こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2022.04.04 読書
あっという間に桜の花弁が開き、ものの数日で満開になるのを見ては春を感じる毎日ですが、みなさまお変わりはございませんでしょうか。
先日、もう十五年ほど追っている作家さんが新刊を出版され、発売とほぼ同時に本屋に駆け込みました。新刊を抱えて本屋を一回りしつつ物色していたとき、ふと伊丹さんが書かれたエッセイを思い出しました。
私が現在本屋に支払う金額は、毎月三万円から五万円くらいであろうか。一般の人人から較べれば相当に多額の金を使っていることにもなるし、それだけ私は本を買うことについては習熟してもいる筈なのだが、どうも私は、いまだに本屋にはいると迷いに迷ってしまう。
(中略)
一度欲しいと思った本は、大概いつか買うんだから、今ついでに買って積んでおけばいいんだが、どういうんでしょう、やっぱり本屋廻りっていうのは、素寒貧の学生時代についた癖のせいか、今だに私は本屋にはいるとなぜか一冊か二冊を撰び出そうとして悩みに悩んでしまうのである。
(『ぼくの伯父さん』より「本屋」 p.105)
伊丹さんほどではないのですが、本も本屋廻りも好きな私は、この「本屋」のエッセイにとても親近感が湧きます。学生時代よりも自由なお金が増えたはずなのに、一冊の本を買い足すかどうかでしばらく悩んでいたりします。金銭的な部分もありますが、自宅の本棚のスペースにも限りがあるので、ここでも迷いが生じます。本の置き場所は長年の課題です。
読書の仕方は人それぞれだと思うのですが、私は一時間以上の移動を含む旅行や、二泊以上どこかに行く場合は、必ず三冊ほど文庫本を鞄に入れています。移動中寝てしまったり、携帯を見ていたり、人と会話していたりしてほとんど見ないことも多いのですが、一冊だとどうしても心細く感じてしまいます。
『ぼくの伯父さん』の中で、伊丹さんは読書について次のように書かれております。
旅行に出る時など、結果的には二冊もあれば十分なところを、六冊も七冊も鞄に詰めねば不安でならない。風呂へはいる時ですら二冊ぐらい持ってはいらねば心配である
(『ぼくの伯父さん』より「読書」 p.100-101)
初めて読んだとき、共感のあまり唸ってしまった箇所の一つです。流石にお風呂に本を持ち込むことはないのですが。
松山に住み始めて感じたことの一つが、電車に乗っているとき多くの人が本を開いているということです。前まで住んでいた土地では、どの年代の方もスマホをのぞき込んでいることの方が多かったので、とても素敵だなと印象に残っております。
ぜひ、みなさまがいろんな場所で開く本の中に、伊丹さんの著書が加わればと思うばかりです。
記念館では桂の木も少しづつ葉が芽吹いてきました。タンポポも咲きはじめ、本格的な春の到来に心が浮き立つようです。初夏が迫るなか、つかの間の春を感じて日々過ごしていきたいと思います。
スタッフ:橘
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