こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2013.10.07 「池上彰氏講演会 — 伝えるということ —」を開催いたしました!
去る10月1日(火)、松山市総合コミュニティセンターで池上彰さんの講演会を開催いたしました。今年4月に池上さんにご受賞いただいた、第5回伊丹十三賞の記念講演会でございます。
8月上旬から9月上旬にかけての募集期間では、定員900名様の3.75倍、3,400名もの方からご応募をいただきました。まことにありがとうございました。高い倍率となったため、ご落選された多くの方々には大変に申し訳なく存じます。見事ご当選され、ご来場くださった皆様、ありがとうございました。
館長からお客様へのご挨拶、そして、池上さんとのミニトーク。
館長は講師とのトークを「漫才」と呼んで楽しんでいます。
館長は講師とのトークを「漫才」と呼んで楽しんでいます。
詳細は後日オープン予定の講演録ページに譲ることにいたしまして、本日は要約をもってレポートさせていただきます。
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講演の依頼はお受けになっていないという池上さんから頂戴した演題は「伝えるということ」。
ご存知のとおり、池上さんは、NHKのニュース番組や『週刊こどもニュース』での分かりやすい解説で、たくさんの視聴者に「分かる喜び」を味わわせてくださいました。そのNHK記者時代、退職してフリーになってからの『そうだったのか!池上彰の学べるニュース』、テレビからの"引退"表明後に起きた東日本大震災を経ての出演続行、東京工業大学教授としての教養に関する講義......と、今に至る豊富なご経験、工夫の数々、転機を迎えたときに考えていたことなどをもとに「伝えるということ」、「分かりやすくものごとを伝えるとはどういうことか」についてお話しくださいました。
『学べる!!ニュースショー』を経ての『そうだったのか!池上彰の学べるニュース』誕生秘話、
かの有名なセリフ「いい質問ですねぇ」の誕生秘話などのエピソードも、とっても面白かったです。
講演録をお楽しみに、しかしどうか長い目でお待ちくださいませ!
かの有名なセリフ「いい質問ですねぇ」の誕生秘話などのエピソードも、とっても面白かったです。
講演録をお楽しみに、しかしどうか長い目でお待ちくださいませ!
池上さんのご講演によりますと、分かりやすく伝えるためのポイントは、
●最初に"話の地図"をわたす
...テーマはこれとこれとこれ、と相手に知らせておく。
●伝えたいことは3つにしぼる
...多くてもダメ、少なくては物足りない。相手に満足感を与えつつ、記憶に残してもらうために最適なのが3つ。
●伝えたいことだけについて話すのではなく、全体の中で位置を示す
...あるものごとと比較対照し、伝えたいことが属しているものの全体像を見せ、全体の中での位置づけが分かると何かが見えてくる。
の3点でした。おお、「伝えたいこと」が3つにしぼられていますね!
(ここからが非常に興味深かったので、少しではありますが、お話を引用してご紹介しますね。)
何かを分かりやすく説明しようとして、あまりにざっくりとものごとを単純化してしまうと、結果的にニュアンスが違ったり、不正確になったりすることがあります。それではいけません。
ベテランの大学教授は、全体が見えている中で、大事なものと、それほどでもないものを区別することができます。だから、枝葉の部分は落して、幹の部分だけきちんと説明すれば、みんなに分かってもらえるわけです。全体が分かっていますから、それだけにしぼっても間違いではないんだ、ということが分かる。そうすると、自信を持って「これは要するにこういうことなんです」とざっくり説明ができるんです。
分かりやすい説明をするには、ベテラン教授の域に達すること、これが理想です。
ものごとを人に説明しようと考えたら、それについて徹底的に調べ、全体像が分かったうえで、話を組み立てて行くと分かりやすい説明になる、ということがあります。
さあ、でも、そのための勉強というのは、なかなか難しいものなんですね。
あることについて、ただ「分かりたい」「知りたい」と思って勉強しても、なかなか自分のものとして身に付きません。そうではなくて、「この話をうちのおじいちゃんに(あるいは子供たち)に分かるように説明するにはどうしたらいいんだろうか」という問題意識をもって勉強すると、これは、身に付くんですねぇ。アウトプット(誰に何を伝えたいのか)を意識してインプット(勉強)するとどんどん入ってきます。みなさんがたもぜひ、試みてください。「分かりやすい」というのはそういうことであります。
そして、今、わたしは、東京工業大学で学生たちにいろんなことを教えています。リベラルアーツセンターというところに所属している教授です。
最近、いろいろな大学で「リベラルアーツ」ということが言われるようになりました。「リベラルアーツ」とは何か。要するに、「教養」なんです。(自由化以後、学生の求めに応じて教養課程を廃し専門課程を早めた結果、社会のことを知らない卒業生が増えてしまったことへの社会的な反省から)教養をきちんと学生に教えることが大切だと言われるようになりました。
