記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2017.07.10 車の汚れ具合にもこだわりが!

先日、伊丹さんの愛車「ベントレー」の洗車をしたことを記念館便りにおいてご報告いたしました。(その時の記念館便りはこちらから)

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これは伊丹十三記念館が開館して10年間で初の洗車であったわけですが、実は洗車を先延ばしにしてしまったのにはいくつかの理由がありました。
高級車であるということが一番の理由ですが、もう一つ、スタッフには気がかりなことがあったのです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、実は伊丹さんは、車は汚れた状態が良い、と思っていたという情報があるのです。生涯ずっとそのような考えだったのかどうかはわかりませんが、そういう時期があったようです。
もしかしたら、伊丹ファンの中には洗車の記事をご覧になって「おや?洗車しちゃって大丈夫?」と思われた方もいらっしゃったかもしれませんね。

伊丹十三記念館のガイドブックの中でも、伊丹さんと仲の良かった写真家の浅井愼平さんが、伊丹さんは汚れたままの車が好きだったということを書いておられます。

伊丹さんのエッセイにも30代の頃乗っていたロータス・エランに関して以下のような記述があります。
「昨年の暮れには、ひと月ばかりガレージにいれっぱなしにしておいたから、実にいい具合に埃がつもって、その埃の上に猫の足あとなんかついて、ほとんど私の理想に近い、芸術的なよごれをみせるようになった。
私は、この埃の上に、指で絵を描こうと思った。そうだ!注連飾りの絵を描いて年始に出よう、と思った。」(「女たちよ!」より) 

この後、そのロータスを知らない間にどなたかに洗車されてしまったらしく、そのピカピカになった状態が気に入らなかった伊丹さんは、しばらく車に乗らなかったそうです。

そんなこともあり、何となく洗車をためらってしまったという訳です。
何かにつけてこだわりの強い人として有名な伊丹さんですが、車の汚れ具合にまでこだわりを持っていたとは!
しかし我々には伊丹さんの理想に近い「芸術的なよごれ」具合というのがわかりませんでしたので、この度手入れをさせて頂きました。伊丹さん、ピカピカのベントレーをお気に召していなかったら、ごめんなさい。

IMG_6121.JPGまた、車のことではありませんが、以前宮本館長から聞いた話で忘れられないエピソードがあります。以前記念館便りにも書いたことがあるのですが、湯河原に住んでいた頃、庭にあったみかんの木を植木屋さんが木にとって良い状態に剪定して下さったらしいのですが、その剪定を気に入らなかった伊丹さんが、しばらく家に帰って来なかったという話です。

それにしても、気に入らなければ車に乗らない、家に帰って来ない、なんて中々スゴイ話ですよね。しかし伊丹さんの話となると「伊丹さんらしい」とか「やっぱり天才は違う」とか、思ってしまうから不思議ですね。

スタッフ:川又