こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.10.30 あきはゆふぐれ
このところ、14時を過ぎると早くも陽射しが黄味を帯び、16時頃には真西に向いたエントランスから館内に夕陽が差し込んできます。終わりゆく一日が惜しまれるような、なんだか寂しく侘しい気持ち......秋ですねえ。
そんなある日、かの有名古典随筆をふっと思い出して、「ああ、"秋は夕暮"ってコレなのね!」と、突然、納得したのです。
秋は夕暮。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛びいそぐさへ、あはれなり。まいて、雁などの列ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。
清少納言の『枕草子』、有名な「春はあけぼの」で始まる第一段の一節ですね。
今どきはどうか分かりませんが、私が中高生の頃、名作古典文学の冒頭部分や名場面の丸暗記が奨励されたものです。いち早く覚えて暗唱してみせる同級生の得意顔を横目に「そんなものに取り組んでたまるか」とヘソを曲げていた可愛げのない生徒(の30年後が今のわたくしなのですが...)であっても、頭の片隅のどこかには何かしら引っかかっているようで、何かの折に「そういえば」と思い出したり、「ああ、分かる分かる」と深く頷いたり、そういうことがままあります。
年齢を重ねるって悪くないな、と感じることのひとつです。
日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。
記念館の中庭でも、閉館間際になると、ひんやりと澄んだ空気、桂の葉が風に吹かれてカサコソとささやく音や、どこからともなく響いてくる虫の鳴き声をお楽しみいただけます。
古典文学にも通じる記念館の夕景、回廊の照明やライトアップとともにぜひご堪能ください。
ところで、「起死回生の勉強法」について伊丹さんはこんなふうに述べています――
授業の内容、ことに理数科系統や語学の授業というものは、段階を追って進むことになっているから、最初の段階を理解せぬうちに授業が次へ進んでしまったらもういけない。
なんにもわからぬ有耶無耶のうち、瞬く間に一学期くらいは過ぎてしまって、それからではもう最初からやりなおそうにも膨大なエネルギーを要するから、とても普通の子供には不可能という事態が出来してしまう。
(中略)不幸にしていったん自分が授業に乗り遅れてしまったな、と気がついたときには、一体どうすればいいか。
私は、自分の経験からしていうなら、進んで落第してしまうのが一番いいと考える。ま、騙されたと思って落第してごらん。そうして、この落第をフルに利用してごらん。学校は天国みたいになるから。
「落第のすすめ」『女たちよ』(1968年)より
――「落第をフルに利用」できるほどの生徒なら、そもそも「最初の段階」に「乗り遅れ」たりはしないのでは......とひそかに思わないでもありませんが、今になって「結構脳に残ってるもんだなあ」という経験をいたしますと、「あの頃もっとたくさん詰め込んでおけばよかった」との後悔がよぎるとかよぎらないとか......
ま、とりあえず~、と愛媛名物「いも炊き」をお腹に詰め込んで、我が秋は暮れゆくのであります。
"甘旨い"愛媛味のオツユに新鮮なサトイモ!
このテの料理、私は大量にこしらえてしまうので
近年は出来合いをスーパーで買うことにしています。
< お 知 ら せ >
好評開催中の企画展『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。』のスペシャル映像コーナーに、本日11月1日(水)、新作を追加いたします!
「伊丹レシピ、私流。」のモニターでは、各界著名人の方が伊丹作品で知った料理の自分流アレンジをスライドショーでご紹介しています。
新作スライドショーには、マンガ家・エッセイストとしてご活躍中の瀧波ユカリさんがご登場。伊丹作品について愛情たっぷりに考察しながら、映画『タンポポ』(1985年)で瀕死の母親がこしらえる「最期のチャーハン」を瀧波さん流のアレンジでご披露くださいます。
<10月30日(月)までの「伊丹レシピ、私流。」> ※翌10月31日(火)は休館日
*木工家 三谷龍二のスパゲティ・カルボナーラ
<11月1日(水)からの「伊丹レシピ、私流。」(二本立てになります)>
*木工家 三谷龍二のスパゲティ・カルボナーラ
*マンガ家・エッセイスト 瀧波ユカリの最期のチャーハン
「伊丹レシピ、私流。」シリーズは、今後も新作の追加・入れ替えを行ってまいります。どうぞご期待ください!
学芸員:中野
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