こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2013.04.22 第5回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました
4月18日(木)、国際文化会館で第5回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました。会場の国際文化会館
受賞者の池上彰さん、池上さんのご関係者のみなさま、そして、歴代受賞者、伊丹十三ゆかりの方々に当財団の関係者のみなさま、あわせてなんとなんと130名様にお集まりいただきました!(過去最多の出席者数!)今回は、その贈呈式の模様をご報告いたします。
十三賞の正賞の盾です
選考委員・南伸坊さんの祝辞
池上彰さん、伊丹十三賞ご受賞おめでとうございます。そして、ありがとうございます。
私は"本人術"という術を使うのです。誰か"本人"になって、そのご本人について考える、という術です。
実は、私は「池上彰さんだった」ことがあります。(場内ちょっと笑)
そして、なぜ、ほかの人にできないことを池上さんができるのか、なぜ、池上さんの番組は分かりやすいのか、なぜ、池上さんの番組はおもしろいのか、なぜ、池上さんの番組は視聴率が高いのか、"本人"として考えました。(場内笑)
結論は、池上さんが、他の人がしない工夫をした、ということです。
頭のいい人、機転の利く人、話術のうまい人——これらはすべて、池上さんがお持ちの才能です。しかし、これらの才能をお持ちの人は他にもいる。なぜ、池上さんにできて、他の人にできないのか。
以下は、私が「池上さんだった」ときのコメントです。(場内爆笑)
テレビのメディアを降りると言われた頃のものです。......"本人"としてのコメントなので、敬称はありません。(場内爆笑)
「なぜ、数字、視聴率が取れるのにメディアを降板するのか」、「なぜ、池上ばかりがそんなにひっぱりだこなのか」......「なぜ」「どこがそんなに」。直接そのように聞く方はいませんでしたけれども、取材をされる側になって、取材者が抱いている疑問はいつも、そういうことなんだろうなと感じていました。
メディアにかかわっている人の常識というのは、普通の人、というより、視聴者の大多数とは違っています。これはしかし、ほかのさまざまな職業についても同じように言えることですし、当然と言ってもいいことですね。職業人になるというのは、その職種の専門知識を持つということですから、専門外の人々とレベルがちがっていて当然なんです。
しかし、ニュースを伝えるということになると、このギャップが思っている以上に妨げになってしまいます。「レベルが違う」と思ったところで、自分たちと視聴者をまるで違った人種のように考えてしまうからです。
分かりやすくおもしろくニュースを伝える、あるいは、解説するというのは、本当は、視聴者を自分と同じであると思わなくちゃできないことなんです。自分にとって分かりきっていることを噛みくだいて、噛みくだいて噛みくだいて、噛んで含めるように口移しにされるのって、自分にとっては気持ち悪いことじゃないでしょうか。でも、そのようにしなきゃいけない、そのようにしてあげなきゃいけない、って思われちゃったらどうですか。自分が、何かを分かって楽しかった、おもしろかった、そのこと自体を伝えられるか、ということだと、私は思いますね。
池上さんの工夫は、つまり、自分が味わった、知ることの楽しさ、学ぶことの喜びの原点にいつも立ち戻ることだった、と、私は......私の"本人術"はとらえたわけです。(場内笑)
あるいは、「全然違ってるよ」と池上さんに言われてしまうかもしれませんが、私が感じている池上さんは、そういう方だということです。
興味を持たせてくれる。興味があれば熱心に聞くんです。熱心に聞くからおもしろい。おもしろいから理解が進む。
先日、池上さんの新著『この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」』(文藝春秋)を読みました。私は池上さんの本の愛読者にもなりました。
冒頭「ありがとうございます」と申しあげたのは、今までの池上さんのお仕事に対してでもありますし、たとえばわたくしが、伊丹さんの仕事に励まされるようにして自分の仕事をしてこられたように、若い人々に、池上さんが与えてくれる影響力に対してのお礼です。
そして、伊丹十三賞が、この一縷となれることに対してのお礼でもあります。
ありがとうございます。
式後、「本人になった人」(左)とご本人(右)で記念撮影!
池上さんのお手には南さん著『本人伝説』のあのページが!
池上さんのお手には南さん著『本人伝説』のあのページが!
