記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2014.06.23 『ポテト・ブック』

数年前に家族が趣味で野菜作りを初めてから、春植えジャガイモの収穫時期が楽しみになりました。今年は梅雨入り前に収穫した我が家のジャガイモたち。おいしく平らげたあとで――ふと気づきました。

「食べる前に、『ポテトブック』を読みなおしておけばよかった」

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日本語版 『ポテト・ブック』 表紙
表紙イラストは矢吹申彦さん


マーナ・デイヴィス著『ポテト・ブック』。
アメリカで出版されたこの本は、伊丹さんによる翻訳(伊丹さんには翻訳家としての顔もありました)で、1976年に日本でも出版されています(ブックマン社発行/現在は絶版)。

どんな内容か、伊丹さんによる紹介文を引用いたしますと――


ポテトに関して、あなたが知ってなきゃならぬことのすべてを詰めこんだのがこの「ポテト・ブック」であります。プラス、ですな、あなたが知りたかったこと、知らなかったこと、これも入っている。これはただの料理の本じゃないんです。もちろん、「ポテト・ミステリー」なんていう、スパイスの利いたオードブルから、「ポテト・マージパン」と称する楽しい食後のお菓子の作り方まで、載ってはおりますが、これはとてもただの実用書ではない。

肝腎なことはですな、この「ポテト・ブック」という本はやたら面白いんです。二十三人のアーチストたちによるイラストレイションといい、ポテトを使ってのゲイムといい、ポテトによる美容法といい、(ポテトで皺が伸びるっていうんだからね)そして、トゥルーマン・カポウティ氏による、ポテトの唯一の完全なる召し上がり方に関する妥協なきサジェスチョンといい、なんとも面白くて、あなたは絶対にポテト中毒になること確実なのであります(後略)


――ポテト一色の魅力的な本。食べる前に読みたくなりますよね。
「カポウティ氏による(中略)妥協なきサジェスチョン」とありますが、実はこの本、序文をカポーティが書いているんです。豪華です。

『ポテト・ブック』が「やたら面白い」と感じられる理由は、伊丹さんの翻訳にもあると思います。「訳者まえがき」には――


(前略)訳文は、徹底的に日本語化する努力を傾けたつもりです。つまり、文法に囚われた逐語訳を捨て、意味と語り口を伝える方に力点を置いたわけです。結果として、原文の、英語特有のドライな簡潔さを失うことになりましたが、これは避け難いことであると、割り切りました(後略)


――とあります。
原書を見たことがありませんので、たとえば「何をどういう風に訳したのか」まではわからないのですが、自然に言葉が入ってきます。翻訳文にふと感じる違和感はありません。

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こちらは9歳のお子さんから寄せられたレシピ


絶版なのがほんとうに残念です。古本を見つけたら、ぜひお手に取ってみてください。

伊丹さんと料理と言えば――

矢吹申彦さん(『ポテト・ブック』の日本語版の表紙を描かれています)が、「ほぼ日刊イトイ新聞」の伊丹十三特集で、伊丹さんの「料理にまつわる思い出」をお話しされています。とっても面白いので、未読の方はぜひ。詳しくはこちら

また、記念館の常設展示室には、伊丹さんの料理に対するこだわりがギュッと詰まった「料理通」のコーナーがあります。

cookbooks.JPG伊丹さんが実際に使用していた料理道具や器に加え、料理本も一部展示されています(本のタイトルがご覧いただけます)ので、どうぞお見逃しなく。


スタッフ:淺野