記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2022.12.19 山茶花と時雨

ここ最近......そうですね、数か月ほど前から、目に映じた風物をきっかけに、歌が思い出されるようになりました。

ふと心に浮かぶのはなぜか四季折々の童謡が多くて、例えば秋のうちは『まっかな秋』や『紅葉(もみじ)』、『村祭り』などなど、私の脳内ジュークボックスから懐かしい曲の数々が流れてきたものです。

子供の頃はただただ無邪気に歌うばかりでしたが、今になって口ずさんでみると歌詞やメロディの風情に気付き、しみじみとした思いで心がいっぱいになることもあります。年齢ゆえの現象なのでしょうか。

「そういえば秋の童謡と真冬の童謡はたくさんあるけど、今頃の、秋から冬にかけての季節の歌って、あんまり覚えてないなぁ」と考えていたつい先日、通勤途中の道端で脳内ジュークボックスが作動――

20221219_sasanqua.JPG記念館のすぐ近く、国道33号線沿いの調剤薬局の前で

さざんかさざんかさいたみち~

ハイ。『たきび』(の二番)ですね。

何とはなしに検索してみましたら、作詞者・巽聖歌(たつみ せいか/1905-73)氏は岩手県のご出身なんだそうです。あら~、同郷の方の作品だったとは!

しもやけおててがもうかゆい

のところなどは、かじかんだ手指が温まるとき独特の痒み! あの感覚がよみがえってきてムズムズするほどです。

イヤハヤ絶妙な歌だったのだと感じ入りますが、今どきのチビっ子たちには「シモヤケって何?」かもしれませんね。(あ、現代は「そもそもタキビって何?」な子が多いかも...)

「老いたくない老けたくない」と詮無い願いを抱きがちな四十路の半ばの私でも、「年を重ねてこそ感じられること、興味がわいて理解でき、楽しめることがある」と思えるのは、なかなかにいいものです。
若いうちからそれができていればもっとよかったのでしょうけれど、しかたありません、過去は過去として、この冬の我が脳内ジュークボックスに期待したいと思います。

と、いうふうに、山茶花も咲いて本格的な冬を迎えつつある松山でございますが、冬らしく澄みきった晴天の日は少なく、今年は何だか曇りがち。しかも、時雨が多いような気がします。

20221219_cloudy.JPGこんなほんの少しの青空でも超貴重!

「今年はやけに時雨れるなあ。松山の初冬のお天気って毎年こんなだったっけ?」と冴えない天気を侘しく思う一方、「いや待てよ......これまでは時雨を気に留めていなかっただけなのかも......時雨に物思うようになったから、多いように感じるのかも......これまた年齢ゆえのことなのでは」と考えたりもする今日この頃です。

その点、松尾芭蕉先生はさすがであります。
元禄5(1692)年、門人邸での句会に招かれ発句して曰く――

けふばかり 人も年よれ 初時雨

20221219_kefubakari.JPG「時雨の寂びた味わいは老境に達してこそ理解できるもの。今日は
折角の初時雨、若い皆さんも年寄り気分で味わってみてはいかがかな」
といったところでしょうか。

企画展示室の「併設小企画『伊丹万作の人と仕事』」では、伊丹万作が我が子たちのために手作りした、いろはがるたの実物を展示・季節ごとに入れ替えしています。(複製は全札を常時展示しています。)
47句の芭蕉の句のセレクトも、読み札の字・取り札の絵も、万作によるものなんですよ。

写真の「けふばかり~」は、現在8組お出ししている冬の句のかるたの1組。
日に日に募る寒さは少し憂鬱ですが、冬ならではの風情を展示室でどうぞご満喫ください。

伊丹万作の手作りかるたについてはこちらもどうぞ!

学芸員:中野