こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2019.12.09 好き嫌い
伊丹さんのエッセイ集『女たちよ!』の中に、食べものの好き嫌いについてふれた、こんな一節があります。
" なにしろ好き嫌いがないのです。今にして思えば、子供の頃はまだ嫌いなものがあった。たとえば私は冬瓜が嫌いだった。それから胡瓜の吸い物が嫌いだった。小学校の時、同級生の家で初めてそういうものを食べて、なんともまずいものだと思った。温い胡瓜なんぞ言語道断だと思った。
ところが、ですね、三十過ぎて京都へいってそういうものを食べてみると、これがうまいんだからいやになっちゃうよ。いよいよ私には偏食の才能が欠落していることが明白になってきたのであります。
そういうわけで「今夜なにを食べましょうか」というような話から「あなたは食べ物じゃなにが一番お好きなの?」なんて聞かれると、これは実に困る。困ったあげくに、あれは高校生時分だったかな、「おいしいもの」という答えを捻出した。こいつは便利だったね。「なにが一番食べたい?」「おいしいもの」間然するところがない。
しかしこの方法にも欠点があったのですね。こういう返事をすると、相手がいかにも困った顔をすることに最近気がついたのである。だから、この頃ではこの返事も使い辛くなってしまった。"
「なにがお好き?」『女たちよ!』(1968年)より
『女たちよ!』は記念館オンラインショップでもお買い求めいただけます。
はじめてこのエッセイを読んだとき、「わかる!」と膝をうちました。
子どもの頃から〈嫌い〉と言い切れるほど苦手な食材がなかった私は、「一番好きな食べものは?」と問われるたびに、場に応じて何かしら答えつつも、心の中では「おいしいもの!」とおもっていました。どんな食材でも、必ずおいしい食べ方があるはずだと考えてしまう、食いしん坊な子どもだったんですね。
唯一、パクチーだけは苦手かもしれないと長年感じているのですが、「おいしいパクチー料理にまだ出会っていないだけかもしれない」などと、諦めきれずにいます。
そんなわけで、「好きな食べものは?」の問いにどう答えるのがベストなのか、今もときおり考えてしまいます。本音は、「おいしいもの!」なのですけれど。
伊丹エッセイを読んでいると、食・料理について、魅力的な文章がたびたび登場します。中でも、同じ『女たちよ!』収録の「スパゲッティのおいしい召し上り方」は、スパゲッティの理想の茹で加減〈アル・デンテ〉を紹介した文章として、よく知られていますよね。ほかにも忘れがたいエッセイはいろいろありますが、伊丹十三記念館の常設展「七 料理通」のコーナーには、実際に伊丹さんが使用していた調理器具や食器などを展示しており、間近にご覧いただけます。
常設展示室『七 料理通』コーナー
エッセイと同様に、こちらのコーナーでも伊丹さんの食・料理へのこだわりをたっぷり感じていただけますので、ぜひご覧くださいませ。
<年末年始 休館・開館日のお知らせ>
2019年12月28日(土)~2020年1月1日(水)は休館いたします。
2020年1月2日(木)3日(金)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とし、1月4日(土)より通常開館いたします。
スタッフ : 淺野
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