こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2022.08.08 炊飯器を使わない炊飯のはなし
最近、土鍋や圧力鍋などを使い、炊飯器を使わずお米を炊く人が増えてきているようです。
SNS等でそのような情報をよく見かけるようになってきました。
わたくしも鍋での炊飯を始めてから1年半が経ちます。
きっかけは、軽い気持ちで鍋でご飯を炊いてみたことからです。
ある時期から自宅の炊飯器がどうも美味しくご飯を炊けなくなってきているということに気が付き、調べてみたところ、ご飯が美味しく炊けなくなるのは炊飯器の寿命のサインでもあるということがわかりました。
そこで、新しい炊飯器を購入すべくリサーチする過程で、冒頭のとおり鍋での炊飯の情報をたくさん見かけ、「じゃあ一度試しに鍋で炊いてみるか」となった次第です。
使った鍋はどの家庭にもあるような、ごく普通のステンレス多層鍋です。
想像していたより随分簡単に、随分美味しくご飯を炊くことができました。
あまりに簡単で、美味しく、特に不便も感じず1年半が経過し、今に至るという状況です。
前置きが長くなってしまいましたが、ここで、伊丹十三のエッセイ「女たちよ!」から炊飯に関するエッセイ「おこげ」を紹介いたします。
伊丹さんの子供時代の情景が目に浮かぶようです。
飯盒で炊いたご飯が食べたくなってきますよ。
「近頃の都会の子供たちはおこげというものを知らない。食べたことがない、というより存在そのものを知らない。
自動炊飯器のおかげで、今や御飯の出来不出来というものはなくなってしまった。不出来がないと同時に上出来もどこかへいってしまった。これは淋しいことである。
われわれの子供時分には学校で遠足にいくと、昼飯はてんでに飯盒で炊いた。三、四人がグループになって、河原で石で竈を作り木の枝を渡して飯盒をならべて火にかける。飯盒の蓋の上には必ず石をのっけて重しをすることになっていた。
炊上りは音でそれと知れる。こつこつと堅い音がしてくれば炊上りである。炊き上ったら飯盒を火から降ろして、しばらくひっくり返しておかねばならぬ。上から下まで満遍なく蒸らすためであろう。日本中のだれでも知っているコツであった。
さて、炊上りだ。おこげを作らずに真っ白く炊き上げたやつは大得意だ。おこげを作って、あとでお茶漬なんかしてるやつも得意そうである。真っ黒なおこげを作ったやつは、やっぱり得意そうにみんなに見せてまわっている。
でも、いくらまわりが真っ黒こげでも、中はふっくらとうまく炊けている。これが飯盒の不思議なところだ。百発百中である。
秋の空が高く澄んで、川面がきらきらと輝き、赤蜻蛉が飛び交う。どこからどうして川を渡ったのか、向こう岸の大きな岩の上で食べている連中もいる。「こんなにうまい御飯は食べたことがない」みんながみんな子供心にそう思うのであった。
御飯に関する限り、今の子供は不幸である。やっぱり御飯は瓦斯で炊くにしてもお釜で炊きたい。おかあさんが病気の時には、息子の太郎が健気にもおこげだらけの御飯を炊いてくれる。そういうものでありたい。」
「女たちよ!」ーおこげー
このように、伊丹さんもおススメされていますので、みなさんもよかったら、一度炊飯器を使わず炊飯することにチャレンジしてみてください。
もしかしたら、わたくしのようにそれ以降一度も炊飯器の出番がなくなるという方もいらっしゃるかもしれません。
停電時など何かしらのピンチの際にも役に立つ術になると思います。ぜひご検討ください。
噴きこぼれたら
火を止めてしばらく置いておくだけ・・・でとりあえず炊けます。
スタッフ:川又
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