記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2025.12.07 美食

12月に入り、最低気温が一桁になって冷え込みが厳しくなってまいりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今年は残暑が厳しく、10月の頭ごろまでは「暑い暑い」と言って半袖を着ていたはずなのですが、いつの間にやら冬本番。夏の暑さもすっかり思い出せなくなりました。私はマフラーや手袋なども引っ張り出し、重ね着で全身モコモコになりながら通勤をしております。

 

最近の記念館は、中庭の桂をはじめとした木々の落葉がすすみ、すっかり冬の装いです。葉がある時はよく見えない枝も、葉が落ちたことで大きく広げた枝の先まで見ることが出来ます。ぜひご来館の際にはご注目ください。

 


s-IMG_8055.jpg中庭の桂

だいぶ葉が落ちました

 

この11月後半、たまたま外食の日が多かったのですが、日を追うごとに何やら妙な心地になっていることに気が付きました。いざ、食べに行こうとお店を探そうとするのですが、何を食べたいかさっぱり分からないのです。地図アプリで近くの飲食店を検索してはみますが、ピンとくるものがない。昨日は回転寿司、その前はうどん、その前はファストフードという具合に、毎日いろいろなものを食べていると、"食べたいもの"が分からなくなってしまったのです。

さて、『ぼくの伯父さん』に収録されております、「美食について」というエッセイに、次のように書かれております。

 

「一日ニ玄米四合ト、味噌ト少シノ野菜ヲタベ」という、宮沢賢治の詩の一節が、近頃ひどく心にしみる。ひょっとすると、これはただ質素を説いているだけではない、食生活の基本に対する深い洞察を含んだ教えなのではないか。次第にそのような気になり始めた。

 そもそも、朝起きるとパンとバターとミルクと卵で朝食をとり、昼にはラーメン、そうして夜にはカレーライスというような生活は異常なのではないか。これでは朝から晩まで三食全部が美食である。しかもこれが毎日連続するから、ついにはそれが美食であることすら忘れ果てて、今日は何を食べようかといってもはかばかしい知恵も浮かばない。「あなた今夜何にする?」と女房に聞かれて腹を立てぬ男がいない、というのがその浅ましい帰結である。

 つまり、何も食べたくないのである。食べたくないのを惰性で無理に食べる。無理をして、肉を魚を卵を白米を砂糖を食べる。無理をして食べるから少しもうまくない。何という無駄であろうか。

(中略)

食生活の日常をもう一度「玄米ト味噌ト少シノ野菜」という次元に引き戻してごらん。(私はとっくの昔に戻してしまった。ただし、私の場合玄米四合というのは無理である。一日せいぜい一合くらいだろう。)これは実に玄妙にして清浄な世界である。人間の各が一つ上がり、己がにわかに精神的な存在に感じられるばかりではない、月に一度のトーストや、年に一度のカレーライスが、いかに燦然として光り輝く奢りの頂点となることか。日常は粗食に徹すべし。粗食に徹してひたすら血液を浄化し、瘦身を心がけよ。

(『ぼくの伯父さん』より「美食について」)

 

まさに最近の私ではありませんか!

なるほど、確かに美食が続いてしまうと、美味しいもののはずなのに、その美味しさに慣れてしまい、食べたいものが分からなくなってしまいます。やはり美食が連続するような、外食の多い生活はあらためなければならないと反省をいたしました。特にファストフードなどは味が濃く、脂質や糖質が多いものばかりなので、ダイエットのためにもどうにか日常的な自炊を心がけていきたいと思います。


s-IMG_8057.jpg『ぼくの伯父さん』

オンラインショップでも販売中です

 

私はもともと献立を決めるのが苦手で、スーパーで安売りしている商品を眺めながらあれこれ考えていると、何を食べたいのか分からなくなってしまうことが多くあります。美食が続くのとはまた少し違うのですが、献立を考えていると自分が心から食べたい!と思うものが分からなくなってしまうのです。

そんなこんなで、最近はAIチャットを使用したりしています。AIチャットはかなり便利で、たとえば白菜と豚バラ肉が安く買えたとして、「白菜と豚肉を使用したおかずのレシピを考えてほしい。さっぱりしていて、丼もの、ミルフィーユ鍋はなし。体があたたまるもの、他の野菜も追加して良いので栄養価の高いものが良い」などと伝えると、ものの10秒ほどでレシピ案を3つ教えてくれます。いやぁ、何とも便利です。AIに頼りすぎるもの考えものではございますが、食べたいものが思いつかない時や、旅行や帰省前で冷蔵庫の中身をなるべく使い切りたい時などは特に重宝しています。

たまの休みなどには外食もしつつ、食生活の日常を整えて、これからの年末に備えたいと思います。

 

皆さまも年末年始にかけて何かと美食を食べる機会が増えることと存じますが、どうぞお体にお気を付けてお過ごしください。

 

学芸員:橘