記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2023.11.27 伊丹少年の自転車ライフ

秋の夕日はつるべ落とし、日暮れがずいぶんと早くなりました。

自転車通勤のわたくし、帰路は細心の注意を払い、緊張の連続を乗り越えて帰宅いたします。
主に幹線道路沿いを走りますので真っ暗ということはないのですが、対向の自転車や脇道から出てこようとしている車が"私を認識してくれているか"が確認しづらいのですよねぇ。

とくに、並走しながら向かってくる中高生の集団には毎度ドキドキさせられます。
「迷惑なのはさておいても、君たちが危険な目に遭っちゃうよ~」と思うものの、私も若い頃は不注意な愚か者だった覚えがあるので、諦めてこちらが避けるようにしております。
経験を積んで危険を想定できるようにならないと慎重さって身につかないものだろうし、しょうがないよね......と、避けた先に暗い色味の服装をしたお年寄りが歩いていたりしてヒヤッとすることもしばしば。ヤレヤレです。

先日も、4、5人の女子学生の自転車軍団がダンゴになってキャッキャと言いながらやってきました。おしゃべりに夢中な彼女たちは、対向の私に気付いていない模様。
こりゃあ一旦停まって生垣の隙間ででもやり過ごさないと本格的にマズそうだ――と思ったその時、女子学生軍団と私の間の暗闇の中から
「うぉら~~~!!」
と歩行者のおじさんの怒声が。

......おじさん、私までビックリしましたがな!
驚いた女子学生たちが散ったもんだから、かえってぶつかりそうになったし!
(あんな大声を咄嗟に出せるとは、よほど肝が据わった方なのでしょうか。だけどねぇ、黒い服で歩いていたおじさんのほうも、気付かれにくくて危険だと思うんですヨ......)

20231127_bike rack_c.JPGちなみに、記念館の駐輪スペースはベントレーガレージの裏側にございます。
8台分のスタンド、ぜひご利用くださいませ。

さて、松山で過ごした高校時代、伊丹少年の自転車ライフはどのようなものであったか、と申しますと、エッセイの中にこんなエピソードが書き残されています。

 私は――われわれの世代は誰でもそうだろうが――活字中毒である。なにしろ一刻も活字なしでは生活することができぬ。旅行に出る時など、結果的には二冊もあれば十分なところを、六冊も七冊も鞄に詰めねば不安でならない。風呂へはいるときですら三冊ぐらい持ってはいらねば心配である――え? 風呂? ええ、風呂でだって本を読みます。風呂の中だろうが、食事中だろうが、床屋で髪を刈られながらだろうが、町を歩きながらだろうが、ともかく常になんかかんか本を読んでいる。
 そういえば、昔は町を歩いている学生というのはたいがい歩きながら本を読んでいたものだが――みんな二宮金次郎だったものだが、この頃あんまり見かけませんね、本を読みながら町を歩いている人間っていうのは。もっとも、今の交通事情じゃ、そんなことやりたくでもできないだろうがネ......
 私なんかは高校が田舎だったからね。田圃の中を自転車で走りながら本を読んだものです。友達の家なんか遊びに行く時ネ、田舎のことだから、まあ、遠いところに住んでるやつがいるんだ、自転車で三十分も一時間もかかるようなとこにネ。そんなときには自転車を漕ぎながら本を読む。退屈だしねえ、どうせ野中の一本道だし、車が通るわけじゃなし......(後略)


「読書」『週刊文春』通巻652・1971年(連載チキューボシブブンカクダイズ) より
ぼくの伯父さん』(2017年つるとはな刊)所収

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自転車を漕ぎながら読書!? それは曲芸の域では......
いや、しかし、伊丹さんが嬉々として挑みそうなことではあるな、という気もします。

でも、あくまでも1950年代当時の松山でのことですからね、自転車の方も自動車の方もバイクの方も、令和の皆様はどうか安全走行で、よろしくお願いいたしますね。

学芸員:中野