こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.06.12 洗車
6月も3週目、四国地方は梅雨真っ只中となっておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
記念館では先週、ベントレーの洗車を行いました。普段から埃や虫を払ってはおりますが、カーシャンプーを使用しての洗車は汚れがしっかり落ちるのでとても綺麗になります。ワックスもかけて艶々になったベントレー。ご来館の際は是非ご注目ください。
洗車したベントレー
エンブレムもぴかぴかです
定期的に洗車をしておりますベントレーですが、その度に思い出してしまうエッセイがございます。それは、ガレージにも書かれております、「猫の足あと」です。
ガレージに書かれているエッセイ
私がロータス・エランを赤にしたのは、こいつなら赤でも目立たない、と思ったからでありますが、さらに念を入れるなら、この車はよごれっぱなしのほうがいい。埃や泥はもちろん、小さな引っかき傷や、軽いへこみも、そのままにしておいたほうがいい。
私の分類では、こいつは、雨具や履物の部類に属する。仕立ておろしのレインコートや、ま新しい靴というのが、どうにも気恥ずかしいものであると同様、車も、ある程度薄よごれた感じのほうが、私には乗り心地がいい。
ま、そういうわけで、私は自分のロータスを掃除しないことにしている。昨年の暮には、ひと月ばかりガレージにいれっぱなしにしておいたから、実にいい具合いに埃がつもって、その埃の上に猫の足あとなんかついて、ほとんど私の理想に近い、芸術的なよごれをみせるようになった。
私は、この埃の上に、指で絵を描こうと思った。そうだ!注連飾りの絵を描いて年始に出よう、と思った。
(『女たちよ!』より「猫の足あと」p203~204)
ご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、伊丹さんは汚れた状態の車が好きだったそうです。猫の足あとがつくほど埃がつもっていることを、「ほとんど私の理想に近い、芸術的なよごれ」と称したくらいですから、このエッセイのロータス・エランはよほど気に入った状態だったのでしょう。
そして、このエッセイにはまだまだ続きがあるのです。
ところが、だめだったのだな、これが。大晦日の午後、ガレージの扉をあけてみて、私は愕然となった。だれかがガレージを掃除したらしい。すっかり洗いきよめられた、すがすがしいガレージの中に、これまたぴかぴかに磨き上げられた赤いロータスが置いてあった。
心なき業にこそ! 私は、今またロータスの埃が積もるのを待っている。
だから、正月になってから、まだ一度も車に乗っていない。
(『女たちよ!』より「猫の足あと」p204)
なんと、洗車して綺麗になった車には乗らなくなってしまったのです!
エッセイの中では赤のロータス・エラン、記念館で展示しているのは黒のベントレーと、色も車種も全く違うのですが、洗車をしていると「あぁ、こんなに綺麗になってしまったら、伊丹さんは埃が積もるまで乗らないんだろうな...」だなんて考えてしまいます。
洗車の際はガレージの床まで洗います
伊丹さんのいう「洗いきよめられた」状態です
それでも、洗車をした車体は艶々していて、とても綺麗で...。やっぱり、お客様にはぴかぴかの状態でご覧いただきたいと思うのです。心の中で伊丹さんに謝り倒しながら洗車したベントレー。記念館で実際にベントレーをご覧いただいた際には、エッセイも一緒に思い起こしていただけますと幸いです。
企画展示室出口付近にございます
『ミンボーの女』プログラム
さて、今週は「記念館で伊丹十三の映画を観よう!」の開催がございます。今月は13日が火曜日で休館日のため、翌日14日の水曜日の開催となります。常設展示室にて13時より『ミンボーの女』を上映いたしますので、ぜひご覧ください。
皆さまのご来館をお待ちしております。
スタッフ:橘
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