こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.10.16 盃
急激に気温が下がりはじめ、すっかり秋模様となりました今日この頃ですが、皆さまどのようにお過ごしでしょうか。
記念館では桂の葉の色が変わりはじめ、回廊を歩くとほんのりと甘い香りが漂っています。
少しずつ色づきはじめています。
回廊の陽だまりにいると、すっきりとした空気とほのかな温かさが身体に染みていくようです。ぜひ、秋を感じる記念館にご来館ください。
7月15日から始まった新企画展示『伊丹十三の「食べたり、呑んだり、作ったり。」』は、お楽しみいただけておりますでしょうか。
本日の記念館便りでは、「呑んだり、」のテーマの中から杯についてご紹介させていただきます。
伊丹さんはエッセイ「唇の感触」の中で次のような箇所がございます。
食器というものを、われわれは唇や舌で、知らず知らずのうちに味わっているわけで、たとえば同じビールを飲むにしても、ジョッキで飲むのと、薄手のグラスで飲むのとではずいぶん味わいが違う。
つまり、口に当る部分の厚みと、その厚みのアール、というか、曲率というか、つまり、厚みというのは口当りのいいように丸く角を落してありますわな。このアールが食器の口当りを決定する要因であると思われる。
(中略)
酒の場合も、いや、酒の場合はちょっとむつかしい。大ぶりのぐいのみで飲みたい、という気分の時もあるし、きょうは絶対に小ぶりの、薄手の伊万里の杯でなければならん、という日もある。
杯というもの、ついでにいうなら、家へ客がきて小宴を張る。この時、客全員に揃いの杯、というのはいかにも味気なく、野暮である、と思う。めいめい好みの杯を傾けるのでなければ、酒という気がしないのです、私は。
(『女たちよ!』より「唇の感触」p168~169)
こちらのエッセイの通り、酒器にもこだわりのあった伊丹さんは、色々な盃を使用しており、買うことも好きだったそうです。お酒を呑むときには、たくさんの盃を並べて「今日はこれ」と選んでいたのだとか。
「呑んだり、」のコーナーでは、猪口や盃をいくつも展示しております。厚みや形、模様まで様々ですので、どんなお酒をどの盃で呑んでいたのか、想像しながら見るのも楽しいです。
見ているだけで楽しいさまざまな盃たち
盃でご覧いただきたいのが、もう一つ。『再び女たちよ!』に収録されておりますエッセイ、「盃と箸袋」の挿絵の原画です。
繊細な鉛筆画ですが、よくご注目いただきますと、展示している盃が描かれていることが分かります。
いちばん分かり易いものだけお伝えさせていただきますと、ちろりと一緒に展示されているこちらの猪口です。
京都のたる源のもので、お正月の宴会でよく使っていたものでした。ぬる燗のお酒を入れて飲むと、木の香りがお酒に移って美味しいのだそうで、香りも楽しんでいたのだそうです。
残りの盃はぜひ、展示品と見比べて探してみてください。イラストの緻密さをより感じていただけることと存じます。
さて、今週はついに館長出勤です!
宮本信子館長が、以下の日程でスタッフと一緒に皆さまをお迎えいたしますので、皆さまぜひご来館ください。
18日(水) 13時~15時
19日(木) 11時~13時
※状況により急遽予定を変更する可能性がございます。
※感染症対策のため、握手はご遠慮いただきますようお願いいたします。
スタッフ一同、皆さまのご来館をお待ちしております。
学芸員:橘
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