受賞者スピーチ
このたびは、栄えある賞をいただきまして、ほんとうにありがとうございました。身に余る光栄でございます。——といって、挨拶をするのが苦手ですねぇ!(場内笑)
取材する仕事をずっとやってきたので、「取材される」というのは、ほんとうに慣れていないんですね。こうやってカメラがざぁーっと並んで、そこで挨拶するっていうのは、そういえば、私が「東京都知事選挙に出るのではないか」と言われて(場内大爆笑)、「いいや、そんなことはないんですよ」とお話しして以来ではないかな、と思います。
それで言いますと、この夏の参議院選挙に出ることはありません。私は、選挙に出るのではなくて、それを取材して番組にするほうです。この夏の参議院選挙も、選挙の特番でキャスターを務めることになっています。(場内拍手!)
とにかく、華やかなことに慣れていないものですから、実はこれまで、いろんな賞を逃げまわってたんですね。どうしても受けなければいけない場合は代理人を立てたりしていたのですが、「(伊丹十三賞の)受賞が内定したんですが受けていただけますか」という連絡がきたとき困ってしまって、「伊丹十三賞...どうしようかなぁ」と。今日はここにも来てくださっていますが、伊丹さんが生前交流もあったという編集者の長澤さんという方に「どうしたもんでしょうか」と電話をしたところ、「絶対受けなきゃダメです!伊丹さんの名前の賞だったら、必ず受けなさい!」と怒られまして(笑)、「それでは」ということで受けた、ということです。
それで、あらためて選考委員の名前などを見たら、私の憧れの人たちで、「そうか、贈呈式に行けばみなさんに会えるんだ!」と、俄かにミーハーの虫がうずうずしてまいりましてね(笑)、今日、嬉しくここへ来た、ということであります。
私が「取材する側」として言いますと、「今もらった100万円、どうするんだろう」と。これは書きたくなります。あるいは、取材したくなりますね。なので、今日ここへ来るまでに、「それをどうするかを決めておかないと」「いろいろ聞かれるだろう」ということで考えました。
これはテレビ東京の選挙特番『総選挙ライブ』で受賞したものですから、福田プロデューサーに「どうしたもんだろうか」と相談をしたらですね、もう、一言「WFPに寄付するもんでしょう!」と言われて、「ああそうだ!」と気が付きました。
と言いますのも、さまざまな難民の人たちに国連として食糧の支援をしているWFP(世界食糧計画)には、これまでいろいろなところで協力をいただきながら、テレビ東京の番組で取材をしてきました。ソマリアの難民の取材をジプチでやったり、シリアの難民についてヨルダンの難民キャンプで取材をしたり、ということがありましたもので「そうだ!そういうところに少しでもお役に立てれば」と思いまして......
もちろん、今日は受取りまして、しっかり家に持って帰りますが(笑)、来週、いつ振り込むのか、ちゃんと知らせろと言われておりますので、来週キチっと銀行振り込みをする、ということになっております。WFPは、私が寄付したことをホームページで公開したい、と、宣伝に利用されてしまう、という思いがけない展開になっておりますが(場内笑)、そういうかたちで、使わせていただきます。
と、いうことで、今、取材している方々、これで原稿ひとつできましたね。(場内笑)
式後、WFPの方とも記念撮影!
国連WFPニュースもご覧ください!