——「リベラルアーツの教育とはどんなものだろうか」と東工大の先生方と視察に赴いた池上さん、アメリカの名門大学では、文科系でも理科系でも、学生も大学側も「役に立ちすぎること・すぐ役に立つことは、すぐに役に立たなくなるから大学では教えない(学ばない)」という姿勢でいることに、衝撃を受けました——
「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」。これは、かつて、慶應義塾大学の塾長だった小泉信三のせりふでもあるんです。「すぐ役に立たないようなことを教えれば、生涯ずーっと役に立つ」、こういう考え方が、今の「リベラルアーツ」という考え方になってきています。
(客席に向かって)講演会にいらっしゃるということは、みなさんがたも、向上心、向学心、勉強したいという情熱を持った方々ばかりですよね。「勉強したいんだ」という思いがおありでしょう? そういうときに、とりあえず目先の勉強をするのもこれはこれで大事なんですけれど、生涯にわたって自分の身につく、あるいは、糧になるような勉強をしていくことが一番大事なのではないかと思います。
そして、そういう幅広い教養を身につけると、「全体」が見えてきます。世の中の全体が見えてくれば、その全体の中で、今から説明することがどのような位置にあるのか、あるいは、歴史の流れの中でどこに位置するのかが分かるわけです。これまでさまざまなことがあった歴史をきちんと知っていれば、今起きていることは、さあ、どんなことなのか——
このところ景気が急によくなってきている、ということがあるんですが、その一方で、「バブル」というものは30年に1度起きる、という、歴史が示しているものもあります。
ここでまた有名な言葉があります。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。
愚かな者は自分の経験からしか学ぶことができない、賢者は自分が経験していないことであっても歴史を学ぶことによって人生を切り開いていくことができる、まさに、「歴史を知る」ということです。
このところ、アベノミクスで世の中は湧き立っています。今のところかなりいい調子で景気がよくなっています。でも、あのバブルがはじけてから間もなく30年を迎えようとしています。今はいいでしょう。でも、浮かれすぎてバブルになって、やがてバブルがはじけたらどうなるのかな......ということは、経済界の今の中心の若者たちは知らないんですね。でも、歴史を学べば、あるいは、バブルがはじけて痛い目に遭った世代の人たちがきちんと伝えていくと、日本がまた針路を間違えるずに済むのではないか、というふうに思います。
生きていくうえで、常に勉強し続けること、これが実はとっても大事なことだと思います。
——最後に、池上さんは、本が大好きだったお父様のことを話してくださいました。
亡くなる直前、寝たきりになってもなお、広辞苑の第四版が出たと知るや買ってきてほしいとおっしゃるので届けると、すぐに開いて読みはじめたお父様。その姿を見て池上さんはびっくり。
何を「調べる」ためでなしにあの分厚い広辞苑を「読む」人がいるということに驚くと同時に、「死の床にあっても知識欲ってあるのだな」、「考えてみれば、人は死ぬまで成長し続けることができるのだな」とお父様の姿から学び、その広辞苑第四版は、第六版が出た今になっても池上さんの宝物であり続けているそうです——
親が勉強している姿を見て子供も勉強するようになる、というわけです。
子供の教育にプラスになると同時に、自ら成長することができる。これからもいくらでも成長することができる。
そして、いろんな幅広い知識があれば、その中で今起きてくるさまざまのできごとを、きちんと歴史に位置付けて分かりやすく説明することができる。
人にものごとを伝えるということは、そういう幅広い教養に裏付けられて自分の思いを伝えていく、ということです。
そして、いろんなことを知ることによって、人間のさまざまな失敗もまた、知ることができます。
そして、弱い者の立場、いろんな人のことが分かってくる。そうすると、何かものごとを伝えようとすると、相手がどんな人なのか、相手に対する思いやり、あるいは、相手に対する想像力と言ってもいいかもしれませんね、そういうものが身についてくる。
そうすると、分かりやすい伝え方ができてくるんだろう、というふうに私は思います。
池上さ~ん! ありがとうございました~!!
みんなで拍手~~~!!!
みんなで拍手~~~!!!
終演後、お帰りになられるお客様方は「心のお腹がいっぱい!」といった表情でした。それをとっても嬉しく思いながら、スタッフ一同、ロビーでお見送りさせていただきました。
伝え方は生き方、ですね......池上さん、ありがとうございました。精進してまいります!
館長を囲んで協賛企業ITMグループの皆様と集合!
募集のご協力から当日のビッグなヘルプまで、まことにありがとうございました!
学芸員:中野
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