館便り、中野がメガネでお送りいたしました。
皆様、よい秋を。
学芸員 : 中野

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