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記念館便り

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2021.08.30 夏を感じるエッセイ

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。

明日で8月も終わりですが、厳しい暑さが続くなど夏はまだ終わらないようですね。

そこで本日は、まだ続きそうな「夏」を連想する伊丹さんのエッセイを少しご紹介させていただきます。ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

 

まずは「うちわ」です。

夏らしいデザインのうちわはそれだけで季節感があって、「夏だな~」と感じさせてくれるアイテムですよね!私の家の中にもあちこちに置いてあって、エアコンや扇風機と併用しながら使っています。

 

この「うちわ」、あおぐと涼しいですよね。

これをもう一歩踏み込んで、「なぜ涼しいのか」ということを、伊丹さんがエッセイ「ウチワデアオグトドウシテ涼シイノ?」で説明しています。

 

"さて、そこで、うちわであおぐとどうして涼しいのか。風がくる前の皮膚の状態を考えてみると、皮膚からは絶えず水分が蒸発している。すなわち皮膚に接している空気はいくぶん飽和状態に近い状態におかれると考えていいでしょう。つまりわれわれの皮膚は湿っぽい空気に包まれているわけですね。

そこへうちわの風が新しい乾燥した空気を送りこんでくる。すなわち皮膚に接する空気が乾いた空気と入れ替わるわけで、たちまち、皮膚からの蒸発はさかんになり、したがって皮膚は気化熱を奪われる。熱を奪われるからすなわち涼しい、とこういうことになるのであって、まさかみなさん、風が吹いて涼しいというのが、こんなややこしいことだとお思いにならなかったでしょう。"

「ウチワデアオグトドウシテ涼シイノ?」『問いつめられたパパとママの本』より

 

 

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同じく掲載されている

「夏ニナルトドウシテ暑イノ?」というエッセイも合わせてどうぞ

 

また、「氷」についてこんなエッセイも。

 

"高校の頃、私たちは氷のことを「ナガ」と呼んでいた。学校の近くの氷屋の旗が、氷という字の点の打ち方を間違って「永」という字になっていたのである。"

 

"ともあれ、私たちはよく「ナガ」を食べた。私たちの田舎では、氷を先に削って、あとから、あの色つきの砂糖水をかける。

赤いのがイチゴ、黄色がレモン、緑がメロン、白いのはミゾレ、とかスイとかいった。スイとはどういう意味か、定かではない。

容れ物は、ごく安物の、偽のカット・グラスの、つまりイボイボのあるガラスの器である。これにまたいかにも似つかわしいアルミのスプーンがつく。

このスプーンで氷を入念につつくと、氷が砂糖水に溶けて、ほんの一と握り霙状のものになってしまう。必ずそうやってから食べる人がいた。お前たち、そうやって山盛りの氷を食べてるつもりだろうが、ほんとの正体はこんなもんなんだぞ、というつもりだったのかもしれない。"

「ナガ」『女たちよ!』より

 

読むとしゃりしゃりした涼し気なかき氷が想像できて、夏に目を通したくなるエッセイの一つです。

 

ご紹介したもののほか、夏を感じるエッセイとして「蚊」(『女たちよ!』)、「花火」(『再び女たちよ!』)などもありますので、気になる方はぜひ読んでみてください。

 

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スタッフ:山岡