記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2015.10.05 イタミ式ダイエット

夏は代謝が悪くなるんだそうですね。年齢的な代謝力の低下も加わって、かつては「冬に肥って夏痩せる」体質だったのが、「冬に肥って夏も肥る」体質になっていたようです。
そうとは知らずに「夏バテしないように頑張って食べなきゃ」と努力した結果を体重計の数字に見て青ざめた頃、折悪しく秋が到来。

sanma15.JPGサンマも到来

涼しく快適な季節、頑張らなくとも延々と食べ続けられてしまいます! どうにかしなければ......どうしましょう......伊丹さんに習いましょう!

美味しいものを作るのも食べるのも大好きだった料理通の伊丹十三ですが、ぷくぷくに肥った姿なんて見たことがありません。それもそのはず、伊丹さんはダイエットも趣味として楽しんでいたのです。
映画監督になってからは、撮影の始まる頃をきっかけにしていたようですね。『「お葬式」日記』(1985年)や『「マルサの女」日記』(1987年)を読むと、ところどころにその日の体重が記録されていて、「減らない」「減ってきた」などとコメントが添えられています。

では、具体的にはどんなダイエットをしていたのでしょうか――

【1】まず、気合いが充実してこなきゃ駄目。

「肥って、おなかのあたりのだぶだぶした具合がもういやでいやで、寝ても醒めても不愉快に思っている状態が半年ぐらい続くと、次第に気合いが充実してくる」

【2】すると、ある時カチッと切り換わる。

食べる人から突然食べない人に変わる。(お酒や煙草についても同様)
「いやだいやだと思いながら食べている状態、というのがとことん進行すると、ある日突然ポンと飛んで、全くさばさばと、爽やかな拒食状態が出現する」

【3】1日1食。

ちっちゃいお茶碗で玄米を3膳くらい。おかずは、ひじき・こうなご・海苔・高野豆腐・塩鮭・梅干し・豆腐・納豆などを少量。ほかに、わかめの酢のもの、焼き椎茸、コンニャクの煮ものなど低カロリーのもの。曰く「明治のお婆さんの食生活(笑)」。

【4】徹底する。

「切り換わって」いるので、克己心や意志の力は必要としないが、切り換わったが最後、徹底する。(ヨーロッパロケには玄米のレトルトパックを持参。)

【5】3ヶ月で10キロ痩せる。

最初の4、5日で3キロばかりパッと痩せ、その後10日から2週間ぐらいまではぴたりと体重の変化がとまって何事も起こらなくなる。この時期をもちこたえると、あとは順調に減っていく。

と、いうのが、イタミ式ダイエットの方法と過程だそうです。

今の自分は【1】についてはよく判る状態にきているのですが、【2】の「切り換え」が訪れる気配がまったくありません......というのは伊丹さんによれば当然で、切り換わらない人は切り換わらないそうなんです。

【6】なぜ切り換わるのかは、生育史的な問題

母親・父親との関係、人との関係の取り結び方についての考察が、自分に適したダイエットの「型」の発見につながる。(伊丹十三は「カタストロフィ型」。)

伊丹十三にとっては、ダイエットも精神分析の領域だったのですね。
自分の「型」を見つけるために、私も自分を見つめるよりほかないようです。

以上、【1】~【6】は、『フランス料理を私と』(1987年)の玉村豊男さんとの対談より、抜粋してまとめさせていただきました。対談を収録した時に伊丹さんがダイエットに取り組んでいたので、格好の話題になりました。

furansuryouri_wo_watashi_to.jpg絶版のため、ご興味おありの方は古書店でお求めください。
現在3,000円程度が相場のようです。

対談相手の家のキッチンで伊丹十三が本格的なフランス料理を作り、それを食しながら対談する、という趣向の本なのですが、「そんな企画の最中にダイエットだなんてつらかったのでは」......と思いきや、自分があまり食べられない料理であっても、嬉々として作っていたというのですから脱帽です。玉村さんとの対談をしめくくって曰く「もう、楽しくて、楽しくて(笑)」と。自己分析を極めると、こんな境地にまで行けるものなのですねぇ。

それではみなさま、食べるもよし、食べながら省察するもよし、減量を試みるもよし、それぞれに、よい秋をお過ごしください!

学芸員:中野