こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.09.18 第15回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました【その2】
先週に引き続きまして、贈呈式の模様をお伝えいたします。
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選考委員である南伸坊さんの祝辞に続きまして、正賞の盾と、副賞の賞金100万円の贈呈が行われました。
正賞(盾)の贈呈 選考委員・中村好文さんより
タキシードに身を包んだ三谷さんの横で、
中村さんは「服装のバランスがちょっと悪かったかな~って思うんですけれども」と
会場の笑いを誘いました。
歴代の受賞者の中でも蝶ネクタイは三谷さんが初めてでした、という会話も。
副賞(賞金)の贈呈 宮本信子館長より
「おめでとうございます」「ありがとうございます」と言葉を交わし、
館長の茶目っ気たっぷりな「落とさないように」の言葉で和やかな雰囲気に。
そして、受賞者・三谷幸喜さんのスピーチです!
受賞者・三谷幸喜さんのスピーチ
スピーチを行う三谷幸喜さん
●伊丹さんとの出会い
30年以上前になると思うんですけれども、赤坂にすごく美味しいドライカレーとかぼちゃプリンのお店がありまして、そこに僕は何回か通っていたんですが、そのお店の隅っこのテーブルでいつも書き物をされていたのが伊丹十三さんでした。
僕は伊丹さんのエッセイも大好きだったし、映画もすごくファンだったので、これはちょっと挨拶しなきゃいけないと思いまして。全く面識は当然ないんですけれども、伊丹さんのところに行って、僕はまだ大学生だったと思うんですけれどもご挨拶させていただいて「映画の大ファンです」って話をしました。
伊丹さんは、こんな訳も分からない若輩者が突然話しかけてきて、たぶん驚かれたんだろうと思うんだけれども、すごく優しく接してくださって「どうもありがとう。ところで、僕の映画のどういうところが好きなの?」っていうふうに言われました。
そこまで考えてなかったので(場内笑)すごく焦ったのを覚えています。
伊丹さんは、僕らのような下の世代の若い人間の言葉にも、すごく耳を傾けてくれる方でした。
●伊丹さんとのエピソード
『ショー・マスト・ゴー・オン』という舞台をやったときに、伊丹さんが宮本さんと来てくださって、終わった後に食事がしたいとおっしゃってくださって中華料理をご馳走になりました。
すごく面白かったと、この作品のどこがこんなにおもしろいのかということを、とくとくと話してくださって...僕は当然緊張していたんで、全く耳に入ってこなかったというのを覚えております。(場内笑)
それから『ラヂオの時間』という初めて僕が映画を作ったときにも、伊丹さんは現場に足を運んでくださって僕の横でずっと見てくださっていました。伊丹さんがおっしゃっていたのは「映画というのはスクリーンに映っているものが全てなんだ。だから君はずっとモニターだけを観ていなさい」そういうふうに伊丹さんは教えてくださいました。
伊丹さんのお家にも何度かうかがって、まだ完成していない伊丹さんの映画を、粗編集の状態だったんですが、見せていただいて「感想を言いなさい」というふうに。
そう言えるもんじゃないんですけれども...(笑) 思ったことを話しました。
本当に伊丹さんは人の話をとてもよく聞いてくださる方だったなというふうに思います。
●大河ドラマでの足利義昭役
それから月日がたって大河ドラマの『功名が辻』という作品があったのですが、僕は足利義昭の役で出演しております。
大石静さんが本を書かれて、大石さんの推薦だったんですけれども、なんで役者でもない僕が足利義昭をやったかというと伊丹十三さんがやっぱり大河ドラマの『国盗り物語』という作品で足利義昭をやっていたんですよ。
僕はその義昭がもう大好きで。小学生のころだったんですね、僕が見たの。義昭といえばそれからもう伊丹さんしか考えられないくらい、それぐらいもうジャストフィットしたキャスティングで。だからその同じ役をやるということがすごく嬉しくて。
しかもその『功名が辻』というのは司馬遼太郎さんが原作で、伊丹さんがやられた『国盗り物語』も司馬遼太郎さんが原作で。
台本を読むとですね、伊丹さんが言ったセリフと同じようなセリフが出てくるんですよ。
これはもう伊丹ファンとしてはやらない訳にはいかないと思って引き受けたんですけれども。
撮影の時にですね、「信長は何をやっておるのだ」というセリフがあるんですね。足利義昭は信長に対してすごく敵意を持っているシーンで...。まぁ、二人に何があったかはちょっと皆さんには、個人的に調べてもらって(場内笑)はしょりますけれども。
「信長は何をやっておるのだ」というセリフを僕は言ったんですけれども。
