

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2025.09.08 伊丹十三とインターネット
たえまなく、めざましく進歩し続けること=「日進月歩」。この言葉を私が覚えたのは昭和だったか平成だったか。
時は流れて令和の今、ICTやAIの急速な発展には「"歩"の字で表現できる域を超えている! あまりにも速い! 一年ひと昔!!」と感じられ、もうついていける気がしません。
少し前、「伊丹万作」「俳句」でGoogle検索をしたことがありました。
最近、検索結果の先頭に「AIによる概要」というものが表示されるようになりましたね。便利に感じることも、煩わしく感じることもあるアレですが――
「いや、そうじゃなくて。芭蕉の俳句を使って万作が手作りしたカルタのことじゃなくて。万作が詠んだ俳句のことを聞いているんですけど」「伊丹万作全集の巻数とかページ番号とか表題とか、それを教えて欲しいわけ。本をめくって探す時間を省略したいんですっ」とパソコン画面に向かって文句をたれ、ワードを増やして検索を続行するうち、ハタ、と気付きました。
「ん? そもそも、インターネット上に"芭蕉カルタ"の情報があって要約の元になっているのは、私が企画展ページや記念館便りにあれこれ書いたり、解説をつけて展示に出したりしているからなのでは......源流は、私?」ということに。その途端、心に芽生えた恐怖心と重圧たるや。
これまでも注意を払ってきたつもりではありますけれども、なおいっそう、責任をもって・正確を期しつつ・楽しんでいただけて・なるべくためになる、そんな情報の提供に努めてまいります。
さて、「インターネットと伊丹十三といえば」というお話になりますが、パソコンやインターネットが一般にはそれほど普及していなかった1990年代半ば、伊丹映画はいち早くホームページを設けて、映画が作られていく過程を発信していました。伊丹監督が大好きなメイキング・ビデオと同じことを、即座に、そして分量や尺(時間)を気にせずに発信し、封切り前に楽しんでもらえる、とくれば、それはもう飛びついたでありましょう。
伊丹十三が愛用したノートパソコンのひとつ、
PowerBook 5300ce。アップル派だったんですね。
『静かな生活』(1995年)では撮影日記の掲載やシナリオの公開を行い、『スーパーの女』(1996年)では動画も用いるようになり、さらには本番撮影を生中継。これは世界的にも前例のない試みでした。しかも、前田米造さんのカメラが撮影している映像(=映画本編で使用される映像)までもがこの生中継中リアルタイムで流れたというのですから、映画界においては二重の大事件であったはずです。
「自分で中継をみられないのが残念だったね」とは伊丹さんらしい一言。
ところで、生中継について考えるたびに心配になることがひとつ。それは、「スタッフやキャストのみなさんは『生中継なんかされたら仕事しづらいなぁ』と戸惑ったのではないかしら」ということです。
これについて伊丹監督曰く「長年かけてチームワークを培ってきたわれわれだからできる」映画作りの現場なのだから、「『おれたちの仕事ぶりを見てみろ!』と、世界に向かって胸を張ることができたわけですよ」。
なるほど、誇りがあれば怖くない。
何かにつけて怖気づいてしまう私は、まだまだ修行が足りぬようです。
朝夕は少し涼しくなってきました。今年の秋は「修行の秋」でまいることにいたしましょう。
こちらが例の、伊丹万作が手作りした"芭蕉カルタ"です。
―名月や 池をめぐりて 夜もすがら―
2025年の中秋の名月は10月6日だそうですよ!
文中のイタリック体は「ENGLISH NETWORK」1996年7月号より
学芸員:中野

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