記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2022.09.12 第14回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました【その1】

メディアなどで目にされた方がおられるかもしれませんが、9月5日(月)、東京都港区六本木の国際文化会館におきまして、第14回伊丹十三賞の贈呈式が行われました。

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小池一子さんと選考委員4名と宮本信子館長【※】

このたび伊丹十三賞を受賞されたのは、クリエイティブ・ディレクターとしてご活躍中の小池一子(こいけ かずこ)さん。 


s_award2022_sample.jpg撮影:藤塚光政



記念館便りでは、今週と次週の2回に分けて式の模様をレポートさせていただきます!

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昨年に続きコロナ禍での開催ということで、zoomウェビナーでのオンライン中継も行われた今回の贈呈式。
やや心配された天候も、当日はこのとおり、青空が広がる良いお天気となりました。

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庭園にて

式典は主催者挨拶からはじまり、受賞者小池さん、4名の伊丹十三賞選考委員、宮本信子館長の紹介が行われたのち、選考委員のおひとり・中村好文さんから祝辞が贈られました。

祝辞 選考委員・中村好文さん

小池一子さん、この度は第14回伊丹十三賞受賞おめでとうございます。

----ここまでしか覚えてないので(笑)、(この後は用意した祝辞を)読ませていただきます。

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祝辞を述べられる中村好文選考委員

伊丹十三賞は、これまでに13人の受賞者がいらっしゃいますが、小池さんはその中でも一番年上で、年齢的にはちょうど伊丹十三さんの妹分にあたります。いまも現役のクリエイティブ・ディレクターとして活躍されている小池さんに伊丹十三賞を贈呈できること、選考委員のひとりとして、心から喜ばしく、また誇らしく思っています。

賞の選考にあたって、僕たち4人の選考委員には伊丹十三賞準備委員会から事前に候補者に関する資料が送られてくるのですが、小池さんに関する資料は『美術/中間子 小池一子の現場』という本と『小池一子 はじまりの種をみつける』という2冊の本でした。

「これも小池さんの企画だったのか」

そしてその本を読み始めた途端、僕自身が過去から現在に至るまでに大きな刺激を受け、鼓舞された雑誌、広告、展覧会、イベント、書物などのことが次々に脳裏に浮かびました。
そして、そのひとつひとつのシーンを思い浮かべるたびに、「ああ、これも小池さんの企画だったのか」とか「あ、これも小池さんの仕事だったのか」とか「えぇ、この時も?」という具合に気付かされて、あらためて小池さんのお仕事の間口の広さ、質の高さ、影響力の大きさを再認識することになりました。そして、感心したり、感嘆したりすることしきりでした。

本の中には、"企画を出して実現しなかったものはなかった"という言葉もあり、小柄でチャーミングな小池さんを、思わず見上げるような気持になったりしました。といいつつ、僕が感嘆し、感心したのはそれだけではありません。

本の中に次々に登場する三宅一生さん、田中一光さん、石岡瑛子さん、川久保玲さん、倉俣史朗さん、安藤忠雄さん、磯崎新さん、杉本貴志さん、などなど、ファッション界、デザイン界、建築界において名立たるプランナーの面々と小池さんが二人三脚で、すばらしい仕事をされてきたことに想いを馳せ、人知れず羨望のため息を漏らしたのでした。
小池さんの長い年月にわたる目ざましい活動と、多岐にわたる業績の数々は、どんなに讃えても、讃えすぎるということはないと思います。

さて、ここで不思議に思うのは、小池さんはなぜこのような資質と才能にあふれたクリエイターたちと肩を並べ、対等に仕事ができたのだろう、ということです。

もちろん、小池さん自身が才能に恵まれ、感性豊かなだけでなく、クリエイターが内に秘めている可能性や能力を最大限に引き出す天分があるに違いありません。

そして何よりも、クリエイターたちから絶大な信頼を寄せられていたからだということを忘れるわけにはいきません。
でも、「本当にそれだけだったのだろうか」という思いが、あるいは疑問が、簡単にはぬぐえません。

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じっと聞き入る小池さん、選考委員、宮本信子館長【※】

 

 

●「なんて笑顔のいい人なんだろう」

ここでわたくし事ですが、小池さんとのささやかなおつきあいについて話したいと思います。
8年ほど前、僕は「金沢21世紀美術館」で小屋の展覧会を開きました。そしてその会期中に、中庭に展示した小屋の前で、小池さんと対談させてもらったことがありました。その時は「物を粗末にしない簡素な暮らし」をテーマに話し合ったのですが、対談のあとあとまで僕の印象に残ったのは、話の合間合間に小池さんが見せてくれた、素敵な笑顔でした。「なんて笑顔のいい人なんだろう」と思ったのです。つまり、笑顔に魅了されたわけす。

そしてそれから数年後、今度は目白通りの洋風居酒屋の前で連れだって歩道を歩いていらした小池さんとケン・フランケルさんにばったり出会いました。その時僕は友人たちとそのお店で食事をしようとして、店の前にたたずんでいたのですが、偶然お二人にお目にかかれたことが嬉しくて、ごく軽い調子で「よかったら、一緒に食事しませんか」とお誘いしました。もちろんダメ元のお誘いでした。ところが小池さんは困った様子も見せず、ちらりとケン・フランケルさんのお顔を見たあとで、こちらを振り返ってにっこり笑い、「あ、いいわね」と仰いました。そして、お二人そろって食事に付き合ってくれたのです。
その時の笑顔と、打てば響く即断即決の反応を忘れることができません。

ここでもう一度先ほどの話題に戻しますが、小池さんが、本の中では「太陽のような人たち」と呼んでいた三宅一生さんや田中一光さんたちと対等に仕事ができた背景には、実はこの笑顔が、一役も二役も買っていたに違いないと僕は推察しています。

小池さんの笑顔は人の気持ちを明るくし、和ませてくれる笑顔であり、どんなことであれ相手をその気にさせずにいられない、特別な魔力と説得力のある笑顔といっても良いと思います。

小池さんのご本の中に"私を媒介として人と人をつなげることを大切にしてきました"という一節がありましたが、小池さんの笑顔が、人と人の心をつなげる、かすがいの役割を果たしていたのだと僕は確信しています。

●「伊丹さんはきっと、顔をほころばせて喜んでくれたのではないかと思います」

今回の受賞者が小池一子さんだったということを、伊丹十三さんに報告したら、伊丹さんはきっと「あぁ、それは良い人を選んだね」と、ポンと膝をたたき、顔をほころばせて喜んでくれたのではないかと思います。

というわけで、僕としては、他の選考委員の皆さんの承諾は後ほど取りつけることにして(笑)、今回の伊丹十三賞を、小池さんの数々の輝かしい業績に対してだけでなく、小池さんの " 輝かしい笑顔 " に対して贈りたいと思います。

小池さんのクリエイティブ・ディレクターとしての、今後のますますの機会に期待し、いつまでもお元気で、僕たちの見上げる存在でいてくださるよう小池さんにお願いして、僕の祝辞を締め切りたいと思います。

小池さん、この度の受賞、誠におめでとうございます。(場内拍手)


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中村好文さんの素晴らしい祝辞、いかがでしたでしょうか。

お話の中で何度も「笑顔」という言葉が登場しましたが、この贈呈式でも、小池さんはステキな笑顔をたくさん見せてくださいました。

次週は、そんな小池さんの受賞者スピーチ等々、引き続き式の模様をお届けいたします。お楽しみに!

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【※】の写真は、撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)、
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさんです。

スタッフ:山岡