本番でNGが出まして、プロデューサーがやってきて「三谷さん、いま"のぶながは"とおっしゃっていたんですが"のぶながは"にしてください」と。ちょっとアクセントが違うらしいんですね。
「分かりました」と言ったんですけれども、僕の中では『国盗り物語』では、伊丹さんは絶対"のぶながは"って言ってたんですけれども。
「"のぶながは"何をやっておるのだ」。
だから伊丹ファンとしては"のぶながは"って言いたくないんですよ。
"ぶ"にアクセントをどうしても付けたくないんで、ちょっと抵抗しまして。
一応またテイク2になったときにも「"のぶながは"何をやっておるのだ」って言ったらまたブーってなって。(場内笑)
「ごめんなさい、今また"のぶながは"って言ったんですけれども、"のぶながは"でお願いします。時代考証的にも"のぶなが"じゃないとダメなんです。」というふうに言われたんですが、僕は「いや伊丹さんはたぶん"のぶながは"って言ってたんで」と言いたいんですけれどもちょっと言える感じじゃなくて。(場内笑)
伊丹さんは全然スタッフでもなんでもないんで、我慢しなきゃいけなくて。でもテイク3になったときにまた「"のぶながは"何をやっておるのだ」。またブーッとなりまして、「お願いですから、"のぶなが"で...」(場内笑)
で、もう伊丹さんに心の中で「ごめんなさい」って謝りつつ、心では"のぶなが"と言いながら"のぶなが"と言う、そういう難しい手法を取りまして、その場を切り抜けたというのを覚えております。
僕は伊丹さんが大好きです。だから、伊丹さんの名前のついたこの賞をいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます。
今僕は映画を4年ぶりに撮っています。現場ではモニターを見てそこから目を離さないようにしています。若いスタッフには必ず耳を傾けるようにしています。
伊丹さん、どうもありがとうございました。
(場内拍手)
宮本信子館長のご挨拶
今日はお暑い中大勢のお客様にいらしていただきまして、本当にありがとうございます。
もう昔々の話なんですけど、伊丹さんはある時期、三谷さんと本当に濃密な時間を過ごしました。若くて才能のある三谷さんから刺激を受けて、そしてものすごく楽しそうに嬉しそうに話していた姿を私、覚えております。
それからもう何十年経ちました。
ご挨拶をする宮本信子館長
今日は、この賞のおかげで三谷さんとまた再会することが出来て、伊丹さんも本当に喜んでいると思います。三谷さんおめでとうございました。(場内拍手)
記念館にいらしたら、伊丹さんの家みたいなものですので、ぜひ遊びにいらしてください。そしたら、なんて伊丹さんは嬉しいんだろうなぁって思います。
ありがとうございます。
では、第15回伊丹十三賞、三谷幸喜さま、これからのますますのご活躍をお祈りいたしまして、そして何度も言っても良いです、おめでとうございますと乾杯をしたいと思います。
乾杯!(乾杯後、場内拍手)
かんぱーい!
笑顔で乾杯をする三谷さんと宮本館長
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以上、贈呈式の様子をご紹介させていただきました。
左から周防正行さん、南伸坊さん、宮本信子館長、
三谷幸喜さん、平松洋子さん、中村好文さん
三谷さんのスピーチの間、会場で何度も笑いが起こり、ご来場の皆さまはとても楽しそうにスピーチを聞いていらっしゃいました。伊丹さんとの出会いやエピソードについてお話しくださり、伊丹さんのことを本当に大好きでいてくださっていることが伝わってくる温かいスピーチでした。この度の受賞を大変喜んでくださっているのがひしひしと感じられる時間となりました。
式典後には、ノンアルコールのお飲み物をご提供させていただきまして、ご歓談の時間を設けさせていただきました。和やかな雰囲気で皆さま歓談のお時間を過ごしておられました。
ご歓談の時間での1枚。
三谷幸喜さん、第1回受賞者・糸井重里さん、第14回受賞者・小池一子さん
選考委員の皆さま、宮本信子館長
皆さまとっても良い笑顔です!
お庭で撮影した集合写真
三谷さん、選考委員の皆さま、ご来場くださった皆さま、YouTube配信にてご覧くださった皆さま、関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
スピーチでもお話がありましたとおり、三谷さんは最新映画作品の撮影をしている最中とのこと、これからの三谷さんのご活躍にもぜひご注目ください。
そして、今後とも、伊丹十三賞をよろしくお願いいたします。
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今回の記念館便りの写真は、撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)、
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさんです。
学芸員:橘さくら