選挙特番についてはいろいろ言われましたけど、視聴者の立場に立って、知りたいこと、聞きたいことをとにかく聞く、それをやっただけなんです。「聞きたいことを聞くのがジャーナリストなんだから遠慮会釈なく聞こう」ということであります。
いろいろ聞いていたら、石原さんが怒りだしたり、私だと分かったとたんに突然態度を変えたりしたものですから、思わず「人によって態度を変えるんですねぇ」などと、ボソっと言ったりしたんですが、基本的に、視聴者の立場で聞きたいことを聞く、この夏の選挙特番でも、そんなことができればな、と思っております。
伊丹さんは、映像の世界、文字の世界、ほんとに幅広く活躍をされた方なんですよね。
伊丹さんのことで「なるほどな」と思ったことがあります。
それは、伊丹さんがテレビの取材で、天竜川の上流の非常にひなびた地域で、婚礼の歌を取材しようとしたもの(よみうりテレビ『遠くへ行きたい』「天が近い村」)でした。
「婚礼の服装をした女性が行って、村の人にその歌を歌ってもらう番組をやろう」ということで取材先に話をして、それでいざ本番ということでカメラクルーで行ったら、なんと村を挙げて、みんなで「結婚式はこうやるんだよ」と(ほんとうの婚礼と同じに)準備をしていた。そこでスタッフは「いや、これだと、ひなびた村の結婚式はこのようなものですってやれるんだけど、それだと、いわゆるひとつのヤラセになってしまう。どうしたらいいか」と悩むのですが、そこで伊丹さんが「それをそのまま言えばいいんだ!」と言うので、「結婚式の婚礼の歌を取材しようとしたら、なんと、村人たちが結婚式の様子を再現してくれました」という番組にしたわけです。
こう言うことによって、嘘ではないわけですね、事実を伝えている。と同時に、カメラの取材が入るとその村の人たちがこんなにも喜んで、村を挙げて結婚式を再現してくれている様子、人々の思いもまた伝わる。きちんと嘘偽りなく事実を伝えることによって、そこの様子がほんとうに見えてくる。「これこそが、テレビの、映像の仕事のやり方なんだな」と、今回、それを思っております。
私もこれまでいろんな仕事をしてきましたし、これからもいろんな仕事をしていきますけれども、伊丹さんの仕事にかける思い、情熱......あるいは、例えば『遠くへ行きたい』なんて今でこそごく当たり前の手法ですけれども、当時はびっくりするような手法だったんですね。常に新しい映像の手法、あるいは番組作りというのを作ってこられた。その思いを、微力ながらも受け継いで仕事ができればな、と思っております。
ほんとうに今日は、ありがとうございました。
館長挨拶
池上さん! この賞を受け取っていただきまして、ほんとうにありがとうございます。そして、この会場にもようこそお越しいただけまして、重ねてお礼申しあげます。
私は週刊こどもニュースの大ファンで、池上さんがお辞めになったときは、すご~く淋しい思いをいたしました。
この間の『総選挙ライブ』もおもしろかったですし、そして、何よりも、池上さんの言葉で私が好きな言葉は、「追求」です。ほんとうに、ステキな言葉だなぁと思っております。
池上さんのこれからのますますのご活躍、そして、私たちをどうぞ楽しませ、いろんなことを教えていただけますように、願っております。
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館長の「カンパ~イ!!」の音頭で贈呈式は終了、パーティーの始まりです。
池上さん、選考委員のみなさまには、フォトセッションと囲み取材にご対応いただきました。
盾を大事そう~に持ってくださっているのも嬉しいですね
積極的なご取材の皆様にもスマートにご対応くださっています
(ワタシが記者だったら、大先輩を前にド緊張で何も聞けましぇん!)
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池上さんのスピーチで明かされた「賞金の使い道」。
対象になった『総選挙ライブ』のスタッフに相談し、その方が、別の番組で池上さんとご縁の深い組織への寄付を提案する——こういう心意気と雰囲気の中であの『総選挙ライブ』は生まれ、選挙のたびに放送されてきたのだなぁと感じ、ますます番組のファンになりました。夏の参院選でもきっと拝見いたしますね。(あっ、BSジャパンで放送ありますよね!?)
もうひとつ、印象的だったのは、取材でいらしたテレビ局の方が、式後「はぅぅ~、かっこええわぁ~」とひとりごとを言いながら会場から出てきたこと。実はこの方(男性・推定30代前半)、式が始まる前は当方の段取りにご不満がおありだったようでして...すみません...申し訳なく思っていたのですけれども、終ったときには風呂あがりのようにお顔がホワっと。池上さんにすっかり魅了されたらしいあのご様子は忘れられません。
そしてそして、今回もまた、お客様がたに、気さくであたたかくて愉快な集まりにしていただきました。
帰り際に「楽しかった~」、「とってもあったかい集まりですね」とのお声をいただける贈呈式とパーティーってそうそうないな(エヘン!)と、ちょっと得意に思う気持ちもありますが、それというのもご出席くださったみなさまのおかげでございます。
今回もまことにありがとうございました! 来年もその次もその次も、末永くどうぞよろしくお願いいたします。
学芸員:中野
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