こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2023.02.20 前略、みかん県より
♪みーかんーのはーなーが~ さぁいてーいる~
あっ、すみません、今はみかんの「実」のほうの季節で、花の季節ではございませんね。スーパーの青果コーナーでツヤツヤと輝くみかん類を眺めていると『みかんの花咲く丘』(作詞:加藤省吾 / 作曲:海沼實)が口をついて出る癖がついてしまって......そんなわたくし、先ごろ、おかげ様で愛媛在住15周年を迎えました。
しかしながら実のことろ、みかんの花を見たことはまだないのです。それどころか、いつ咲くものなのか把握していない始末で、「あれ? そういえば、今年もまたみかんの花を見ずに終わってしまったぞ。いつ咲いてたんだろ?」「いつかは~」「今年こそは~」「来年こそは~」を繰り返してきたこの15年でありました。
白くて小さくて可憐な花々からは、とてもいい香りがするのだそうですよ。
と、このように、県民失格レベルで愛媛の風物に今なお無知な不肖中野ですが「みかんを腐らせず、しかも美味しくする方法」は会得しました。
「腐ったみかん」といえば、ミドルエイジの方々の多くが連想なさるであろう『3年B組金八先生』での例え話にもあるように、周りのみかんを次々に腐蝕させてゆく困ったさんです。が、それはあくまでも「箱の中」でのこと。
箱に押し込めていたのでは、そりゃあ、みかんも人間も腐ってしまって当たり前ですよねえ。
みかんを腐らせない秘訣は、「新聞紙の上にみかん同士がくっつかないように並べておく」この一点であります。さらに、皮にカビのついたものがあればキュッキュと拭いておくとなおよいでしょう。(案外、表面に付着しているだけで済んでいたりします)
そして、ホコリをかぶらないように上にも新聞紙をかけ、部屋の片隅に2ヶ月ほったらかしたみかんがこちら――
皮はゴワゴワのシワッシワになっていますが、
もっと萎びた見た目になっても全然イケます!
剥いてみますと――
乾燥した表皮はパカッッとは剥けません。
表皮とくっついた房が破れやすくなっているので
傷つけないように慎重に剥いてくださいね。
中はまだまだジューシー!
そして、自然に水分が減ったぶん甘味が凝縮されていて「食べるみかんジュース」とでも言いましょうか、カフェでご提供しているみかんジュースみたいなおいしさです。
「放置みかん」「さらしみかん」......巧い名前は思いつきませんが、皆様もぜひお試しを。
さて、伊丹エッセイにもズバリ「蜜柑」というタイトルの一篇があります。
「伊丹さんと思しき人物(タレント)が神奈川県湯河原町のミカン作りの名人のもとを訪ねるTVドキュメンタリー」の体で書かれたエッセイで、その一部をご紹介しますと――
タレント いやあ、どうもありがとうございました。今日はすごくいい勉強しちゃったなあ......
名人 ハッハッハ、そうですか......ま、そんなわけでしてね、ミカン農家というのは、もっといい品種がほしいと思ってですね、それだけみんな一所懸命なんですね、もう全国夢中ですよ、値段高く売れる品種、うまい品種、これに今夢中です。
タレント ほんとですねえ......
名人 接木用のビニールテープが、今年売れたのが四十万本だそうですよ。それから、エヒメ県のミヤウチイヨカンって、新しいイヨカン――これの接いだホギ(穂木)が十五トンっていってましたよ。ホギの十五トンったら生易しいものじゃないですよね(ミカンの小枝を一本切り取って)ホギなんてのは、これだけのもんですからね。
『日本世間噺大系』(文藝春秋・1976年)「蜜柑」より
現在は新潮文庫『日本世間噺大系』に収録
文中、「エヒメ県のミヤウチイヨカンって、新しいイヨカン」とありますね。
この文章の初出が1975年の『話の特集』1月号ですから「へェ、宮内いよかんって昔々からメジャーだった品種のように思っていたけど、広まったのは案外最近なんだな」と驚きます。(※"最近"は個人の感想です。48年前を「最近」と思ってしまうあたりに自分の年齢を感じます...)
他にも「名人直伝・正しいミカンの剥き方」「おいしいミカンの選び方」「おいしいミカンを作るための摘果・剪定のコツ」「接木に名人などいない、キワメテ簡単、百発百中で小学生にもできる」などなど、身近なみかんの知られざる真実が盛りだくさんに綴られていて、ぜひお読みいただきたい一篇です。
話は戻って、みかんの花が咲く季節、調べてみますと5月頃だそうです。
今年こそ...今年こそ...この目で見て、匂いを嗅いで、そうだ 、忘れずに写真を撮って......この記念館便りでご報告するぞ!
――と誓う、16年目の愛媛生活でございます。今後ともどうぞよろしくお願いします。
学芸員:中野
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