こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.12.11 フォンデュ
今年も残すところ20日ほどとなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
なにかと忙しい年末年始、体調を崩さないように温かくしてお過ごしください。
冬も本番になり、陽が沈むのがグッと早くなりましたので、記念館では日没後からライトアップをしております。開館時間の間にライトアップしている記念館が見られるのは冬だけですので、ぜひ夕方からご来館のお客様は幻想的な記念館もお楽しみください。
日没後の記念館
中庭の桂もライトアップされています。
もうすぐそこまで迫った年の瀬ですが、皆さまは年末年始、何をお召し上がりになるでしょうか。年越しそば、おせち、お雑煮、ご家族で集まってお寿司やすき焼きなど、ご馳走をお召し上がりになるご家庭も多いことと存じます。
本日の記念館便りでは、伊丹さんのお宅のお正月料理についてのお話しです。『ぼくの伯父さん』のエッセイ、「正月料理」を見ると、少し変わったお正月料理が2つ紹介されています。そのうちの1つが、チーズのフォンデュです。
わが家の正月料理が決定した。一つはフォンデュ。スイス料理である。簡単にいうなら、煮立てた白葡萄酒でチーズを溶かしちぎったフランスパンをつけては食べる、というだけの素朴な料理である。発明したのは牛飼いだろう。こいつが滅法うまい。寒い夜親しい友とこれを囲んで、プツプツ煮立つやつをパンにからめとっては口に運ぶと、腹の底から生きる力が沸いてくる。厳格なる自然食主義者の私も、この魅力には抗し難い。ベルンに五日滞在したときは、五日連続でフォンデュを食った。最後の夜などは二人前のフォンデュを食べおわってまだ足りず、さらに二人前注文して、ついにはそれも平らげてしまった。それほど「力」のある料理なのだ、フォンデュというのは。
だから、そのフォンデュを、東京のとあるスーパーの片隅に発見したときの私の喜びをお察し願いたい。いやァ、おどろいたですねェ、あったんですよアナタ、フォンデュが。タイガー印とかいって二人前九百円というインスタント・フォンデュを私は発見してしまったのである。早速買い求めて試験してみると、こいつはイケル! スイスで食べるのと全く変わらない。「正月の料理はこれ」と、直ちに決定し、二十箱注文したら、嬉しいじゃありませんか、年末のせいか、九百円のフォンデュが七百四十円に値下げという、まるでボタ餅で、ほっぺたをなでられているような話なんだなァ。
(『ぼくの伯父さん』より「正月料理」)
なかなかお正月に食べることのないフォンデュですが、伊丹さんのお宅では定番のお正月料理のひとつだったそうです。
現在開催している企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』では、お正月に使っていたといわれるフォンデュ用のお鍋と皿を展示しております。実物をご覧いただくと分かるのですが、こちらのフォンデュ用のお鍋はかなり大きめです。家族みんなでお腹いっぱい食べられそうな立派なお鍋で、見ているだけでもお腹が空いてきます。
企画展示室に展示中のフォンデュ用のお鍋と皿
深さも結構あるのですが、どれくらいチーズを使ったのでしょうか...?
ちなみに、『女たちよ!』の「固まったチーズ」でも、フォンデュのお話しが出てきます。こちらではフォンデュの詳しい作り方やスイスでのフォンデュに関する習慣も紹介されています。
フォンデュというスイス料理がずいぶん普及してきたらしい。日本ではどういうものかフォンデュというと、肉のフォンデュが主流であって、チーズのフォンデュはあまり盛んでないらしいが、スイスでフォンデュといえばチーズのフォンデュをさす。このチーズのフォンデュについて少し説明しようか。
チーズはもちろんスイス・チーズを使う。グリュイエールとか、エマンタルとかいう堅くてでっかいチーズを使うのである。グリュイエールとエマンタルをどういう割合で混ぜるかという点に関してはさまざまな議論があってなかなかにむつかしいのであるが、いずれにせよフォンデュの作り方の基本というのはこういうことである。
すなわち、まず土鍋の底に大蒜をすりこんでおいて火にかけ、これに白葡萄酒を入れて煮立てる。そこへおろしたチーズを入れて、チーズが完全に溶けるまでかきまわし、次にいろいろなスパイスや、キルシュというお酒などを加える。
これをぐつぐつ煮立っている状態で召し上がるわけだが、食べる時は長いフォークの先にトーストの小片をつけて、これをチーズに浸して食べる。トーストを鍋の中に落してしまったら、その人はみんなに一杯ずつのお酒をおごる習慣になっている。
(『女たちよ!』より「固まったチーズ」)
伊丹さんが「滅法うまい」というチーズのフォンデュ。最近では、飲食店で手軽に食べられたり、一人用のフォンデュセットもスーパーで買えるようになっておりますので、伊丹さんのエッセイを思い出しながらお召し上がりいただけたら幸いです。
フォンデュについてのエッセイが載った
『ぼくの伯父さん』と『女たちよ!』
さて、今週13日(水)は「毎月十三日は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」の日です。年内最後の上映作品は『タンポポ』。皆さまのご来館をお待ちしております。映画を観た後は、企画展示室の映像コーナーにございます、瀧波ユカリさんの『タンポポ』の炒飯づくりのスライドショーもぜひご覧ください。
〈年末年始 休館・開館日のお知らせ〉
2023年12月28日(木)~2024年1月1日(月)は休館いたします。
(2023年12月26日(火)は通常通り休館いたします。)
2024年1月2日(火)、1月3日(水)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とさせていただきまして、1月4日(木)より通常開館いたします。
皆さまのご来館をお待ちしております。
学芸員:橘
記念館便り BACK NUMBER
- ●2024年10月
- ●2024年09月
- ●2024年08月
- ●2024年07月
- ●2024年06月
- ●2024年05月
- ●2024年04月
- ●2024年03月
- ●2024年02月
- ●2024年01月
- ●2023年の記事一覧
- ●2022年の記事一覧
- ●2021年の記事一覧
- ●2020年の記事一覧
- ●2019年の記事一覧
- ●2018年の記事一覧
- ●2017年の記事一覧
- ●2016年の記事一覧
- ●2015年の記事一覧
- ●2014年の記事一覧
- ●2013年の記事一覧
- ●2012年の記事一覧
- ●2011年の記事一覧
- ●2010年の記事一覧
- ●2009年の記事一覧
- ●2008年の記事一覧
- ●2007年の記事一覧