こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2014.12.08 趣味
記念館の常設展示室には、「十三」の名前にちなんだ13の展示コーナーがあり、伊丹さんの「13の顔」をご紹介しています。どんなコーナーがあるのかといいますと、
「池内岳彦」「音楽愛好家」「商業デザイナー」「俳優」「エッセイスト」
「イラストレーター」「料理通」「乗り物マニア」「テレビマン」「猫好き」
「精神分析啓蒙家」「CM作家」「映画監督」
多岐にわたる仕事ぶりはもちろんのこと、趣味についてもご紹介しています。
その中の一つが「音楽愛好家」のコーナー。
伊丹さんが愛用していたギターやヴァイオリンも展示しています
「伊丹さん、幼い頃から自然にクラシック音楽に親しんでいたんだろうな。楽器のお稽古を始めるのも早かったのかな」などと想像してしまいそうですが、そうではなかったようなのです。
「音楽がわからない、という状態が随分永く続いたように思う」という書き出しではじまる伊丹さんのエッセイ(「古典音楽コンプレックス」『ヨーロッパ退屈日記』1965年)には、京都で過ごした小中学生の頃、クラシック音楽に耳を傾け音楽談義に興じる同級生たちを目の当たりにして、「古典音楽コンプレックス」を抱いたことが記されています。
友人たちの、音楽的教養は、小中学生としては、かなり例外的に老成していたものに違いない。
わたくしなんぞ、全く口をさしはさむ余地が無いのである。(中略)これは、育ちが悪いということだ、とわたくしは思ったのです。
「古典音楽コンプレックス」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)
小中学生のクラシック音楽談義――それは随分特殊なことだと思いますけれども、伊丹さんは「友達づきあいというのはつらいもの」とまで感じたのだそうです。
そんな伊丹さんですが、その後古典音楽コンプレックスを解消します。
その経緯を、三つの段階に分けて(!)細かく分析しているのですが、詳しくは、ぜひ『ヨーロッパ退屈日記』を読んでみてください。面白いですよ。
そのコンプレックス解消の過程でヴァイオリンを習い始め(21歳のとき)、やがては「楽器とはその人の終生の友」と表現するまでに。こうなると、まさに「音楽愛好家」ですね。
伊丹さんが「論理的な物の考え方」を学んだという
カール・フレッシュの「ヴァイオリン奏法」
――さて、早いもので今年ももう師走です。
この一年を振り返って、「年のはじめには、新たな気持ちで"趣味の上達"を目標に掲げていたはずなのに、結果はぜんぜん......」という方もいらっしゃると思います。
そんなときは、伊丹さんのこんな言葉を思い出してみてください。
わたくしは声を大にしていおう。楽器というものは愉しいものである、と。そうして楽器というものは三、四歳の頃から習い始めなければならない、というのは最も悪質なデマである、と。職業的演奏家を志すのならいざ知らず、自分で愉しむ程度のことなら何歳になってからでも遅くはないのだ。(中略)
深く楽器を愛する心と、そうして根気を持った人なら何の躊躇(ためら)うことがあろうか。思うに楽器とはその人の終生の友である。決して裏切ることのない友である。わたくしは心の底からそのように感じるのであります。
「最終楽章」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)
「楽器」をご自身の趣味やお稽古事に置き換えてみてください――少なからず励まされるところがありませんか?
停滞気味の趣味やお稽古を「来年こそは、あきらめずにがんばるぞ!」という気持ちにさせてくれる言葉かなと思い、ご紹介させていただきました。
記念館の常設展示室「音楽愛好家」のコーナーも、ぜひご覧くださいませ。
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【年末年始のお知らせ】
12月28日(日)~1月1日(木)は休館させていただきます。
1月2日(金)、3日(土)は開館時間を10時~17時(最終入館16時30分)とさせていただきます。
スタッフ:淺野